俺は遅刻した理由を二人に話す。
「エッ!!? リンちゃんと会ってたの?」
後部座席に座るなでしこさんが、助手席に座る俺に聞き返してきた。
「なでしこ?危ないから、ちゃんと座ってなさい。」
志摩さん大好きななでしこさんは興奮して前のめりになる。そんな彼女を姉の桜さんが嗜めていた。
「志摩さんもお花見キャンプするんだって。」
「リンちゃんは相変わらず一人旅が好きなのね。」
「一人は何も気にすることないし、気楽にいけますからね?まあ、交通事故に合わないかだけが心配ですが……」
「ふふ…… ホント千代さんって、リンちゃんに優しいですよね。」
「リンちゃんだけじゃないよ!お姉ちゃん!千代さんはみんなに優しいんだよ!」
「うーん…… なんか照れるなぁ……」
桜さんがチラッと横目でコチラを見る。
「千代さん、顔真っ赤ですよ♪」
「ホントだー」
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「ここだったのね……」
桜さんは方向指示器を焚いて車を路肩に寄せて止めた。目の前には長い階段がそびえている。
「200…… 300近いかな?」
その時、後部座席の扉が開き、閉まる音がした。
そう…… なでしこさんが車から降りたのだ。
その事を読んでいたのか?と思うほどのタイミングで桜さんは運転席側の窓を開ける。
さすが姉妹……
「お姉ちゃん!私、階段を登ってくるから!」
「ん。」
「ふぉおおおおー!」
なでしこさんは元気に階段を駆け上がって行く。
彼女を見送った桜さんは車を発進させた。
「だ、大丈夫なんですか?」
なでしこさんが途中でへばったりしないか心配になり、俺は桜さんに訪ねてみる。
「大丈夫ですよ。あの娘の底なしの体力なら……♪」
ほくそ笑みながら、彼女は答えた。
そして駐車場に一足先に着き、車を止めて降りた瞬間、なでしこさんが目の前に現れる。
「とーちゃーく!…… おーーい!」
そのままコチラに駆けよってきて、彼女は唖然とする俺に抱きついた。
「ね……♪」
桜さんが俺を見て笑顔を浮かべている。
「それにしても、アンタは本当に体力ついたわね。」
「でへへー(*´Д`*)」
確かに桜さんの言うとおりだ。
なでしこさんはあの段数を短時間で駆け上がったとは思えないくらいに息は上がってない。
むしろ余裕まである。
「いやー 驚いたよ。桜さんが言ったとおりだった。」
「私が中学生の時、お姉ちゃんが鍛えてくれたんだよー♪」
「この娘、食べるの好きでしょ?中学生の時までかなりのおデブ体型だったんですよ。」
そう言った桜さんはスマホをいじりながら、なでしこさんの中学生の頃の写真を見せてくれた。
そこには、満面の笑みで美味しそうにサンドイッチを頬張るなでしこさんの姿が……
「おお…… 確かにふくよかだ。あのほっぺたの柔らかさも納得……」
予想以上にまん丸だった、なでしこさん。
「うむ、これは……"まるしこ"だな。」
「ぷっ。ま、まるしこ……」
俺の何気ない一言に桜さんは吹き出す。
「でも良くここまでスリムになったね?」
「いやー 中3の夏休みにいつもみたいにゴロゴロしながらお菓子食べてたら、お姉ちゃんがついにブチ切れちゃって……」
うーん、ちょっと想像できるかも。
なんか「いい加減に食うのやめろ!ブタ野郎!」って言ってそう。
「たぶん、千代さんの想像どおりです。」
「それで?どうやってダイエットしたの?」
「毎日、浜名湖を自転車で走らせたんですよ。一周くらいだったかしら?」
「お姉ちゃん、二周だよ~ あの時はお姉ちゃんが鬼に見えたね!」
「なるほど、そうだったのか…… それだけの体力があるなら、なでしこさんは充分に陸上自衛隊でもやって行けるんじゃないかな?」
「良かったじゃない、なでしこ。進路が決まって……」
「えー 無理だよー 千代さんがたまに話してくれるけど、いつもビックリしてるんだよ?」
「そっか。女性の隊員もけっこういたんだよ?普通科の隊員で自分の後輩の子とか……」
なでしこさんを陸自に入る入らないと話しをしながら、俺たちは目的の公園までやってきた。
「これは凄い……」
一面満開の桜に唖然となった。
「お姉ちゃん!千代さん!満開だよー!」
なでしこさんは仔犬のように公園を走り回っている。
「あんまり、走り回るとコケるわよー」
妹のことを心配する桜さんを見ていると、なんだか微笑ましい気持ちになってくる。
「ったく…… 千代さん?どうかしました?」
「いえ…… 桜さんとなでしこさんを見ていると実家の妹たちのことを思い出すんですよ。」
「そういえば、千代さんには妹さんがいたんでしたね?確か三人……」
「あ、良く覚えてましたね?三人もいると面倒見るのが大変でしたよ……」
「と言いつつ千代さん、笑ってるじゃないですか。」
「まあ、可愛い妹たちですからね。この間も正月帰った時に桜さんのことを少し話したら、会ってみたい!ってせがまれちゃって……」
「じゃあ、会いに行きましょうよ!今度のゴールデンウィークを利用して。」
「え?良いんですか?」
「私の両親も許可してくれると思いますよ。」
俺の家族と会ってくれるなんて、予想もしてなかった展開になってきたぞ?
「お姉ちゃーん!千代さーん!ここで写真を撮ろうよー!」
展望台に立ったなでしこさんが、コチラ向かって手を振っている。
「行きましょう?千代さん。」
笑顔の桜さんは俺の手を掴み、なでしこさんのもとに向かった。
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まずは一枚と写真を撮り、なでしこさんはLINEアプリを使って記念写真を野クルのグループチャットに『ただいま、お姉ちゃんと千代さんと一緒にお花見ドライブ中でーす(^-^)』のメッセージとともに流す。
「なでしこ?次はどこに行くの?」
車を運転しながら、桜さんが後ろの席に座るなでしこさんに尋ねいた。
「学校でアキちゃんが教えてくれたんだけど、この辺で桜って言ったら、身延山なんだって!」
なでしこさんの話しを元に、さっそく俺はスマホで調べてみる。
「ここかな?身延山久遠寺…… 大きな枝垂れ桜が有名みたいだね。」
「じゃあ、そこに行ってみましょう。案内をお願いできるかしら?」
「「ラジャー!」」
次の目的地である"身延山久遠寺"に向かっている途中、先ほどなでしこさんが流したLINEの返信が続々と入ってきた。
イヌ子:『ええなぁー 千代さんもいっしょやー』
千明:『私は初めてのソロキャンプだ。』
恵那:『千代さん、なでしこちゃんのお姉さんと腕まで組んで……』
鳥羽先生:『見せつけてくれますねー 私は小テストの採点とか資料作りとか色々あるのに……』
鳥羽先生はお休み中も仕事しているのか…… 生徒のためとはいえ、ホントお疲れさまです。
メッセージだけでも労をねぎらってやらねば……
最後にピコンと志摩さんからメッセージが来た。
リン:(´◉~◉`)
なぜか志摩さんのメッセージは変な顔文字だけ……
メッセージを見ていた全員の頭の上に???が出る。
「リンちゃん、どうしたんだろう?」
なでしこさんに問いかけられたが「さ、さあ……」と俺ははぐらかすことしか出来ない。
でも何となくではあるが、顔文字から闇のフォースが滲み出ているのは分かる。
「ねえ、お姉ちゃん?リンちゃんが変なんだよー」
信号で車が停車したタイミングで、なでしこさんが運転手の桜さんに自身のスマホを「ほら。」と見せながら聞いた。
信号が青になると再び車が動き出す。
「フフ♪」
桜さんが進行方向を見ながら、少し笑った。
「どうしたんですか?」
「私、分かっちゃった。リンちゃんの気持ち……♪」
「え?教えて!お姉ちゃん!」
「リンちゃん、千代さんのこと大好きでしょ?」
「まさかッ!!?」
「写真で私と千代さんが腕組んでるの見て、少し妬いているんだと思います♪」
「なるほどー!」
なでしこさんは猛スピードでメッセージを打つと志摩さんに送る。
なでしこ:『リンちゃんは千代さんのことが大好きだから、お姉ちゃんにヤキモチ焼いてるんだね?』
なんという火の玉ストレート……
志摩さんからすぐに返信がきた。
リン:『ば、ばか!なでしこ!なにをくぁwせdrftgyふじこlp……』
千明:『リンがここまで焦るとは……』
イヌ子:『リンちゃん、かわええなぁー』
なでしこ:『でもリンちゃんの気持ちも分かるよー! 私も千代さんのこと大好きだから!』
恵那:『言うねー なでしこちゃん♪私も千代さんのこと大好き♪』
イヌ子:『私もや♪』
千明:『アタシもー♪』
「千代さん、良かったねー みんな千代さんのことが大好きだって♪」
無邪気にメッセージ内容を話すなでしこさん……
確かに好意向けられるのは嬉しい限りではあるが、運転席の桜さんから向けられる覇気がちょっと怖い……
「あ、安心して下さい!俺の…… い、一番は桜さんですよッ!!?」
俺はたどたどしく、しどろもどろになって答えてしまった。
何やってんだ!しっかりしろ!野咲千代!
車が止まった拍子にコチラに視線を向ける桜さん。
彼女の眼鏡のレンズがギラリと光り、緊張する俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「うむ、よろしい……」
納得してくれたようだ。
なんか胃が痛い……
「じゃあ、私は?何番目?」
なでしこさんが聞いてきた。
LINEからも『私は?』『わたしは?』『アタシは?』『私は?』とどんどん通知が入ってくる。
俺はうわぁーとパニックになり、そして目の前が真っ暗になった。
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「……さん、代さん…… 千代さん!」
「うーーん……」
なでしこさんが後ろから俺を揺する。
「もうすぐ着くよー」
「あ…… 寝ちゃってた?」
「なんかうなされてましたけど、大丈夫ですか?」
「ええ……まあ、はい。」
さっきの夢だったのか?スマホを見ると……
現実だった。LINEの画面には、夢と同じたくさんのメッセージがあったのだ。
「千代さん…… 私は何番目の女?」
「うわぁーッ!!?」
「なでしこ。いい加減にしなさい。」
目の前にお寺の大きな門が現れる。
それを横目に案内そって駐車場を目指した。
「でかー」「だねー」
もう少しで駐車場って所で誘導員の人が停車を促す。
車を止めた桜さんは運転席側の窓を開けた。
「すんません。この先の駐車場がいっぱいで、もう止める場所がないんですよ。」
「え?どうしよう…… お姉ちゃん。」
不安そうななでしこさん。
「分かりました。この先で右折します。」
「身延山の枝垂れ桜を見に来たんじゃないの?」
「停める所が無いなら仕方ないよ。」
「千代さんの言うとおりよ。別に上に行かなくてもこの辺りは道沿いにいくつも植えられてるから、走りながらそっちを見てくわよ。」
「うん、分かったよぉ……」
なでしこさんはしぶしぶ納得した。
俺のスマホが鳴る。LINEの通知だ。
「鳥羽先生からだ…… 何々?」
鳥羽先生:『身延山の枝垂れ桜は早朝か夕方に行くと、比較的空いていて見易いですよ。』だって……?
その後、俺たちは周辺の桜を見物して周り、とある公園で大休止をすることに……
「はい。千代さん…… 野菜のスープだよ。」
「お、ありがとう。」
「お姉ちゃんもはい。」
「ん、ありがとう。」
なでしこさんから貰った温かいスープを口へと運んだ。手作りの優しい味が心と身体に沁みていく。
「うまい……」
他にも手作りのサンドイッチも食べた。
「ねえ、お姉ちゃん?」
「ん?」
「お姉ちゃんが免許取ってから始めた花見ドライブって、今回で何回目だっけ?」
「んーー 確か三回目だったかしら?」
「けっこう行ってるんですね。」
「今回は千代さんもいるから、私は嬉しいです。」
「私も楽しいよー これからもこうやって三人で毎年行けたら良いよね……」
「何言ってんの…… アンタは進学とかあるんだし、どうなるか分からないでしょ。」
桜さんの言うとおりだ。
高校の三年間はあっという間に過ぎ去っていく。
早い内から目標を立てないと後々で大変だ。
「それで?お姉ちゃんは大学を卒業したらどうするの?就職?」
「そうねぇ……」
そんなことを言いながら、桜さんは俺にチラリと視線を向ける。
「ど・う・す・る・の?」
なでしこさんも俺をニヤニヤとした顔で見つめる。
ちょっと待てこれは…… ある意味プロポーズ!!?
「あ、あの…… 桜さん?これって…… 」
「なんでしょう。」
俺は桜さんを見据える。
「ワクワク♪ワクワク♪」
後ろからはなでしこさんからの期待の圧が凄い。
「うぅ…… 桜さん!」
俺の気合いに「はいッ!!?」と少しビクついている。
「俺はこれからも桜さんと一緒にいたいです!」
言ってしまった…… あー なんかドキドキする。
なでしこさんも「おおーー!」と歓声を上げた。
「ありがとう。私、嬉しいです。」
彼女の返事に一安心。
「やったね!お姉ちゃん!千代さんも!」
「本音をいうともっと別のことを言ってくれるかと思いました。」
「アハハ…… それはムードとか必要じゃないですか。それはおいおい……」
「確かに…… フフフ♪」
次回に続く。
今回は勢いでプロポーズまがいなことをしてしまった千代さんでした。
またていぼう部とのフラグも立ちましたね。
ご感想お待ちしています。