とある日、昼休憩中……
「へえー リンちゃん、長野に行くのかー」
俺は昼食の惣菜パンと愛飲しているコーヒー牛乳を片手に、野クルメンバーと部室で話しをしていた。
三人の話を聞くに志摩さんは、無事に原動機付き自転車の免許を取得できたようだ。
今度の休みを利用して、志摩さんは長野の諏訪湖方面でキャンプするという。
片道約150キロ、五時間に及ぶロングツーリングか……
『無事に帰って来るんだぞ。志摩さん……』と心の中で思った。
「それで決まったのかい?キャンプする場所は……?」
「はい。甲府市にある笛吹公園付近のキャンプ場に行ってきます!」
大垣さんが俺に対して、ビシッと敬礼ポーズを取っている。
「お、おお……」
「今回は三連休だし土日を使って、ゆっくり行ってきますわ〜」
「そうか…… 達者でな。」
「もう千代さ〜ん、今生の別れじゃないんですから〜」
犬山さんからゆる~くツッコまれた。
「ねぇ、アキちゃん?今生の別れって、な~に?」
「それはだな、なでしこ…… この世ではもう二度と会えないだろうって、お別れの言葉だ。」
「えーッ!ってことは私たち、今度のキャンプが野クル最初で最後にィーッ!」
「んなわけあるかい!」
ビシッ!
「グヘ……ッ!!?うーアキちゃん、ヒドいよー」
「千代さんも!変なこと言わないでくださいよね!」
俺まで大垣さんに怒られる。
えー勝手に飛躍させたのは、そっちなのに……
「それで、千代さんは今週末はどうするんですか?」
自身の頭をさすりながら、各務原さんが俺の休みの予定を聞いて来た。
「別にこれといって予定は………」
と言いかけた時だった。
俺のスマホから着信音が鳴る。
「ちょっと悪いね………」
スマホに出るために部室の外に出た。
電話の相手は、元同僚で同じ分隊所属の友人……
内容としては、今週末に三重県鈴鹿市のサーキットで走行会があるから一緒に走らないか?っと言うお誘いだった。
願ってもない。年端もなくテンションが上がる。
今週末は完全にフリーで暇だった。
嬉しさから食い気味に返事をして、通話を終わらせて部室に戻る。
「ゴメンね。」
「千代さん、何か良いことがあったの?」
「え?あ…… 分かる?」
「ええ、バレバレですよ〜」
「千代さんって、普段とは違って嬉しいことがあると、けっこう顔に出るタイプなんですね?」
そうだったのか、知らなかった……
「今週末、三重県に行って来ようと思う……」
「そんな遠くに?」
「別に高速道路とか使えば三時間ちょっとで行けるし……」
「それで、三重県まで何しに行くんですか〜?」
「昔の友人に誘われてね…… 三重県にある鈴鹿サーキットを一緒に走らないか?って……」
「走らせるのって……千代さんのバイク?」
「ああ!愛車のロクダボ……夢の全開走行ができる!」
この時は何時ぞやの各務原さんのように、目をキラキラさせていた。
「そうと決まれば、準備をしないとな!じゃあ、三人とも気をつけてキャンプに行ってきなよ!」
俺は足取り軽く部室をあとにした。
「行っちまったな……」
「行っちゃったね……」
「テンション爆上がりやったな……」
「爆上がりだったね……」
昼休みの終わる予鈴が鳴っている
それをBGMに残された三人はあ然としていた。
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
その日の放課後、俺は図書室の片隅で切れた蛍光灯を交換しようと脚立に登っていた。
ああ、週末が待ち遠しいぜ。
「……代さん?」
「……代さん、千代さん!」
「うわッ!!?」
まったく気づかなかった……
脚立に乗る俺を志摩さんと斉藤さんが、下から見上げている。
「なんか、いつも以上にご機嫌ですね♪」
「鼻歌まで……何かあったんですか……?」
「鼻歌……?」
「え?無意識レベル?」
あー恥ずかしい!
志摩さんはともかく、よりによってからかい上手の斉藤さんにも見られるなんて……
「俺、もうお嫁に行けない……!」
あまりの恥ずかしさに、思わず両手で顔を覆う。
「フフフ…… おもしろーい♪」
「もー 何言ってるんですか…… それで?どうしてそんなにテンションが上がってるんですか?はい、蛍光灯……」
気を利かせてくれたのか、志摩さんが新しい蛍光灯を手渡してくれた。
「ありがとう、志摩さん……」
「あ、古いのは私が……」
取り外した古い蛍光灯は、斉藤さんが受け取る。
「斉藤さんも、すまないね。」
「いえいえ〜♪」
斉藤さんがニッコリと微笑んだ。
「それで千代さん、何かあったんですか?」
「あ、えっと…… 今週末、友人にバイクの走行会に誘われてね。三重県の鈴鹿サーキットに行くんだよ。」
「遠くないですか?」
心配してくれる斉藤さん、優しいな〜
「まあ遠いけど、高速使えば三時間ちょっとだし…… 余裕を持って早めに行けば大丈夫でしょ。」
「あと〜リンも今度の休みは、長野にキャンプしに行くんですよ♪」
「それ野クルでも話題に上がってたよ。」
「えッ?アイツらには秘密にしていたのに……斉藤、キサマ……私の重要機密をしゃべったな……?」
志摩さんは、ジト目で斉藤さんを見る。
「シャベッテナイヨ----ッ!!?」
あ、斉藤さんの目が泳いだ。
あの表情は犬山さんがホラを吹くときの顔と一緒だ。
「斉藤〜ッ?」
志摩さんが斉藤さんの襟首を掴みブンブンと振る。
ああ〜揺さぶられ過ぎて、斉藤さんの残像が見えるぞ。
「はわわッ!!? ゴメンってリン〜!つい口が滑っちゃって!!?」
あ~あ、いつもクールな志摩さんが今回はえらい荒ぶっとるな。
どれどれ…… 俺は脚立を降り、素早く志摩さんの後ろにサッと回り込み、彼女をヒョイっと持ち上げた。
「うわッ!!? ち、千代さんッ!!? いったい何をッ!!? おろせ!おろせぇーッ!」
俺に抱え上げられながらも、志摩さんは必死に抵抗している。なんだか、親戚の女の子みたいでカワイイ……
「私は子どもじゃない!ぞーッ!」
「どうどう…… もうそのくらいにしてあげなさい。斉藤さんも目を回しているし……ね?」
ようやく落ち着いた志摩さん……
ぐるぐると斉藤さんはいまだ目を回している。
「落ち着いた?」
「はい、私としたことが少々取り乱してしまいました。すいません。でも、千代さん?もう私を子ども扱いはやめてください。」
「自分から見たらまだ子どmo……」
「むぅ……ッ?」
「ゴメンナサイ……」
「よろしい。」
「志摩さん。そう言えば、原付き免許取ったんだってね?おめでとう。」
「あ、ありがとうございます。だから、今度は長野の諏訪湖方面目指して走ってみようかと……」
「楽しみでしょ〜?」
「はい……不安もありますが、ワクワクしてます。」
「遠出はもちろん危険もあるけど、それ以上にいい経験になるから、しっかり楽しんで来なさい。」
何気なくだったが、志摩さんの頭を優しく撫でる。
「はい……////行ってきます。じゃあ……」
志摩さんはペコリと頭をさげると、トトトッと去って行った。
「リンったら、乙女になってる……♪」
いつの間にか復活した斉藤さんがポツリとひとこと。
「なんか言った?」
「別にぃ〜♪」
俺の顔を見て、斉藤さんはニヤニヤしている。
なんか気になるな………
「私もそろそろ帰りますね?」
「ああ……気をつけて。」
帰ると言いながら、斉藤さんはいまだにその場に立っている。
「………………帰るんじゃないの?」
「もぉ〜!千代さんは分かってないなー!」
斉藤さんは、おモチのようにぷくぅーッと頬を膨らませていた。
「リンには頭なでなでして上げたのに、私にはしてくれないんですね?」
「え?なでなで……ッ?」
「えぇーッ!!?何となくで、あんなこと出来るなんて……」
斉藤さん、頭を撫でて欲しいのか……やれやれ……
「これでいいかい?」
ポンポンと優しく彼女の頭を撫でてやった。
「気をつけて、帰るんだよ。」
「う〜ん……なんか違うけど、まあ今回はコレで良いです♪じゃあ、さよなら〜♪」
相変わらずのマイペースだったな、彼女……
俺も今日の仕事はこれで終わりだ。
帰ろう………
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待ちに待った、休みがきた!
出発時間は朝の9時を予定していたが、まだ早朝の4時かなり早く起きてしまった。
遠足行く前の子どもか!
だけど、早起きしたおかげで準備の再確認はできた。
今回、俺のロクダボはロンツー仕様にしてある。
宿泊セットやライディングスーツなどの基本装備は、前日からサイドパニアケースやらリアボックスに入れておいた。
そして、お気に入りのクシタニのファッションに身を包み、クシタニおじ……いや、お兄さんに変身だ。
貴重品を入れた肩掛けバックを襷掛けにしてアパートを出る。
「戸締まり確認……オッケー」
玄関ドアの施錠を済ませ、サイドパニアケースを両手に持ち、相棒ロクダボのもとへ向かった。
相棒は出発の時を今か今かと待ちわびている。
両手のサイドパニアケースのそれぞれを相棒に積載し、安全確認をした。
「大丈夫そうだな。行こうか、相棒……」
\マカセトケ……ッ!!!!/
相棒にイグニッションキーを刺し込み、右に回すと電源が入る。
ギアがニュートラルに入っているのを確認して、赤いスタータースイッチを押すとセルが回り、スパークした火花が内燃機関の燃料に点火、599ccの水冷4スト並列4気筒DOHCエンジンが始動した。
センターアップマフラーから落ち着いたハスキーな排気音が響き、エンジンは静かだが力強く鼓動している。
「さてと出発だ。」
\オウヨ……ッ!/
ギアを一速に入れ、スタンドを軽く蹴り上げると、アクセルを吹かしながらクラッチを徐々に離していく。
進み出す車体に合わせてクラッチを完全に離した。
エンジンの回転がタイヤに伝わり、ゆっくりと車体を加速させていく。
これから相棒は、サーキットでよりスパルタンな走りをする獣に変貌する。
果たして俺は見事コイツを操れるのか……
不安と期待が入り混じった気持ちで、鈴鹿サーキットを目指すのだった。
次回に続く。
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