休憩を終えた俺たちは、お花見ドライブを再開した。
桜さんに代わって、次は俺がハンドルを握る。
「はぁ……」
俺はさっきからため息が止まらない。
「もしかして、さっきのことをまだ引きずっているんですか?」
桜さんにいらない気遣いをさせてしまった。
ホント情けない……
「千代さん、情けないぞー!」
年下のなでしこさんからもからかわれてしまう、この体たらくよ。
「はいはい。どうせ俺は情けないですよー」
子供のように拗ねる。
俺はもっときちんとしたムードと準備をした上で言いたかったんだよぉー
「どうしよー お姉ちゃん……」
「千代さん?私、さっきは本当に嬉しかったんですよ。アナタの気持ちはちゃんと伝わってます。ありがとう……」
でも、そんなこと言われると俺も嬉しくなっちゃうんだなぁ……
「分かりました。でもプロポーズは改めてやりますんで、覚悟して待っててくださいね。」
「承知しました。フフ♪」
「一時はどうなるかと思ったけど、ひと安心だよー」
「何言ってんの!元はと言えば、アンタが千代さんに無茶ぶりするからでしょ!」
「デヘヘ……」
「笑って誤魔化さない。」
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俺たちは甲府市内まで出てきた。
道の駅に立ち寄る。
敷地内の一角に大きな顔はめパネルが置かれていた。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!写真撮って!」
なでしこさんはセンターである武田信玄公のパネルに顔をはめる。
「ん。」
桜さんがスマホを構えた。
「イェーイ!」
「いくわよー」
桜さんはシャッターを切る。
なぜか、どアップで……
スマホの画面いっぱいになでしこさん。
「ぷっ…… アハハハハ!」
耐えきれず、吹き出してしまった。
「えー!なんで笑ってるのーッ!!?」
撮影を済ませたなでしこさんが、こちらに走って来て姉の桜さんからスマホを見せてもらう。
「あははは!どアップじゃん!顔はめパネルの意味がないよー!あははは……!」
「じゃあ、次に行くわよー」
「「はーい。」」
車の元へ戻っている途中、なでしこさんが足を止めて山に目を向けた。
「どうしたの?なでしこさん?」
「千代さん、あの山に何か鳥居みたいな模様が付いてるよ。」
「んーー まあ、見えなくもないね……」
「二人してどうしたの?」
「桜さん見てくださいよ。なでしこさんが気づいたんですけど、あそこの山に模様が付いてるんですよ……」
「あー 確かに見えますね。」
「なんだろうね?あれ……」
「うーん、気になるわね……」
車で移動中……
俺はさっきから、なでしこさんのどアップの顔が頭から離れない。
「どうしたんですか?ニヤニヤしちゃって?」
助手席に座る桜さんが訊ねる。
「いやぁ…… さっきのなでしこさんのどアップ写真が頭から離れなくて…… ククク。」
「もぉー 千代さぁーん!」
「帰ってから千代さんのスマホに送っときますよ。」
「是非ともお願いします。スマホのホーム画面の背景にしようっと。」
「えー 恥ずかしいよー」
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俺はなでしこさんのナビで『駅前甚六公園』にやって来た。
「おほぉぉーーーーっ!」
超ハイテンションのなでしこさんは自身のスマホで被写体の機関車を撮りまくっている。
「この娘、いつから電車が好きになったのかしら?」
「この間、大井川で電車に乗ったからじゃないですか?ほらあそこって変わった電車が走ってるじゃないですか。」
「なるほど……」
「お姉ちゃん!これは電車じゃなくてEF65 1000番PF型っていう電気機関車だよ。これは……3次かな4次かな?」
なでしこさんは俺や桜さんの知らないことを暑苦しく語っている。立派なヲタクだ。
「千代さん!今、私のこと電車ヲタクって目で見てたよね?」
「そそそ、そんなことないよーッ!!?」
「でも、大きくて力強そうでカッコいいですよね。」
「確かに…… 鉄道には今でも陸上自衛隊の車両やら大型火砲の輸送にお世話になってますからね。」
「へぇー そうなんですか。」
「ええ、鉄道と国防や軍隊は切っても切れませんからね。だから一部の国だとあんな風に鉄道を写真なんかで撮ってると拘束されますよ。」
「厳しい世界ですね……」
「ふぅー♪ ホントかわいいねぇー この機関車!」
「か、かわいい?」
「かわいいよー!レトロな感じで!」
そう言ってなでしこさんは変顔を俺たちに披露する。
「えっと…… 何してんの?」
「EF65のかおー♪」
「分かります?桜さん……」
「いえ、全く……」
「えーーッ!!?」
なでしこさんや桜さんとレトロ電車談義に華を咲かせていると……
「やっぱり ここだった。」
俺たちの前に志摩さんがいた。
三人揃って驚く。
「志摩さ……ッ!!? うぉッ!!?」
次の瞬間、志摩さんが俺に抱きついた。
「あらあら…… リンちゃんは大胆ねぇー」
「し、志摩さん?どうしたの?」
「リンちゃんは千代さん成分を補充してるんだよねぇー♪ 私もしちゃおー えい!」
なでしこさんも抱きつき、「じゃあ、私もやっちゃおうしら?」と桜さんが背中側からぎゅーッとされる。
「千代さん、あったかいよねぇ……」
「うむ。」
「それにお日さまみたいな良いにおい。」
三者三様の感想を言っていた。
「ちょ、ちょっと皆さんッ!!?バランスが取りづらいんですがッ!!?それに回りの視線が……」
俺は離れるように促してみるが「頑張って下さい!」と志摩さんに渇を入れられてしまう始末。
どうすることも出来ず、バンザイの状態で無抵抗のまま三人が満足するまで頑張った。
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三人に抱きつかれること数十秒、桜さんたちが俺からスッと離れる。
「満足できました?」
「「「はい。」」」
駅前甚六公園をあとにした俺たちは、『天龍山慈雲寺』にある樹齢300年の大桜を見物した。
慈雲寺…… なぜか口に出して言いたくなる。
その後近くの喫茶店に入った。
席に案内され、四人してメニューとにらめっこ……
色々な甘味に目移りしてしまう。
それぞれメニューを注文して、提供されるまで待つことにした。
なでしこさんと志摩さんは互いにスマホを交換して撮ってきた写真を見せ合いっこをしている。
「車で結構色んなところを見て来たんだな。」
「そういうリンちゃんも色々と撮ってきてるねぃ♪……お、ここはフルーツ公園だ。」
「リンちゃんはこの後、キャンプ場に行くの?」
「いえ、今日は帰ります。」
「どうして?」
「どうして?って…… 千代さんは分からないんですか?」
「え?」
「リンちゃんは千代さんに会いたくて、キャンプを止めてわざわざコッチに来たんですよ?」
「そうなの……?」
耳まで真っ赤になった志摩さんはコクンと頷いた。
キミはそこまで俺のことを……
「ありがとね。志摩さん。」
「良いんです……////」
「でも、千代さんはもうちょっと乙女心を勉強をやった方が良いですよ。」
「はい……(桜さんのおっしゃるとおりでございます。)」
そして提供されたお店自家製の堅焼きプリンをいただくことに……
「堅焼き…… プリンなのに腰の座ったプリンだ。」
スプーンでプリンの上にトッピングされたキャラメルソースのかかったバニラアイスを一緒にすくい取り、口に運び味わう。
「あ、優しい甘さでうまい……」
俺の前に座っている志摩さんも優しいプリンに顔がとろけている。
これはシャッターチャンス!俺は自分のスマホを取り出し志摩さんのとろけ顔を素早く写真に収めた。
「ぬぁッ!!?」
不意を突かれた顔。これまた可愛い…… もう一枚。
「ちょ、千代さん!!?何をッ!!?」
「え?幸せそうな顔だったから、つい……」
「消してください。」と志摩さんに言われたが、俺は消さずに桜さんに見せる。
桜さんはあたふたする志摩さんを尻目に、俺からの写真データを素早くスマホの壁紙にセットしていた。
「ある意味、千代さんとお揃いよ。」
「俺のはなでしこさんのどアップ写真。」
俺と桜さんは、なでしこさんと志摩さんにスマホの画面を見せて自慢した。
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喫茶店で美味しいプリンに舌鼓を打ったあと、俺たちは志摩さんの案内で『笈型焼』の見えるスポットへと
移動する。
なでしこさんが気づいた山にあった、あの不思議な模様だ。
路肩の駐車スペースに停車して四人で山肌を眺める。
「なでしこ、あの模様は鳥居じゃなくて"笈(おい)"らしいぞ。」
「お……い?」
「これだよ。山伏が背負うリュックサックみたいなモノかな……」
俺はスマホで検索して笈の画像をなでしこさんと志摩さんに見せてあげた。
「ほぉー」「これが笈……」
「笈型焼…… 山伏が背負う"笈"を模した篝火。」
笈型焼について桜さんが説明してくれた。
彼女が言うには甲州の大善寺と笛吹の長谷寺の間で起きたいざこざが原因らしい。
その後、二つの寺の争いを収めるために山梨岡神社が入ってきた。
しかし、山梨岡神社は長谷寺側に付いた為に大善寺は怒って神社の鳥居を焼いた。
その報復に長谷寺側は大善寺の笈を燃やす。
「えぇ……」
「そんな物騒な事件が由来になってたなんて……」
なでしこさんと志摩さんはドン引き……
「信仰のちょっとした違いが原因で争いが起きることは珍しくはないよ。外国では似たようなことが良く起きるし……」
「うーん…… 千代さんが言うと言葉の重みが違うんだよなぁー」
「でも江戸時代頃からは精霊送りの篝火みたいな意味でやるようになったみたいよ。」
「そうなんですね。良かった……」
「ねぇ?笈型焼が今も続いてるってことは、鳥居焼もまだやってるのかな?」
「えっとね…… 鳥居焼は毎年10月にやってるよ。」
「知らないのか?鳥居焼はなでしこの後ろの斜面にあるぞ。」
「うわッ!!?ホントだ!ここ鳥居焼の真下だったんだ!」
今の笈型焼は照明によりライトアップされる。
それまでの間四人で待った。
日も落ち、辺りには夜の帳が落ちる。
「18時59分…… そろそろ点灯される時間ね。」
桜さんスマホを見ながら呟いた。
「あっ、あそこ!」
なでしこさんが指を差す。
その方向を見ると、笈の形に照明が灯された。
市街地の光と相まって、幻想的な雰囲気を醸し出す。
俺たちはしばし、その幻想的な夜景を楽しんだ。
「さあ、時間も時間だし戻ろうか。」
「そうですね。リンちゃんも遅くなるといけませんし……」
志摩さんと別れた俺たちは帰路に着く。
高速道路を使用し、桜さんとなでしこの自宅に戻ってきた。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
「いいえ、私たちこそ良い思い出になりました。」
「わたしもー♪」
俺は二人のご両親に一言挨拶して帰宅の準備をし、相棒のロクダボに股がる。
「千代さん、気をつけて下さいね。」
「ええ。」
「またね。千代さん!」
俺はロクダボを発進させた。
サイドミラーに映る二人がどんどん小さくなる。
そして、見えなくなった。
「千代さん、大丈夫かな?」
「大丈夫よ。彼ならきっとリンちゃんをウチまで送ってくれるから……」
「ホント千代さんは優しいよね。」
「ええ。それが千代さんなのよ……」
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俺は志摩さんが通るであろう道にバイクを止めて、彼女が来ることを願い待つことに……
車の量はそこまで多くはない。
それもそうか、もう20時半を回っている。
さらに待つこと十数分、聞き覚えのある2ストロークエンジンの音が聞こえた。予想どおり志摩さんが通り掛かったのだ。
「おーい!」
俺は彼女に見えるように手を振る。
志摩さんも俺に気づいたようだ。方向指示器を出し減速して停車する。
「千代さんッ!!?どうして、ここに?」
バイザーを上げた志摩さんは驚いた顔をしていた。
「久しぶりに一緒に走ろうか。」
その後、志摩さんの自宅まで一緒に走った千代さんは、彼女の自宅にたまたま居た彼女の祖父と鉢合わせしてしまうのだった。
次回に続く。
次は春キャンプですね。ジンギスカンの回です。
ご感想をお待ちしています。
最近、リコリス・リコイルを知ってネトフリで見てます。千代さんと絡ませてみたい……