今回はジンギスカンの回です。
春休みだが、今日は登校日。
一部の卒業生と在校生が一堂に会する。なぜかといえば離任式があるからだ。
式も滞りなく行われた放課後…… 俺は大垣さんに呼び出され、少し遅れて野クルの部室に向かった。
部室の扉を開けると部員の三人の他に志摩さんと斉藤さん、さらに鳥羽先生まで全員が揃っていた。
「「「「「お疲れ様でーす。」」」」」
と挨拶された。
「お、おつかれ……さま……」
うなぎの寝床みたいな細長い部屋にぎゅうぎゅう詰めになっている。
「それで大垣さん?みんなを集めた理由を教えてくれないか?」
「えっとですね。新学期始まる前にお花見キャンプをしたいなーっと思いまして……」
「なるほど…… いつするんだい?」
「明後日、明々後日…… 1泊2日の予定ッス。」
「おぉ、急だねぇ……」
大垣さん、相変わらず行動力が凄まじいな。
「ウチらみんなは都合がついてるんですよ。」
「あとは千代さんだけなんだよぉー」
それにみんな都合のつく日を見抜く洞察力も神がかっているし、なにせ生徒たちがキラキラと希望に満ちた視線を俺に送ってくる。
「大丈夫。自分もその日は時間あるし、是非とも参加させてもらいます。」
「………ッしゃ!」
「やったなー なでしこちゃん♪」
「だねぇー」
「リン、楽しみだね。」
「うむ。」
「では準備する物等をパパっと話し合ってしまいましょう。」
「「「「「はーーい。」」」」」
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花見キャンプ当日……
今回俺は場所取りとキャンプ飯を作る為に集合時間よりはるか前に現地のキャンプ場に到着していた。
受付を済ませて、さっさと設営を済ませる。
「今日はジンギスカン…… みんな喜んでくれるか。」
鳥羽先生の提案で今回のメインはジンギスカン。
鉄板と野菜類は先生が用意するということで、俺はメイン食材の確保などを志願した。
「急だったが、変わりダネ含めてしっかりと食料は用意できた。あとはみんなが来るまでゆっくり待とう。」
俺は静かなキャンプ場で一人調理をしながら、みんなの到着を待つ。
集合時間になり、鳥羽先生の運転するラフェスタが到着、志摩さんも合流した。
「場所取りありがとうございます。」
「いえ、先生こそお疲れ様です。」
「千代さん、場所取り等々お疲れ様ッス。」
「大丈夫だよ。場所取りしなくても選び放題だったからね。」
「千代さん!オーッス!」
元気いっぱい、あかりちゃんが俺の胸に飛び込んでくる。そんな彼女をしっかりと受け止めて高い高いをしてあげた。
「こら!あかり!こんにちはやろ!」
「あかりちゃん。久しぶりだね。」
「今日は友達と遊ぶつもりやったけどな、焼き肉やるってあおいちゃんに聞いたから、コッチに着いて来てもうたわぁー」
「友情より肉を選ぶんだ。ハハ……」
「あかりは花より団子なんですよぉー」
「焼き肉は焼き肉でも、今回はジンギスカンです!」
鳥羽先生が専用の鉄板を皆に見せる。
「仕込みは自分が責任を持ってやっております!」
「やったー!ジンギスカンやー!」
あかりちゃんは身体全体を使って、気持ちを表現していた。
「あかりちゃんはジンギスカンが好きなの?」
「うん!ウチは月3回くらいは夕飯にジンギスカンが出てくるでぇ。」
「月3はちょっと凄いねぇー」
あかりちゃんの言葉に志摩さんと斉藤さんは感心している。
「だからウチらは、ジンギスカンにはちょっとうるさいんよ。ねぇー あおいちゃん♪」
「んふふ、かもしれんなぁ。」
「ハードル上がっちゃたかな?設営をして、早速やっちゃおうか。」
「「「「「「おぉーー!」」」」」」
生徒たちはテントの設営、俺と鳥羽先生はキャンプ料理の準備をした。
「今日はジンギスカン……ってことで、ビールを中心にアルコールを揃えてみました!」
「今日も平常運転ですね……」
準備も完了!ジンギスカン大会が始まる。
「一応、お肉はラムと豚の二種類を自家製のタレと塩ダレに漬けてあるからね。もちろん!なでしこさんのためにたくさん用意してます!」
「おほー! 食べ放題じゃー!」
「あ、それと今日はジンギスカンとは別に珍しいお肉を用意してみました!」
「珍しいお肉……?」
「ちょっと驚くかもしれないけど……」
俺は一つの皿をみんなの前に出した。
皿の上にはカエルの後ろ足が……
「「「「「「「か、カエル……ッ!!?」」」」」」」
「ち、千代さん!どうしたんですか?これ!」
「フッフッフ~ ジンギスカンをするならお肉にこだわろうと思ってね…… 専門店に行ったらマニアックな食材が扱ってたんだよ!なんか自衛隊にいた時の思い出が甦って、つい衝動買いしちゃった♪」
「あの…… そんなところで自衛隊魂を燃やされても、ウチらは困るんですが……」
「大丈夫、安心して……自衛隊の時は全部鍋にブチ込んで雑炊にしてたけど、今回はみんなが食べやすいように調理したから♪」
ということで俺は唐揚げにした調理済みのカエルを出す。
「じゃあ、これはあかりちゃんと犬山さんに……」
「え?ウチたちにですか?」
「私たちには?」
「志摩さんと斉藤さんにはコッチ♪」
俺は二人に別の皿を差し出す。
二人の前に出したその皿には、飴色のカラカラに乾燥した物体が乗っていた。
「これは……?」
「乾燥させてから、さらに油で素揚げして極限まで水分を抜いたセンベイみたいな物。マキシマムとカレーパウダーで味付けしてます。」
「千代さん?私とリンが知りたいのは作り方じゃなくて、材料のお肉の方なんですが……」
「それはあとからのお楽しみ~♪」
「あー なんか超コェーよ。」
「最後に鳥羽先生、大垣さん、なでしこさんにはこれです!実はこの料理が一番手が込んでる自信作♪」
俺は焚き火で保温していたダッチオーブンをテーブルに置き、蓋を開けて中身をみんなに見せる。
「おー これはうまそう。」
「当たりですかねぇー」鳥羽先生は缶ビールのプルタブを開けた。
「千代さん?これはロースト何?」
「これもあとのお楽しみでーす♪まずは実際に食べてみて♪さあ!」
みんなはそれぞれ口に運ぶ。
「しょう油ににんにくのパンチが効いていて、普通の美味しい唐揚げやぁ……でも食べてるのがカエルというの事実が脳裏にチラついとる。」
両手を上げて喜べない犬山さん。
妹のあかりちゃんに到っては完全に頭が混乱している始末だ。
「あ、あかりちゃん?大丈夫……」
次は志摩さんと斉藤さんが感想を口にする。
「味は…… スパイシーでうまい。」
「パリパリしてて……あれだ!ジャーキー!」
「それで千代さん?これってなんのお肉なんですか?」
「二人が食べてるのは、ガラガラヘビとニシキヘビのお肉だよ。」
次の瞬間、「「ぶぅーー!」」と二人は吹き出した。
「なんて物を食べさせるんですか……!」
「でもヘビは貴重なたんぱく質なんだ。イーヒッヒッヒッ♪」
「でもヘビだと思わなければ、私は好きな味だよ。」
「斉藤…… お前、けっこう肝が座ってんだな。」
「あとはアタシらだけか……」
「千代さん、ホントーに大丈夫なんですか?」
「見た目は美味しそうなんだけど、リンちゃんたちを見ると超不安なんだよー」
「大丈夫、大丈夫。自信作だから!」
「コェーー!」
三人は意を決して食べた。
「味は…… マジでうまい。」
「ええ。覚悟はしてたけど臭みやクセはないし、ビールにも合います。」
「でも、かなりの歯ごたえ…… それに、お肉の味のずぅーーっと奥の方で青臭さが手を振ってる。」
なでしこさんがプロみたいな食レポを披露する。
「それでこれはなんですか?」
「ヌートリアです。」
「「「ヌートリア?」」」
首を傾げる三人。
斉藤さんが素早くスマホで調べた。
「ヌートリア、ヌートリア…… あった!中型の水生齧歯類って書いてあるよ。」
「齧歯類……」
「ネズミですね。」
「鳥羽先生、ある意味大当たりです。」
ネズミと聞いて、三人の口からは魂が出ていた。
美味しいのに…… 三人のリアクションに残念と思いながらも俺はヌートリアのローストを食べる。
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「それじゃ、メインのジンギスカンを始めようか。」
「アタシたち、もう前菜で心身共にすんげぇダメージ食らってるんッスけど?」
「まあまあ、気持ちを切り替えて!ほら、好みのお肉をじゃんじゃん焼いちゃおう。」
「アタシは癖のあるラム肉で!コッチの方がジンギスカンらしいしな。」
「おっ、アキちゃんは通だねぇい。私はラムも豚も大好きだから両方いくよー♪」
「私はどっちかと言ったら、豚肉が良いな。」
「私も豚メインにしようかな?実はちょっと苦手なんだよね、ラム肉……」
「なあ?恵那ちゃんはラム肉のどこがそんなに苦手なん?美味しいのにぃ……」
「うーん、あの癖のある独特な臭いかな?」
「あおいちゃん?ジンギスカンに臭みなんてあったかなぁ?」
「さぁねぇ…… ウチらは小さい頃からよう食べとったから、たぶん慣れてしまったんやろうなぁ。」
鉄板でジュウジュウと良い香りと音を発てて肉が焼けていく。
「「「「「「「いただきまーーす」」」」」」」
「そうそう、こうやって下の方に野菜を置いてぇ…… 上の方でお肉を焼くと、垂れたお汁が野菜に染み込んで、むっちゃうまいんよねぇ♪」
「よぉ!ジンギスお奉行!あかりちゃん!」
太鼓持ちとなった斉藤さんにちやほやされて、鼻高々ドヤ顔のあかりちゃん。
「ラム肉、うめぇー!」
「塩ダレは新感覚でおいひー!」
「カァー! ビールが止まらんぜよぉー!」
爆速で酔いの回った鳥羽先生のキャラが崩壊している。俗にいうゲシュタルト崩壊だ。
「豚肉もうまぁー♪」
「ほっぺが落ちそうって、こういう事を言うんだねぇ……♪」
評判は上々。みんな各々喜んでくれて嬉しい限りだ。
しかし犬山さん姉妹だけは、焼けたラム肉を口に入れたまま、顔色悪くプルプルと震えている。
「二人とも口に合わなかった?」
俺は心配になった。
否、俺だけじゃない他のメンバーも何事かと気が気じゃない。
箸を置いた犬山さんが自身のスマホで電話をかける。
「あ、もしもしお母さん?おばあちゃんおる?」
俺たちにも聞こえるようにスピーカーにして、スマホをテーブルに置いた。
『あおい、なんかあったんか?』
彼女の祖母が受話器に出たようだ。
「もしもし、おばあちゃん?今な?キャンプしとってな、みんなでジンギスカン食べとるんやけど…… なんかウチのジンギスカンとは全然味が違うんよ。」
なんだろう。伊豆でのキャンプで似たような構図を見た気が……
彼女のおばあさんは一言も発せずに犬山さんの話しを聞いている。
「それでな?千代さんが別に豚肉をジンギスカンだれに漬けたヤツも用意してくれてて、そっちを焼いて食べたら…… 【ウチのジンギスカンの味がするんよぉーッ!!!!】」
うわぁ~デジャブ。
伊豆で見たあかりちゃんと同じかそれ以上の顔だ。
『あおい…… 気づいてしもうたか。』
犬山さん姉妹を諭すように、彼女たちのおばあさんが静かに口を開く。
しかし、スマホからは凄まじい覇気を感じられた。
『実はウチのジンギスカンは昔からずぅーーっと【豚肉】や。』
「お、おばあちゃん…… ウチらを騙しとったんッ!!?」
犬山さん以上に妹のあかりちゃんの方が不憫でならない。伊豆では姉に騙され、今回に到ってはは家族から騙されている。
『あおい、落ち着きや。こないな嘘は世の中にギョーさんあることや…… 知っとるか?北海道で売っとる焼き鳥弁当は鶏やなくて、"豚肉"が使われとるんやで。』
電話が切れる。
通話を終えたとたん、姉妹は膝から崩れ落ちた。
「どういうことやねん………」
「トントロたべたい…………」
思考が追いつかない犬山さん姉妹に大垣さんがドライに接する。
「おまいら、さっさと食わねぇとジンギスカンがなくなるぞ。」
今回のことで改めて犬山家の恐ろしさを知った俺であった。
次回に続く。
見事に姉妹揃って騙されましたね。
あかりちゃんが不憫でたまらない……
ご感想お待ちしております。