おじキャン△   作:Shin-メン

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今回は千代さんがちょっと暴走します。


部員獲得作戦!開始!

俺と野クルで各部活を荒らし回ってから、数日経ったある日…… 昼休みに放送で呼び出された。

 

「失礼します。」

 

同じく野クルメンバーも一緒だ。

扉を開けると居たのは、校長先生…… そう、俺たちが呼び出されたのは校長室だ。

それだけではない。教頭先生に顧問の鳥羽先生も同席している。

 

野クルメンバーは始めての校長室に緊張していた。

 

「野咲さん?昼休み中に呼び出したりして申し訳ない。野外活動サークルのキミたちも申し訳ないね。」

 

「い、いえ……!」

 

大垣さんが答える。

 

「それでキミたちをここに呼び出した理由…… 分かりますよね?」

 

「部活の勧誘ポスターについてですね。」

 

「それもそうですが…… 他の部活を…… 言い方は悪いんですが、みんなして荒らして回ってると聞いています。」

 

「それは…… 自分らのお願いを聞き入れられない部活には勝負を挑んで、実力行使をしてます。」

 

「アタシたちは、最初にキャンプの大変さとかをきちんと話しています。」

 

「そもそもおかしいじゃないですか?キャンプ用品の代金どうやって賄って、大会時期に被るであろう時期に長期休暇で泊りがけで出かけるつもりなのかと。強化合宿とキャンプは全く違うと思います。」

 

「そうだよ!私たちだけじゃないです。たまに一緒に行く子たちもバイトしてほとんど自腹で賄っているんですよ。」

 

「ちょっと、アナタたち!!?少しは……」

 

鳥羽先生が口を挟もうとするのを教頭先生が間に入って制止した。

 

「鳥羽先生…… 皆さんの言うとおりだと私も思います。流行りに便乗して知識やマナーも分からずにやってしまうと他者に迷惑をかけてしまうかもしれません。」

 

「は、はあ……」

 

「それにキャンプで部員を集めて実際にはしないなんてことも…… 生徒たちを疑いたくはないですが。」

 

「なので教頭先生。提案があるんです。生徒会を通して各部活でキャンプをする際は、知識とマナーを身につけた上でやってもらうようにお願いして貰いたいんですが……」

 

「そうですね。そうしましょう。鳥羽先生、校長…… よろしいでしょうか?」

 

「ええ、私はかまいません。」

 

「私も千代さんの提案に賛成します。教頭、お願いしても良かったですか?」

 

「ええ、お任せください。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「「「お願いします。」」」

 

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校長室をあとにした俺たちは、鳥羽先生を含めた四人で廊下を歩いていた。

 

「ホント…… アナタたちが呼び出された時は何をやらかしたのかとヒヤヒヤものでした。」

 

「あはは……」

 

鳥羽先生の小言に俺は笑って誤魔化そうとする。

 

「笑いごとではありませんよ?千代さん。良いですか?アナタたちの言い分は分かります。しかし実力行使というのは、正直私は嫌いです。」

 

誤魔化せなかった……

俺は鳥羽先生に怒られてしまう。

 

「すみません。」

 

「千代さん、子供みたいやねぇー」

 

「そうだなぁー」

 

「ふふふ。」

 

俺は犬山さんを皮切りに大垣さんやなでしこさんからかわれてしまった。

 

「アナタたちもですよ?」

 

「「「ごめんなさい。」」」

 

「全く…… アナタたちが回った部活動の部員たち…… 特に千代さんが相手した運動部は心折られてやる気を失くしているみたいですよ?」

 

「え?そうなんですか?」

 

「そうなんです!」

 

「千代さん、みんな蹴散らしてたもんねぇー」

 

「そうやったなぁー」

 

「県大会上位組の女子薙刀部の主将に勝った時は、めっちゃカッコ良かったッス!」

 

「まあー 高校まで剣道して三段持ってて…… 地元の警察署の助っ人で警察の剣道大会にも出場してたよ。陸自じゃ銃剣道は特級で近接格闘の教官も一時的にしてたからね……」

 

「やっぱり千代さんはただ者ではないんやなぁー」

 

「私は音楽室で華麗に弾いてるのも印象にのこてるんだよー!」

 

「先生だけやない。部員全員唖然としとったなぁー」

 

「ピアノは独学だねー 小学校の時に妹たちが習い事でピアノ教室に行ってたから、実家にピアノがあるんだよ。」

 

「ピアノ……? 電子的なヤツですか?」

 

鳥羽先生が首を傾げている。

 

「いや、ここの学校…… 体育館のステージに置いてあるヤツですよ。亡くなった祖父や親父が妹たちには甘々でしたからね…… 奮発して購入したって話してました。」

 

「うぅぅ…… なんか、鼻がムズムズしてきたぜぇ……」

 

「アキぃ、ティッシュ詰めるかぁ?」

 

「あぁ、詰めてくれ。」

 

「それで?いくらするんですか?そのピアノ……?」

 

「詳しい値段とか教えてくれなかったけど、乗用車一台買えるぞぉー!って、親父は言ってました。」

 

「ぶぅーーーッ!」

 

鼻に詰めたティッシュを吹き飛ばす勢いで鼻血を噴き出し、大垣さんは仰向けに倒れ無事に逝った。

 

「アキぃ~ 大丈夫かぁ~?」

 

「ねえ、千代さん?」

 

「どうしたの?なでしこさん?」

 

「千代さんって、何か苦手なことってあるんですか?」

 

「あるよー 自転車に乗れない。マジで……」

 

「「「「え……?」」」」

 

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勧誘ポスターの件も落ち着いた。

とある日の放課後、俺は大垣さんから呼び出された。

 

「あの…… 俺、まだ仕事が……」

 

「まあまあ、良いじゃないッスか。」

 

「いやいや、良くないって…… 俺、事務長に怒られちゃうから。」

 

俺は仕事に戻ろうとする。

 

「イヌ子!なでしこ!千代さんを取り押さえろ!」

 

「「ラジャーっ!」」

 

二人が俺の腕にしがみついた。

うなぎの寝床のような激セマ部室では、思ったように動けない。

案の定、俺は三人からロープで雁字搦めに縛られて座らされた。

毎回こうやっては、なし崩し的にサークル活動に参加させられる。

 

「っと言うことで、これから部員獲得作戦について話し合おうと思う!」

 

「「おぉー!」」「お、おう……」

 

「まず、重要なのは新入生にマイナーな野クルの存在と売りを分かり安く伝える事だと思うんだよな。」

 

「売りかぁー」

 

「まず名前からして活動内容がぼんやりしとるもんなぁー」

 

「大垣さんと犬山さんが立ち上げる時にもっと分かりやすい名前にすれば良かったね?」

 

「例えば……?」

 

「例えば…… "冬季挺身活動サークル"とか"特殊作戦群"とかすれば良かったんじゃないかな?」

 

「なんか物騒なことしそうで却下で……」

 

「えぇ…… カッコいいのに……」

 

「売りは初心者にも優しいまったりキャンプかな?」

 

「部員が少ないゆえのフットワークの軽さとかもあるなぁー」

 

「それもあるけど、このサークル一番の売りは別にあると思うよ。ヒントはなでしこさん。」

 

「わたしー?」

 

「はっ!分かった!答えはキャンプ飯だ!なでしこの作るキャンプ飯は絶品だからな!」

 

「正解!大垣さん!」

 

「確かになでしこちゃんのキャンプご飯は、野クルの売りになるかもしれんなぁー」

 

「そ、そうかなー////」

 

「そうだ!放課後、部室棟の前でビストロなでしこのキャンプ飯の炊き出しをして……」

 

「ほうほう。」

 

「新入部員を一網打尽にするってのはどうだろうか?」

 

「一網打尽って、漁じゃないんだよ。大垣さん……」

 

「キャンプの醍醐味はみんなで作るご飯だし……!」

 

「一番興味を持ってくれやすいアピールかもなぁー」

 

「だろ?」

 

「でも、結構なお金がかかりそうやぁ……」

 

「どうにか節約しないとな……」

 

「炊き出しと言えば、やっぱり汁物とか鍋料理かな?」

 

「いやー 外で大鍋を温められる設備がないから、ちょっと無理やない?」

 

「じゃあ、俺の知り合いの自衛官が東部方面総監部に勤めてるから、野外炊具1号を借りれないか相談してみよう。」

 

俺は拘束していたロープを解いて自身のスマホを取り出す。

 

「ちょっと待って!千代さん?その野外炊具1号ってなんッスか?」

 

「陸自が所有してる装備品の一つだよ。牽引式の車両で灯油バーナーを使った炊飯器を六個搭載していて、ご飯をいっぺんに600人前炊けるよ。煮物限るお惣菜なら200人前、スープ類なら1500人前作れるんだ。」

 

三人がポカンとしている。

俺がスマホで電話をかけようとすると三人が全力で阻止にかかった。

 

「「「うわぁーー!」」」

 

「ちょ、ちょっと!何するのッ!!?」

 

「なんかまた校長室に呼び出されそうで怖いんッスよ。」

 

「そもそも、そんなアホみたいな量は作らないですよぉー!」

 

「千代さんの気持ちだけで充分です!」

 

ひと悶着あったが、炊き出しには餃子の皮を使ったミニピザを作ることになった。

こだわりの自家製トマトソースなど手間と資金はかかるが、みんなには頑張ってもらいたい。

 

「じゃー やること決まったし、この野クル勧誘ポスターを張って帰ろうぜー」

 

「うん」「せやなー」

 

「ちょっと待って。」

 

俺は三人を呼び止める。

 

「ん?どうしたんッスか?」

 

「まだ肝心なことを決めてないよ……」

 

俺は真剣な顔で三人を見つめて言った。

 

「まだ、決まってないじゃないか!作戦名!」

 

「「「え……?」」」

 

「いりますぅ?それ……?」

 

「いるんだよー!だって……あった方がカッコ良いじゃないか!」

 

「なんか今日の千代さん、めんどくさいな……」

 

「じゃあ、作戦名なんにする?」

 

「単純に部員獲得作戦でエエんちゃうか?」

 

「それではダメ……!」

 

「ピザ作戦は?」

 

「カッコ良くない……!」

 

「じゃあ、何が良いんですか?」

 

犬山さんに言われて「うーん……」と少し考え、ピコン!とひらめいた俺は、部室の壁に掛けられているミニ黒板に思いついた作戦名を書いた。

 

「これだ!」

 

「「「本栖高校 春の嵐作戦……」」」

 

上出来だと思うが、三人のテンションは俺とは真逆で、俺を哀れみの視線を送る。

 

「ジャー コレデ イイデスゥ-」

 

「カイサンナーーー」

 

「オツカレサマデシタ……」

 

三人は少し疲れたような表情で部室をあとにした。

部室に一人さびしく、置いてけぼりの俺……

 

「あ、仕事……」

 

まだ残っていた仕事を片付けるために、俺も事務室に帰るのだった。

 

次回に続く。




イチ自衛官だった千代さんは、東部方面総監部の誰と知り合いだったのか?

彼のスマホの画面にはとあるお偉いさんの名前が書いてありました。ビックリするくらいの階級の人です。

電話一本で野外炊具1号を借りようとする千代さん……彼には裏の顔があるというのか?謎すぎる。

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