なでしこさんのアルバイト先である、飲食店に到着した。
「もう、着いちゃった……」
彼女は残念そうな顔をしている。
「楽しい時間は過ぎるのが早いからね…… 元気出して、バイト頑張ってね。」
「うん!千代さんも気をつけてね。」
なでしこさんは名残惜しそうにコチラに何度か振り返りながらも、勤め先のお店に歩いて行った。
「いってらっしゃい。」
なでしこさんを降ろし、見送った俺は、東部方面総監部と陸上総隊司令部の入る朝霞駐屯地を目指す。
途中に休憩を挟みつつ、3時間半ほどかけて目的地の朝霞駐屯地に着いた。
正門の前で守衛の隊員に許可証を見せて駐屯地内に車を進める。
駐車場に愛車を止め、車から降りると制服姿の女性隊員がこちらに向かって歩いてきた。
「お待ちしておりました。野咲二尉。」
俺に敬礼をする。
さすが現役の陸上自衛官、凛々しい佇まいだ。
「出迎えご苦労。」
俺も答礼する。
「久しぶり。キミも准尉になったんだな。成長したじゃないか。」
「い、いえ……」
彼女は"鈴城シノ"…… 現階級は准尉だ。
俺は彼女が陸士長の時に出会った。
俺がレンジャー教育の先任助教をしていた時に教育した生徒であり、当時は彼女ともう一人女性隊員が一緒に受けていた。
男性隊員と同じように鍛え上げ、なんと二人とも脱落せずにレンジャー教育を突破した猛者だ。
「それも二尉のおかげですよ。」
荷物を持ち、彼女に案内されるまま一室に通される。
そして、借りた制服や装備品をテーブルに広げて彼女と需品科の隊員と共に洩れがないか、厳しくチェックした。
「こちら、異常ありません。」
「こちらも大丈夫です。」
「了解しました。野咲二尉、最後にコチラの書類にサインして頂いて、返却手続きは完了です。」
「ああ。」
俺は鈴城准尉から書類が入ったバインダーを受け取り、俺の名前と住所、そして電話番号を書いていた。その時……
「少し失礼するよ。」
部屋の扉が開き、老齢の男性が入ってきた。
制服の肩には星が三つ。そして右胸にはたくさんの防衛記念章が並ぶ。
現れたのはこの駐屯地の最高司令官だ。
条件反射のようにその場にいた全員が敬礼をする。もちろん俺も含めてだ。
「久しぶりだな?千代。どうだ?今の生活は?」
「ハッ!生徒たちにも慕われ、とても充実しております。」
「そうか…… こちらとしては優秀なお前が近くにいてくれた方が良かったんだが、上からの命令は絶対だからな。」
「ハハ…… まだ予備自衛官の体としては所属してますし、陸自から完全に離れたワケではありません。命令があればどこからでも駆けつけます。」
その後スマホの画像を見せながら、少し学校での生活を話した。鈴城准尉や需品科、そして司令が俺のスマホに見入っている。
「二尉はモテモテッスね。 ほとんど女子高生ばかりだ……」
「その野クルって言うんですか?なんか楽しそうな部活ですね?」
「野咲二尉?この女性は?」
「あー 今、付き合ってる彼女だよ。シノ……」
「はぁッ!!? 若すぎません?」
「まあ…… まだ大学生だ。」
「やるじゃないか、千代……」
「司令こそ、恋愛には年齢は関係ない!と言っていたじゃないですか。それに司令の奥様は、司令よりも10歳以上年下の方でしたよね?」
「ま、まあ…… そうか。」
「ところで司令。この子の顔に見覚えありませんか?」
俺は一人少女を指差した。そう志摩さんだ。
「はて?こんな可憐な少女は知らんな。」
司令は見当もつかないようで、頭を傾げている。
「この子、新城一佐のお孫さんですよ。」
司令は目ん玉が飛び出るくらいに驚いていた。
「本当かッ!!? せ、先輩のお孫さんなのか?」
「はい。自分も最近知って驚きましたよ。今は慣れましたが……」
「司令?新城一佐とは?」
「ああ、貴様たちは知らないか…… さっき言ったが私の先輩で色々と世話になったんだよ。そして千代を育てた人だ。」
「今はバイクで一人旅を満喫してるみたいですよ。」
「ハハ…… あの人らしい。」
物品の返却を済ませた俺は駐屯地をあとにした。
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駐屯地を出て、俺は東京都の墨田区へと向かう。
後輩のシノが行きつけのおしゃれな喫茶店を教えてくれたからだ。
「折角教えてもらったんだ。言ってみる価値はあるだろう……」
40分ほどで墨田区へと入る。
「さすが都心だな…… 久しぶりとはいえ、山梨とは人の量がハンパじゃない。」
目の前にそびえるのは東京スカイツリー、東京を象徴する建物だ。
「相変わらず、高けぇなぁー」
スカイツリーを横目に目的の場所へと向かう。
近くの有料駐車場へ車を止め、ここからは歩きだ。
「ここら辺だと思うが……」
スマホの地図アプリに沿って来たんだ。間違いないだろう……
「らっしゃい!らっしゃい!」
快活な女の子の声が聞こえる。
声に気付き、俺はスマホから視線をあげると、赤基調の和装の女の子が客引きをしていた。
「あのー?」
「へい!らっしゃい!」
教えて貰ったのって、確か喫茶店だよな?
居酒屋なのか?ここ……
「あの喫茶リコリコはここで合ってますか?」
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喫茶店の扉が開く。
店内には客引きをしていた子と同い年くらい女の子、20代半ばかそのくらいの眼鏡をかけた女性、そしてカウンターにはハードボイルドを煮詰めたような大柄の黒人男性が立っていた。
「ちさとぉー! だからウチは居酒屋じゃないって言ってるでしょッ!」
カウンターの端に座り、一升瓶を片手に湯呑みで日本酒を煽る眼鏡をかけた女性店員と目が合う。
「ど、どうも……」
「い、いらっしゃいませ……ッ!!?」
「たきな、お客さんだよ~ ほら!案内して!」
「あ、はい。」
青い和装をしたツインテールの女の子に案内され、俺はカウンター席に座った。
「いらっしゃい。」
カウンターの中にいるこの店のマスターであろう、大柄の男性が温和な笑みで声をかけられる。
「どうぞ。温かい麦茶です。」
ツインテールの女の子がサッと流れるように飲み物を提供してくれた。
「ありがとう。」
提供してくれたツインテールの女の子と目が合う。
「キミ……」
俺はツインテールの女の子に見覚えがあった。
「お客さん、彼女のことを知ってるのかい?」
カウンターの中にいるマスターが聞く。
「自分、自衛隊にいたんですけど、10年ほど前にあった地震災害で救助した女の子に彼女がそっくりで……」
そのセリフを聞いた瞬間、ツインテールの女の子は何か思い出したようにバックヤードに走っていく。
「ちょっ! たきな、いきなりどうしたのー?」
すぐにツインテールの女の子は戻ってきた。
彼女はたきなちゃんと言うのか……
「あの、これ……」
たきなちゃんは手に持っていた物を俺に見せた。
それは『勝利』の象徴と月桂冠に囲まれた『堅固な意思』の象徴・ダイヤモンドを意匠とした銀色に輝くバッジ……『レンジャーバッジ』だった。
「やっぱりキミは…… あの時の……」
俺は人前であるにも関わらず泣いてしまう。
「うわー! いきなりどうしたッ!!? お客さん!」
俺はツインテールの女の子ことたきなちゃんと過去のことを話した。
「そっかー たきなは千代さんに助けられたんだ。」
「彼女、身内がいないようで心配で…… 気にかけていたけど、後続の部隊に引き継いで基地に帰ることになってね。彼女と別れる時にそのバッジを預けていたんだ。」
「このバッジおかげで、私は勇気と元気をもらい、今まで生きてこれました。ありがとうございました。」
たきなちゃんは頭をさげた。
「良いんだよ。キミが元気でいてくれて……」
俺はたきなちゃんと熱い包容を交わす。
「それで?お客さぁ~ん、ご注文は何にします?」
客引きをしていた快活な女の子に注文を聞かれる。
「ここのオススメってなんですか?」
「今日のオススメは………」
マスターが答えようとするのを遮るように快活な女の子が答えた。
「当店のオススメは看板娘である、この!錦木千束特製のスペシャルエレガントパフェになっております!」
「なるほど…… じゃあ、それと紅茶で。」
「毎度ありー!すぺえれパフェ一丁!紅茶一丁いただきやしたぁ!」
注文を受けた女の子はツインテールの女の子の手を引いて一緒に裏のキッチンへと引っ込んで行く。
「久しぶりだから腕がなるわぁー!」
「ちょっ……千束?私はもっと千代さんと話しがしたっ……!」
「この注文はたきなが手伝ってくれないと完成しないんだよぉー!」
注文、ミスったか?
お手柔らかにしてくれよ…… 心の中で祈ってみる。
「いつも二人は、あんな感じなんですか?」
と眼鏡をかけた女性店員に聞いて見た。
「そうなんですよ。喫茶店なのにノリが居酒屋みたいでこの店のコンセプトがめちゃくちゃで……」
答える女性はなぜか頬を赤らめている。
そして、その人が俺の横の席に腰かけた。
やはりさっき呑んでいたのは日本酒だったのだろう…… 日本酒特有のほんのりと甘い香りがする。
「にぎやかで良いじゃないですか。良いことだと思いますよ。」
「あの子はその時その時を大切に楽しく生きることを心情としているんだ。」
マスターが教えてくれた。
確かにあの子からは何だか元気を分けて貰えそうなパワーを感じる。
それはそうとこの女性店員、やたらと俺を見るな……
「それにしてもアナタ、良い男じゃない。」
「え?」
いきなりの言葉に思わず聞き返してしまう。
「だ・か・ら~? 私、どう?」
「こら、ミズキ。お客さんに失礼だろ。」
マスターが注意する。
相当酔っているようだ。まだおやつ時だと言うのに、いつから呑んでいたのだろうか……
「申し訳ないが、自分はお付き合いしてる相手がいますんで……」
丁重にお断りした瞬間、その女性は大粒の涙を流しながら最初に座っていた場所に戻り、読み古したのだろう結婚雑誌を肴に酒を煽りだした。
「すまないな。お客さん、たまにあるんですよ。」
「いえ…… 焦らずとも彼女もいつかは、良いご縁が巡って来ますよ。」
「お待たせしやしたー!」
注文した特製パフェが出来たようだ。
俺の座る席にドンと置かれる。
あまりのデカさに俺は息を飲んだ。
そこそこデカイすり鉢に栗きんとんや黒蜜、小豆、ソフトクリーム、抹茶アイス、白玉など、さまざまなトッピングがなされているゴージャスなパフェ。
数千キロカロリーはあるだろう。
本気モンのカロリー爆弾だ。
「また、凄い量のを作ったな。」
意外と冷静だな…… ここのマスターは……
「すみません。千束には少しコストを考えるように言ったんですが……」
ツインテールの女の子がマスターにペコペコと頭を下げて謝っている。
「良いの良いの!お客さんは大切にするのは当然のことってもんよ!これは始めて来店してくれたお客さんにサービス!お客さ~ん?驚くことなかれ!この量でなんとたったの1200円です!」
「安ッ!!?」
ド胆抜かれる破格の安さだ。
こんな事をしておいて、ここの喫茶店はやっていけるのだろうか?
スマホを取り出して記念に一枚撮り、いざ!実食!
スプーンにパフェの一部を掬い口に運ぶ。
軽く咀嚼し、飲みこんだ。
「うむ。うまい。」
凄いの見た目だけだもん。
味は繊細で高次元にうまい。甘くなった口を紅茶でリセットする。
至福の時を味わっていると、ブカブカのだらしない服装のやけに幼い女の子が現れ、俺の隣の席にちょこんと座った。
チラっと横を見るとその少女と目が合う。挨拶をすると気だるそうに「おう。」とだけ返される。
恥ずかしがり屋さんか?
「クルミ、アンタもここに居候しているんだし、少しは店番に立ちなさいよ。」
「私はちゃんとリコリコのために働いているぞぉー ミズキこそ昼間から酒を飲むのをやめろ。」
いがみ合いになっている。
「まあまあ」となぜか客で俺が止めるハメに……
「へぇー お客さん、山梨の高校で用務員の仕事してるんだぁー」
「色々あって野外活動サークルにも参加するようになって、キャンプとか行ったりするんだよ。」
「楽しそう。たきなもそう思うよね?」
「え?ええ……」
雑談しながら、最高のデザートを楽しんだ。
「ねえ?先生?今日はもう閉店でしょ?」
「ああ…… そうだな。」
「そうなんですね?なら自分はこれで……」
支払いを済ませているその時だった。
「ねえ? 千代さん。私、もっと千代さんを知りたいなぁ……?」
千束ちゃんが俺の手を握る。
「ねえ?ここにライブのチケットが、たまたま3枚あるんだー♪たきなと一緒にいこうよー!」
「えっと…… それは……」
突然なことで困ってしまう。
「ほら。たきなもアピールして。」
俺にも聞こえるくらいにわざとらしく、たきなちゃんに耳打ちする千束ちゃん。
「私も行きたいです。アナタともっと話したい。」
「お? たきな、大胆ー!」
たきなちゃんも千束ちゃんのマネをする。
どうしたら良いのか分からず、マスターに助けを求めて視線を向けた。
「これも何かの縁だと思って、二人をお願いしてもよろしいですかな?」
と言われてしまった。
そんなこと言われたら断れない。
「分かりました。そのライブ、ご一緒させていただきます。」
「イェーイ!やったぜ!たきな!」
「これを俗にデートと言うですね。千束。」
「千代さんを待たせるワケにいかないし、急いで支度するよ。」
「はい!」
二人は裏に下がっていった。
「そうだ!フキにも自慢しないとねぇー」
「じゃあ、自分は車を取って来ます。」
俺はマスターに一言言伝てをして愛車の元へと戻る。
この展開、また週明けに高校でひと悶着起きそうだ。
「あ、桜さんにも連絡しとかないと……」
次回に続く。
千束ちゃんとたきなちゃん登場です。
好き勝手にクロスオーバーしていきます。
次回はあの承認欲求モンスターを出すつもりです。
ご感想お待ちしております。
千代さんの今後について。
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桜さんと旅行中に大事件に巻き込まれる。
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