俺が愛車を取りに行っている間の話。
喫茶リコリコでは……
「それでクルミ。千代さんについて何か分かった?」
「バッチリだ。千束の睨んだとおり、アイツはただ者じゃなかったぞ。アイツは陸上自衛隊、特務機関の出だ。」
「特務機関……?」
「以前、聞いたことがあるぞ。自衛隊でも日本の法律を超えた任務を遂行する部署…… 暗部みたいなモノだ。確か『戦略部』とか言うじゃないか?」
「正解だ。ミカ……」
「自衛隊にそんな部署があるんですね?私、知りませんでした。」
「そりゃそうでしょ。こんなヤバい部署が表沙汰になったら、自衛隊どころか日本政府の大スキャンダルよ。」
「千代さんはそこに属してるんですか?」
「表向きは、山梨県の片田舎の公立高校で用務員をしながらの予備自衛官としてだがな。」
「千代さんはその道のプロなんだねぇー」
「そうだな。アイツの携わったモノには麻薬撲滅作戦やら武器密輸阻止、不法占拠された島の奪還やら色々あるぞ。」
「10年前の優しかった千代さんからは考えられないくらいの手練れだと思います。」
「たきなの言うとおり、二人ともくれぐれも油断するんじゃないぞ。」
「任せてよ、先生♪」
「了解です。」
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俺は二人を乗せてライブ会場へと向かった。
「おほー! 速いねぇー ウチの営業車とは全然違うよぉー!」
助手席に座る千束ちゃんは窓を開け、吹き込む風を浴びて年甲斐もなくはしゃいでいる。
「危ないから、おとなしく座っててね……」
「はーい。」
ふとルームミラーを使い後ろを見てみると、たきなちゃんが怖い顔でコチラを睨んでいた。
互いの目が合い、うーん…… 先程とは違い、ちょっと気まずい。
「ど、どうしたのかな?たきなちゃん…… そんな怖い顔して?」
恐るおそる話かけてみる。
「別に気のせいです……」
あらら…… たきなちゃん、素っ気ないなぁー 恥ずかしがり屋さんかな?
「たきなったら、10年振りくらいに千代さんと再開できたんでしょ。もっとお話とかドライブを楽しもうよー ごめんねぇー たきなは緊張してうまく話せないんだよ♪」
「ちょ、千束!いったい何をッ!!?」
「フフ…… なんだ可愛いところあるじゃん。」
「からかわないで下さい。」
「たきな、もっと素直になりなよー」
「ブッ飛ばしますよ。」
「ごめんなさい……」
たきなちゃん、予想以上にツンデレさんじゃないか。
「ねぇ?千代さんって、今は高校で働いてるんでしょう?」
「そうだね。事務作業から雑務まで色々してるよ。」
「でもさ?ずっと、その…… 学校関係の仕事をしてるワケじゃないよね?」
「え?」
「その前は自衛隊の秘密部隊で、仕事をしてたんじゃないの?」
「確かに陸自にいたけど、その秘密部隊ってのは知らないなー?」
「戦略部とか……」
どうしてかは知らないが、俺が秘密にしていることをズバリと言い当てた千束ちゃん。
「ぶっちゃけて聞くけどさ?千代さんを初めて見た時とか店での立ち振舞いからして、ただ者じゃないって思ったんだ。」
横目でチラリと千束ちゃんを見てみる。
彼女は進行方向を見ながらも何かを確信しているかのような表情をしていた。
「何が言いたいのか分からないなぁ? 今の自分はただの学校の職員だよ……」
その時だった。カチャっとメカニカルな音が聞こえたと思いルームミラーで後ろを見る。
するとたきなちゃんがどこから出したのか、拳銃を俺に向けていた。
「えーと、そんな物騒なモノどこから出したのかなぁ……?」
わざとらしいか?惚けてみる。
「もうわざとらしい演技はその辺でやめても良いんじゃないですか!アナタは私と千束のことを知っているんでしょう?さぁ!応えて!」
たきなちゃんからは殺気が駄々漏れだ……
「たきな、落ち着きなって……」
千束ちゃんがたきなちゃんを宥める。
「改めて聞くけどさ?千代さんは陸自の秘密部隊……『戦略部』の出身なんだよね?」
俺はドキリと背中に冷たい物を感じる。
俺の素性をなぜそこまで知っているのか?
「ハハ…… 君たちの言っていることがさっぱり理解できない。」
「たきなの言うとおり、千代さんは演技が下手くそだねぇ? それに私たちには優秀な情報ツウが付いているんだよ。誤魔化そうとしてもム~ダ♪」
なぜかは分からない。たけど俺って二人に追い詰められている?
俺は必死に思考を巡らせた。
もしかしてあの時、俺の隣に座っていた気だるそうな女の子が調べたというのか?あの短時間で?
しかし、俺のデータは陸自の中でもトップクラスのセキュリティの下で管理されてるはずなんだが……
「秘密部隊?戦略部?おかしなことを言うね? 君たちは?大人をからかうのも大概にしないと……」
「私たちは本気ですよ!」
相変わらず、たきなちゃんの圧が凄い。
「ねえ?ちなみに、その銃は本物?」
「試してみます?」
おぉー こわ!マジで撃ちそう。
「あのー まだまだ新車だからさ、傷つけられるは嫌なんだよね……」
「そうだよ。たきな、それはしまいなー」
「むぅ…… 分かりました。」
しぶしぶだが、たきなちゃんは銃をしまった。
ホッとひと安心。
「でさ、千代さんはホントのとこはどうなの?」
「それはご想像にお任せするよ…… DAのファースト・リコリス、錦木千束ちゃん?」
「あーー!」
「やっぱり……!」
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ライブ会場のある下北沢へとやってきた。
「じゃあ、車停めてくるから。」
「はーい!」
二人と少し別れて、俺は車を止めるために一人、近くの駐車場へと向かい駐車してから二人の元に戻る。
別れた場所で二人は待っていた。
しかも、千束ちゃんは誰かとヤイノヤイノといがみ合いをしているようだ。
千束ちゃんを後ろから必死になって抑えるたきなちゃん。相手側も似たような状況だ。
「ど、どうしたのッ!!?」
千束ちゃんと口ゲンカする子も彼女と同じ服を来ている。背丈もそれほど変わらない…… 同級生か?
慌てて二人の間に割って入った。
「どうどう。二人とも落ち着きなさい。」
俺は猫を扱うかのように、二人の制服の首根っこを掴み上げる。
「あ!コラぁ!何すんだ!おっさん!」
おっさん!!? なんだこの子、口悪ぅッ!!?
「千代さん聞いてよー!フキがいきなり突っかかってきたんだよー!」
「なんだとッ!!? 元はと言えばテメェがこんなところに呼び出すからだろぉ!」
「ガルルル……!」「シャァーー!」
互いに威嚇しあう始末。
二人をなだめるのに三人がかりでやっとだ。
無駄に疲れた。
千束ちゃんとケンカしていたのは『春川フキ』さん。また彼女を止めていたのが『乙女サクラ』ちゃんだ。
千束ちゃん、たきなちゃん同様に二人もバディーを組んでいる。互いに自己紹介をして、新たに二人増えて五人となった俺たちは、改めて目的のライブ会場へと向かう。
「へぇー 山梨の高校で働いてるんッスかー」
「先生だっけか?」
「いや、さっきも言ったけど用務員だよ。フッキー」
「だからさ…… そのフッキーって呼ぶのやめてくんねぇ……?」
「え?なんで?可愛いじゃん。ねぇ?」
「だねぇー フッキー♪」
「千束…… テメェ……!」
「たきなちゃんとサクラちゃんも可愛いと思うよね?」
「はい。」「そうッスね。」
この日からフキさんは『フッキー』というあだ名で、みんなから呼ばれることになる。
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「ここ?」
「うん!ここ!STARRYってライブハウスが今日の会場でーす!」
俺たち五人は階段を下り、半地下になっているSTARRYの入り口の扉を開けた。
受付で千束ちゃんがチケットを三枚出す。
受付をしていた青髪の気だるそうな女の子がチケットの枚数と俺たちをチラチラと見ていた。
「ああー フッキーとサクラちゃんの分が足りないんだ?当日券もあるのかな?」
受付の女の子に聞くと「ええ、まあ……」と答える。
二人分のチケット代を払おうと俺は財布を出した。
「千代さん、別に良いよ…… 私とサクラの分は自分たちで払うから……」
「ええー!先輩、アタシの分もおごって下さいよー!」
「うるせ!自分の分は自分で払え!」
「マジか……」
二人はチケット代を出そうとした。
「大丈夫だよ。ここは大人の自分に任せなさい。二人のチケット代は自分が出すから。」
「マジっすか?」
俺はプラス二人分の当日券を買って入場した。
そこは普段では味わえない雰囲気の場所……
壁には赤い鉄骨、そして目立つ大きな時計、音響設備にステージ、バーカウンターなどがある。
「おお…… ちょっとテンション上がるなぁー」
「ですね。」
たきなちゃんもワクワクしていた。
「二人してキョロキョロしてぇー 田舎くさいぞー」
千束ちゃんから煽られる始末。
「仕方ないでしょ。初めての場所なんだよ?テンションも上がるって……!」
「千束はけっこう慣れてるようすですが……」
「あったりめぇよ! 私は踏んできた場数が違うからねぇ……ッ!」
「いらっしゃいませ!今日は初めてですか?」
会場のスタッフであろう一人の女の子に声をかけられた。長い金髪をサイドで一つにまとめ、ドリトスのようなアホ毛が特徴的な子だ。着ているTシャツには『結束バンド』とプリントされている。
「え?ええ…… この子に誘われて、初めてライブを見に来たんです。」
「山梨県から来たんだよー」
千束ちゃんが捕捉した。
「そんなに遠くからッ!!? わざわざありがとうございます。」
笑顔で答える姿が健気で好感が持てる。
「あちらで飲み物や軽食の購入も出来ますので。」
「そうかい?みんな、何か飲む?ご馳走するから……」
「やったー!」
「千代さん!太っ腹だな!」
バーカウンターに行くと、これまた別の女の子が二人で接客していた。
赤毛の女の子は慣れた手つきで捌いているが、俺の相手をしてくれている女の子はかなり緊張している。
「ごごごごご……… ご注文の……… アアアアイススス、ココーヒーで、す。」
商品を手渡す手が物凄く震えており、カップの中身が飛び散っていた。
「だ、大丈夫?キミ……」
見てて心配になる。
「ひとりちゃん!深呼吸!深呼吸!」
隣の女の子がすかさずフォローした。
しかし深呼吸も息を吸うばかりで、吐こうせず、顔を青くして苦しそう。
生きるのに難儀してそうな子だと、少し哀れに感じてしまった。
「結束バンド…… さっきの女の子も同じTシャツを着ていたけど、キミたちもバンドをしてるの?」
「はい!私とコチラのひとりちゃん、さっき案内してくれた伊地知先輩に受付の……」
「あの気だるそうな子もバンドしてたんですね……」
「四人組なのか?」
「そうですよ♪(キターン!)」
この子の笑顔、なんか浄化される……
時間が経つにつれて、他の客もライブ会場に入ってきた。
始まるのを、まだかまだかと待っていると、どこからともなく酒の匂いが漂ってくる。
「なんか酒臭くない?」
「やっぱり、そう思う?」
俺たちのすぐ近くで立っていた女性が匂いの元みたいだった。
「ぼっちちゃーん!今日も来たよー!」
パックの日本酒を煽りながら、テンション爆アゲで騒いでいる。
ぼっちちゃんって、あの難儀な女の子のことか……
この人、あの子のファンなんだ。
酒臭い女性だけじゃない。他にも数人、ファンがついているようだった。
そして、ライブが始まった……
次回に続く。
作者です。コロナにかかって死にかけてました。
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