バイク部と別れて給油を済まし、浜名湖のサービスエリアを出てしばらく走っていると不意に桜さんに質問された。
「千代さん、モテモテですね…… あの子たちと随分親しそうに話してましたけど。付き合いは長いんですか?」
「おふぅ、いきなり…… そうですね。あの子たちは桜さんたちと同じくらいの付き合いじゃないかな?会ったのもコッチ来てからすぐだったし……」
「千代さんって、バイク乗りの人と話しているとあんな顔をするんですね?」
え?俺、どんな顔していたんだろう?
「イキイキしてましたよ。私には普段しない表情でした。良いなぁ…… 羨ましいです。」
桜さんは遠くを見つめている。
少し疎外感を感じさせてしまったか……
「桜さん、寂しい思いをさせたみたいだね。」
「あ、いえッ!!? そんなこと……ッ!!?」
「はっきり言っときますけど、俺は桜さんが一番好きですよ。愛してます。」
「嬉しいけど、ちょっと照れますね。」
彼女は頬を赤らめ、微笑んでいる。
機嫌も良くなったようでひと安心。
「それに俺の実家に行ったら、バイク乗ってみませんか? 」
「バイク…… ですか…… 私、バイクの免許とか持ってないですよ?」
「普通免許で乗れる原付があるじゃないですか。」
「なるほど……原付なら、私でも乗れますね。」
「まあ、ただの原付じゃないんですけど……」
「何ですか?その含みのあるような言い方?ちょっと怖いような……」
「それは向こうに着いてからのお楽しみ♪」
しばらく走っていると120キロ区間に入る。
カーラジオからは思わずアクセルを踏みたくなるようなユーロビートが流れてきた。
「すごくタイミングの良い時に流れて来たな。この曲……」
「千代さんの気持ちは分かりますが、くれぐれもスピードの出しすぎは止めてくださいね。」
「分かってます。安全運転…… 安全運転……」
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休憩を挟みつつ二時間ほど走り、再び運転手が桜さんに代わる。
「さあて、走りますかぁー」
「まだまだ、元気ですね。」
「千代さんより若いですからねぇー」
交代して一時間……
順調に距離を稼いでいる時だった。
「ねぇ、千代さん。私たち煽られてるみたい……」
「え?」
俺は彼女に言われ、ルームミラーや助手席側のサイドミラーで後方を見ると、赤いマッスルカーがパッシングやクラクション、車間距離を詰めたりと危険な運転をしている。
「ホントだ……」
「ね?私、煽り運転、始めて見ちゃったぁ。」
桜さんは始めての煽り運転を体験して、恐怖するどころか逆にテンションが上がり、邪悪にも似た笑みを浮かべていた。
「桜さん、事故になるから気をつけて?車線を一番左に寄せましょう。」
「はーい。」
車を寄せると同時に赤いマッスルカーは一気に追い越し、俺たちの車の前に出ると次は蛇行運転を始める。
「おー スゴいスゴいー!」
いつもは見ることの出来ない、テンションMAXな激レア桜さん。
でも冷静なハンドル操作とペダル操作で見事に事故を回避する。見てて感心するレベルだった。
「あの車、パーキングエリアに入って行きますよ?私たちも行ってみましょうよ。」
「えッ? はぁッ!!? 」
俺が何か言う前に、桜さんも付いてパーキングエリアに入っていく。
パーキングエリアは無人でトイレと自動販売機くらいしかない。止まっている車も2~3台くらいか?
桜さんは煽り運転をしていた車とは離して停車するが、もともと後ろに付けていたのがバレバレだったために、相手側のドライバー(男)が車を降りてコチラに向かって歩いてくる。しかも木刀で武装していた。
「ヤバイな、こりゃ…… 桜さん、ここは俺が対処しまs……」
俺が車から降りるより早く、桜さんは外に出て相手と対峙する。
「ちょ、ちょ、ちょ……!」
俺は慌てて車から降りて彼女のもとに向かった。
「アナタ、いつもあんなことやってるの?」
桜さんが仁王立ちをしている。
「オメェたちみたいなのが、チンタラ走ってるのがムカツクんだよ!」
「私は法定速度を守って走っていましたが?危険な運転してたのはアナタでしょ?」
「っるせぇ!女だからって容赦しねぇぞ!」
「桜さん、もう俺が対処するから後ろに下がって下さい!」
「大丈夫よ。コイツはそんな甲斐性もないでしょうし……フッ、」
桜さんの煽りに激昂した男は、おもいっきり木刀を振り被った。
「桜さん!」
俺は身を挺して彼女を守る……… つもりだった。
しかし、桜さんは男の懐に潜り込み、繰り出したのは完璧と言えよう上段受け!
鉄塊のごとき固さで男の両手首を破壊したのだ。
「え………」
俺は唖然とするしかない。
「うぅぅ……!」
桜さんの上段受けを受け、手首を破壊された男は激痛から木刀を落とし、その場に膝から崩れた。
「い、いてぇ! お、折れたかも!」
「情けない…… にぼしが足りてないのよ。」
知らなかった…… 桜さん、チョーつえぇじゃん!
「もう一度聞くけど、どうしてアナタは煽り運転なんてものをするの?」
桜さんは圧をかける。
「えぇぇと、暇だったから…… 憂さ晴らしにと……」
それに男はなんともつまらない理由を話す。
「ホント、サイテーね! アナタはドライバーの風上にも置けないわ!」
彼女はお仕置きと言わんばかりに、男を蹴り飛ばした。3mくらい飛んだんじゃないか?
「おす! さあ、行きますよ?千代さん。」
「は、はい……!」
俺は目を回して男に手を合わせて車に戻った。
再度出発するが、車内の空気はちょっと重い。
「あの…… 桜さん?」
意を決して、話しを切り出す。
「どうしました?」
「どうしてあんな無茶なことをしたんですか?」
「心配しました?」
「当たり前でしょ!キミに何かあれば俺はどうすれば良いんですか!今回はどうにかなったものを……!」
「大丈………」
「真面目に聞いて下さい!」
「はい……」
「俺はね? 桜さんのことが誰よりも大事なんです!だから怒ってるんですよ!万が一桜さんにケガなんてさせたら、キミのご家族にどう説明すれば良いんですか?」
「ごめんなさい。」
「だから、無茶はしないで下さい……」
「分かりました。」
「よろしい。でも、桜さんって、武道の心得があったんですね?」
「驚きました?」
桜さんのシュンとしていた顔がパァッと明るくなった。
「調子に乗らない。」
「はーい。」
「正直驚いたよ。空手だよね?」
「こう見えても、私、黒帯ですよ?小中高と習ってインターハイでは優勝もしてますし。大学では新たに柔道もやってます。」
「ほぇー」
怒涛の暴露話にアホのような顔をするしかない俺。
「千代さんが私に秘密にしてるように、私も秘密にしてることもあるんですよ。」
「そうですか……」
「それに私、千代さんより強いかも。」
「ほう?それは聞き捨てなりませんな?俺だって陸自で格闘徽章を持ってますし、それ指導教官も経験してますからね?いくら桜さんの腕っぷしが強くてもアマチュアがプロに敵うはずないですよ。」
煽りに煽りで返す。それがいけなかった。
桜さんの闘争心に火を着けたみたいだ。
「じゃあ、一度手合わせしてくださいよ。」
「仕方ないなぁー まあ、俺の勝ちは決まってますけどね?」
「なにおー!」
車内の空気も良くなった?し、先を急ごう。
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その後、お昼ご飯を食べたり、景色を二人で眺めたりしながら16時を過ぎた頃、色々あったが無事にホテルに着いた。
「お疲れ様でした。」
「千代さんこそ、お疲れ様でした。」
互いに労を労う。
ドアマンに車を預けて、荷物を持ってホテルのエントランスロビーに向かった。
「いらっしゃいませ。」
「予約してた野咲です。」
「少々、お待ち下さい。」
受付のホテルマンが上司を呼ぶ。
すると、ひときわ偉い人…… 支配人が現れた。
「お待ちしておりました。聖お嬢さまから連絡は受けております。ご案内いたしますね。」
支配人に案内されるまま、エレベーターに乗る。
登るのぼる…… 着いたのは最上階。
「当ホテル、最高級のプレジデントスイートです。」
「おぉ………」
「スゴい……」
ラグジュアリーな内装に調度品が並び、二人で横になっても余りある大きなベッド、専用の露天風呂まで完備してある豪華さに、二人揃って語彙力が低下する。
庶民の俺たちからしたら、全くもって場違いだ。
「本当にここに一泊してもよろしいんでしょうか?」
俺は恐ろしくなり、支配人さんに聞いてみた。
「ええ。聖お嬢さまから直々の仰せつかっておりますので、ご心配は無用です。」
「あの…… ちなみに一泊二人でおいくらに……?」
桜さんが聞いた。
「税込300万円になります。」
優しい笑顔で鬼畜な金額だった。
「何なりとお申し付けください。」と言って支配人は業務へと戻っていた。
「逆に緊張しますね。」
「そうだね……」
俺は改めて、感謝の意を三ノ輪さんに伝えた。
その後、桜さんの家族にビデオコミュニケーションツールを使って連絡を取る。
「あ、お父さん?無事にホテルに着いたわ。」
『おおー そうか。それは良かった。』
『私もアナタたち二人の顔を見れて安心したわ。』
『それにしても、お姉ちゃんたちスッゴい豪華な部屋だねぇ?』
『確かにそうねぇ……?』
『奮発したなぁー!』
「いえ、これには理由があって……」
俺は経緯を説明した。
『へぇー 千代さん、羽音ちゃんたちと会ったんだ。そっか!聖ちゃん、大井川でキャンプした時、道具一式飛行機で持って来たもんねぇ。私もだけどリンちゃんにアヤちゃんもビックリしたもん。』
「ここのホテルも彼女の家が経営する会社が運営してて……」
『まあ、ともかく、ゆっくりして明日に疲れを残さないように。』
『まだまだ、距離があるから気をつけてね。』
「分かってる。」
『千代さん、またね!』
「向こうで待ってるからね。」
会話を終え、そして、ホテルから最上級のおもてなしを受けたりと最高のひとときを味わうことに……
豪華な食事を終えて、温泉にも浸かり、部屋でゆっくりする。ワイングラスを片手に、俺は最上階の部屋から夜景を見ていた。
「これが金持ちの目線か……」
「千代さん、全く似合ってませんよ。」
桜さんがクスクスと笑う。
「さてと、茶番もほどほどに休みますか……」
「はい?何言ってるんですか?夜はこれからなんですよ?」
「でも、明日も走るんだし……」
「そんなの関係ないですぅ! 今夜は寝かせないぞーッ!」
桜さんには逆らえず、俺は彼女の相手をすることになった。ああ、今回も長い夜になりそうだ……
次回に続く。
桜さん、まさかの武闘派系彼女でした。
次回、芦片町に到着、ていぼう部出ます。
ご感想お待ちしております。
千代さんの今後について。
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