日も傾き始めた頃、俺たちはていぼう部の部室へと帰ってきた。
「初めての魚釣り楽しかったー!」
「うむ。あの感触は癖になる。」
「ビーチバレーも面白かった。」
「桜さん、ひとまず千代さんは預けときます。」
「たきなちゃんの気持ちは分かったけど、千代さんは誰にも渡さないからね。」
「ちょっと、二人とも……」
片付けとキスの下処理だけをして、今日は解散となった。
みんなで帰宅すると、出かけていたのか?NS-1でどこかに行っていた末っ子とばったり会う。
エンジンを止めて、ヘルメットを取った。
「おにぃ、みんなも今帰り?」
「ああ…… お前こそ、どこに行ってたんだ?」
「お母さんにお使いを頼まれたから、ちょっとそこまで……」
妹のバイクが気になるのか、志摩さんが食い入るように見ている。
「あ、あの…… あかりさん。」
「どうしたの?リンちゃん?」
「このバイクって、なんて言うんですか?」
「あら?リンちゃんはバイクに興味があるの?」
「はい。」
「リンちゃんは、原付で往復400kmも走っちゃうくらいに、バイクが好きなんですよ!」
「おー 凄いね。」
「ストロングタイプですね。」
「これはHONDAのNS-1…… 実はこう見えて50ccの原付なのよ。」
「これで?」
「おっきいね!」
「私もこの間乗らせてもらったのよ。」
「桜さんがですか?」
「リンちゃん、原付免許持ってるんでしょ?」
「え、あ、はい。」
「じゃあ、乗ってみる?私が教えて上げるよ。」
「良いんですか?あかりさん。」
「もちろん♪」
志摩さんは俺の妹からNS-1の乗り方を教えて貰った。キック式のスターターで、エンジンをかけると2ストエンジンが元気に唸りを上げる。
ヘルメットを被った志摩さんがバイクに股がった。
志摩さんがエンジンの調子を確認して、ゆっくりとスタートする。
NS-1が少しずつ進み出した。
バイク乗りの血がそうさせるのか、すぐに順応した彼女は20年以上前のNS-1を乗りこなして見せる。
「カッコいいよ!リンちゃん!」
「なかなか様になってるわねー」
「初めて乗ったにしては、あかりより筋が良いんじゃないか?」
「それは否めないかな……」
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豪華な夕食も済み、それぞれの部屋でゆっくりしていた。
「リンちゃん、到着初日から楽しかったねぇ?」
「うん。郷土料理も旨すぎて、余は満足じゃ~」
「だね~ 私もお腹パンパンだよ~♪ 」
「海で撮った写真とか、恵那に送った……」
「私も野クルのグループLINEで送ったりしたよ。」
「明日は何するのかな?」
二人で話していると、外からカリカリとドアを引っ掻くような音がする。
「何との音かな?」
なでしこさんがドアを開けるとそこには二匹の猫がいた。
「にゃあ~」「にゃあ~」
「「猫ちゃんだ~!」」
二匹はスルリと二人の部屋に入ってくる。
「この猫って……」
「確か白黒がツユちゃんで、サバ白が風太ってあかりさんとみのりさんが言ってたぞ。」
「ツユちゃんおいで~」
なでしこさんが呼ぶと白黒のツユが寄ってきて、彼女におとなしく身体を預けた。
「じゃ、じゃ~私も……」
志摩さんがサバ白の猫、風太を呼ぶとコチラも素直に懐く。
「おおー サラサラのモフモフでかわええ…… これはチクワに勝るとも劣らないぞ。」
「分かる。分かるよー リンちゃん♪」
別室、リコリス組はというと……
「初めてだったけど、仕事を忘れてあんなにエンジョイ出来て良かったわ~」
「何言ってるんですか。私たちはなでしこさんと志摩さんの護衛でぇ……」
「ストーップ! たきなはホントに真面目なんだからぁ! こんなのどかな港町で事件なんてあるわけないじゃん!」
「しかし……!」
「たきながいない時に先生が言ってよ。こっちのことは気にせずに楽しんで来いってさ。」
「そうですか。なら、楽しみます。」
「やったね。そうこなくっちゃ!」
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そして、俺と桜さんというと……
「今日もお疲れ様でした。」
「桜さんこそ。母やおばぁも作りがいがあったって、喜んでいましたよ。」
「ねえ、千代さん? 海水浴でたきなちゃんと話したんだけど……」
「ああ…… 彼女が震災孤児の話だろ?」
「聞いていたんですか?」
「うん、まあ…… 実はあの時、目は覚めててね。盗み聞きするようで悪かったと思ってる。」
「いえ、それは良いんです。」
「当時の彼女は目に精気もなかったし、時間があれば根気よく接して、ようやく心を開いてくれたかな?と思ったら、俺の任期が終わる前で…… 今は千束ちゃんたちも付いてるから安心してる。」
「ねえ、千代さん?私、彼女のために何かしてあげられないかな?」
「例えば?」
「私、彼女と家族になれないかな?」
「そうか…… たきなちゃんの気持ち次第だけど、俺もそう出来れば良い。」
そして、俺は桜さんと向かい合うように正座する。
「桜さん。」
真剣な眼差しで彼女を見据えた。
「はい?」
「こ、これ…… 」
俺は彼女に小箱を出して中を見せる。
中には指輪が入っていた。
「その…… キミが大学を卒業したら、俺と一緒になってくれませんか?ってか結婚してください!」
野咲千代、一世一代のプロポーズ。
俺の告白にキョトンする桜さん…… そりゃそうだ。タイミング的にムードもへったくれもない。
しかし、彼女の目から一筋の涙が流れる。
「千代さん…… その申し出、お受け致します。」
唐突なプロポーズにも桜さんは喜んでくれた。
「桜さん……」「千代さん……」
ムードも最高潮となり、互いの唇が近づいて、ついに触れ合おうとした。
「ん?」
俺はキスを急遽止める。
「どうしたんですか?千代さん……」
不思議そうな彼女を尻目に俺は立ち上がり、部屋のドアを開けた。
次の瞬間、妹やなでしこさん、志摩さん、千束ちゃん、たきなちゃんが部屋に雪崩込む。
「思ったとおり……」
俺は頭を抱えた。
「なでしこ、リンちゃんたちまで……」
「アハハ……」
みんなして笑って誤魔化そうとする。
「兄さん、さすが。」
「千代さん、お姉ちゃん!婚約おめでとう!」
「千代さん、桜さんを絶対に幸せにして下さいよ……!」
「も、もちろんです。」
志摩さんからの圧力も相変わらずだ。
「でもさー もうちょっと、ムードってもんを気にした方が良いんじゃない?」
「あかりさんの言うとおりだよね~ 今日行ったビーチのサンセット背景とか♪」
「でも、それが千代さんらしいです。」
その後、指輪した桜さんとのツーショットを撮られて関係各所に連絡が行くのだった。
妹となでしこさん、志摩さんは部屋に戻って、俺の自室には千束ちゃんとたきなが残っている。
「ねえ、たきなちゃん。一部始終聞いていたと思うけど、改めて聞くね?」
「俺と彼女が入籍したあかつきには、家族にならないかな? もちろん、キミの気持ちを尊重する。」
たきなちゃんは、俺と桜さんの相談に考え込む。
「千束、私どうしたら……」
「たきなの思ったとおりにして良いんだよ。たきな、千代さんのこと大好きなんでしょ?」
「まあ、返事は今じゃなくても良いよ。」
「そうね。いきなりのことだし、まだ時間はたっぷりあるから、ゆっくり考えてみてね。」
「分かりました。」
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次の日、俺たちは陽渚ちゃんたちていぼう部に呼び出された。
それにていぼう部の部室へ来る時は、汚れても良く、動きやすい格好でと言伝てまである。
ていぼう部の三人はジャージ姿だ。
「このダサジャージはみんなに見られたくなかった……」
「仕方ないだろー 陽渚ぁー ていぼう部の決まりで部活動は、学校制服か体操服なんだからー」
「でもー」
「その体操服、自分たちの時からちっとも変わってないんだね。自分も陽渚ちゃんたちと同じ色だった。懐かしい。」
「じゃあ、我慢する。」
「なんだー 陽渚? 千代さんが学生時代の時と同じ色だから嬉しいのか?」
「うっさい!」
「よーし、集まったなー 大野、説明。」
「はい。えっと今日は今から潮干狩りにいきます。」
「「「「潮干狩り?」」」」
「ここって、アサリが採れるの?マコちゃん。」
「はい。漁協の職員や漁師の方々が、水産資源の確保のためにアサリの稚貝を蒔いています。」
「アサリ!」
食いしん坊のなでしこさんの目が輝く。
「それに運が良ければ、天然のハマグリも採れたりするんだよ♪」
「去年、私が見つけたんだよ。」
そう言って陽渚ちゃんはスマホの画像を見せてくれた。確かに立派な大物だ。
「でもそのハマグリは、さやかちゃんに食べられとったげどな……」
「さやかちゃん?他にも部員がいるんですか?」
「うんにゃ、ていぼう部の顧問たい。海野高校で養護教諭ばしとっとよ。」
「じゃあ、千代さんの妹さんは?」
「みのりさんはお目付け役だよ。」
そんなことを話ながら、俺たちはていぼう部の案内で干潟へと移動する。
やって来たのは『芽島海岸』の大干潟。干潮により広大な干潟が出来ている。
「ひろーーーい!」
「ずっと向こうまであるな。」
「潮干狩り、初体験……」
「アサリ♪ ハマグリ♪」
料金は俺が払い。桜さんやなでしこさんたち五人分の長靴と道具を一式借りた。
ていぼう部は各々持参した道具がある。
「よーし! いっぱい採るぞー! 頑張ろうね!リンちゃん!」
「うむ! アサリ待ってろよ……!」
「酒蒸しにアサリバター……ジュルリ。」
「千束、はしたないですよ。」
「千束ちゃんの言いたかコツは、めっちゃ分かるばい。ここのアサリは大粒でマジでうまかけんね。」
「千代さん、その長靴と一緒に履いてるのって、何ですか?」
志摩さんに聞かれた。
「ああ、これ?かんじきだよ。これしてると体重が分散されて沈みづらいんだ。」
「やっぱり千代さんだけズルい。」
次回に続く。
千代さん、唐突にプロポーズしちゃいました。
ご感想お待ちしております。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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賛成。
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反対。