到着したその日の夜。
俺はバイク部の娘たちに現地集合した山波と一緒に夕食を取っていた。
「おいしー!」
「うめぇー!どんどん入っていくよ!早川さん!おかわりー!」
「かしこまりました。」
佐倉さんと天野さんは、美味しさを全面に出して料理を食べる。
「はぁー アンタたちはいい加減にしなさいよ。これじゃ、おちおち静かに食べれないわ。ねぇ?聖?」
「フフ……でも、こんなに賑やかな食事は久しぶりですわ。だと思いません?早川?」
「まったくです。お嬢様……」
仲間との食事はこのくらい賑やかじゃないとな……
俺も自衛官時代は部隊仲間と夜間訓練で、焚き火を囲んで飯を食っていた。
あの時は、俺と山波で貴重な糧食であるヘビを取り合ったけ?
「楽しいですね?隊長……」
「え?」
「みんな賑やかで……」
「ああ、昔を思い出すよ。」
「そうだ!昔の夜間の演習で晩ごはんのヘビ、私と取り合いましたよね?」
山波は俺が今さっき考えていた事を口に出した。
コイツ、昔から変に感が良いんだよな?エスパーか?
「え?山波さんって、ヘビ…… 食べるんですか?」
箸を止めた鈴乃木さんが顔をコチラに向けた。
「あ、今はそんなことしないわよッ!!?」
「お前が変なこと口にするから、彼女ドン引きじゃないか…… 昔、自衛官にいた時の話だよ。」
まあ、テキトーにお茶でも濁しとこうか。
その後、食事を終わらせた俺は大浴場で汗を流した後、自室でゆっくりしていた。
ふかふかのベッドに横になり、スマホをいじっていると電話の着信が鳴る。
「こんな時間に…… 各務原さんか。もしもし?」
『もしもし!こんばんはー!』
夜8時を回っていった。
この子は夜でも元気だな。
「こんばんは……そっちはどうだい?楽しいかい?」
『はい!初めての野クルキャンプ、サイコーです!』
受話器越しに向こうでは、各務原さんたちがわちゃわちゃしている。
互いにスピーカーにして、今日あった出来事を楽しく話した。
『へぇー 私たちと同じ年代の女の子とツーリングしたんですか?』
「同じイベントに行くんだって、それで道すがら……」
『良いですねー私もあこがれますわ〜』
「普通自動二輪免許なら16歳から取れるからね……思い切って受けてみたら?」
『じゃあ、気が向いたら……って、事で。』
「バイクに乗ると人生変わると思うよ。あと冷えるから風邪ひかないように。」
『『『はーーーい!』』』
そんなことを言って電話を切る。
明日は待ちに待ったイベントだ。
今日はもう休かと、俺は寝ようと照明の明かりを落とした時だった。
コンコンとドアをノックする音がする。
「うーむ、何かイヤな気が……」
ドアを開けると、佐倉さんたちバイク部の子や元部下の山波がおり、それぞれ手にはお菓子やらジュースを持っていた。
「千代さん!UNOしましょー!」
UNOの入ったケースを持ち、満面の笑みを浮かべる佐倉さんたちだった……
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あ〜朝だ……
最初は乗り気ではなかったが、高校生以来……久しぶりのUNOでついつい熱が入ってしまった。
夜遅くまで盛り上がる、俺の部屋……
目が覚め、周囲を見ると夜遅くまで遊び倒したみんながそこら辺で自由に寝ていた。
「そうか…… 昨日はみんな疲れて俺の部屋でって…… おいーッ!!?」
二つあるベッドの内ひとつは、山波と佐倉さん、それに鈴乃木さん川の字で寝ている。
俺のベッドでは天野さんと三ノ輪さんが、左右から俺に抱きつくスースーと寝息を起てていた。
時計を見ると予定していた起床時間をすでに40分以上過ぎている。
「寝過ごしたァーーーッ!!!!」
何ということだ。
先に起きていたのだろう、来夢先輩が律儀にプラカードなんかを持っている。
ちょっと読んでみた。なになに………
「おはようございます。昨日はお楽しみでしたね……」
いやいや!何言ってるんだッ!!?
この先輩、色々と恐ろしいわ!
と、とにかくみんなを起こさないとッ!
「みんなー!朝だぞー!起きろー!」
揺すってみても、まったくもって起きない。
俺も含めて、夜ふかしするからこうなるんだ。
こうなったら……!
俺はスマホを操作して動画投稿サイトのとある動画を最大音量で流した。
「せめて山波だけでも………!」
いきなり鳴り出したラッパの音に反応した山波が飛び起きる。
「だぁぁあァァァーーー!」
俺が流したのは自衛隊恒例、恐怖の起床ラッパ……
自衛官を経験した者はこの音に一種のトラウマを持っている。
実際、俺も当時の先輩にイタズラで鳴らされた。
「やめて下さいよ!隊長ぉ!」
最悪の目覚めに山波は俺に悪態をつく。
「コレを見ろ。」
俺のスマホを寝ぼけ眼の山波に渡した。
彼女は俺から渡されたスマホで時間を見て、目をカッと見開く。
「ちょ!隊長!寝坊じゃないですかッ!」
「とにかく全員を起こせ!イベント開始まであと一時間切ってる!」
「りょ、了解!」
ここからが騒がしかった。
みんなはワチャワチャしながら、俺の部屋から自室に戻って行く。
「じゃあ、向こうで会おう!」
その後、俺は歯を磨き、身だしなみを整えて、持参したレーシングスーツを始めとしたクシタニブランドを身にまとい、相棒のロクダボのもとに向かった。
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ヘルメットを被り相棒に跨がり、エンジンを掛けようすると山波たちがやって来て、俺と合流した。
「おはようございまーす!」
佐倉さんたちと挨拶を交わす。
「さあ、行こうか!」
俺たちはサーキットへ向かった。
天気は雲一つない秋晴れに、暖かな陽光が降り注ぎ、それほど寒くもない。
イベント会場にも、日本各地から続々とライダーが来場する。
「すっごーい!」
「ヤベェーな!こりゃあ……ッ!」
「いよいよ始まるのね……ッ♪」
色々なブースに出店と賑わっていた。
佐倉さんたちバイク部は、あっという間に俺の前から去っていく。
「迷子にならないようになぁー!」
「行っちゃいましたね。分隊長……」
「あれだけ夜ふかししたのに、元気な娘たちだ……」
「そういえば、聖ちゃんとお付きの早川さん、あと来夢ちゃんも姿が見えませんね……」
「まあ、あの三人なら大丈夫だろう……」
俺は山波と一緒に会場を回った。
メインステージでは、プロレーサーや有名モトブロガーがトークショーを繰り広げている。
「凄いなーあのモトブロガー、わざわざ福岡から来たのか……」
「あの人、YouTuberとしても有名ですよね……?」
『ここで!今回のイベントの主催者のご紹介でーす!』
トークショーを山波と見ていると、メインMCの女性が声高らかに案内した。
壇上に出てきたのは、聖さん………
正直、驚いたよ。
恐るべき大財閥、三ノ輪グループの社長令嬢……
住んでいる次元が違うな。
『さらに、さらに!スペシャルゲスト!我らが来夢先輩の登場だァァァーー!』
来夢先輩の登場に凄まじい歓声が上がる。
本当に彼女は何者なんだと思った。
トークショーを終えた三ノ輪さんと来夢先輩は、俺たちと一緒にブースを回る。
「いやー驚いたよ。」
「ええ、聖さんがまさかの主催者側だったとは……」
「私の祖父が本田技研の創業者と親友で…… その伝手で父の代に鈴鹿サーキットを共同で運営してるんです。」
スゲェーよ。三ノ輪財閥……
その一言しか出てこない。
「来夢ちゃんも凄い人気だったわね……」
「来夢先輩はバイク界隈では、とても有名な方なんですよ?」
三ノ輪さんの言葉に顔をヘルメット越しに赤くする来夢先輩だった。
俺たちはとあるブースにやって来た。
色々な種類のオフロードバイクを体験出来るブースのようだ。
YAMAHA、HONDA、SUZUKI、カワサキとそれぞれ置いてある。
「あ、千代さん!」
「天野さんたち、こんなところにいたんだね。」
「あのね?恩紗ちゃん、すっごく上手いんだよ!」
「オフロード、初めてだったけど意外と乗れるもんッスね〜」
「私たちも昔は訓練講習で乗ってましたね?」
「ああ、偵察バイク…… カワサキKLX250だな。」
カワサキの名前が出た瞬間に来夢先輩が俺の方をバッと見た。
ヘルメットを被っているので分からないが、彼女から出ている凄まじい圧で察しがつく。
「私と勝負しろ……かな?」
この人工のコースでタイムトライアルをするのか。
面白い…… その勝負、乗ってやろうじゃないか!
ということで……
「レディース&ジェントルマン!我らが来夢先輩が急遽オフロードコースでのレースをすることになりました!」
先程、トークショーでMCを務めていた女性が場を盛り上げる。
それに呼応するかのように、盛大な歓声が上がった。
うん、なんか凄いことになったぞ……
「そして来夢先輩と対戦するのは、元自衛官の野咲千代さんだー!」
山波やバイク部の娘たちから応援された。
あぁ、緊張するな……
「私の得た情報によると、千代さんは高校卒業後に陸上自衛隊に入隊しニ等陸尉として活躍!今は山梨県の高校で学校用務員として働いています。」
山波のヤツ…… ペラペラと喋りすぎだ。
その後、来夢先輩の紹介がされる。
先攻は俺だ……
KLX250に跨がり、イグニッションキーを回してスターターでエンジンをかける。
スロットルを回すと、呼応したかのように軽快にエンジンが吹け上がった。
カウントが始まる。
「3、2、1…… スタート!」
俺は勢い良くスタートした。
人口の障害物を培った技術でクリアしていく。
昔、上官からは『偵察バイクは目線とニーグリップ、あとは勇気で補え!』と教わった。
最後の障害物を無事に抜けゴールした。
「タイムは2分45秒…… まあ、こんなモノか。」
次は来夢先輩の番か…… お手並み拝見だな。
次に彼女がスタートする。速い速い、ギャラリーや解説のYouTuberも興奮していた。
ちょっと待て?このままだと彼女…… 2分30分を切ってくるぞッ!!?
来夢先輩は余裕なのか、華麗にウィリーを決めながらゴールした。
タイムはなんと2分26秒……負けた。
久しぶりにオフロードバイクに乗ったとはいえ、女子校生に負けるとは……
両膝を着き、残念がってる俺に来夢先輩が右手をそっと差し出す。
俺はその手を取り、立ち上がると彼女とかたい握手を交わした。
そんな俺たちにバイク部を始めとしたギャラリーが、二人の健闘を称えて拍手を贈ってくれた。
この子、ひょっとしたら俺の上官よりも腕前は上かもしれん……
「いやー感動しました!」
MCの女性が勝負の総括をしていると、来夢先輩が彼女に向かってプラカードを見せる。
「えーっと?なになに? 午前最後のイベント、エキシビションに彼も出場してはどうか?」
とんでもないことが書いてある。
そのプラカードの言葉に主催者の一人である聖さんも、二つ返事でGOサインを出していた。
急遽、エキシビションに出ることになった俺……
バイク部のみんなから羨望の眼差しが贈られる。
特に山波から凄かった……
エキシビションに出るのは、オフロード選手が二人、プロレーサーが二人、福岡出身のモトブロガーを始めとしたYouTuber勢が四人、来夢先輩、飛び入りの俺と……総勢10人だ。
これは凄い映像が撮れるぞッ!!?
奮発して最新型のGoProHERO10を購入してて良かったーッ!
相棒のロクダボをコース裏のピットインまで移動させ、準備しながらスタッフからコース上での注意事項を詳しく説明された。
「説明は以上になります。」
「了解です、ありがとうございました。」
相棒のロクダボに跨がり、エンジンを始動する。
この時、心做しか相棒から聞こえる排気音がいささかヤル気溢れる音に感じたのは、ここだけの話……
「GOOD!LUCK!」
スタッフの言葉にサムズアップで応え、俺と相棒のロクダボは大舞台の上に立った。
凄まじい歓声に度肝を抜かれる!
俺は誘導係からスタート地点に案内された。
隣には福岡県のYouTuberが駆る化け物バイク“KTM 1290 Superduke R”……
「始めまして!」
おお、YouTuberから声を掛けられたのは初めてだ。
「これからよろしくおねがいします!あとサインも下さい。」
「アハハハ。了解です!」
そして俺の前には、来夢先輩の“カワサキ Ninja ZX-12R”……これまた化け物。
彼女はコチラに手を振ってくれている。
四方をリッターバイクに囲まれた俺と相棒は、まさに四面楚歌の状況だった。
だけど、俺たちは負けねぇッ!
例え他のバイクたちにパワーで劣っていても、コーナリングやそこからの立ち上がりは、こちらが上なはずだ!
行くぞ!相棒……!
\マカセトケ……ッ!/
シグナルの赤が点滅し、黄色に変わる。
そして、青に変わった………!
「行くぜェェーーッ!!!!!!」
次回に続く。
参加したYouTuberや最後のエキシビション状況は、読者の皆様の妄想にお任せします。
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