レースに出ることになった志摩さん…… 家族にも伝え、顧問の鳥羽先生にも伝えた。
さすがに顧問として、とても心配していたが、プロテクターやらスーツもある。
それに、マーシャル(コース係員)もしっかりしていること話して、納得してもらった。
レースまで三週間。
自宅のガレージの一角でバイク部1…… 否、日本でもトップクラスのセレブの三ノ輪さんが用意してくれたNSF-100のエンジンをマニュアルで確認しながらいじる。
「お疲れ様です。精が出ますね。」
桜さんが声をかけてくれた。
「久しぶりのバイクいじり楽しくて…… 」
「少し休憩しましょう。 冷たい麦茶、用意しましたよー」
「ありがとう。」
彼女から麦茶の入ったコップを受け取り、乾いた喉に一気に流し込む。
「うん、うまい。」
「それにしても、今日もいい天気ですね。」
二人で晴れた山梨の空を眺める。
「そうだね。気温も上がって、夏が近づいて来たって感じで……」
「明後日から6月…… 梅雨の季節なんですよね。」
季節の移り変わりをしんみりと感じていると……
「こんにちわ。」
と、志摩さんに声をかけられた。
「あ、志摩さん。」
「いらっしゃい。」
「二人で何してたんですか?」
「えっと……」
「二人で空を見てたのよ。 もうすぐ6月ですねって……」
「そうそう! ノスタルジックに感傷に浸ってたんだよ。」
「へぇー ところでバイクはどうなってます?」
「いい感じだよ。綾乃ちゃんたちが来たら、試運転をしてみよう。」
「はい。」
志摩さんがワクワクしている。
志摩さんが到着して、30分くらい経った頃に綾乃ちゃんが現れ、最後にたきなちゃんもバイクに乗ってやって来た。
「お待たせ~」
「私が最後みたいですね。」
「三人が乗るバイク、整備できたよ。」
「おおー」
「これが……」
「私たちのバイク。」
「「「カッコいい!」」」
「カリッカリに調整してあるから、エンジン出力は15%アップしてる。カウルも三人をイメージしてデザインしたよ。」
「おー 私のバイクの水色。」
カウルは志摩さんのビーノやR3のカラーリングを元にした。
「綾乃ちゃんって、おしるこ好きそうだから、小豆色のホイールを用意して装着ました。」
「千代さんに取っての私って、おしるこのイメージなんだ。 まあー おしるこ好きだけど……」
「カウルの花はなんですか?」
「カウルに描いてある花は、たきなちゃんの名前にもなってるギボウシの花だよ。外国ではオオバコユリとか言われてる。」
「たきなちゃんって、花の名前だったんだ。私も桜で花繋がりで親近感が湧くわね。」
「千代さん? どうして、私たちのバイクに千代さんの名前が書いてあるんですか?」
「お、良いところに気付いたね? 自衛隊の……空自の伝統みたいなモノかな? 航空機の整備を担当する主任は【機付長】と呼ばれていて、戦闘機などには、この機付長の名前が整備担当の機体に書かれることがあるんだよ。」
「それで千代さんの名前を書いたんですか?」
「そうだよ。その預かった機体…… 今回はこのバイクに対する【責任の所在の明確化】のためなんだ。名前を書くことで、バイクの安全のための整備を意識させて、【自分のバイク】を管理するという【愛機精神】を育てるんだ。」
「なるほどー」
「君たちの安全と完走も願って、そして一緒には走れないけど、俺の魂も預けたよ。」
「任せてください。千代さん!…… いえ、お父さんの整備したバイクは誰にも負けません!」
「たきなちゃん…… 桜さん!聞いたッ? お父さんだって! めっちゃ嬉しいー!」
「じゃ、じゃー 私のことは、お母さんって、呼んでくれるかな?」
「お、お母さん……////」
「キターーーー!」
桜さんと二人でたきなちゃんを抱き締める。
「うぅ……! 恥ずかしいです。」
「フフ……♪」「照れてやがる。」
「かわいいヤツじゃのー」
「うぉッ!!?」「なでしこ、いつからいた?」
「たきなちゃんの名前の話をしてるくらいから。」
「声くらい掛けろよな。」
「エヘヘー」
なでしこちゃんも来たところで、バイクにエンジンを組み込み、燃料やらオイルを入れて、安全確認してをエンジンをかけた。
キック式なので、バーを何回か蹴るとエンジンが始動する。久しぶりに弄ったが、元気に動いているのを見てちょっと安心した。
「おー 動いた。」
「千代さん、スゲェー」
「やりましたね。」
「調子も良さそうでいい感じだ。」
俺はエンジンを切った。
「え? 走りに行かないの?」
「残念。コイツはレース専用。公道では乗れないんだよね。」
「マジで?」
「うん、マジ。 だって、見てごらん?」
「あ、ミラーがない。」
「ウィンカーも。」
「って、いうかスピードメーターもないぞ。」
「速く走るために1gでも軽くする! これがレーサー スパルタン!」
まずは綾乃ちゃんが股がる。
「うへぇー せま!」
「レーサーだからね。」
次はたきなちゃん。
「た、確かにこれはキツイです、ね……!」
「これで7時間交代ごうたいで走るんだ。 本番は専用のスーツが、この姿勢に固定してくれるから、多少は楽だと思うよ。」
「ふぅ~ 股がるだけで、汗かきます。」
「私も以前、股がらせてもらったけど、大変だったよ。」
なんだか志摩さんが遠い目をしている。
よっぽどだったんだね……
「良く良く思えば、志摩さんって、千雨ちゃんと背格好変わらないよね?」
「どういう意味ですか?」
ギロりと志摩さんが俺を睨む。
「千雨ちゃんって、ミニモト王者なんだろう? だから志摩さんも、乗り方しだいで、ワンチャン、レース速いんじゃないかな?」
「おー 確かに!」
「なでしこが納得してる……」
「そうですね。考えてみれば……」
「ちょっと、みんな買い被り過ぎだよ。」
「そうね。安全に完走する。アナタたちはそれだけ考えてくれれば充分だと思うわ。」
桜さんに窘められた。
「でも、耐久レースってどんなんだろうね? 私、全然想像できないよ。」
「綾乃さんの言うとおりです。」
「私はこの間、バイクを引き取りに千代さんと一緒に行った時にバイク部の子たちとレースのDVDを見せてもらったよ。」
「じゃあ、整備もそこそこで綾乃ちゃんたちにも、レースの雰囲気を味わって貰いましょうかね。」
「「「おおー」」」
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本栖高校、視聴覚室にて……
「リンたち、こんなレースに出んのか?」
「凄く速いねー」
「まあ、これは世界トップクラスの実力者が集まる大会だからね。」
野クルのみんなで、鈴鹿8時間耐久レースのDVDを見ている。
「うわぁ~ 曲がる時、むっちゃ倒すやん。」
「地面スレスレってか、膝が着いてるッスね。」
「この体勢から立ち上がれるのも、凄いです。」
「実際バイク乗ってみるとコーナーを曲がる時は、こうやって体重移動を活用するんだよ。ね?志摩さん?」
「はい。そうですね。 ハンドルだけでは、絶対に曲がれないです。」
「そういえば、ロードバイクでも同じやなー」
「ところで千代さん? 随分、たくさんのバイクが走ってますね?」
「全部で80チーム 走りますよ。鳥羽先生。」
「そんなにですか?」
「予選なんで。」
「80チームのうち、予選に残るのは70チーム……」
「落ちた10チームはかわいそう。」
「勝負の世界だからね。 勝ち負けはあるよ。」
「でもよ。カメラに映ってるのって、先頭くらいだけだよな?」
「せやな~ ほとんどは映して貰えんのやな~」
「カメラが追ってくるのは、70チームの内のさらに上…… 優勝に絡む上位6チームだ。 今回、志摩さんが出る大会も動画配信されるから、上になればなるほどカメラに写り込むことが出来る!」
「ってことは、リンが優勝したら有名人だね。」
「いやいや、優勝は無理だから。私たちは無理なく怪我無く、無事に走りきることを考えてる。」
「そうですね。 志摩さんは無理しないように、気を付けて頑張って下さい!」
「はい。ありがとうございます! 私、がんばります!」
「「「「「「がんばれーー!」」」」」」
放課後…… 帰宅しようとする志摩さんを見つける。
「おーい。志摩さーん!」
「あ、千代さん。」
「今帰り?」
「はい。あの千代さん……」
「どうした?」
「私、さっきは完走を目指すって言ってましたが、ぶっちゃけ優勝を狙って行きます!」
「良い心意気だね。でも大変だよ? 誰でも出れる大会ってことだけど、優勝するにはたくさんのライバルを蹴散らさないと行けないし……」
「来夢先輩、千雨ちゃんたち…… ライバルはたくさんいます。 だけど勝負の世界…… 【やってみないと分からない】ですよ!」
勝負師となった志摩さんがやけにカッコいい。
「では、私は少しコイツと走って帰ります。」
そう言って、彼女は自身のYZF-R3のカウルにそっと手を置いた。
「そっか…… 事故に会わないよう、気を付けて帰るんだよ?」
「はい。さようなら……」
「さようなら。」
俺は彼女を見送った。
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「ただいまー」
「おかえりなさい。 随分と遅かったわね? もう7時よ?」
「ちょっと、給油のために富士川の方まで行って、ついでに峠攻めてきた。」
「新しいバイク買ってから、ホントーに行動範囲が広がったわね。」
「そりゃあー お母さんの娘だからね。バイク乗りの血が騒ぐってモンだよ。」
「リンが『レースに出る』って言った時には、正直驚いたけど、お母さんの血が流れているなら、仕方ないわね。出るからには勝ちなさいよ!」
「うむ。」
「あと、レースの日はおじいちゃんも応援来るって言ってたわよ。」
「おー! これはマジで頑張らないと!」
次回に続く。
リンちゃん、やる気マンマンです。
孫ライダーズ、目指すは優勝の二文字ですね!
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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賛成。
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反対。