各務原家、夜10時過ぎ……
三つ子たちを寝かしつけたりと忙しい桜さんは、お風呂に入ったりとようやく一息をつけていた。
「はあー」
「お疲れ様…… 」
彼女の母親である静花さんが、マグカップに注がれたお茶を出してくれる。
「ありがとう。お母さん。」
「最近はどうなんだ?」
父親の修一朗さんが近況を聞いた。
「子供たちは見てのとおり元気にしてるわよ。千代さんも子育てに協力してるから助かるわ。」
「千代くんも仕事が仕事だからな。」
「そうねぇー 彼って、お偉いさんよね?」
「うん。今は新しく内閣府でも役職もってるのよ。たきなちゃんも付いていてくれるから、頑張っていられるって…… 感謝してる。」
とその時だった。桜さんのスマホが鳴る。
たきな: 『今、お父さんとご飯中です。』
「噂をすればたきなちゃんからよ。今、千代さんと晩御飯食べてるって。」
「晩飯も今頃かー ホントに大変な仕事をしているだな。」
「お姉ちゃん…… 今ね?アキちゃんからLINEが来たんだけど…… アキちゃん、リンちゃんや千代さんたちとご飯食べてるって?」
「はあ?なでしこ、何言ってんの?」
さらにピコンと桜さんのスマホが鳴る。
千代: 『色々あって、志摩さんや大垣さんも揃って、楽しくやってます。』
たきな: 『私が付いているので、心配しないでください。』
「ですって……」
「あらあら、凄い賑やかそうね。」
「二人とも会ったのお姉ちゃんの結婚式以来だったからね?」
深夜、みんな寝静まった頃……
なでしこさんのスマホに連続してメッセージが届いていた。
千明: 『ただいま!千代さんの運転で山梨へ爆走中!いろんなモノがやばいZE☆』
千明: 『野クル隊員! 全員、朝イチにここ集合なぁー!』
リン: 『うおー!』
リン: 『千代さんとの深夜ドライブ、最っ高!』
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高速を飛ばすこと3時間50分。
俺たちは山梨県富士川町高下地区へと来ていた。
「着いた…… ここがそうか。」
『富士川町青少年自然センター』立て看板は掠れているが、かろうじて読める。
ここまで深夜テンションかつ、半ばヤケクソで走ったからな…… 冷静になったら急に疲れが出てきた。
それにしても荒れに荒れている。
10年間ほど手付かずという話だったし、自由に伸びに伸びた草木とも相まって、それこそ山に戻りつつあった。
「お疲れ様でした。お父さん……」
たきなが俺を労い、温かい缶コーヒーをくれた。
「ありがとう。」
「それにしても、予想以上ですね。」
「ああ、ほぼ山だ。」
「逆に自然の力強さを感じますね。」
たきなや志摩さんと唖然とする。
「本当にキャンプ場なんて出来るんでしょうか…… 言い出しっぺは私ですが、なんだか自信がなくなってしまいました。」
とたきなが大垣さんがを見てみると、彼女は女性としての恥じらいもなく、大きなイビキをかきながら、ベンチで眠っていた。
「寝てます。」
「千明のヤツ……」
「まあ、あれだけ酔っていたんだ仕方ないよ。風邪を引くといけないし、俺が車の後部座席まで運んでおくよ。」
「お願いします。」
「千代さん?たきなさんとここを一通り見て来て良いですか?」
「良いけど…… 大丈夫? ここいら、野生動物とかいそうだけど。」
「任せて下さい、お父さん。」
娘のたきなは、どこからともなく20式小銃を取り出し、さらにリコリス時代から愛用している拳銃を専用のホルスターにしまって、左胸上部の位置に銃剣を装備する。
「うお? たきなさん、どこからそれをッ!!?」
「私、お父さんの秘書官だけではなく、警護官の仕事もしてますからね!ふん!」
鼻息荒く、たきなは自己主張していた。
そして万が一の時、戦闘の邪魔にならないように、髪はポニーテールに纏める。
「これなら安心だな。朝が近いけど、まだまだ暗いし、足元気を付けてね。」
「はい。いってきます!」
たきなは志摩さんの手をにぎると施設の探検に向かった。
「いってきまーす……」
手を振って、俺は二人を見送る。
二人って、物静かでクールなところ似てるよな。
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朝6時を回った。
富士山の山体から、次第に日が昇る。夜明けだ。
富士川町はダイヤモンド富士の名所だと、ドライブ中に大垣さんが教えてくれたな。
「ただいま、戻りました。」
探検組が戻ってきた。
「お帰り、二人とも…… それにしてもドロドロだね?」
「予想の斜め上をいくレベルで山でした。」
「たきなさんがいなかったら、私、確実に遭難してたと思います。」
「まるでジャングルですよ。お父さん……」
「ふあ~~ 良く寝た。」
大垣さんも起きたようで、車から降りるなり、自身のお腹をボリボリとかきながら、コチラにふらふらとおぼつかない足取りで合流する。
「あっちも起きたようだね。」
「ったく…… この寝坊助。千代さんにお礼言えよ。そこのベンチで眠った千明を風邪ひかないようにって、わざわざ車まで運んでくれたんだぞ。」
「そうなんッスか…… ありがとうございます……」
「まだ、寝ぼけてやがる。」
「良いよ。気にしないで…… それで?良く眠れたかな?」
「はい。 おかげさまで…… それでどうです? ここ…… ロケーションは最高でしょう?」
「確かに景色は凄いと思う。」
「正面に富士山も見えて……」
「最高のパノラマですね。でも明るくなって全容が掴めました。何ですか?ここは…… 手を付けてないにも程がありますよ。」
「確かになぁー これを手作業で整備するのは、100%無理だぞ……」
志摩さんとたきなから、それぞれツッコミを入れられる大垣さん。
「志摩さんの言うとおり、重機を逐次投入して行かないと、到底整備しきれないよ。」
四人で方向性を話し合っていると、クラクションが聞こえた。音の方を見るとアイボリー色のジムニーが止まっている。
「おーーい!」
運転席からコチラに手を振っていたのは、晴れて俺の義理の妹となったなでしこちゃんだった。
それに車から降りて来たのは、なでしこちゃんだけじゃない。俺の子供たちも一緒だ。
「パパー!」
「たきなおねえちゃーん!」
カスミとアコが俺たちの元へ駆け寄ってくる。
「ふたりともー! はしるとあぶないぞー!」
面倒見の良い長男、センリが二人を嗜めていた。
カスミとアコは年相応の反応でかわいいし、センリは良くできた自慢の息子である。
「千代さん…… あの子たちって……」
「そうだよ。俺の子供たちだ。」
「いっち!ばーん!」
カスミが俺に抱きついた。
「たきなおねえちゃん、おしごとおつかれさまー」
「ありがとう。アコ。 だけど相変わらず、甘えん坊さんね……」
「わたしがあまえんぼうなのは、おねえちゃんだけだもん!」
アコはたきなのことが大好きである。
毎回甘えられていても、まんざらでもない様子のたきなが凄く尊い。最後になでしこちゃんと手を繋いだセンリが合流する。
「千代さん。もしかしてだけど、三つ子ッスか?」
「そうだよ。三つ子。」
「スゲー!」
「それに性別違うって…… 激レアじゃんか。」
「俺と妻の桜さんが一番驚いてるけどね。」
「みんなぁー コチラのお姉さん達に元気に挨拶しましょう。集合!」
長女のたきなが右手を上げて号令をかけた。
その号令に対して反射的に三つ子たちは反応して、たきなの横に整列と右へ倣えをする。
そして、たきなは「気をつけ」という。
「おおー!」
「完璧に躾られてるじゃん。」
「集団行動が体に染み付いているずら……」
感動と感嘆な声を漏らす三人……
「はい。みんな、ちゅーもく! コチラの二人はなでしこお姉さんのマブダチです。自己紹介してください。」
「のざきカスミです。ななさいです。」
「ぼくはセンリ。おなじくななさいです。」
「アコだよ。わたしもななさい。」
「「「よろしくおねがいします!」」」
「か、かわええ~」
「分かるよ!リンちゃん!」
「たきなさん、入れて四人姉弟かー アタシ、ひとりっ子だから羨ましいッス。」
「私もひとりっ子だし、千明の気持ち分かるよ。」
その時だった。「ぐうぅぅぅーー!」と盛大にお腹の虫が鳴る。誰の虫だと思い、顔を上げて見みると、たきなが顔を赤らめて俯いていた。
「たきなおねえちゃん、おねえちゃんのおなかからへんなおとがしたよ?」
「うぅ……////」
「そろそろ帰ろうか。たきなもお腹がへってるみたいだし。」
「お父さん……ッ////」
「ねえ!リンちゃんとアキちゃんも私のウチにおいでよ! 今、お鍋の準備してるんだよ!」
なでしこちゃんはカニの爪を手で表現してチョキチョキしていた。
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富士川町の高下地区を出発して、約1時間…… 各務原家に着いた。
車を止めてゾロゾロと搭乗者が降りて、なでしこちゃんのあとに続く。
「お母さーん!お姉ちゃーん! 千代さんたち、連れて来たよー!」
桜さんの実家へ久しぶりに訪ねた俺とたきな。志摩さんや大垣さんもそうだろう。
なでしこちゃんは玄関を潜ることなく裏口の方へと回り込んでいた。
家の角を回って見れば、アウトドア用の大きなテーブルの上に、カセットコンロ、土鍋、切られた野菜を並べた皿と取皿が配膳されている。
どうやら晴天の寒空の下での鍋という、何ともマッチポンプな食べ方をするらしい。
「お帰りなさい、千代さん。たきなちゃんもお仕事お疲れ様でした。」
桜さんは俺たちを優しく出迎えてくれた。
「ただいま。」
「いえ、このくらい大丈夫です。」
「二人もいらっしゃい。久しぶりね〜」
「ど、どうも…… ご無沙汰してます。」
「お久しぶりッス!」
鍋の拵えた桜さんは、昔と変わらぬ笑顔で、志摩さんたちを暖かく出迎えてくれた。
「おぉッ?千代くん、久しぶりだな!元気にしてたかい?」
「お義父さん、お久しぶりです。まあー ボチボチとやってます。」
「ハッハッハッ!本当に久しぶりだな! 」
年を重ねても豪快なお義父さん。
「たきなちゃんも仕事頑張ってるみたいだね!」
「お父さんのためなら頑張れます。」
「そうか。ところで私のこと、『おじいちゃん』って呼ぶ気にはなったかい?」
「えーっと、それもまぁ…… ボチボチと……」
「あらあら~ かわいいわねぇ?たきなちゃん♪ じゃあ私は『おばあちゃん』と呼んでもらおうかしら?」
「うえぇぇッ!!? 静花さんまでッ!!?」
お義母さんも勝手口からヒョコっと顔を出す。
孫バカとなった桜さんのご両親は、たきなちゃんを三つ子同様に溺愛していた。
「もー お父さん、お母さん、たきなちゃんが困ってるじゃない。さてと…… そろそろ準備ができるから、みんな遠慮なくいっぱい食べてね。」
そんな気まずい空気を断つべく、桜さんが土鍋の蓋を開ければ、そこにあるのは湯気とともに広がる豊かな香りの出汁に煮られる野菜、豆腐、そして……
「「「蟹だー!」」」
「「「カニさんだー!」」」
なでしこちゃん、大垣さん、志摩さん、子供たちから歓声が上がる。
「こりゃあ、凄いなー!」
俺も大人気なく大興奮。
「凄いでしょ。お母さんが懸賞で当てたのよ。カニ10キロ…… たくさんあるからね。 みんな、気合い入れて食べなさいよ!」
桜さんが俺たちに発破をかける。
「「「はーい。」」」「「「はーい!」」」
みんなが席に座り、そして家長の修一朗さんが大号令をかけた。
「それじゃー 皆の衆、手を合わせてぇ…… いただきます!」
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
「いただきます。」
戦いの火蓋が切られる。これはお食事会の皮を被った合戦だ!
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みんな黙々とカニを食べる。
鍋の主役…… 否!骨幹部隊となるカニの戦闘力が高すぎる!特殊作戦群や俺直轄の戦略部並みの強さだ。
またカニの出汁を大いに吸った、野菜や焼き豆腐の支援砲撃は殺意の塊だった。
「うまい! うまい! うまい!……」
「ママー なんかパパが、えんばしらのひとみたいになってるー」
「フフ。そうね、アコ。 そのくらいおばあちゃんのカニは美味しいのよ。」
カニを食べ慣れてない子供たちやなでしこちゃんにも、俺や桜さんが殻を剥いて分け与える。
殻入れのデカイボールにどんどんカニの殻が積み上がっていき。
その食卓には、幸せな空間が広がっていた。
「いや、みんなむっちゃ無言やな」
ここで新たな来訪者の声に、『ハッ!』と誰もが蟹との戯れから現実へと引き戻される。
振り返れば眉毛に八重歯、そして関西弁が特徴的な女性が、俺たちのカニの食べっぷりにドン引きと呆れが混ぜこぜになった表情で立ちつくしていた。
「おおー! イヌ子ー!」
「遅れてゴメンな〜?」
「犬山さん、いつの間に!?」
「さっき着いたところや。ていうか、みんなカニさん食べんのに集中しすぎやろ……」
「アオイちゃんも久しぶりだねぃ!良かったら、アオイちゃんも一緒にカニ、どう?」
「えぇんですかね~?」
「どうぞ、どうぞ~♪」
「ほな、いただきます〜!」
こうして、また一人、カニの虜となり、魅惑のカニ世界へ旅立つ人間が増えた。
彼女も揃って無言の食卓に参列することになったのは言うまでもない。
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「めっちゃ美味しかったわ〜!」
あれからさらに食べ進め、締めの雑炊も空になるまで堪能し、満腹感に満たされた俺と娘のたきな、そして野クルメンバーはまったりとした時間を過ごしていた。
「にしても、三人とも久しぶりやねぇ! 千代さんも結婚式以来ですし……」
「仕事に子育てと多忙の結果なんだけどね。」
「たきなちゃんも元気そうで、良かったわ~♪」
「おかげさまで、楽しくやってます。」
「ねえ?アオイちゃん、今日も仕事だったの?」
「せやねぇ。最近小学校忙しくてなぁ〜、土曜日も大体出とるんよ。今日は昼までで終わったんやけどなぁ~」
近場の小学校で先生を務める犬山先生…… 美人で優しく、児童のみならず、その保護者や同僚からも人気の先生である。
ただ、ホラを吹く悪癖は残っており、それが玉に瑕らしい。
「千代さんも子育て大変そうですね。三つ子なんて……」
「まあ、確かに…… でも、たきなや桜さんがしっかりしてるから、安心して仕事に集中できるよ。」
「それで、恵那ちゃんは今日来れんの?」
「あぁー アイツは今日一日仕事らしくてよ~トリミングサロンなんて、土日がピークだもんな……」
「サービス業は土日関係ない。」
大垣さんへのメッセージには、斉藤さんから仕事で行けないという旨の報告もあり、久々に全員集合!とまではならなかったらしい。
「よし、今からたきな二等陸尉や志摩隊員と事前打ち合わせをしたプランについて、緊急の会議を行うぞ!皆の者!なでしこ隊員の部屋に集合だ!」
「おー」
「お、お〜?」
「じ、事前打ち合わせ?会議ですか?」
自室を使わせろ!と言われたなでしこちゃんは戸惑いながらも応答はするが、話が全く見えないたきなと犬山さんは瞼をシパシパさせて目を丸くする。
そんな二人の心境などつゆ知らず、我先にと突撃する大垣さんに志摩さん…… 続いてなでしこちゃん。
そして……
「本当にやるんですかッ!!?」
と少し抵抗するもたきなは大垣さんと志摩さんに半ば強制的に中へ連れていかれる。
「お父さん!助けてください!」
「言い出しっぺはたきなだ。責任は取りなさい。」
これも社会勉強だと、うんうん!と頷きながら俺はたきなに答えた。
「そんなー!」
たきなは無事に拉致られる。
しっかり大役を果たせと俺は娘を見送った。
次回に続く。
前富士川町青少年自然センターの荒れっぷりは、劇場版の5倍増しくらいに考えておいて下さい。
カニ美味しいですよね。カニアレルギーの人は………まあ、知らん。
ご感想お待ちしています。
しまりんに普通自動二輪の免許を取らせたい。
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賛成。
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反対。