天邪鬼の真意
「待ちやがれこの野郎!イザヨイを返しやがれぇ!!」
ぬりかべを背負いながら天邪鬼を追いかける。雪道や悪路にはなれている。
「待てって言われて待つ奴はいないよ!って、何で重い子を背負っているのにそんなに速く走れるんだよ!?」
「こちとら生半可な鍛え方してないんだよ、下手すれば死ぬから!!」
「君の過去に何があったのさ!訳がわからないんだけど!?」
イザヨイを奪っていった天邪鬼をぬりかべを背負いながら追いかける。少しずつだが近づいている、これなら!
「追いついた、ってあれ!?どこ行きやがった、別の妖怪じゃないか!」
「邪魔者とはありがたいね!戦いながら、僕に追いつけるかな?」
「っしゃおらあ!!」
「って、一瞬で吹き飛ばされてるとか、訳わかんないよ!?」
「あわわ……。」
そのまましばらく邪魔してくる妖怪を殴り飛ばしたり蹴り飛ばして行くと、天邪鬼が立ち止まる。
「……ふう、ここでいいかな。」
「立ち止まった……?一体何のつもりだ。」
「こいつを取り戻したいなら、かかってきなよ。もしボクに勝てたなら、連れてきた理由も教えてあげなくもないよ。山嶽ノ國らしく、力で解決しよう!」
そう言いながら、鞘から柄の後端から伸びた鎖で繋がれた二振りの剣を構えた天邪鬼。
「そういう事なら、やることは一つだけだな。守りは頼むぞ、ぬりかべ。」
「お任せください。レンキ様は私が守ります……!」
俺は音撃管を構え、ぬりかべは石の壁を呼び出す。まずは挨拶代わりに……。
「フッ!」
「甘いよ!そぉらっ!」
音撃管から水弾を撃ち出すが、簡単に回避される。そのまま俺に近付いた後、剣の片方を俺に向けて投げる。
「おっと!」
「危ないよっ!」
回転しながら俺に向かってきた剣を避けるが、剣を手元に戻した天邪鬼は、鎖部分を持ち再度俺に向かって振り下ろす。
「ヤバっ…!」
「とお、せんぼっ!」
「うわっ!?やっぱりこっちの子は硬いよね…!」
避けきれない俺の前にぬりかべが石の壁を飛ばし、天邪鬼の攻撃を受け止める。その間に俺は音叉を取り出し、二又に分かれた部分を刀…音叉剣に変形させる。今は手数を増やして当てる事を考える…!
「はっ!!」
「うっ!?なんで音叉が剣になるのさ…!」
「知るか、作った人に聞いてくれ!」
「ぐうっ!?」
左手に構えた音叉剣で天邪鬼に斬りつけ、再度音撃管を撃つ。本当に俺も音叉が剣になるの訳わからないんだよな…。
「あまりいい気にならない方がいいよ!」
「うあっ!?」
再度、鎖部分を持った天邪鬼が今度は二振りとも回転させて投げつけ、ぬりかべに当たる。
「ぬりかべ!そらっ!」
「おっと!それじゃあ当たらないよ!」
「それでいいんだよっと!」
「ううっ!?」
音叉剣を振るうが、あっけなく避けられる。それを見越して、音撃管で追撃を加える。飛んで回避した天邪鬼はそれを全て避けられず、何発か当たりながら着地する。
「結構やるじゃん。なら、全部逆さまにしてあげる!」
「……!?まずい!」
天邪鬼から発する気迫が強くなる。恐らくはイズナの狐牙嵐六連みたいなやばい攻撃…俺が油断していた時に助けられたものと同じだろう、しかもその視線がぬりかべに向けられている。
「それじゃあ一丁、行きますか!『邪鬼流・捕縛殺(じゃきりゅう・ほばくさつ)』!!)
「ぬりかべっ!!」
「えっ?…きゃあ!」
天邪鬼がぬりかべに向かって突撃していく。俺はぬりかべの元に走り、彼女を突き飛ばし、攻撃に備える。
「ボクの術中にはまったね!!」
「何っ!?うっ、ぐああっ!?」
天邪鬼に斬りつけられ、俺の体が後方に吹き飛び、地面を転がる。
「くっ、見ていて結構威力があるとは思っていたけど、ここまでとは……!?」
そう言って立ち上がった直後、体の異変に気付く。何か強い力で体が固定されたかのように、指一本動かす事ができない。
「何だ、これは……!?」
「驚いてるみたいだね。キミには呪縛への耐性が殆どないみたいだから、こんなことになるんだよ!」
再度、俺に向かって走る天邪鬼。まだ体が言うことを聞かない。このまま斬られるかと思ったその時、俺の前に石壁が飛んでくる。
「させない!」
「おっと!そう簡単にはいかないか…!」
「悪いぬりかべ、助かった…。」
「こちらこそ、ありがとうございます。私も呪縛への耐性があまり高くないので…。」
そうなると、さっきの攻撃はくらう訳にはいかないか。短期決戦で決着をつけるしかないか。幸い、呪縛の効果が無くなり、万全に動けるようになっている。
「それじゃあ、これで決めるとするか…。はあっ!」
「そんなんじゃ当たんないよ!」
音撃管を撃ちながら近づいていく。全て避けられているが、問題ない!
「そぉら!」
「残念でした!こんなの避ければ…!?」
「掛かってくれて良かったよ!!」
音叉剣を右に薙ぎ払うが、飛んで避けられる。だが、それを考えてわざと当てずに、右足に水の刃……鬼闘術・水刃脚を使用した後ろ回し蹴りを繰り出した。
「うわあっ!?」
着地した瞬間に放たれた為、満足に避ける事ができない状態で放たれた蹴りが天邪鬼の脇腹に当たり、地面を転がる。
「くそお……!?」
「…これで積みだ。それを返してもらおうか。」
立ち上がろうと天邪鬼が顔を上げた所に音叉剣を突きつけた。彼女は観念したようで、
「わかったわかった!こりゃ、ボクの負けだね。つまり君たちの勝ち!」
両手を上げて降参の意思を見せる天邪鬼。また何をするかわからないので警戒は怠らない。
「ちぇ。この楽器がなければそんなに強くないと思ったのに。案外やるね、キミ。仕方がない、これは返そう。」
「レンキ様、気をつけて下さい。敵意は感じられませんが、油断させて、また逃げるつもりかも…。」
「そんなに構えなくても、嘘じゃないよ。僕は天邪鬼だけど、ウソつきじゃないんだ。信じるかどうかは、キミ達次第だけどさ。」
……まあ、イザヨイを取っていったのはいただけないが、彼女にも色々あるみたいだからな…。
「…信じようか。」
「へえ、後悔しても知らないよ?さて、返すかどうかはお楽しみ……なんてね!はい、どうぞ。」
そう言って、天邪鬼はイザヨイを手渡してきた。確認してみた所、壊れてはいないようだ。
「あれ、普通に返してくれた?」
「そりゃそうさ。ここで逃げても、また戦えばボクの負けだし。それって、無駄な努力ってやつでしょ?世の中、どうにもならないことがある。諦めが肝心だよ。とはいえ、だ。返すときは、流石にもっと警戒されると思ったんだけどなぁ?」
「そうは言ってもな、なんか訳ありなんだろ?なら返すだろうと信じていたしな。」
「やれやれ、人間……って言っていいのかわかんないけど、みんなそんな感じなの?調子狂っちゃうよ。」
そっぽを向きながら言ってはいるが、こういうことには慣れてはいないのだろう、少しだけ頬が赤くなっていた。
「調子が狂うのはこっちです。あなたは多分、私達と敵対するつもりがないですよね。」
「そうだな、今思えば本気では戦ってはいないだろ?今は敵意もないし。攫ったのはまだわからないが…。」
「攫ったつもりはないんだけどなぁ。まあ、さっき戦って負けちゃったし、正直に白状するか。ボクはね、『夜叉ノ國で召喚された人間を連れてこい』って言われたのさ。邪魅(じゃみ)って奴に。」
「邪魅って、山嶽ノ國の妖主、邪魅様の事ですか?」
邪魅……?初めて聞く妖怪の名前だ。魔化魍の中にもそんな名前のやつはいない。
「そう。どうして邪魅がキミを必要としてるのかはわからない。ボクは命令に従っただけだから。まあ正直、命令の理由もわからないし、こっそり夜叉ノ國に入るのも大変だったし、全然乗り気じゃなかったんだけどさ。」
「…何か事情がありそうだな、その言い方だと。」
「あはは、鋭いね!確かにボクは天邪鬼だし、普通は命令に従ったりしない。けど、キミの言うとおり事情があってね。ボクの知り合いが、邪魅に捕らわれてるんだ。」
「知り合いって、あなたのお友達ですか?」
「友達とかじゃないよっ!そ、そいつは覚(さとり)っていう妖怪で、なんて言うか、腐れ縁みたいなものなんだ。」
覚……相手の考えを読む妖怪、そして魔化魍にも同じ名前と能力を持った奴がいる。当時はまだ俺は鬼にはなれなかったけど、2番目にあった魔化魍でもある。その時は裁鬼さんと轟鬼さんに助けられた。
「それが、邪魅に呼ばれたきり帰って来なくってさ、だからボク、邪魅の所に行ったんだよ、覚を返せーってね。」
「そうしたら、レンキ様を連れてくるように言われたんですか?覚さんを返す代わりに?」
「うん。覚が帰って来ないと、口喧嘩もできないし、退屈すぎる。だからボクも、仕方なく従ってるんだ。そういう訳で、ボクはキミを妖主のとこに連れていかなきゃならない。別に、信じなくても構わないけどさ。」
「う〜ん、信じられない訳じゃないんですが…。」
「その邪魅って奴が俺の力を必要としてる理由がわからないな。助けてほしいなら、滝夜叉姫に言えば良いと思うが……。」
また何か変なことに巻き込まれそうな感じがするな…。それに、ここに来てから視線とは違う何かを感じる。…嫌な感覚だが、気づかれないようにしておく。
「ごめん、そのあたりはわからない。ずいぶん切羽詰まってて、聞けなかったんだ。正直ちょっと怖かったし。」
「直接、邪魅に聞いてみるしかないか…。」
「そう、ですね……。それに、イズナちゃん達もきっと、私達を探しているはずです。妖主様なら、雲外鏡さんの分体を通じて連絡を取れますし。いずれにせよ、お屋敷から無事を報告したほうがいいのかも。」
「じゃあ、すぐに移動しよう。天邪鬼、案内頼めるか?」
「いいの……?キミ達、ボクの言うことを信じるつもり?この國でボクの言うことを信じる奴なんて、殆どいないんだよ?」
信じるも何も、この國で知っているのが彼女だけというのもあるが、やはりそこまで悪いやつには見えない。
「それでもだよ。嘘ではないのはわかるからな。」
「この國のやつらがどうかなんて、キミには関係ないって感じだね。う〜ん、調子狂うなぁ。」
「山嶽ノ國のことはよくわからないけど、友達を助けたいって気持ちはよくわかりますから。」
「だ、だから友達じゃないって!まあボクとしては、ついて来るならそれでいいんだけど。ま、気が変わらない内に出発しよっか。邪魅の屋敷の近くに、小さな村がある。まずはそこへ向かおう。」
「はい、お願いします。」
そうして俺たちは、天邪鬼の案内により村に向かって行く。……それにしても、この変な感じは一体何なのだろうか?
彼らの影で…
「この人間……いや、鬼が救い主を騙っているとは関心しませんわね。必ずあたくしが引き裂き、炎でもって煉獄へ送ってさしあげましょう。救い主を騙った罪を償わせ、存分に苦しませてあげないと。ふふ、うふふっ……。」
「……なんか寒気が…。」
眷属を利用して監視していた人物と戀鬼