「あれ、なんでこんな所に鏡があるんだ…?買った覚えがないし、香須実達が持ってきたのか…?」
「あれ、おやっさんどうしたの?…って、何そのでかい鏡。」
「おお、ヒビキ君。さぁて、私もわからなくて…!?」
「ふう、やっとつながった。ここがレンキの言っていたたちばなかしら?」
「鏡から人が……!?」
「な、レンキだって!?君、レンキ君が何処にいるのか知っているのか!」
「ええ、少し待って頂戴ね。姫様も読んでくるから。」
ヒビキ、おやっさんと雲外鏡
「さっきの村の事も心配ですが、邪魅様に話をきくのが先ですね。天邪鬼さん、案内はお願いします。」
「ボクに任せちゃっていいの?東西南北、全部反対かもよ。な〜んて、今はそんな余裕ないし、特別に正しい道をご案内するよ。ただし、邪魔者の相手は頼むよ?」
「そもそもお前しか知らないだろうに……ってお前も戦え。」
仲間がいない事に加えて武器も殆ど置いて来る事になったのは何も言わなかったお前が悪いだろうに、そう思いながら天邪鬼の額にデコピンした。
「イテッ!もう、冗談だって。」
「まあ、さっきみたいにまた邪魔されるのは厄介だな……。気をつけて進むか。」
そうして天邪鬼に案内されながら進んで行く。途中、妖怪にも襲われたが……。
「そら、よっ!」
「クソっ、なんて力だ、霊圧を感じないのに!」
「それじゃあオサラバ!!」
「バイバ〜イ!」
俺が剣を振り回して積もった雪を煙幕代わりにして、そのまま進むのが殆ど。後は怨霊を清めながら向かっていく。
「全く、血の気が多い奴らばかりだな…。」
「結構、進んで来ましたね。一人でレンキ様を守るのは緊張するけど、何とか、守れてるのかな……。」
「いつもは、他にもたくさんいるわけ?ああ、夜叉ノ國で見かけたあいつらか。」
「はい、いつも一緒だったから、慣れなくて……。」
そう話しながら再度進もうとしたところで、地面が揺れ始める。地震かと一瞬思ったが、違う、これは…!
「うわっ…!?」
「わっ、掴まってください!」
そう言われ、すぐにぬりかべに掴まる。少しして揺れは収まり、天邪鬼の無事を確認する。
「大丈夫か?それにしても、さっきの揺れは一体…?」
「まあね。それと、揺れの原因は向こうだね。また煙が上がってる。今度はふもとの村が襲われたんだ。」
「また、朱雀の炎で……。」
くそったれ、今すぐにでも向かいたいが、相当な距離がある。今から行っても朱雀はいないだろう。
「不幸中の幸いかな。あの辺りは、狒狒の縄張りだ。村の奴を逃す位はしてる筈。ボク達は先を急ごう。朱雀が、邪魅の屋敷を襲う前に!」
そう言われ、俺達は先を急ぐ。暫く走ると、夜叉ノ國のものと同じ位の大きさの屋敷が見えてきた。入る前に顔だけ元の姿に戻しておく。
「やっぱりでかいな…。」
「これぐらい大きくないと妖主として示しがつかないからね。さぁさぁいらっしゃいませ、また来てどうも。ここが邪魅のお屋敷だよ。」
「ここが?誰もいないみたいです。」
ぬりかべの言うとおり、誰もこの場にいない。中は装飾が少しあるだけで簡素なものだった。奥に豪華な椅子とカーペットがあるのみ。天井は高いようだ。
「邪魅!いるんだろ!お望み通りの人間……でいいのかな?とりあえず連れてきたよ!」
「おい、普通に俺は人間だぞ…何だ?黒い蝶が集まって……!?」
「遅かったのね、天邪鬼。待ちくたびれてしまうところだったわ。」
「ええ、ずいぶん遅いわ。とっても待ったのよ、私達。」
外で見た黒い蝶が集まったと思ったらそれは2つの人形を取り、そこからとてもよく似た女性達が現れる。二人共銀髪に赤い目をしているが、はじめに話しかけた女性は白い服に長髪、もう一人は赤い服に短髪と言った容姿だ。
「えっ……。双子…なのか?」
「そう。ごきげんよう邪魅、それから魔魅。いや……ご機嫌じゃないか、遅くなってごめんよ。ボクの隣にいるのがレンキ。例の人間で、音撃を使う鬼だ。その隣は、夜叉ノ國からついてきたぬりかべ。人間以外も連れてきたのは予想外だけど、ちょっとばかし色々有ってね。」
「事情や言い訳は必要ないわ。成果さえ示してくれればいいもの。」
「ええ、結構よ。姉さまがいらないものは、魔魅もいらないわ。」
うわ、辛辣。……とは、言えないな。冷たくて、なにか絡みついてくるような感覚がある。
「さて、あなたが人間界から呼ばれた者ね。会えて嬉しいわ。とっても……。」
「……。」
「ようこそ、山獄ノ國へ。到着を待っていたのよ。あなたは、この場所を守る為に必要な存在なのだから。それでは……。」
少しずつ近づいてくる邪魅だが、彼女の言葉からは友好的な感じは微塵も感じない。腰に手を当てるふりをしながら音撃管に手を伸ばそうとしたその時。
「姉さま。それ以上は、駄目。」
「なっ……!?」
先程まで邪魅の後ろにいた魔魅が、すぐ近くにいた。一体、何が起きた…!?
「魔魅、いい子だから、ね?」
「だけど、この鬼に近付きすぎなの。魔魅は、それが嫌。」
(どんだけシスコンなんだよこの子は!?しかも何か俺を見る視線が怖いし!)
「あのっ、レンキ様に危害を加える事はおやめくださいっ。この方は、夜叉ノ國の客人でもあるんですっ。」
「ふふっ、失礼。ほら魔魅、機嫌を直して頂戴。姉様は大丈夫だから、奥で遊んでおきなさい。」
邪魅にそう言われ、渋々といった感じで離れて行く魔魅だが、未だに俺を見る視線が怖い。
「……わかったわ。でも、誰であっても姉さまに近づくのは許さないの。特に、そこの鬼。」
「わかりました絶対に近づきません!!」
「……わかったのなら、それでいいの。では、ごきげんよう。」
「はい、お気をつけて!」
魔魅の視線につい縮こまりながら答える。それに満足したのか、またどこかに消えてしまった。
「キミがそうなるのもわかるよ…。あんなに睨まなくても怖いなあ、もう。」
「あの、邪魅様。恐れながら申し上げます。この山獄ノ國には、安倍晴明の手が伸びております。かの式神、朱雀に対抗するため……。」
「この者の力が必要なのでしょう?わかっているわ。その為に、私の元に『届けさせた』のだから……。」
「えっ?」
「チィッ!!」
邪魅の言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が的中した。音撃管を持ち、足元を撃って煙幕替わりにする。
「キミ、何を…!?」
「逃げるぞ!彼女は俺を丁重に扱う気はないみたいだしな!ぬりかべも速く!」
「は、はいっ!」
即座に顔を鬼の状態に戻し、ぬりかべを背負って走る。そして邪魅の屋敷を飛び出した。
「……やれやれ、油断したわ。でも、逃げても無駄よ。覚(さとり)、そちらにいるわね?天邪鬼達を止めなさい。」
「……はい、邪魅様。仰せのままに。」