「これでよし…っと。」
色々な音撃の装備用に制作していた装備品の中から、イザヨイが入りそうなものを見つけて、左腰に装着する。
「よし、動いても落ちる気配はないな。」
「レンキ様、終わりましたか?」
「ああ、すぐ行く!」
「嘘……、嘘だよ……。あなたが『暴走』するなんて!嘘だと言ってよ!!」
「……無理だ。」
「おい、クソ狐。無理ってどういう事だ……?暴走とか言っていたのは何だ!?説明しろ!」
異様な姿になったぬりかべに対して叫ぶイヅナ。まだ状況が飲み込めず、思わずクダに聞いた。
「誰がクソ狐だ!?巫山戯ている場合じゃねえ、ぬりかべは力を使いすぎたんだ!力を使いすぎた妖怪は心が砕けて、止める方法は殺すしかねぇんだよ!!」
………!!それって、まるで鬼が力に飲まれて変貌する、『牛鬼』のようになるって事なのか…!?
「とにかく今は、彼女を止めないと…!」
右腰の音撃管『時雨』を取り出して、構えた。一番自分が馴染んでいる音撃なら、彼女を戻せるかもしれない…!
「ぬりかべ……、私を守るため、心まで費やしてくれた……。せめて、私の手で……!」
イヅナは止めるのではなく、討ち取る事を考えたようだ。絶対にそんな事はさせる訳にはいかない。あそこまで狼狽しているのは、ぬりかべとイヅナは友達だったのだろう。
「清める、絶対に……!」
「邪魔……!」
考えを巡らせている内に、ぬりかべの周辺を漂っていた2つの石の壁が俺たち目掛けて飛んできた。
「おっと!?」「クッ!」
俺達は何とかそれを避ける。その後、イヅナはぬりかべに向かって走り出し、俺は音撃管をぬりかべに向け、引き金を何度か引いた。圧縮された水の弾がぬりかべに向かって放たれる。
「そらよっ!」
「やああっ!」
「うわぁっ!?」
何発かはぬりかべにあたり、間髪入れず、イヅナの振った太刀が命中する。だが、あまり効いている様子がない。
「効いてない…!?なんで……!」
「ぬりかべは守ることに長けた妖怪です!生半可な攻撃は効きません!」
「先に言ってくれそんな大事なことは!!」
思わず叫ぶが、今度は俺に向かって壁が2つとも襲いかかろうとしていた。
「通さない…!」
「うわっと!ヤバ、があっ!?」
一つは避けられたのだが、その際に生まれた隙を逃さず、もう一つが俺の胴体に命中し、ふっ飛ばされ、思わず倒れ込んだ。なんつー衝撃だ…!
「レンキ様!!くっ!」
イヅナが俺に近寄ろうとしたものの、石の壁が邪魔をする。こうなったら…!俺にまた向かってくる石の壁を避けながら、音撃管のバルブを調整し、鬼石を撃ち出せる状態にする。
「当たってくれよ…!」
祈りながら撃ち出した鬼石は、寸分違わずぬりかべに当たった。確認するや否や、俺は音撃管の銃口の斜め下にあるマウスピースと、右腰の音撃鳴『梅雨』を装着し、音撃状態に変えた。
すぐに吹けるようにマウスピース部分を口元に寄せる。
「吹き鳴らせ!音撃射・雨過天晴(うかてんせい)!!」
音撃管をトランペットのように吹き鳴らし、ぬりかべに清めの音が流れていく。
「あああ……!!」
ぬりかべから、嫌な感覚が抜けていく。これなら何とかなる筈…!?
「ああああああ!!」
「ぐはあっ!?」
落ち着いたと思った嫌な感覚が更に大きくなり、それが俺にむけて放たれ、受け身も取れずに吹き飛ばされる。身体を強く打ち付けたからか、すぐに起き上がれなかった。ぬりかべは清めの音が効いているからか、頭を抑えその場から動かなかった。
「レンキ様、ここは私に任せて下さい。彼女は私が…!」
イヅナがぬりかべに向かって走る。彼女を止めようとしたが、すでにぬりかべの目の前まで来ていた。
「断ち切る…!はああああっ!!」
両手に持った太刀を回転させた後、目にも見えない速さで無数の斬撃を放つ。
「狐牙嵐(こがらし)…六連!!」
「ああっ…!」
イヅナの奥義……狐牙嵐六連を受けたぬりかべはその場で崩れ落ちた。
「イ、ヅ、ナ、ちゃん……。」
「ぬりかべ……!」
倒れたぬりかべの前に駆け寄ったイヅナ。俺も遅れてぬりかべに駆け寄る。
「……無理だ。」
「そんな……。ごめんね……!ごめんね…ぬりかべ…。わたし……大事な友達を…こんなっ……。」
「でもな、こうでもしねェとお前がやられてたんだ……。」
泣いているイヅナに諭すように話すクダ。俺のせいだ。俺が嫌な感覚が抜けていた時に一気に終わらせていれば……!!
そう考えていた時、腰に新しく装着したイザヨイが輝き出した。
何かを訴えるかのように。
(お前の力を貸してくれ、イザヨイ!!)
イザヨイを信じて吹き始める。
一吹き、陰が失せ。
一吹き、陽が生じ。
倒れたぬりかべの瞳に、心が、光が満ちてゆく。
そして、変化が起きた。倒れたぬりかべがゆっくりと起き始める。
「あ……ああ、あ……。」
「ぬりかべっ!」
座り込んだぬりかべに泣きながらイヅナが泣きながら言った。
「あ、れ……?私、何を……。イヅナちゃん……、泣いてる、よ…?」
「マジかよ……ありえねェだろ、そりゃ……。」
(ありがとう…イザヨイ。お前のおかげで、最悪の事態を避けられたんだ。)
信じられないといった感じでクダが言った。俺はイザヨイに目を移し、礼を心の中で言っておく。
「ぬりかべ……あなたなの…?私が……わかるの?」
「……どうした、の?イヅナちゃんは……イヅナちゃんだよ?」
「ああ……ぬりかべ…!」
感極まった感じで、イヅナが凄い勢いでぬりかべに抱きついた。
「あわわっ!?い、痛いよ……イヅナちゃん。」
「あなたは…あなたは暴走していたんだよ…?」
「えっ!?」
「でも、もう平気だから…!救い主様が助けてくれたから!レンキ様!なんとお礼を言えばいいか…。」
おっと、俺に話が向いてきたみたいだ。大切な人を失う奴を見たくなかっただけで、礼を言わなくてもいいんだがな…。
「この方が…私を……暴走から救ってくれた……。」
「心から感謝いたします。ありがとうございます……!この御恩…。決して、決して忘れません!!」
「俺は何もしてないぞ?イザヨイを使ったのも一か八かだったからな。まぁ…有り難くもらっておく。」
すると、何かを思い出したかのように、クダがイヅナに話しかけた。
「感謝もいいけどよォ、そろそろ本題を話しちゃあどうだ?」
「あっ、そうだね。こほん、失礼いたしました。」
イズナの目が真剣なものに変わる。
「改めて申し上げます。この幻妖界は今、危機に瀕しております。あなたを救い主としてお招きしたのは、我が主人『滝夜叉姫』の意向によるもの。まずは私と共に主人の元へおいで下さいませ。そこで仔細を聞き、その上で、ご判断頂きたく存じます!」
……滝夜叉姫?妖怪じゃなくて、妖術師だったはずだが…。
「速くして、子泣き。」
「速くしてって、お前がいたずらするから遅れてるんだろう!」
「お前の反応が面白いのが悪い。」
「おぎゃああああ!!」