テリーアの影   作:やまもとやま

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6、オーハへの帰還

 峠を越えた先に広がる都市はセレクマ王国の首都「レパーラ都」とである。

 オーハの厳しい侵攻により陥落。いまはオーハの植民地として正式に認められた。

 

 皮肉なことに、オーハ侵攻後のほうがレパーラ都の失業率や生活水準は改善していた。

 レパーラは海辺から中陸のほうへと都市を伸ばしている。

 

 海沿いにはレパーラ港があり、数多くの魔導船が行きかっている。

 オーハ侵攻の際に封鎖されたが、すぐに再開している。

 主に帝国オーハ、タイダラス王国、聖域都市ガシャクラタン、ダナン王国と連絡している。

 

 オーハ侵攻後、レパーラ港の貿易額が2倍になったと言われている。

 侵攻にあたり、オーハは貿易の規制緩和をちらつかせており、こうした経済的攻撃と相まって、レパーラ都は陥落することになった。

 

 民の願望はシンプルである。セレクマへの愛国心など添え物に過ぎず、願望のメインは常に豊かな暮らしだった。

 民意は豊かさに流れたようであった。

 

 オーハの戦争のやり口はいずれも同じであり、まず経済的に締め上げて、先住民の結束力を弱め、経済的豊かさをちらつかせて懐柔させ、残りの氾濫因子を軍事力を持って壊滅させる。

 この単純なやり口はむこう数百年以上も通用している。

 そんなオーハが侵略をあきらめた国もある。

 

 聖域都市ガシャクラタンの国民はてこでも動かない愛国心を持っていた。

 25年前、オーハはかなりの資金をつぎ込んで、ガシャクラタンの侵略を試みたが1年後に撤退を決めた。

 費用に見合わない侵攻であったこと、オーハの政治紛争が重なったことなど色々な要因があるにせよ、ガシャクラタンはオーハが侵攻できたなかった唯一の国となった。

 

 このことから、オーハの弱点は結束力であるとわかったが、後の国家がガシャクラタンから学べなかったのは、ひとえに結束力には民族一人一人の愛国心が試されていたからに他ならなかった。

 

 隙あらば国民から搾取、己の利益のために民を犠牲にする政治。

 このような腐敗政治が続いたセレクマの国民は1枚の札に買収されるほど、愛国心を失っていた。

 

 セレクマの政治腐敗が侵攻を簡単に成功させた。悲しい現実ではあるが、アルマらにとっては幸いなことだった。

 もし、セレクマが全力で抵抗してきたならば、オーハの兵士は2倍以上命を失っていたことだろう。

 アルマも生き残れなかったかもしれない。

 

 レパーラの港を内陸のほうに進むと、オーハの国境が近づいてきた。

 石垣に多くの屋台が並んでいた。

 

 オーハがレパーラ併合を記念して、大判振る舞いをしていた。

 莫大な経済支援を受けて、オーハでくすぶっていた小さな商業関係者がレパーラで一花咲かせようとしていた。

 

 国境関所には大きなゲートが設けられている。

 大男たちが巨大な滑車を回して、門の開閉をしていた。

 

 アルマらを乗せた魔動機は門を抜けた。

 門の先は帝国オーハである。

 

 ようやく故郷に戻って来たが、首都オーハまではここからまだ何時間もかかる。

 魔動機は休憩所前で停車した。

 このあたりは多くの魔動機が音を立てながら移動している。

 

 軍の持つ魔動機はだいたい4足歩行だが、商業団体が保有する魔動機は車輪で移動するものだ。

 荷物を運ぶ用途のためである。

 

 しばしの憩いの時、アルマは近くをぶらぶらした。

 オーハ南西の都「シンシル」は国境を管理しているので、首都オーハに次ぐ人口密度を誇っている。

 やや高い位置にあり、監視塔があちこちにそびえている。

 斜面にはジャガイモ畑が並んでいて、地元の農家がせっせと作業をしていた。

 

 風が北のほうから吹いている。

 サンスーン王国から吹き付けてくる北風である。ブリザードから始まり、オーハの中心地で暖められ、このあたりに到達するころには、心地よいそよ風になっていた。

 黒ずきんをかぶった者がたびたび見られるが、彼らはシンシルの魔道士だ。

 シンシルはオーハを代表する暗黒魔道士シンシルが由来になっている。シンシルは黒ずきんをかぶっていたということで、魔道士の正装に採用されていた。

 アルマは首都オーハ出身なので、暗黒騎士オーハの正装でもあった黒を基調とした制服を身に着けていた。

 

 帝国オーハにとってみれば、今回の戦争はシンシルを経由することができたのが大きかった。

 オーハから陸続きであるセレクマを安定して攻めるにはシンシルは欠かせなかった。

 

 オーハは次、タイダラス王国の侵攻を画策していたが、海を連絡しているのでセレクマ侵攻のようにはいかないだろう。

 

 ◇◇◇

 

 シンシルからはるばる、魔動機はようやく首都オーハに戻って来た。

 首都オーハは帝国最大の都ということもあり発展している。

 

 郊外のあたりでも、大きな建物が並んでいた。

 あちこちに大きな鐘が見られる。それはオーハを象徴するものでもあった。

 

 魔動機はオーハ郊外の基地の前に停車した。

 幾人かの兵士が迎えに出て来た。

 

 アルマはビスマルクに続いて魔動機を降りた。

 拍手で迎えられた。

 

「英雄エーナクライス部隊で帰還である。各自、整列、そして祝福を」

 

 兵士らは盛大に拍手をした。

 しかし、エーナクライス部隊は結局テリーアのギルドを攻撃しなかった。

 英雄というのは偽りの称号だった。

 今回の戦争の立役者はレパーラ都を陥落させた「アールサイズ部隊」だろう。

 アールサイズ部隊はレパーラに今も残っている。

 

 エーナクライス部隊はレパーラを継いでテリーアに向かったが、ギルドとの本格的な交戦はないままだった。

 そのため、この拍手はどことなく皮肉なものに聞かれた。

 

 ビスマルクは基地の司令部に顔を出した。アルマらは一時待機となった。下っ端の兵士はこうして時を待つのが仕事だった。

 この後、王室に戻り、皇帝に戦果を報告することになる。

 そのあたりは少し忙しくなるかもしれない。

 

 部隊再編が行われ、訓練も始まるだろう。タイダラス王国に派遣されることにもなるかもしれない。

 タイダラスに送られたなら、今度こそ生きて帰れないだろうとアルマは考えていた。

 

 挨拶が終わると、エーナクライス部隊は王室へと帰還した。

 王軍が集う広間があり、そこに魔動機は入って行った。

 

 ものすごい数の兵士と魔動機でにぎわっていた。

 魔動機を出ると機械音と兵士らの駄弁りで、何も聞こえなくなった。

 

 そんな中、ビスマルクが大きな声で言った。

 

「皇帝のもとに向かう。誰か一人ついて来い」

 

 言われて兵士らは顔を見合わせた。誰も行きたがらなかった。皇帝に会いたい者など誰もいないということでもあった。

 

「アルマでいい。来い」

「はい」

 

 ノーとは言えないアルマが嫌な仕事に参加することになった。

 

 王軍の広間を抜けると、300段で構成された大きな階段がある。それを昇って終わりかと思うと、追加で450段の階段があるという段差地獄の頂点に王室があった。

 

 自らの足で上り詰めると、王室前。そこでは身分がチェックされる。

 兵士番号を示し、書類手続きをすること5分、ようやく皇帝との面会となった。

 

 帝国オーハを継承した79代皇帝「オーハ」は噴水が上がる花園にいた。

 オーハは35歳とまだ若い女性である。

 

 父親が67歳で亡くなり、その後、後継ぎの兄妹3人のいずれかから皇帝が選ばれることになるのだが、長男は数学者になっており、国政に関与しないと宣言して王室からも離れていた。

 次男はコックになる夢を持っており、ガシャクラタンに修行の道に出てしまった。

 三女だけが残った形で、三女はハープ奏者を志していたが、皇位を継承することのできる唯一の存在だったので、そのまま皇帝として即位した。

 皇帝のかたわれでハープ奏者を務めるという異端の肩書きになっていた。

 

 皇帝オーハは侵攻を続ける帝国オーハの長とは思えないほど、静寂な雰囲気に包まれていた。

 ビスマルクのほうが皇帝の風格があるように見えたが、跪くのはビスマルクのほうだった。アルマは付き人の所作でビスマルクの後ろに控えた。

 オーハの周囲には7人の憲兵。そのうち一人は「究極魔道士、エバルンテス」である。

 エバルンテスはオーハ最大の魔道士として知られている。年齢は31歳である。

 背は165センチしかない。小柄でおとなしそうな雰囲気のする男だが、恐るべき魔力を秘めている。メガネをかけているので、よりおとなしそうに見えた。

 男性から最高魔道士が現れるのは珍しいことだった。憲兵7人のうち5人が女性であるように、一般に女性のほうが魔力が高い傾向にあった。

 

「エーナクライス隊長ビスマルク、報告に上がりました」

「受けましょう」

 

 オーハは静かに立ち上がった。

 ここにいるのはすべて軍関係者ばかりだが、雰囲気的には軍事関係をまったく感じさせなかった。

 

 ビスマルクはテリーアから帰還したことを伝えた。

 わざわざ伝えなくても、皇帝の命令で帰還したのだから、当然オーハは知っている事実だった。

 

 報告が終わると、オーハは命じた。

 

「近日中の新たな任務をお伝えすることになるでしょう。それまで待機を命じます」

「承りました」

 

 特に何もない報告だった。それでも、皇帝の前に出ることは緊張感を伴うものであったから、アルマは精神的に疲れを感じた。

 

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