クソ花との会話も終えて私達は外に出た。寒い、雪も積もっている程に寒い。Friskが茂みを調べると隠しカメラがあった。驚きながら報告してくる彼にほーん、と言いながらカメラを見る。
「Frisk、ちょっと待ってて。」
「?うん。」
「取って…よいしょ。」
「!?何してるの。」
茂みからカメラを取り出し地面に投げつける。ガシャーン、と派手な音がしてカメラは壊れた。突然の行動にFriskがビビりながら聞く。
「誰かに見られるってあんまり好きじゃないんだよな。」
「それで…でも、やりすぎじゃない?」
「そうか?」
いや、でもまぁ…と壊してから後悔する。さすがにこれはやりすぎ?と首を傾げて茂みに隠した。ごめんなさい、持ち主の方。雪の中を手を繋いで進む。
バキ、と鳴る音。
「ん?」
「……なんか、いる。」
先程踏んでしまった重い枝。それがバラバラに砕けていた。私達よりも重い何かが後ろにいると、汗が頬を流れる。この世界は殺るか殺られるか。その言葉が頭によぎって緊張からか私とFriskは意識せずとも手を強く握っていた。
「!誰だ。」
「…見えたの?」
少し、と言いながらFriskを守るように後ろを見やる。ずんぐりとした黒い何かがあとをつけて来ている、と不意にちらっと少しだけ。なんで後ろが見えたのか、そんなの私も知らんがぞわりとした気配に振り返ったらいたんだ。
もう少し歩く。橋、その1歩手前。何かが本当に近いところにいると止まる。
「おい、ニンゲン。」
「「!!」」
「はじめてあうのに挨拶もなしか?こっちを向いて握手しろ。」
低い、低い声。振り返りたくないと頭に警告が鳴り始める。敵なら、早く逃げなければと頭は向けずに目だけでFriskを見る。Friskと私の目が合う。彼の目に、1つの行動が浮かんでいた。
ゆっくりと私達は振り返る。相手の顔は見ないように、私は上を向いて。恐ろしい何かか、死亡フラグなんてここにあったかと思いながらFriskが手を握るのをチラチラと見た。
ぶぅぅぅぅぅぅ、とだらしない音が大きく響いた。
「………」
「…」
「はは、引っかかったな。手にブーブークッションを仕掛けといたんだ。」
「んフッ。」
「Frisk?」
吹き出すFrisk。面白さがイマイチ伝わってこない。プルプルと震えながら笑いを堪えているような感じのFriskにえー…と思いながらもん、と突き出した手を私はブーブークッションのないと思われる方の手を握る。
ぶぅぅぅ、とまた抜ける音。両手につけていたのかよと思いながらまた笑いを堪えるFriskを一瞥してそのモンスターを見た。骸骨、ブカブカのパーカー。気だるい雰囲気が伝わってくるこいつは。
「それはそうと、アンタらニンゲンだろ?ははは、ウケるな。」
「い、いやウケはしない。」
「オイラはサンズ。見ての通り、スケルトンさ。」
ニンゲンが来ないかここで見張ってるんだ。と言いながら我々の事をまじまじと見ている。そういやサンズはセーブとか周回とかの事知ってるんだっけか。ということは警戒されるのだろうか私は。ここがどういうところかまだ把握出来ていないのもあって消えかけた不安が違う不安に置き換わった。
「I・o。ぼくはランプに隠れるから小屋に隠れて。」
「ん、分かった。」
指示通りと言うべきか、Friskの横から見た身体にピッタリと当てはまるランプにサンズがいつもいたであろう見張り小屋。何かの強烈な臭いに耐えながら私は体を隠した。なんだ、この臭い。ジャンクフードとか色んなのが混ざっていてちょっと頭が痛くなる。
「よぉ、パピルス。」
「よぅ!…ではぬぁぁい!パズルを調整しておくようにと………」
会話が聞こえて少しサンズのいる方を覗き込む。サンズよりも高い背のスケルトン…パピルス。唯一殺そうとしてこないモンスターでサンズの弟。優しくてアンダインのようなヒーローに憧れている、だっけか。
デートイベがある事は知っている。
「…行ったか?」
「む!今何か小屋から聞こえた気がしたぞ!」
「!」
やばい。
普通に声を出してしまった。Friskが驚いてこっちを向いているがそれどころじゃない。サンズも見ている。
「…あー、猫かなんかいたんじゃないか?」
「………にゃぁ〜」
やむを得ない猫のマネ。小さい声でなるべくそう聞こえるように。変な猫だな!と言いながらもパピルスはサンズを叱りつけながら去っていった。
危ない、危機一髪。
Friskがぱたぱたと近づいてきて小屋から出ようとした私の脛を蹴った。
「いった〜…!」
「何やってるのバレそうだったよ!」
「へへっ…まぁ、何とかなったし大丈夫さ。」
「でもさぁ…もう、反省してよ、ね!」
「痛ッ!」
2度蹴られる。子供の力と言えど痛いものは痛い。脛を押さえながら私を無視してFriskはサンズに話しかけていた。パピルスについて、らしいがそこら辺の会話を耳にするよりも私は考え事をしていた。サンズについて。彼の行動について。
*
割愛。パピルスとのパズル勝負は少し長すぎる時間だったので少し端折らせてもらおう。私はほぼ何もしていなかったがそんな私を見たパピルスが「ちょっとおバカなニンゲン」と言ってきた事が1番に傷ついた。Friskの方が子供なのにとサンズに質問する姿は弟らしく無邪気だったがその無邪気さが余計にわたしの心に傷を負わせた。途中あったパスタは固まっていて食べれそうになかった。
そして今現在。
パピルスが迷いに迷って橋の罠を止めて私達を通した時。サンズがふと私に話しかけてきた。
「あ、ちょっと待ってくれ。そっちのでかいのと話がしたいんだ。二人きりでな。」
「?私か。」
「行ってきていいよ。」
「分かった。Friskも先に進んでいていいぞ、後で追いつくから。」
パピルス戦、というやつは彼に任せておこう。少なくともそれで彼が死ぬ事がないという情報は知っているし回避能力も見ている限り高いから大丈夫だと思っての発言だ。うん、と彼は言いながら街の中へと入って行った。
さて、とサンズを見る。口元の笑みを信用してはならないと私は彼の纏う雰囲気が変わったのを肌で感じた。
「じゃ、行こうか。オイラの魔法はちょっと特殊だから手を繋いでくれないか?」
「構わないよ、はい。」
「よし、じゃあ…」
ブカブカの手袋を握る。そのままぐら、と身体が揺れると同時に風景が変わった。最初に来た小屋とランプの場所。なんの気配もなく変わりなく雪がはらはらと降っていた。
「さて…回りくどいのは苦手だから率直に聞くぜ。
「…その質問に答えたら私の質問にも答えてくれるか?」
「さぁ、どうかな。」
「答えないという選択肢は無さそうだ。」
いつの間にか刺さっている青い骨。画面の切り換えなんてない。ソウルではなくちゃんと身体を、右の肺を貫いている。青は"動かない"方がいいと彼自身が言っていた。少しでも動くと私は致命傷だろう。
「君は転生を信じるか?もし、その現象が起きて私のような女が来るなんてのをまともに信じてくれるか?」
「はっ、成程。転生、そんなものがないとは言い切れないな。」
「そうだな。私は転生者だ。転生なんてするもんじゃないよ本当に。」
「……オイラ達に危害を加えに来た訳じゃないんだよな?」
「勿論。Friskを守ることだけを考えて行動している。」
「ならいいや、攻撃してすまないな。オイラもボーンとしていられないんだ、今回に関しては。」
骨だけに。ツクテーン。
そんなSE音をはぁ、と聞き流しながら骨が抜かれた身体を見て安堵し、言葉を思い返す。今回?今回と言ったかこいつは。
「質問に答えてくれるか?」
「もちろん。」
「この世界、何度周回している。」
「……」
じと、と目が合う。なんで知っているという顔だ。このままだと攻撃されてしまうんじゃないかと弁解する。
「すまない、その…元の世界じゃ君たちは有名でね。それも"何度も繰り返すことで味の出るゲーム"なんだ。私はそれをした事がないから分からないがまぁ所謂プレイヤーみたいなものだと思って欲しい。」
「ほう…ゲーム、か。確かにそうだな。この世界はゲームのようだ。セーブやロードとか…リセットも。」
「私は今までにいなかったと推定するよ。だとしたら"私"がこの世界に転生した事で今まで変わりなかったストーリーが何か変わるかもと思っている。だろう?」
「アンタも中々考えるな、おバカなニンゲンなのに。」
「バカ言うな。」
「……もう、数えるのもやめたよ。」
諦めが覆い尽くされていた。その言葉を聞いて息を呑む。そうか、そんなに酷いものになっていたのかと思いながらも疑問に思う。Friskは、なんだか覚えてないような感じだったが。
「アイツは前のデータを忘れた。もう繰り返したくないと叫んでいたのをオイラは昨日のように覚えているけどな。その内精神が、ソウルが覚える事を拒んでいた。オイラはずっと覚えている。」
「パピルスを殺された事を恨んでいるのか?」
「まぁそんなところだ。なぁ、アンタにあのリセットを止める事は可能か?」
「無理だね。」
今の私にそんな力はない。セーブがあるならリセットもあると予測するがどう見えないものに抗えと言うのだろうか。サンズが空を見上げる。空、というか上というか。この地下世界に空はない。
「オイラ達を翻弄するプレイヤーは色んな嗜好を持っていてな。殺したり、生かしたり。オイラも次はどうするかなんて知らんがアンタが出てきて大層面白がっているだろう。」
「…完全なるリアルではないのか。」
「へへ、オイラが知っている情報全てを共有しよう。アンタとはいいお友達になれそうだ。」
「そうか?私、ジョークには厳しいんだ。」
「名前はI・o、だっけか。」
「あぁ、こちらこそ異物同士よろしく頼むよ。」
Undertaleにおいての最弱という異物と、バグのように舞い込んだ私という異物。変わることはないと思うがきっとこの先ラクになるだろうと思いもう一度差し出された手を握った。
ぶぅぅぅう、と抜けた音。一際寒い空気になったと、私はため息をつく。
「………お前さぁ。」
「はっはっは、また引っかかったな。」