目が、覚める。痛みで一部が火傷をしたかのように熱い。起き上がろうとも思わない。そうだ、Frisk。Friskは大丈夫だろうか。と、寝ながらも視線だけで見渡す。いない、どこにと金色の花の上にも水の中にも気配がない。どうしよう、あの時に手を離さなければなんて後悔する。
「よ、いしょ……痛いな。」
ズキズキ、肩と腹を同時におさえるなんて事はせずに腹だけおさえて起き上がる。私は金色の花の上には落ちていないので全身をもろに打ったらしくダメージが大きかった。シングルバビコを食べて回復するも全快という訳にはいかず私は壁を支えに進んで行った。
誰もいない、どこかへ。
ゴミの山が多く並んでいる。壊れた自転車、意味の無い雑誌…雑誌にこの世界の事は書いているのだろうか。一つ取ってページをめくる。……知らない人や物の名前ばかりだ。あまり当てにならないと思い捨てる。その先に一つ、何かがあるのを手に取る。
「これは、使えるな。」
釘バット。手袋だけでは少し不安になると思っていた頃なのでそれを軽く振り回しながら次へと進む。サンズがマネキンとも戦うと言っていたがマネキンがいない。Friskが既に戦闘を終えたのだろう。
そうだ、と思いついたように鞄から本を出し開く。
「ふん、またか。」
「またかって…本の中の居心地はどうだ?」
「全くもってつまらない。」
Charaが私を見下ろすように呟く。何も無い白い空間に閉じ込められるのは人間の彼女には中々に暇なものだろうと同意する。しかし、と言葉は繋がれる。
「どうやら望んだものが空間内に出てくる仕組みがあるらしい。例えば、チョコレートが欲しいと言うと。」
「うわ、何その機能。」
「単純な物なら設置も可能だ。私好みに改装している。」
「へぇ…前はそんなんなかったけど。」
バージョンアップな本。前世に溜め込んでいたページを破った代わりに便利機能を追加という感じか、と理解する。そのまま誰にも会わずに魚の形をした家を通り過ぎたところで本を閉じる。前から、Friskと以前に会ったナプスタブルークが来ていたから。
「回復アイテム集めてた。はい、食べて。」
「え、ちょと待って待て待て。」
問答無用でナイスクリームとびちゃび茶などを口に突っ込まれる。怒っている様子、何故と聞こうとするがそれさえも無視して他にも色んなのを乱暴にねじ込まれた。う、味が混ざって…とにかく、私の体力は全回復した。
「んぐ、む…ありがと、Frisk。」
「I・o無茶し過ぎ。」
死ぬかと思った。
そう言って彼は私にぎゅう、と抱きつく。震えてると、彼を抱き返すとさらに力が強くなる。顔は見えない。ごめんと謝るとずび、と鼻をすする音。泣かせてしまった。
「ナプスタブルーク助けて…」
「む、むり……仲直り、できて良かったね。」
「仲直り…一方的に泣かせてしまっただけな気が。」
「ん、もう大丈夫。」
「早いな。」
Friskが離れる。顔をごしごしと拭きながら私の手を取る。ナプスタブルークが良かったと歓喜の涙を流して家に帰って行った。
「…I・o、ぼくね。I・oに守られなくても怪我しないんだよ。避けるのだって相手をMERCYするのも上手なんだ。だからさ」
「Frisk、それ以上は言うな。」
それ以上言われると、私の存在意義がなくなってしまう。
私は物語を見届け、主人公を守らなければならない。Friskが死んでしまったら、何か違う事になったら、傷ついたら。きっとそれだけで"運命"は変わる。そんな事、あってはならない。だから彼から離れて行動することは絶対に有り得ない。戦闘に加わらない事だって。
前世から目標は変わらない。ストーリーを改変しない、転生者であることだ。
「ならせめて自分の身を守ってほしい。」
「…」
「なるべくでいいから、ぼくはぼくのせいで君が傷ついてほしくない。」
「……善処、しよう。」
ぐ、と堪えて呟く。しょうがない性格というかなんというか、子どもを守ろうとする精神は普通にあるのでどうも上手く立ち回れるか。そう思いながら私達は手を繋いで歩いていく。急に周りが暗くなるものだから私達はまた緊張し始めた。とりあえず先に進む。その先にエコーフラワーがあるのを見て、それを聞く。
《お前の後ろだ。》
瞬時に振り返る、力強い女の声がエコーフラワーと後ろから同時に聞こえた。それはきっと彼女か、と騎士を見る。行き止まりでもあるここで、私達は戦うのだろうか。いや、違う。Friskは私を守るようにして前に出たが未だに戦闘に入らない。画面も切り替わらない。
「おい、貴様。聞いているのか。」
「……わ、私か?聞いていたとも。」
「復唱しろ。」
「…」
「まぁいい、どうせ消える命だ。」
ジリジリと槍を構えてこちらに近づく。そして、Friskと私のソウルが浮かび上がって、戦闘が、
「アンダイン!おいらが助太刀だ!!」
「「「……」」」
「お!やったじゃん!アンダインとの戦いが見れる真ん前だぜ!」
「「「……」」」
「あれ?戦う相手って誰だ?て、ちょ!ちょっとアンダイン!母ちゃんには内緒にして!!」
……
いや、いやいやいや。
モンスターの子、タイミングよ。
呆気なく連れてかれるあの子はきっと私たちが人間だということに気づく…んだろうな、気づかせろよアンダイン。じゃないと何度言っても私たちについてくるからな。じゃなくて。
何今の。草むらから飛び出てきて、私達が驚いている間にハイテンションで話し出して、アンダインに連れ去られた。きっと彼がいなかったらアンダインとの戦い始まってたけど、命救われたけど。…なんか、なぁ。
「えっと…あの子、おもしろいよね。」
「1周回って冷静に。」
「とりあえず、進もう?」
*
槍から狙われつつ橋から落ちかけた子どもを助けた。
もう一度言おう。
槍から狙われつつ橋から落ちかけた子どもを助けた。
中々にない、貴重な経験ではあったがもう二度としたくないものである。モンスターの子どもが私達の正体を知り、感動のエピソードがあった後の事だった。さらにその後モンスターの子が私たちを庇ってくれて私の涙腺は少し緩みかけていた。ありがとう、君が好きだよ。前までうるさいとか思っててごめんな。
正直、Friskがいなかったら私は泣いていた。
「で、だ。あの高い山頂のとんがった部分にいるのは騎士様か?」
「そうだね…遠くて見ずらい。」
「だな。」
いやあ、とうとう来てしまったと言うべきか。私にとっての最初の難関はここなんだよなぁと頭を掻きながら進む。山頂にて、言葉が聞こえた。先程と同じ7つのニンゲンの魂がとか、なんとか。それが面倒になったのか彼女は叫びながら戦闘を申し込んだ。頭の部分だけ装備を外したその顔は、美人であり強い意志が目に刻まれていた。
「Frisk、この戦闘は勝ちだと私は思っている。この先ホットランドだと聞く。そして、彼女は鎧を身につけている。」
「つまり、逃げれば勝ち?」
「そういうこと。」
私達の取る行動は一つ。逃げること、逃げ切れば彼女は追ってはこれない。Friskには言ってないが戦闘画面に切り替わると逃げるのにはMERCYを選択しなければならないが私は戦闘画面に切り替わらない。
Friskを逃がして時間を稼ぐ。そして、私も生きてFriskの元に戻る。それが唯一の選択。
「行くぞ。」
「うん。」
こうして、私とFriskは前に進んだ。
Friskとのほんの少しの亀裂を見つけていればとどれだけ結末は違ったか。
後に私は、後悔する。