~カイさんに最大まで依存して欲しいチャート~(ポケットモンスターアルセウスリメイク実況) 作:冷蔵庫514
でものちのちの為に絶対必要だから許して…
私は先程から見ているこれはなんなのだろうか。
現実ではなく、幻を見せられているのでは無いのだろうか。
そう思ってしまうほど目を疑うような事が起きていた。
「グラッシャーー!!」
森に響くバサギリの咆哮。
一薙で大木をも容易に切り裂く巨大な斧が、少年の首へと振るわれる。
「あ、危ない!!」
私と共に様子を見ているキクイが何度目か分からない叫びをあげた。
そう、危ない。危ないのだ。
バサギリのあんな大斧が直撃したら、大怪我では済まされない。ほぼ確実に死んでしまう。
そんな致命の一撃を――
「おお、またかわした!!かわしたぞ!!」
躱す、躱す。また躱す。
流れる水のように。
宙まう木の葉のように。
顔色一つ変えずに冷静に躱し続け、更に隙を見てはシズメタマを的確にバサギリ打ち込んでいく。
それを数分、数分もの間だ。
あのテルというギンガ団の少年は荒ぶるバサギリの猛攻を凌ぎきっていたのだ。
たった1人で、ポケモンの力も借りずに。
もし私が荒ぶるキングと相対し、鎮めなければならない状況になったらどうするだろう?
まずグレイシアに頼んで隙を作ってもらう。
体制を崩したら素早く近づいて…いや、無理だ。
そもそもグレイシアがキングと戦って隙を作ることは出来ないだろう。私の相棒が弱いとは言わない。バサギリ…キングが強すぎるのだ。お互い万全の状態でなら少々強い一般ポケモン程度なら戦いにすらならない。
なら、どうする?私なら、シンジュ団を長たる私なら…
――やはり無理、無理だ。1人で相手にすること自体が間違っている。そう結論するしかない。
正直ギンガ団団長のデンボクさんにも思うところはあった。森キングを鎮めるという任務を新人の調査員たった1人だけに命令するなんて。借りを作る立場ゆえ言えなかったがもっと大掛かりに準備をして何個か小隊を作って挑むべき、という言葉が出かかった。
けれど、ようやく理解出来た。
彼なら、やれる。
あの少年は天才、いや――――異常だ。
「グゥ…グラァ…!」
「なんと!凄いぞギンガ団!!
カイ!これはいけるのではないかね!?」
「いや…まずい!」
しかしいくら非凡であっても全てが完璧にはいかないようで、壁際に追い詰めらてしまった。
先程までは右に左にと上手く空間を活かして避けていたがこれでは逃げ場がない。
ギラり、とバサギリの目が光る。
この期を逃すまいと斧を振り上げ構えをとり――
一瞬で仕留めにいった。
「ギンガ団!?」
「テルさん!!」
耳を塞ぎたくなるような轟音と土煙が舞い上がる。
これは、不味い。
「グレイシア!戦いの準備をして!一瞬でもいい!隙を作ってくれれば私がテルさんを…」
「いや、見たまえカイ!」
「…え?」
キクイの言葉でグレイシアから戦場へと目を戻して
写った光景は私の予想とは全く反したものだった。
無傷で立っているのは少年。
目を回して動きを止めているのはバサギリ。
「…何が、あったの?」
「………キクイに分かるわけがないだろう」
「今だ!行くぞ!!」
呆然とする私とキクイを置きざりにして戦闘は進む。
テルさんはここでようやくモンスターボールを取り出した。
出てきたのは私のグレイシアをたおしたヒノアラシ。指示を受け、1度目は素早く2度目は力強く連続してかえんぐるまを当てる。
バサギリも体制を整えながらなんとか反撃を試みようと斧を振るうが、ヒノアラシは攻撃の後に素早く離脱しひのこへと攻撃を切り替えて間合いには入ってこない。テルさんの指示だろう。
加えてテルさん本人がシズメタマをバサギリの頭部に的確に当て続けていた。これではどちらを狙えばいいか分からない。
「…グラ!…グラァ!!!」
大きく吼えてバサギリが突進の構えを再びとる。
少々翻弄されようと、彼もキング。この森の、黒曜原野の王。まだ、まだ倒れない。
構えの先、標的としたのはヒノアラシのようだ。テルさんにはそう簡単に攻撃は当たらないと判断したのだろう。
まずは1匹に集中し確実に仕留める。
覚悟を決めたバサギリに――
「さぁコダック!渾身の力でみずのはどうだ!!」
背後から思いもよらぬ一撃が襲いかかった。
「コダック!?なんと!!いつの間に出していたのかね!?」
「…分からない。分からないけれど…」
「…グ……シァ」
ぐらりとバサギリの巨体が揺れる。
決着だ。
シズメタマの効力もそろそろ効く頃だろう。
更にヒノアラシからの2度の攻撃に加えて、完璧に不意から打たれたコダックのみずのはどうは急所に入ったように見えた。シマキングのバサギリといえども苦手とするみずの攻撃をああも完璧にあてられてしまっては、もう戦闘はできないと思われた。
1回、2回。そして3回目のシズメタマがバサギリにあてられて…多くの被害を出したモリキングの暴走はたった1人の少年に鎮められた。
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「それでは行きましょうか」
「…うん。そうだね」
シンジュ団の長として、ギンガ団の長のデンボクさんにこの件について礼はしなくてはいけない。
そう言うとテルさんは案内しますと申し出てくれた。
当然1人でも向えたし、出来れば1人で向かいたかったけれど、彼の好意を無下にするのも気が引けた。
コトブキムラへの帰路は2人きりだった。
ラベン博士は『一刻も早く皆に伝えるのです!』と大急ぎで走り去っていってしまった。
キクイは元に戻ったバサギリに異常がないかしばらく見ておきたいという事で別れた。
別れ際の彼は複雑な顔をしていた。
キングが鎮まったのは良い事だけれど、彼が心から愛しているバサギリ、あれほど強く、逞しい、黒曜の王を完膚無きまでにたたきのめされたのだ。
素直に喜ぶことなど出来ないだろう。
そして、そんな衝撃を与えた等の本人は…
「そうだったんですね!」
「うん。元々ヒスイにはシンジュ団とコンゴウ団…つまり私たちの先祖が住んでいたの。ギンガ団の方達は後からやってきたんだよ」
「…なるほど。だからギンガ団には崇めるキングが居ないのか。それじゃあ…先程話していたシンオウ様についてなんですけれど」
「それはね…」
興味津々といった様子で私に質問をし続けていた。
この世界に来たばかりで興味があることが尽きないのだろう。ヒスイ地方のことや、シンジュ団、コンゴウ団のこと。私たちが崇めるシンオウ様についてなどを聞く様子は、本当に楽しそうにそして普通にみえる。
「…カイさんっておいくつなんですか?」
「…え?」
「あ、気に触ってしまったら申し訳ないです。というか、すいません。先程から話しかけてばかりで。」
「…いや、全然気にしてないけど。ヒスイの話から急に私自身のことについて聞いてきたから、ビックリして」
「ははは、すいません。これからもカイさんにもお世話になると思いまして…少しでも知っておきたいなって。それにボクと年齢近そうだったので」
よく謝るひとだと思った。
あんな人の領域を超えたような動きができるのだからもっと尊大でもいいと思う。ただでさえ彼は私達シンジュ団にとって恩人なのに。
…なんて、完璧な人なんだろう。
彼ほどの才能があればきっとなんの苦労もないんだろう。
「………17だよ」
「やっぱり、ボクと一つしか変わらないですね!…にしてもそれでシンジュ団の長って凄いな…」
ああ。
やっと、理由が分かった。
私が何となく彼を好きになれなかった理由が。
足が止まってしまった。無意識に。
「…カイさん?どうしました?」
「…すごいのは、君だよ」
「…?」
そう。私じゃなくて、君がすごいの。
言葉にしてあげたのにまだ分かってない。
「あのさ、逃げ場がなくなってバサギリに突進された時あったよね」
「はい」
「なんで君が無傷で、バサギリがダメージを受けてたの?」
「避けました。バサギリは勢いあまって壁に衝突してしまったんだと思います。ていうかそれを狙ってみたので上手くいって良かったです」
「避けれたって…逃げ場が無くなったって私言ったよね?それって矛盾してない?」
「いえ、確かに左右に大きく回避は出来ませんでした。けれどバサギリって突進する時斧を大きく振りながら来るじゃないですか。だからその間ならすり抜けられると思って」
なんでもないように彼は告げる。
事実、彼にとってはなんでもない普通に出来ることなのかもしれない。
でも、私には。
いいや、私だけじゃない。キクイにも、セキにも、デンボクさんにも。他のヒスイを生きる人達の誰にもあんな事は出来ないと思う。いくら努力しても。
そしてそんな凄い技術を持っているのに、謙虚で、他の人をたててくれて、困難を困難とも思えない、全てを1人で解決してくれるようなそんな完璧な人。
彼は、このテルという少年は生まれながらに神に愛されていて、全てを持っている選ばれた人なんだ。
…じゃあ私は?シンジュ団の長として血を吐くような思いで頑張って来たのに。
肝心な時には結局何も出来なくて、解決したのは全部彼だ。
全てを持った、完璧な英雄のような彼。
…なのに、君は私の事を”凄い”というんだね。
「…やっぱり信じる。君が空から降ってきたっていう話」
再び歩を進めはじめる。
さっきよりもかなり速く。
それからお互いに何も話さなかった。
テルさんも原因は分からずとも何か察したのだろう。あれほどしていた質問をやめて、黙って歩いている。
そういうところまで腹が立った。
「えっと…着きましたね。それじゃ、ボクはラベン博士のところに先に行きますのでカイさんは団長の方へ先にどうぞ。
あとは、その…今日はありがとうございました。」
「ねぇ」
足早に去ろうとする彼を止める。
「…ポケモンは怖い生き物だよ。その気になれば私達人間なんて簡単に殺せちゃう。今日のテルさんだって、1歩間違えれば死んじゃってたんだよ」
「…」
「凄いよね、なんでそんな事できるのかな?
――君、ほんとに人間?」
酷いことを言っている自覚はあったけれど、その時は止められなかった。
「…っ」
「…なんて、嘘だよ!今日はありがとう。またよろしくね、テルさん!」
…すぐに取り繕った。
駄目だ。彼はシンジュ団にとっての恩人だ。
それにこれからも彼に頼らざるを得ないだろう。
悔しいけれど、きっとそうなる。
だから個人の感情だけでこんな行動をとってはいけない。
「…はは、こちらこそよろしくお願いいたします」
ぺこりと綺麗な礼と笑顔を残して今度こそ彼は走り去っていく。
「…でも、苦手だなぁ」
小さくなる背を見送りながら、ポツリとひとり呟く。
正直にいうと彼――テルさんに対する初めての印象は、セキよりもずっと最悪だった。
なんかこれだけ見たらカイさん性格悪いけれど許してくだされ。