「うん、よくかけている。自分の過去を整理することはできるようになったみたいだね?」
医師である先生は優しく言ってくれる
今は3月、まだ寒さは残るものの春の陽気に変わりつつあるそんな頃
今日までに自分の過去のことをなるべく詳しく書いてくるようにというカウンセリングの宿題を見た先生は穏やかな動作でカーテンを開けた
後ろにある窓からは三月の上旬にしては差し込む陽光は暖かく気持ちがいい
「はい・・・けど」
「向き合うのはまだ難しい、か」
自分の言わんとすることは既に理解しているようだ
「神楽君、学園の方はどうかな?」
学園・・・そう、学園だ。小学校から通信教育だったので学校というものに行ったことがなかった自分に先生が一度行ってみた方がいいという事なので入学はしたものの・・・
「い、まは・・・不登校になってますね・・・」
入学式日に校門の前足がすくんでしまい、それ以来というか一度も足を向けたこと向けようと思ったことははない
「そうか・・・まぁ、まだ早かったかな?ゆっくり時間をかけても良いよ、といっても、もう卒業か、ははっ」
義務教育である中学課程はどれだけ不登校でも卒業はできる。それこそ一日も登校していなくても
「はい・・・ありがとうございます・・・」
「そうだね、ちょっと暗くなっちゃったかな?じゃあ明るい話をしようか、今の趣味は何だったかな?」
「趣味・・ですか、それは・・・」
頭に思い浮かんだのはひとつだけだった
「IS・・・ですかね」
「へぇ、ISかぁ・・・これまた何でISに?」
IS、インフィニットストラトス、女性だけしか反応しない、世界最強の兵器、女性というところに何も感じないわけではないが何よりあの外装やフォルムに何か熱いものを感じる
そのことを話すと先生はもともと笑顔だった顔がますます笑顔になり始めた
少し熱く語りすぎたか?恥ずかしい
「いや、君がそこまで熱くなれるものを持てて、嬉しくてね」
「それは・・・ISが女性専用だからですか?」
「いいや、違うよ。」
先生は強く否定した
「確かにそこは嬉しくはあるけど、重要なのはそこじゃないんだ。神楽君が自分の趣味をもてるって言うことが大事なんだよ」
「趣味って言うのは自分の好きなことだろう?そういうのをたくさんもてれば自然とほかの意見が気になってくるものだ、最初はネットだけでもいい、徐々に人とのかかわり方を学んでいくと良いよ。そこに、使用者が女性であるということがあるのは、全く関係ないんだ。情勢のことを理解できるというのは医師としていい傾向だとは思うけどね」
先生の言っていることは頭では理解できた、が、その感触があまりつかめない
「夢・・・たとえば将来の夢とかはあるかな?」
「そうですね、ISの部品とか作れる会社にいけたらいいな、と」
「じゃぁ、そのための勉強も?」
「はい、結構楽しくて!」
「すごいね、でも僕はあんまりISのことはわからないなぁ」
「あ・・・そう、ですね」
そうだ、先生は医師でありISとはあまり関係ないところで生きている人だ
「今、少し残念に思ったでしょ?」
「え?」
「その感情で人は関わり合いを持ちたいと思うんだ、大切にしなさい」
少しからかわれたように感じたが少しだけ先生の言っていたことがほんの少しだけ分かった気がした
その後もう少し会話し、今日のカウンセリングは終了し帰路へと着く
人と目が合わないようにブカブカのフードを深くかぶって
いつもと同じ、いつも通りの慣れたの帰り道
何もなく終わるはずだった今日という一日
しかし
それで終わってしまうほど彼の運命は容易くはなかった
【3.】
「おいっ、早くしやがれ、でないと捕まっちまうぞ!」
「わかってるって、でもっ・・・」
暗い路地裏の奥から声が響く
そして突然暗闇から影が飛び出してきた
一人目はなんとか躱したが、二人目は・・・
ドンッ
加減ナシでぶつかってしまう、その時に男が持っていたジュラルミンケースが派手にぶちまけられた
「痛っ」
「ってぇ?な、何ボケっと歩いてやがんだ、あぁ!?」
「ひっ、ごめんなさい!」
自分はほとんど悪くないはずなのに反射的に謝ってしまう
男女かかわらずに大きな声を出されると身が竦んで逆らえない
「おい、何やってやがる!早く集めろ!」
「お、おう・・・チッ」
軽く舌打ちをすると散らばった中身をかき集めてさっさと走り去ってしまった
一体なんだったんだ?
土埃を払い、そして立ち上がると視界の端にキラリと光る物が映った
なんだこれは?
手にとってみるとそれはずしりと重い
これは・・・腕輪か?
警察に届ける・・・いや、警察の人にどう話そう・・・はなせ・・・ないな・・・明日でいいか
しかし腕輪にしてもこれは重すぎだ、腕につけてたら筋肉鍛えられそうだな
その腕輪をカバンの中に入れると再び帰路に戻った
玄関の鍵をあけ帰宅する
「ただいま」
家には誰もいない、前よりも帰宅するようになったがそれでも父親は仕事だし、姉は全寮制の学校に行ってるので良くて週末ぐらいにしか帰ってこない
まぁ、今の環境は自分にとって心地よい環境になっている
一人の方が気楽だし、誰に怯えることも、誰に気を使うこともない
それを知っていて姉も父親もそうしているのかは知らないが
風呂に入ってご飯を作って食べて部屋に入る
そこで思い出したのが例の腕輪である
カバンから取り出してみるとそれはやはりズシリと重い
「うわ、こんなに黒かったのか、よくあんな夕暮れでこれを見つけられたな」
黒曜石のような黒い輝きを放ち、その中には炎のような赤がうっすらと浮かび上がっている
ただ、神楽はこの腕輪はただの腕輪ではないと感じていた、どこか見覚えがある・・・というわけではないが、類似した物を見たことがある
画像検索「IS 待機形態」
ディスプレイに様々な画像が表示される、それは機械的な要素を残しながら指輪や首輪、イヤリングやネックレスといった様々な形で表されるがそれらは全てISだ
これも・・・ISなのか?
表示される画像の中には腕輪も含まれているがこれはどっちかとういうとブレスレット系の腕輪というよりガントレット系の腕輪というか、RPGゲームで呪いの腕輪とかで有りそうなあれだ
ただ、ISが初めから待機形態でいるなんてことはあるのだろうか?
確か、初期設定やらなんやらを済ましてから初めて待機形態にできるはずだったが
そういえばニュースで男がISを動かしたって有名になってたっけ、確か名前は織斑一夏だったっけ?
自分と同じ年だから印象的だったな、しかも織斑って言ったら織斑千冬、IS世界大会の優勝者だ、それでIS学園に入れるのか、いいな
ISの知識は学んだって言ったって所詮独学でしかない、実際にISに触れてすらいない、ただ覚えただけの知識にどれほどの価値があるだろうか?
実際にISに触れてみたい、けれど・・・
自分が織斑一夏と同じ境遇だったとしたら・・・
ダメだ想像しただけでめまいがしてきた、IS学園って女子高じゃないか・・・無理無理
だけど
だけどもし、本当にISが動かせたなら、楽しいだろうなぁ・・・
ふと目に入る黒い腕輪
なんの気なしに神楽はそれを腕につけてみる
ザクッ
「・・・いっ!」
何かが腕に深く食い込みそして皮膚を強く突き破った感触がした
「この腕輪・・・っ!?」
取り外そうとするがまるで自分の筋肉を剥がそうとするかの如く痛みが走奔る
だんだん音が聞こえてくる、耳ではなく頭の奥で
ドクン、ドクン
これは心臓の音?
そしてその音に混じる違和感
ジュル、ジュル
もしかして、この腕輪・・・血を、吸っている?
そして頭がクラクラし出すその瞬間突如部屋の電気が切れた
停・・・電?いや、それよりも・・・
これは『いつもの』じゃない・・・
最後に聞こえたのは部屋の扉が乱暴に開けられる音と複数人の足音、あとは倒れた時に自分の頭がゴトンと床にぶつかる音だった