娼館オズマ   作:とりなんこつ

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第二十六話 魔王の娘たちの話 前編

 

 サキュバスとは、夜な夜な男のもとを訪れその精気を頂くと言われている妖魔のことである。

 戯曲や民間伝承などに良く登場するので、魔族の中でも割りとメジャーな存在として知られていた。

 

「え? でも、あたしはこの方と寝た覚えなんてないですよ……?」

 

「じゃあ逆に訊くが、おめえ、ここしばらくどこで眠ったのか覚えているか?」

 

 俺がそう訊ねると、サイベージは大きく頷く。

 

「それはもちろん! 夕べも手透きの娼婦さんのお部屋にお邪魔して……って、あれ? 誰の部屋に泊まったんでしたっけ?」

 

「娘たちからは、誰もおまえを泊めてないって聞いているぜ?」

 

 肩を竦める俺に、まるで狐に鼻をつままれたような表情をするサイベージ。

 

 サキュバスは別名夢魔と呼ばれるだけあって、淫らな夢を見せて男を誘惑するとか。

 転じてどんな夢を見せるかも自由自在で、 文字通り“夢中”にさせて対象の記憶も曖昧にしてしまうと言う。

 

 もっともこの説明も、どこかの誰かの受け売りだ。

 俺自身、本物のサキュバスと相対するのは初めてである。 

 

 では、肝心かなめのサキュバスであるイーヴ姫はというと―――あれ? どこにいった?

 俺の視界から消えていた。

 

 と思ったら。

 

「す、すみません、すみません……!!」

 

 やたらと低いところから声がする。

 声の方を見れば、姫さまは文字通りの平身低頭。なんとも見事な土下座を披露してくれていた。

 

「その、最初は我慢するつもりだったのですが、その……!! とにかく申し訳ありませんでした……!」

 

 思い切りの良すぎるアクションに、俺が呆気にとられたのは言わずもがな。

 被害者であるはずのサイベージもとっさに文句を垂れることも叶わず、金魚みたいに口をパクパクさせるしかない様子。  

 で、結局サイベージの野郎が怒りの矛先を向けて来たのは俺の方だ。

 

「ちょっと酷すぎるじゃないですか旦那! もしあたしが衰弱死したらどうするつもりだったんです!?」

 

「いや、すまねえ悪かったな。これこの通り」

 

 俺は素直に頭を下げる。昔話や笑劇などでは、男がサキュバスに搾り取られて干からびて死ぬってのが定番のオチだからな。

 

「そんな頭を下げられても、許せることと許せないことがですね……!!」

 

 それでもサイベージの口は止まらない。

 黙って拝聴してる俺だったが、あんまりグダグダと文句を並べ立てるもんだから、いい加減むかっ腹が立ってきたぞ。

 

「へん!おめえは多少精力が有り余ってるみたいだから、ちょうど良いかと思ったのさ」

 

 そう言い返すと、黒衣の野郎は露骨に目を泳がせた。

 

 サイベージは、死んだ妹と同じ年頃の子供にめっぽう弱い。

 自分より年下の娘には、もし妹が生きていて成長していたらと面影を重ねてしまい、色恋の対象はおろか遊びで情を交わすことすら出来ない。

 そんなトラウマを植え付けてしまった原因の一端は俺にも存在した。

 なので、若い娘ばかりの娼館にいても返って身体に毒だろう、なんて不憫に思っていた時期が俺にもあったのだが―――。

 

 なんとこの野郎、ヒエロの街中の未亡人や後家さんといった連中を、さんざかに食い散らかしていやがった。

 

 年上なら残らず守備範囲とか抜かす節操なしが、痴情のもつれで刺されようがどうしようが、そいつはどうでもいいさ。

 けれど俺が街に繰りすたんびに厚化粧をした年増女たちがつつつ……と歩みよってきて、『旦那、ひとつサイベージさんとの仲人をして下さらない?』とちょいちょい肩を突かれるのは冗談じゃねえぞ?

 そのたびに『いえ、アイツは俺の店の従業員じゃねえんで』『あっしには関りのねえことでござんす』と一々断りを入れるこっちの身にもなってみろってんだ。

 

「この際だから言っておくが、てめえの臍の下の始末をさせられるほど俺ァ軽くねえぞ」

 

 そう凄むと、後家殺しの節操無しは気まずそうに顔を逸らす。

 

「だいたいこうやって姫さまを呼びつけて、お前に対して釈明しているじゃねえか。殺す気なら完全に干からびるまで放っておくぜ?」

 

「……それは、そういうことなんでしょうけれども」

 

 渋々と引き下がる様子を見せるサイベージだったが。

 

「あたしにとって旦那のほうが魔王よりよっぽど恐ろしいですよ……」

 

「なんだとコノヤロウ」

 

 ったく、最後にひとこと言わねえと気が済まねえのかアイツは。 

 

 

 まあ、こっちはこれで良し。

 問題はあっちのほうだな。

 

 

 俺は土下座しっぱなしのままの姫さまを見下ろす。

 

「いい加減顔を上げておくんなさいな」

 

「すみません、すみません………!」

 

 まるで俺が生殺与奪を握る王様みたいな平伏っぷりである。

 ただ困惑していると、姫さまの隣で従者であるロロとタメラまで一緒に土下座を始めたのには閉口するしかない。

 

「申し訳ない! 私が付いていながら、平にご容赦を!」

 

「アタシたちも謝るので、どうか勘弁してほしいのじゃ!」

 

「いやだから……あー、もう、わかったわかった。いい加減ぺこぺこ頭を下げるのはやめてくれ。米つきバッタじゃあるまいしよ」

 

 すると、ようやく三人とも顔を上げてくれたと思ったら、今度は姫さまは従者たちに向かってさめざめと涙を流し始める。

 

「ああ、ロロスロウ。祖父の代から良く仕えてくれました。

 タメラもこんな不甲斐ないわたくしによくぞここまで付いてきてくれました。

 わたくしが磔台の露と消えても、二人への感謝の念は決して消えることはないでしょう……!」

 

「そ、そんな! 姫さま!」

 

「いやじゃ、いやじゃ! 姫さまを死なせたくないのじゃ!」

 

「気持ちだけで十分です。全てはわたくし一族の業の果て。それに二人を巻き込むわけにはいきません……!!」

 

 よよよ……とその場に泣き崩れるイーヴ姫を、従者二人は「姫さまッ!」と左右から支える。

 ロロとタメラは二人して、またもや俺に訴えて来た。

 

「オズマ殿。この身を処することで、姫の命だけは、どうか、どうか……!」

 

「姫さまのかわりにアタシを殺すのじゃ!」

 

 そんな従者たちを、イーブ姫は感極まったように背後から抱きしめる。

 

「ああ、二人とも……! そんな……そこまでわたくしのことを!!」

 

「姫さまを一人で死なせるわけにはいきません!」

 

「死ぬも生きるもみな一緒がいいのいじゃー!」

 

 ついには三人して抱き合って号泣する始末。

 どうにも妙に台詞や仕草も芝居がかっていて大仰だ。なのに各々が心の底から真剣なのが伝わってくるところに、逆に滑稽さを感じる。

 

 ………おいおい、俺ァいったい何を見せられているんだ? 

 

「兎にも角にもうちは娼館でさぁ。精力を持て余した連中が来るところですんで、そんな目くじらを立てるつもりはありませんよ」

 

 そうなのだ。

 つまるところ、俺の店が姫さん御一行の潜伏先に選ばれた最たる理由の一つは、彼女の正体がサキュバスだからに尽きる。

 サキュバスは男の精力を摂取するという性質上、娼館ならその確保は簡単だ。

 潜伏場所として最適解というやつだろう。

 

 姫さまは涙で濡れたままの顔をこちらへ向けて来た。

 

「で、ですが、断りもなくサイベージさまからこっそり頂いてしまったことは……怒っておられないのですか?」

 

「いやいや、そいつはしっかりと段取りをしなかった俺の方にも非があるということで。

 まあ、これが普通の客相手とかだったら、俺もすぐに口を挟んだんですがね」

 

 俺がそう答えると、長い睫毛を伏せて姫さまの表情がようやく安堵したように緩む。

 

「……それって、あたしだからこそ別に構わなかったってことなんですよね?」

 

「おめえもいい加減しつこいなあ」

 

 背後からの恨み節に、俺はジロリとサイベージを振り返ると、

 

「それよか、こんな綺麗な姫さまに相手をしてもらったってことは、おめえのお宝もしっかりとおっ勃ったってことだろ? ふん、これを機に年下嫌いは返上すりゃあいいのさ」

 

「そ、そう言われても……実際に何をしたのかも全然覚えてなくてですね……」

 

 野郎二人で下衆な会話を交わしていると、イーヴ姫がおずおずと片手を上げた。

 

「あの……わたくしが男性から精気を頂くときは、必ずしも肌を重ねる必要はないのですが……」

 

「へ? するってぇと……」

 

 その真っ白い手とか口を使うんですかね? と訊きかけて、俺は慌てて自重。

 いくらなんでも姫さま相手に直截が過ぎるわ。

 

 そんな俺の心中が伝わったのか。

 姫さまは小さな顔をほんのりと赤く染めてボソボソと言う。

 

「わたくしの場合、殿方の額にでも手を当てさせて頂ければ……」

 

「額でいいんですかい!?」

 

 いや、こいつは驚いた。

 淫魔といわれるサキュバスも、精を採取する際、必ずしも淫靡な手管は必要としないらしい。

 創作ものや伝承よろしく、相手の股間をまさぐったり、寝床であの手この手の性技を駆使して野郎の精液を搾り取るのだとばかり思っていた。

 

 あれ? そもそも姫さまは、精液じゃなくて精気って言ったよな?

 精液と精気ってどう違うんだ?

 違いがあるなら奪い方も異なって当然なのか?

 

 ともあれ、

 

「良かったじゃねえかサイベージ。おめえさんの股倉の節操無しも、こと年下相手には清いままらしいぜ?」

 

 聞けばイーヴ姫は御年15歳だとか。

 身体付きも華奢なので、年齢よりやや幼く見えるくらいだ。

 そうすると、初めて会ったときのあの老婆の姿が気にかかる。

 変幻の魔法とか、魔導具でも使ったんですかい? と尋ねると、

 

「わたくしたちサキュバスは、精気を得ない期間が長引くとあのように老けてしまうのです」

 

 姫さまの説明は、これまた興味深い内容だった。

 サキュバスは、男の精気を吸収する。

 精力は生命力みたいなもんだから、たくさん搾り取られた男は、ミイラのごとく干からびてしまう。

 同時に、サキュバス自身も、精気の吸収をおろそかにすると、シワシワに干からびてしまうものらしい。

 なんとなく夏場に石壁に引っ付いて干からびてるカエルを連想してしまった。

 

「それはそうと、サイベージの野郎の精力が魅力的だとかどうとか言ってやしたが、人によって差があるもんなんで?」

 

 訊ねると、姫さまは厳かに頷いた。

 

「精気とはすなわち魂を覆う金鱗。その剥落を頂けば、その方の人となりはもちろん、味わいも変わってくるものなのです」

 

「へえ……」

 

 適当に相槌を打ちはしたが、正直、あまりピンと来ていない。

 娼婦たちが言うことにゃ、精液は個人によって味に違いがあるそうな。

 だったら魂の味も、それぞれ違って当然かも知れない。

 確かにサイベージのやつなら、ヒトクセもフタクセもありそうなエグイ味がしそうなもんだが。

 

「こ、こういっては何ですが、オズマさまの魂もとっても魅力的でらっしゃいますよ……?」

 

 頬を染めながら姫さまはそんなことをいう。

 急に色気を帯びた眼差しを受けて、俺は慌てて周囲を見回していた。

 そうだ、良かった。女房(ミトランシェ)のやつは、なんか今朝から調子が悪いって臥せってるんだった。

  

「せっかくの申し出ですが、あいにくとあっしにはちと小(うるさ)い女房殿がいるんで、謹んで遠慮させて頂きやすよ」

 

 要約すれば、アンタの精気を貰いたいっていってるのと同じだろ? そんなことを嫉妬深いエルフの女房殿に聞かれてもみろ。

 いかに姫さまとはいえ、冗談抜きで首と胴がおさらばしていたかも知れないぜ。

 

 本心を笑顔で隠しながら、俺は諸々の状況整理を行う。

 

「ともあれ姫さまは野郎の精気が必要で、摂らないと枯れてしまう。こいつはよござんすね?

 時に、好みの男じゃなきゃ駄目なんて縛りはあるんですかい?」

 

「いえ、それは特にありません。そもそも選り好みを出来る立場とは思っておりませんし……」

 

 なかなか殊勝な物言いをする姫さまがいる。

 要は男であれば誰でも精気の補給は可能ということか。

 

「承りやした。それなら今度はきちんと姫さまのお相手を準備してさしあげることにしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の店の目玉は源泉かけ流しの大浴場だ。

 そこに自慢の食堂もあって、旨い飯と美味い酒も堪能できるが、主体はあくまで娼館である。日本の温泉宿みたいな宿泊部屋なんて存在しない。

 泊り客といっても、娼婦を一晩買い上げた客が、あくまで彼女たちの部屋で朝まで同衾できるという話だ。

 

 なのでひと遊びした客は残らずお帰り願うわけだが、食堂で泥酔して眠り込んでしまう客や、娼婦と一戦済ませて文字通り骨抜きにされて動けなくなってしまう輩もいる。

 そんな連中を食堂の隣にある大部屋に放り込んで、雑魚寝させてやる程度の情けは俺にも存在した。

 あからさまに寝床を求めてやってくる不心得者や常習者は、さすがに店の前に放り出すけどな。

 

 そして夜も更けたころ。

 サキュバスのイーヴ姫を引き連れて俺が訪れたのは例の大部屋。

 

 今日も泥酔して寝穢(いぎたな)く涎を垂らす客が二人に、筆おろしされて足腰が立たず気絶するように寝入ってしまった若い冒険者が一人。

 三人ともイビキをかいてぐっすりと夢の中だ。

 

「この中からひとつお好きにどうぞ」

 

 俺は小声で姫さまを促す。

 娼婦たちの相手客から精気をもらうのも考えなくもなかったが、そいつはちと行儀が悪い。

 何より姫さまの正体がサキュバスであると秘密にしている以上、寝入っている娼婦たちの部屋へ忍び込むのは難儀だからな。

 

 大部屋で雑魚寝している連中ならその点の気兼ねはない。

 宿代代わりに精気をもらうって寸法さ。 

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 さして吟味する素振りも見せず、姫さまは一人の酔漢の枕元へ膝をつく。

 被っていたフードを脱いで晒した(かんばせ)は、気品に溢れた美少女と評して遜色がない。

 紛れもない尊き血統の持ち主らしいのだが、その姿が不思議と娼館にマッチするのは、やはり彼女がサキュバスだからだろうか。

 魔族の貴顕の割りにゃあ、いきなり土下座をかましてきたり感情のブレ幅がでかかったりと、多少トンチキな面もあるが、そこはロロが『姫は世間知らずの上に大変な苦労をされて来たのだ』と貶しているのか庇っているのかよく分からないことを言う。

 詳細は知らないが、彼女は一族郎党を皆殺しにされ、故郷を追われて逃げ延びて、今ここにいる。

 魔族やサキュバス云々は別にして、まだ若干15歳。鑑みれば、多少精神的に不安定になっても仕方がないのかも知れない。

 

 と、姫さま白く細い指の先端で、眠る男の額に触れた。

 

 ……サキュバスが精気を採取する現場に立ち会うってのは、ひょっとして世界中で俺が初めてなのか?

 興味津々で眺めていれば、姫さま自身には大きな変化はない。

 いや、さすがにここで姫さまが服を脱ぎだして真っ裸になり、その背中から伝承伝説にあるサキュバスの絵姿のように羽や尻尾や角が生えるなんて思っちゃいねえよ?

 それでも多少拍子抜けする俺の目前で、変化があったのは眠っているはずの男の方だ。

 無精ひげに覆われた頬が緩み、急にニヤニヤし始める。

 

 なるほど、夢魔であるからして、何かしらの淫らな夢を見せて精力を活性化させているのか。

 それとも淫らな夢を見させること自体が、精気を吸収する過程に生じる副産物なのか?

 

 そんな風に勝手に考察を進める俺の耳に飛び込んで来たのは、盛大なよがり声。

 

「おふぇ? うひひひょひょ!」

 

 ……いや、マジな話、女のよがり声ならまだしも、男のよがり声なんざ大金を積まれても聞きたいもんじゃないぜ。

 

 半ば耳を塞ぐようにして見守っていると、男の顔はますます真っ赤に紅潮。伴い、仰向けの股間の部分が肌着を押し上げて大きく盛り上がっている。

 

「うひぇ!?!?」

 

 一際大きな汚い声を上げたあと。

 男の身体がビクンと跳ねて、思い切り弛緩する。

 少しばかり遅れて、野郎の股間のあたりにじんわりと何やら大きな染みが広がっていく。

 ……いわゆる夢精ってやつか、これは。

 

「ありがとうございました」

 

 姫さまは静かに頭を下げていた。

 ついでフートを被った横顔の肌艶が増しているような気がする。

 

 ロロに付き添われて姫さまが去り、大部屋には俺とサイベージに眠った客だけが残される。

  

「……興味本位で見るもんじゃなかったかもなあ」

 

 俺の正直な感想だ。

 ついでに隣にいるサイベージを見れば「あ、あたしもあんな狂態を晒して精気を抜かれたんですか?」と何やらショックを受けている様子。

 

 とてもスッキリとした幸せそうな表情を浮かべて寝こける酔漢を見下ろす。

 精気を抜くといっても、一度や二度くらいでは干からびることはないらしい。むしろ顔がテカテカしているような。

 ……とりあえず、替えの下着くらいはサービスで提供してやるか。

 

 

 

 

 不本意な泊り客を見初めてはそいつから精気を頂戴することが、イーヴ姫の潜伏生活におけるささやかな日課となった。

 これで精気補給は万全、もう姫さまも干からびる心配はない、安心安心―――と思っていたのだが、この姫さま、相変わらず腰が低すぎる。

 そりゃあ世話をしている以上、居丈高に振舞われるよりはマシだ。

 だからといって感謝されるのはともかく、そこまで申し訳なさそうに振舞わなくてもいいのに思う。

 なんか隙あらば「土下座しますか?」というオーラを漂わせるのは、本当に勘弁して欲しい。

 

 姫さまの従者であるタメラが「せめてもの恩返しがしたいのじゃ!」と娼館で働くことになった。

 タメラはなんでも小鬼(インプ)と呼ばれる種族らしい。額に小さな角があるのが特徴だとか。

 本人曰く、『当年とって87歳の妙齢ぞ?』とのこと。

 人間の年齢に当て嵌めればとっくに成人済みらしいが、どう見ても10かそこらのガキにしか見えない。

 決して魔族や小鬼の生態に含むところはないが、こんな(ナリ)の娘を寝床で働かせちゃ、速攻で営業停止を喰らうわ。

 見習いの年齢にも見えないし、下働きとして働いてもらうのは当然だな。

 本人は「大人のする仕事じゃないのじゃ」と不満タラタラだったが、この間なんざ素っ裸で他の娘たちと一緒に風呂掃除をしていた。

 イカ腹の小娘たちと全く同じ体型に、どこが大人なんだ? と思ったのは秘密だ。

 

 ロロは相変わらず姫さまの護衛兼話し相手って感じらしい。本人も店で働かせて欲しいとは言っていたが、やはりあの風体は目立ちすぎるので論外。

「ではお手前の夜の相手をするというのは……?」なんて目を伏せながらこっそりと言ってきたが、命が惜しけりゃ冗談でも二度と口にするなと釘を刺して置く。

 

 にしても、うちの店も益々多国籍というか無国籍というか。

 ヘカトンケイルにハーフリング。ドワーフ、エルフは言うに及ばず、今度は魔族のサキュバスとインプにダークエルフと来たもんだ。

 おまけに雇った覚えもない黒衣のごく潰し野郎まで住み着いてやがる。

 

 そんで、たっぷりと精気を吸われてカスカスに干からびていたごく潰しにも、以前のような血色と肉付きが戻ってきた頃。

 最近では、「ときどき姫さまがこちらを見てくる視線が怖いんですけど」とか抜かすサイベージが支配人室へと駆け込んできた。

 

「旦那旦那! なんでも組合から緊急招集ってことらしいですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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