彼の築いた難攻不落の要塞に囚われ、売り飛ばされて慰み物にされるのを待つ女性達。
共和国軍は精鋭部隊を送り込むが…
報告書001『希望の大地:前編』
20XX年Y月某日 中東:ティエラ・ジ・エスペランサ共和国・山岳エリア
峡谷の遥か下に流れる大きな川に突如として炎をまとった金属片が無数に降りかかり、沈んでいく。そして山肌の小さな黒点から煙を引きながら飛び上がる飛行物体。
『こちらシューター01、攻撃ヘリがやられた!敵は携帯式対空ミサイルを装備している!』
エスペランサ共和国陸軍のマークが描かれたUH-60ブラックホークにスティンガーが直撃、爆炎を纏いながら山肌に激突し炎上する。
『作戦中止!撤退しろ!』
残存するヘリの無線機から指揮官の声が響くが、反転し撤退するヘリに容赦なくミサイルが次々と喰らいついていく。
その後たった1機生き残ったヘリが基地に帰還、こうしてエスペランサ共和国陸軍による『作戦』は失敗に終わった。
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数時間後 某国
「なるほど、大体の事情は理解しました。犯罪王に攫われた女性達が商品として売り飛ばされる前に救出しようとしたものの、敵が予想以上に重武装化している上に攻略が難しい地形の為、救出部隊は要塞に辿り着けずに壊滅したと」
オフィスでモニター越しに相手を見つめる『組織』の司令官。
『はい、そうです。そこで装備・人員共に質が優れているあなた方の力をお貸し頂きたいのです』
向こう側に映る、洒落た口ひげが印象的な男の軍服はエスペランサ共和国陸軍のそれだった。
「分かりました、送っていただいたデータを基にこちら側で作戦を立案し必要な部隊を送ります。作戦の遂行にあたり貴国の施設を使わせて頂く必要がありますのでそのあたりの調整をお願いしたい」
司令官の言葉にモニターの男が喜色を浮かべる。
『感謝します。救出が成功した暁には何らかの返礼を――――――』
「いいえ、我々はあくまでも我々自身の理念・信念に基づいて活動しているに過ぎません。見返りは不要です。直ちに準備に取り掛かりますのでこれにて失礼いたします」
戸惑いの表情を見せる男に『必ず助け出します。その点は信じて頂きたい』と念を押し、通信を切る。
「参謀部、仕事だ。データを送るから直ちに作戦を立案し実行してくれ…そうだ、技術試験部隊も動員して構わん。例のプロジェクトで派遣されているアレか?勿論だ、許可するぞ」
オフィスの電話で部下に指示を飛ばす司令官。デスクの片隅で買ってきた手羽先がすっかり冷めてしまっていたが、司令官にとってそれは些細な事だった。
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数日後 アラビア海
陽光に照らされる蒼い海に伸びる白い航跡。
『組織』の指揮下にある強襲揚陸艦の格納庫では、AV-8E ハリアーⅢ攻撃機を万全の状態にすべく整備員達が慌ただしく動いていた。
「あたし達の仕事にパイロットの命がかかっているよ!気合入れてやるんだ!」
『組織』への移籍以前から数十年も現場に立ってきた熟練の風格をまとうツナギ姿の女性が檄を飛ばすなか、格納庫の熱気を見守る艦長と航空部隊指揮官。
「配属されたのがお前の艦で良かったよ。良い整備クルーを抱えている」
航空部隊指揮官であることを示すワッペンが縫い付けられたジャケットが特徴的な男が隣に話しかける。
「ああ、みんなよくやっている。……お前の所のパイロットは大丈夫なのか?かなり危険な作戦になるが」
士官学校で共に青春を過ごした時の口調で返す艦長。
「心配いらん、優秀な奴らを選んだからな。あそこの砲術スタッフには負けんよ」
指揮官がそう言いながら舷側エレベーターの開口部から見えるズムウォルト級を視線で指す。
「頼もしいな。無事に帰ってきたら士官食堂の手羽先メニューを奢ると伝えてくれ」
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同時刻 エスペランサ共和国
陸軍基地の会議室で席につきモニターを眺める兵士達。例外なく漆黒の装備を纏った彼らの視線の先には本部からリアルタイムで送られる映像が映し出されている。
『今作戦の目的は大きくわけて2つ。1ヶ月後の闇オークションに売り飛ばされる予定で囚われている女性達の救出、これが最優先事項である。そして彼女たちを誘拐した犯罪王…サバス・ブエノ・エンリケスの抹殺だ。お前達には救出の方を担当してもらう』
通信機越しに響く司令官の声。続いて犯罪王が山岳地帯に築いた『要塞』と周辺の地形がスクリーンに広がる。
『まず、要塞だ。豪邸と広大な飛行場で構成されている。更にエンリケスが麻薬及び人身の売買で築いた莫大な富が惜しみなく投入され、高度な防空システムが整備されている。これがかなり厄介で防空レーダーも良いやつを使っている』
スクリーン上の要塞を示すマップに対空車両を意味する赤い点が数十ほど書き足され、その脇にフェーズドアレイレーダーを装備した警戒施設の写真が添えられる。
『航空機が接近すれば直ちに気づかれるだろう。SEADで迅速に防空システムを制圧し輸送ヘリで部隊投入…というわけにはいかん。当然ながら人質の安全が確保されない状態で絨毯爆撃など以ての外だ』
更にこの防空システムは電子妨害にも強いらしく長時間は妨害出来ないことも付け加えられた。
画面は要塞周辺の地形を映したものに切り替えられ、要塞から伸びる一筋の道路が赤く強調される。
『そこで救出部隊は制圧部隊と共に陸路で要塞に向かう事になる。これが要塞に行ける唯一のルートであるわけだが…最大の難所がこの橋だ』
向かい合う2つの絶壁を貫くように架けられた鉄橋。無人機が撮った写真には橋の上で警戒する2両の戦車が写っている。
『こちら側から戦車で要塞に向かう事は不可能だ。地形の制約があるからな。だが、向こう側は要塞まで輸送機で運び、そこから伸びるルートで橋に戦車を配備できる。ハッキリ言って強行突破は不可能というわけだ』
続いてエスペランサ共和国軍から提供された映像が流れる。
『こちらシューター01、攻撃ヘリがやられた!敵は携帯式対空ミサイルを装備している!』
ヘリの機首カメラで撮影されたと思しきその映像には、山肌から伸びたミサイルが前方の機を直撃する様子が映し出されていた。
『共和国軍はヘリ部隊で防空システムの目が届かない峡谷を通って橋を制圧、その後に対戦車装備も含め重武装の部隊を下ろし、そこから陸路で要塞に向かう筈だった…だが、ヘリが峡谷を通ってくる事は想定済みだったというわけだ』
低速なヘリでは橋に辿り着く前に道中で待ち構える携帯式対空ミサイルに喰われる。
『そこで、この難所を制圧する為にこの部隊に来てもらうことにした』
切り替わったモニター映像を見た兵士の数人が納得したように頷く。
『橋を攻略したら要塞から人質を救い出す』
映像が再び要塞に戻り、『組織』の部隊が侵攻するルートを示す赤い矢印が要塞に向かって数本ほど伸びていく。
『橋が落ちてから要塞側にその事実が伝わるのは早いだろう。救出部隊は先行して要塞に潜入し内部協力者と接触、迅速に人質を救出して脱出しろ。要塞の制圧と標的の抹殺は別の部隊に命じてある』
兵士達から質問がない事を確かめ、間を置くと司令官はゆっくりと、しかしハッキリと命じた。
『では、これよりオペレーション・トレノを開始する。諸君らの健闘を祈る!』
――――――次回に続く
如何だったでしょうか?
今回はミーティング中心だったので少々物足りなかったかもしれませんね。
どのようにして難所である橋を攻略するのか?そのヒントがありますので良ければ探してみてください。
最後に二次創作を作るにあたって私が独自に加えた要素に関する簡単な設定を紹介したいと思います。それでは、また次回!
【オリジナル設定集】
・エスペランサ共和国
正式名称はティエラ・ジ・エスペランサ共和国。国名はスペイン語で『希望の大地』を意味する。
作中時間の約20年前に建国された中東の新興国家で、建国時の混乱に起因する内乱が長く続いた事から国の立て直しと治安の回復が急がれる状態。
なお農業エリアにおける食糧の盗難・横流し及び警察力の不足による治安の低下が大きな問題となっており『農作物警備隊(略称:CST)』と『ブラックマンバ・セキュリティ(略称:BMS)』が同国に派遣されている。
【※CSTとBMSはベナトル氏の作品に登場する組織です。】
公用語は英語とスペイン語。かつて、欧州・南米で力を振るった覇権国家の影響下にあった事から中東の文化と西方の文化が入り混じったユニークな国でもある。
・AV-8E ハリアーⅢ
AV-8B ハリアーⅡの設計をベースにして開発された発展モデルで少数がPOCUに配備されている。原型機からの主な変更点は以下の通り。
・軽く丈夫な素材でエンジンを軽量化
・複合材料による機体の軽量化(エンジンと併せて燃費改善)
・機体の大型化(原型機より一回り大きい)
・最新のアビオニクスへの換装
・操縦の一部自動化による安全性の向上
・フライ・バイ・ライトの採用
あくまでも攻撃機であり、同じSTOVL機のF-35Bと比べると戦闘機としての能力では負けるがVTOL能力を活かしたトリッキーな戦い方が出来るため重宝されている。