報告集『栄冠なき英雄達』   作:趣味全開人生

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エスペランサ共和国の裏社会を牛耳る犯罪王エンリケスに囚われた女性達を救出すべく『組織』はオペレーション・トレノを発動する。


しかし、エンリケスの要塞へと続く唯一のルートを塞ぐ要所である橋が彼らの前に立ちはだかる。




報告書002『希望の大地:中編』

20XX年Y月某日 中東:ティエラ・ジ・エスペランサ共和国・陸軍基地

 

 

山岳地帯を走破可能な四輪駆動車両に次々と『組織』の兵士が乗り込む中、将校がひとりの男を連れて先頭車に向かう。

 

 

「彼が例の?」

 

運転席の兵士が将校の後ろに控える、エスペランサ共和国陸軍の戦闘服に身を包んだ男を見やる。

 

 

「そうだ、エリアス・アロ・ラミレス中尉。前作戦の生き残りで…囚われた恋人を救いたいと言って同行を希望している」

 

 

「そうですか、なら失敗出来ませんね」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

山岳地帯へと向かう国道に沿って走る車両の中で揺られながら大尉はラミレスの方を見やる。

 

 

「向こうで無事を確認する時に必要だが、囚われた恋人の名前は?」

 

「アリシアです。アリシア・ロレンソ・マレス」

 

 

そう言いながらスマートフォンを開き、見せてくれた画像はラミレスが同年代の女性と抱き合いながら笑っているモノだった。

 

「アリシア・ロレンソ・マレス…だな。顔も確かに覚えた」

 

 

画像とは対照的に不安と焦りが浮かぶラミレスの表情を眺め、闘志をみなぎらせる大尉。

 

 

 

しばらくして山へと続く道を塞ぐ検問で停止し、『BMS』と書かれた防弾ベストが目を引く兵士が運転手の方を見る。

 

短いやり取りの後にゲートが開き、兵士が道の脇へと下がった。

 

 

「さて、いよいよ殴り込みといきますか」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

遥か下に峡谷を望む山肌でクーラーケースからペットボトルを1本取り出し、冷たい中身を喉へと流し込むモヒカンヘアーが特徴的な戦闘員。その腕にはエンリケスの組織に属することを示すタトゥーが彫られていた。

 

「先輩、今日も平和っすね」

 

 

 

数日前に複数のヘリ相手に一方的な勝利を収めた余裕からか、すっかり油断しきっている様子だ。

 

そんな後輩の様子を咎めることもなくパラソルの影でビーチチェアに横たわるスキンヘッドの男。

 

 

 

すると、どことなくジェットエンジンの轟音が響いてくる。

 

「この時間帯なら定期便だろうな」

 

 

 

その言葉通り、上空を大型輸送機が通過していく。

 

 

 

 

 

彼らが異変に気付いたのはそれから数十秒後の事だった。

 

「………このエンジン音、いつもと違うぞ」

 

 

上空を飛んでいるのは間違いなく犯罪組織が定期的な物資輸送に用いている機体だ。だが、それをいつも聞いてきた耳が違和感を告げる。

 

 

 

 

―――――――――次の瞬間だった。

 

 

狭い峡谷を武装した航空機が複数、猛スピードで駆け抜けていったのは。

 

 

「!?」

 

 

僅かな操縦ミスで峡谷の絶壁に機体もろとも突っ込むにも関わらず、正確な操縦によって峡谷のカーブに沿いながら飛ぶ姿に見とれていたふたりは数秒後にそれが敵襲であると気づき通信機を手に取る。

 

「……繋がらない!?まさかあの機体にジャミングされた?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その異変は橋の上でも起こっていた。

 

「本部、応答してくれ!……クソッ!」

 

 

定期連絡の為に開いた通信が繋がらず悪態をつく男。

 

「戦車の通信機がイカれたのか?いや…スマホも繋がらねえ。一度本部に戻って確認を――――」

 

 

 

次の瞬間、峡谷の方からジェットエンジンの音が聞こえてきたかと思うと左右を絶壁に挟まれながら複数のハリアーが飛来、橋のやや上方でホバリングして男やその部下達を睨みつけた。

 

その主翼の下に積まれたガンポッドの砲口が自分達を向いているのに気付いた男が思わず口を開いた瞬間、全機で合わせて2000発をゆうに超える25mm砲弾が橋の上にあるものを容赦なく粉砕する。

 

 

『こちらアサシン01、橋は制圧した。繰り返す、橋は制圧した』

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『こちらアサシン01、橋は制圧した。繰り返す、橋は制圧した』

 

 

ハリアー部隊の隊長から入った通信に拳を握りしめる大尉。

 

「聞いたな。要塞に潜入するぞ、内部協力者との無線は常時オープンにしておけ」

 

 

 

戦車の残骸を避けながら橋を通過し、車内の緊張が高まる。

 

 

「そろそろ降りるぞ、準備しろ」

 

 

 

道の端に車両を停め、周囲を警戒しながら要塞へと向かう兵士達の前方にひとりの男が現れた。

 

「大尉、前方に間男を発け――――」

 

「待て。………“暗闇の中で!”」

 

 

大尉が大声で発した言葉に向こうが頷き、『光が射すのを待つ!』と応える。

 

 

 

「内部協力者だ、撃つな」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

要塞の裏口から入り込む兵士達。その前方で内部協力者のひとりが周囲を警戒しながら先導する。

 

 

「この建物の中だ……今、何人かが警備にあたっている筈だ、素早くやらないと潜入に気付かれる」

 

 

「わかった、さっき貰った建物内部のマップデータによれば地下5階……だな?」

 

大尉が確認するような口調で尋ねる。

 

 

「ああ。幸運を祈る」

 

 

技術兵がセキュリティシステムをハッキングし、警報システムを無力化した事を告げると大尉の両眼がMCUガスマスク越しに地下へと続く階段を睨みつけた。

 

「これより突入する。武器を構えろ」

 

 

部下達の準備が終わったのを確認し、大尉の口から号令が放たれる。

 

「奴らに慈悲は一切無用だ、いいな。……突入!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「純愛保護のお時間だ!!!」

 

 

「〇ね間男!」

 

 

 

兵士達が容赦なく火器をぶっ放し、犯罪組織の戦闘員達が次々となぎ倒されていく。

 

 

「奴ら、バリケードに逃げていきます!」

 

そのバリケードで戦闘員が軽機関銃をセットしようとするが、ミニガンで武装した重装兵が得物を構える。

 

 

「〇ねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

圧倒的な発射速度で大量の7.62mm弾を撃ち込まれ、僅か数秒で粉砕されるバリケード。

 

 

 

 

「よし、これで最後か!」

 

それでも警戒を怠らず、女性たちが囚われているエリアの扉を潜る大尉。

 

 

 

やがて独房の扉が並ぶ廊下に辿り着き、部下達がスペアキーで次々と独房の扉を開けていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

いきなり扉が開けられ、身構えるアリシア。

 

 

突如として現れた兵士の表情はMCUガスマスクに覆われて見えなかったが、悪意は感じられない。

 

「助けに来た。名前は?」

 

 

「アリシア。アリシア・ロレンソ・マレス……」

 

すると兵士が「大尉!居ました!」と大声で上官らしき人物を呼び、やがてそれらしき男が現れた。

 

 

 

「良かったな、無事だぞ」

 

大尉が後ろの方を向くと、そこには忘れられない顔があった。

 

 

 

「――――――――エリアス?」

 

「アリシア!」

 

 

驚きのあまり唖然とするアリシアとは対照的に嬉しさのあまり目に涙を浮かべるラミレス中尉。

 

「良かった、アリシア……無事で」

 

 

 

そこに申し訳なさそうに割り込んだ大尉が脱出を促す。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

エスペランサ共和国陸軍基地

 

 

『こちら救出部隊!人質を救出し、内部協力者共々要塞からの離脱を完了しました!』

 

 

 

通信機から聞こえてくる声に喜びが滲んでいるのを確かめた指揮官は満足げに頷き、そして横目でオペレーターを見やった。

 

「予定通り要塞制圧戦に移行する――――ここからが本番だ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

要塞・飛行場

 

 

 

地対空ミサイルを搭載したジープの運転席で戦闘員が電子タバコを咥える。

 

「ったく、相変わらずやかましいな」

 

 

輸送機のエンジン音で昼寝も出来やしない――――そんないつも通りの愚痴をこぼした瞬間、いきなり地平線から複数の大型機が現れた。

 

 

「!?」

 

 

 

そして彼は一瞬で理解した。

 

「防空システムの目から逃れる為に山肌ギリギリの低空飛行でここまで飛んできたっていうのか!?」

 

 

 

(だがしかし、何の為に――――?防空網の目を潜り抜けられたとしてもあの高度では爆撃もミサイル発射も出来んぞ?)

 

しかし大型機の後方にある扉が開放された瞬間、答えは示された。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

漆黒の輸送機からLAPES方式で投下されたT-90戦車の砲口が地対空ミサイルを睨み、片っ端から砲撃で粉砕していく。

 

 

その先頭をゆく車両に乗り込んだ指揮官が戦況マップを確認し満足げに頷く。

 

「順調だな、防空網を片付けたら後方に控えている空挺部隊に連絡だ!」

 

 

 

飛行場に戦車砲の轟音が響き渡っていく――――

 

 

 

 




如何でしたか?


次回はいよいよエンリケスへの制裁タイムです。しかし呆気なくやられるのは面白くないと思いますのでド派手にやります。お楽しみに!

最後に今回のラストあたりに登場した輸送機の簡単な設定を紹介したいと思います。それでは、また次回!




【オリジナル設定】


・IL-300

東側の輸送機メーカーを中心にインドをはじめ複数の航空機メーカーが共同で開発した超大型輸送機で主力戦車を輸送する事も可能。

主力戦車をLAPES方式で投下できるように設計されており、POCUではこれを活かした奇襲が有効かどうかをテストしている。

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