プロジェクト・オーダーとの衝突が避けられなくなり、その準備に追われるPOCU司令官。
激務に追われる彼に副官のリー・ベクターが出した提案は意外なものだった。
POCU本部に次々と入っては荷物を下すトラック。その様子を本部ビルの高層階から見下ろす司令官。
「AAP(Allied and Associated Powers)およびその友好国家から提供された弾薬のリストです」
リストを受け取り、しばし目を通したのち頷いた司令官は手に持ったものをリーに返し再び下を見下ろした。
そんな彼の厳しい横顔を見たリーは何かを考えるような表情になった――――
――――――――――――――――――――――
――――数日後
「…………え?」
タブレットで今日の予定を確認した司令官が何も書かれていないスケジュール表に唖然となる。
「リー、これは一体?」
困惑した表情を見せる司令官とは対照的にリーは笑顔だ。
「司令官。ここの所、働きづめだったでしょう?優秀かつ信頼できる事務スタッフを他組織から引き抜き採用して司令官の決裁が不要、あるいは比較的重要度が低く代理の者に司令官の名義を貸しても問題なさそうな業務は彼らに任せる形にしました」
唖然となった司令官の腕を取るリー。
「そうと決まれば、さっそく息抜きしましょうか」
――――――――――――――――
外の新鮮な空気を久々に吸いながら緑あふれる都市公園内を歩くふたり。
司令官は執務室で書類の山を片付け、疲れたらシャワーしてベットで眠る日々が続き、余暇もトレーニングで潰していた事もあって自分がいかに狭苦しい世界に閉じこもっていたかを実感していた。
「たまには良いものだな」
そんな呟きを聞き逃さなかったリーが嬉しそうに笑う。
「あそこの屋台でホットドッグ売ってますよ!買ってきますね」
思春期の少女のような快活さを見せながら屋台に走っていくリーの笑顔がやけに眩しい――――司令官はそんな感想を抱くのだった。
良質な小麦を使ったフカフカのパンに、腸に上等な挽肉を目いっぱい詰め込んだプリプリ食感のウインナーを挟み、そこにケチャップとマスタードをかけたシンプルなホットドッグを一口かじると、やわらかいパンの食感に交じってウインナーの弾力感と弾ける肉汁、ケチャップの酸味とマスタードの辛味が合わさって懐かしい味が広がっていく。
「…………美味いな」
「いつも栄養バーとドリンクで済ませてるでしょう?こういうのもっと食べないと」
そう言いながら紙ナプキンで司令官の口元を撫でるリー。
「ああ、すまんな」
想像以上にリーに苦労をかけているようだ――――自らの視界の狭さを痛感する司令官だった。
「司令官、勘違いしないでくださいね?」
いきなりそう言われ、目をぱちくりさせる司令官。
「苦労しているのはむしろ司令官の方でしょう?司令官が息抜きしてくれないとこっちが不安になりますよ」
思ったよりお見通しか――――そんな事を考えていると、リーが頬を膨らませた。
「司令官の事はそれなりに知っていますけど、ちゃんと言葉にしてくれないと伝わらない事もありますからね?」
「それもそうだな――――場所を移したいがいいか?」
――――――――――――――――――
芝生の上に腰を下ろしたリー。その隣には芝生に寝転がる司令官。
顔を見上げると、いつもは自分より目線が低いリーが大きな存在に見えてくる。
「――――今まで俺が屠ってきた敵は、自分さえ良ければ他者はどうなっても構わないという外道ばかりだった」
自分でも驚くほど弱々しい声だ。
「だが、プロジェクト・オーダーはそういった敵とは違う。やり方こそ決して相容れないものだが強者が力に物を言わせて弱者を好き勝手にいたぶる事を絶対に認めない、そういう外道を消し去る、という本物の信念がある――――本物の信念が人をどれだけ強くするかは君も見てきただろう?」
リーは司令官を責めもせず、憐れむこともせず、優しい眼差しで見つめてくる。
「かなり厳しい戦いになるだろう。POCUに犠牲者が出てもおかしくはない」
強い責任感の裏に隠し持っていた不安が露わになる――――
と、その時だった。リーの手が司令官の手に重なったのは。
「それでいいんですよ、司令官。あなたは決して部下をゲームの駒扱いしない人ですから」
身体を抱きしめられているかのような安らぎが胸に広がる――――
――――争う声が聞こえてくる。
「――――ん?」
――――――――――――――――
「なあ、遊ぼうぜ?」
大柄なチンピラが数人、学校の制服を着た少女ふたりを取り囲む。
「私たち、用事があるんです。通してください!」
凛とした表情で明確に拒絶の意思を示す少女。
「身の程を弁えろよ?雌の分際で偉そうにモノを言いやがって。黙って従ってりゃいいんだよ」
そう言いながらチンピラが少女の襟首を掴みナイフを取り出した次の瞬間、チンピラの頭を銃弾が貫通した。
「身の程を弁えろ。獣欲を満たす事しか頭にない豚如きが人間扱いされるなどと思うな」
拳銃を構えたまま冷たい声でそう告げる司令官。
――――絶叫と共に走り去るチンピラを一瞥し、少女ふたりの方を向く司令官。
「大変だったな。手遅れにならなくて良かった」
少女たちの安堵した表情――――そこに自らの戦う意味を改めて見出した司令官の表情に迷いはなかった。
感謝の言葉を残して去っていった少女の背中を見つめながら自然と言葉が出てくる。
「黙って従ってりゃいい――――か。クソくらえだね」
先日対峙したサミュエル・テーヌへの怒りを新たにするその表情にリーも安堵した表情を見せる。
「もう迷わなくてもいいみたいですね、司令官」
――――――――――――――――――――
日もすっかり暮れ、ライトアップした公園を歩くふたり。
先ほどから言葉を交わしていないが、自らを見上げるリーが少女のような表情を見せてくれるのが嬉しくもあり照れくさくもある。
と、その時。
前後に不穏な気配がする――――見回すと、先ほどのチンピラの生き残りが大勢の仲間を引き連れてやってきたようだ。
「――――司令官!」
「ああ、ゴミはきっちり片付けるぞ!」
リーが差し出してきたマシンピストルを手にして構え、背中を向けあう。
「後ろは任せろ、リー」
「司令官の背中は私が守ります」
――――次の瞬間、銃声と共に次々となぎ倒されていくチンピラ。
果敢にもバットを振り上げて突っ込んでくる者も居たが、毎分600発の火力はそんな蛮勇すらも容易く捻じり伏せてしまう――――
その時、あと一人という所で弾が切れてしまう――――!
「司令官、しゃがんで!」
予備マガジンを投げてよこしながらこちらに銃を構えたリーの意図に気付き、しゃがんで射線を空けると同時に司令官に襲い掛かろうとしていたチンピラの頭が爆ぜる。
「リー!よけろ!」
マガジンチェンジした銃を向け、リーがよけた向こう側のチンピラに全弾ぶちこむ司令官。
「――――これで全部のようだな」
周囲に広がる血だまりと大量の死体を見回しながら訪ねる司令官に『はい』と答えるリー。
「最後の最後に散々な1日になりましたね?」
笑いながら肩をすくめるリーにつられて笑顔になる。
「まあ、刺激的な1日だったな」
如何でしたか?ずっと司令官がリーに甘える形にしようかと思いましたが、互いに信頼しあっているパートナーとしての雰囲気も出してみたかったのでこういうオチになりました。
またデート回は書くつもりですので、その時は今回とはまた違った感じにしてみようと思います。