いよいよエンリケスの要塞を制圧し始めるが――――
20XX年Y月某日 中東:ティエラ・ジ・エスペランサ共和国・山岳エリア
要塞を難攻不落の城たらしめた強力な防空システムを構成するミサイル発射機や防空レーダーが片っ端から戦車砲弾を撃ち込まれ木端微塵に爆散する。
強力な機甲戦力に攻め込まれる事を全く想定していなかった要塞の防衛部隊は漆黒のT-90戦車に悉く駆逐され、既に壊滅していた。
「ほとんど片付いたようだな、掃除を済ませたら空挺部隊に知らせるぞ」
戦車部隊の指揮官が満足げにそう言った瞬間、轟音と共に戦闘機が上昇していった。
「………は!?」
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数分前 要塞地下・極秘エリア
「そうか、既に地上の滑走路は制圧された…か。まさかコイツを使う日が来るとはな」
共和国内で「悪魔」と呼ばれ恐れられる男、サバス・ブエノ・エンリケスは飛行服に身を包んだ姿で大型の戦闘機――――ミグ31を見上げていた。
「マッハ2.8で逃走するコイツに追いつける戦闘機などそうそうあるものではない。あったとしても奴らは持っていまいよ」
「バカンス先」では部下が既に「別荘」の準備および海外資産の一部現金化を進めていることだろう。
前席で準備していたパイロットが搭乗を促す。
「コイツを飛ばす為だけに山を掘ってトンネル式滑走路を作ったのは正解だった」
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猛スピードで上昇し要塞から離れていくミグの姿に数秒ほど唖然となった指揮官の表情がハッと我に返ったように動き始める。
「こちらランサー、要塞から逃走する機体あり!地上とは別の滑走路を利用した模様、チラッと見ただけだがアレはおそらくミグ31だ」
その知らせに『組織』本部のオペレーターが顔色を変えて振り向くが、司令官は顔色ひとつ変えずモニターを見ていた。
「狼狽えるな、逃走ルートは概ね予測した通りだ。アラビア海に展開している艦隊に連絡。切り札を使うぞ」
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アラビア海 駆逐艦ズムウォルト級
白波をたてながら航行する最新鋭駆逐艦の要となるレールガン、その砲口は遥か彼方の目標を睨んでいた。
ズムウォルト級:CIC
「向こうの軍から送られてくるデータに異常はないようです」
副長が艦長に報告する。
「うむ、彼らはエンリケスとの間で逃走中の際に領土および領空を通過する間、手を出さないという密約を結んでいたようだが、問題あるまい。手を出すのは彼らではないのだからな」
一呼吸おいて艦長の口から命令が発せられる。
「レールガン発射用意!状況を報告せよ」
「データリンク、異常無し!」
「レールガン砲身、異常無し!」
「特殊弾体、装填完了!」
「電力、チャージ完了!」
オペレーター達から次々と報告が入る。
「よし……レールガン、発射!」
「レールガン、発射!」
砲口から雷の尾を引きながら砲弾が弾き飛ばされ、遥か彼方へ消えていく。
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要塞を脱出し機首を西へと向けたミグのエンジンがひときわ大きく唸る。
「結局、追撃してくる戦闘機はいなかったな。追い付けずに悔し泣きする奴らの顔が見たかったが残念だ」
後席で高笑いするエンリケスに前席のパイロットも思わず笑いだす。
「ええ、ボス。連中は想像以上に腰抜けだったようです。……お、レーダー波を照射されていますな」
パイロットの声に緊張感が無いのもそのはず、普段から『逃走ルート』上の国の役人にドル束を握らせてきた見返りが今まさに履行されているのだ。
「まあ、見なかったフリをする約束とはいえ全く仕事しない訳にはいかんだろうよ。ポーズだと思って無視してよかろう」
――――――――次の瞬間。
すぐそばで巨大な爆発が起こり、火球がミグの機体を呑み込む。
エンリケスの声にならない絶叫は彼の肉体ごと炎に飲まれて消滅した――――
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アラビア海 駆逐艦ズムウォルト級・CIC
「現地のレーダー部隊より連絡、新型の超長距離空域制圧弾は目標に命中した模様!」
オペレーターの報告にCIC内の士官達が歓声をあげる。
「航空機に直接、砲弾やその破片を当てるのではなく広範囲の爆発に巻き込む…………上手くいくとは」
副長が驚きを隠せない表情で呟く中、艦長は満足げに頷いていた。
「友軍レーダーの情報があったとはいえ、遥か彼方の標的を一発で仕留めるとはな。砲術長、よくやった」
大仕事を終え、緊張の汗で濡れたキャップを脱いだ砲術長の肩に艦長の手が置かれる。
「今夜は食堂で手羽先大盛セットを奢ってやる」
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数日後 エスペランサ共和国 高級ホテル
上等なスーツやドレスに身を包んだ客が見守る中、ステージで中東の伝統的な踊り子の衣装に身を包んだアリシアが華麗に舞う。
その美しい舞に客席から大きな拍手が響き渡る。
舞台裏の楽屋に戻り、タオルで顔の汗を拭うアリシア。
「良かったよ、アリシア」
楽屋の入り口に立つ軍服姿の男――――ラミレス中尉。
バルコニーに出たふたりの頭上で満月が美しく輝く。
「楽屋まで来るなんて珍しいじゃない、エリアス。どうしたの?」
「ああ…暫くこの国を離れることになってね。ちゃんと話しておこうと思ったんだ」
その表情は寂しげでありながらも、固い決意が見て取れた。
「僕はまだ弱い。だから、もっと強くなる為に外国に留学する事にしたんだ」
バルコニーの手すりに置かれたラミレスの手にアリシアのそれが重なる。
「留学が終わるまでずっと向こうに?」
「いや、年に1回くらいは休暇を取って戻ってくるよ」
次の瞬間、ラミレスの身体を細い腕が包み込んだ。
「絶対に会いに来てよ?」
「もちろん」
ふたりは額を重ね、今ある幸せを噛み締めるのだった。
――――――――――――――――
――――数年後 組織の基地
司令官用オフィスの壁に掛けられたコルクボードに固定された幾つかの写真。
その中には、青く輝く海を背景に誓いの口づけを交わすラミレスとアリシアを写したモノがあった。
「構わん、やれ。間男に遠慮は要らん」
インカムで現場に指示を飛ばしていた司令官がボードの前で立ち止まり、しばしそれを見つめる。
結婚式を写した一枚の隣には新しい命を迎えて幸せそうに笑うふたりの一枚が並んでいる。
――――――――よく、言われる。金も名誉も欲しない我々は一体何の為に戦っているのか、と。
「――――――――誰もがこのような笑顔で居られる、そんな世の中にする。それだけで危険を冒すに値するさ」
彼らは今日も何処かで闘っている。
己の汚らわしい欲で愛を破壊し引き裂こうとする悪を討つべく。
愛し愛される喜びと幸せに満たされた日々を送る人々の平穏を終わらせない為に。
彼らの名はPure Love Protection Organization Combat Unit 、又の名をPOCU――――純愛保護機構戦闘部隊という。
如何だったでしょうか?
原作のコミカルなPOCUをちょっと違う側面から、イメージを壊さずに彼らの物語を描く事が出来ていたら幸いです。
エスペランサ共和国での物語はこれで終わりになりますが、また新しい物語を描いていけたらと思います。
最後に、作品を貸してくださったベナトルさんに感謝の意を表します。
それでは、また新しい物語でお会いしましょう。