世界的な犯罪組織『ポーリュプス』の裏で暗躍していた傭兵連合およびセントラル銀行、更にはそれの元締めであるメルセナリ財団。
それらの情報と繋ぎ合わせる事で浮かび上がってくる『ポーリュプス』の名に隠された真の意味。
その真相に気づくPOCU、そしてプロジェクト・オーダー。そこから導き出される決断とは――――
――――某所:プロジェクト・オーダー拠点
「ポーリュプス内部で意思決定の痕跡が無いだと?」
プロジェクト・オーダーを統括する責任者であるサミュエル・テーヌは部下からの報告に思わず声を上げる。
「はい。内部の協力者によれば幹部クラスと思しき人間は数人ほど特定できているものの、会議の類は行っていないようです。あれだけの巨大組織でそれは考えられない事です。意思決定は外部で行われ、ポーリュプスはそれをただ実行しているだけとしか」
そこでテーヌはポーリュプスの名を改めて頭の中で唱える。
『ラテン語でタコ……ポーリュプスという組織そのものがいつでも切り捨てられるタコの足という事か………!』
一体何のために――――そこまで思考し、即座に結論に至る。
――――――――我々は消耗させられた。
そう口にするテーヌに周りの部下たちが一体どういう事なのかと問う目をする。
「ポーリュプスを創設し、裏から操る勢力の目的は自分たちを脅かす勢力を消耗させる事にある。事実、我々はポーリュプスを討たんとして数多くの戦力を投じたがその度に多大な出血を強いられた。POCUとの衝突も含めてな」
――――もっとも我々が過激な手段に訴えた事を考えれば無理もないが
そこまで言い、しばし息をつくテーヌ。
「今回の件は統括責任者たる私の失態だ。希望する者には退職金を支給の上、組織から離脱する事を許可すると通達せよ。私は責任者として然るべき責任を取る」
――――――――――――――――
ミストルテ国・POCU本部
「ポーリュプスの残存する偽装船は各国軍により制圧された模様です。そこから得られた情報を元に地上の拠点も順次撃破されているとの連絡が」
ベクターの報告を聞く司令官。
「――――しかし、ポーリュプスの保有戦力リストと照らし合わせた所、まだ大規模な戦力がどこかに隠れているとの事です」
厄介だな――――司令官がそう漏らすのと同時にベクターのタブレットが鳴った。
「――――司令官、極東無政府地区……ユーラシア大陸最東端のデジニョフ岬付近においてプロジェクト・オーダーの航空部隊が北に向けて飛行しているとの情報を得ました」
「何、次はどこを攻撃するつもりだ?」
その問いにベクターはやや困惑した表情を浮かべる。
「それが…特定の目標を攻撃する意図が感じられないそうです。このような事は初めてです」
――――――――――――――――
――――数時間前
某所:プロジェクト・オーダー拠点
組織からの離脱を希望せず共に戦うと表明した将校のひとりがPOCUと刺し違える事を口にしたが、テーヌはそれを窘め周囲を見回した。
「我らの目的はあくまでも私利私欲の為に罪を犯す者、そしてそれを見てなお動かぬ各国の指導者、その支持者の駆逐にある。それは全て、罪なき民が安寧を得る為だ」
そこで一旦言葉を止め、部下たちを見回す。
「今の我々にはもはやその力はない――――その上、POCUと刺し違えでもしたら誰が悪を討つのだ。我々は悪を討つために立ち上がったのであり、決して悪を助ける為ではない」
――――現在
デジニョフ岬上空:プロジェクト・オーダー航空部隊
Su-30SMノプロジェクト・オーダー仕様である「スルト」の電子戦ポッドから発信された電波が周辺の地形を舐める。
「――――!9時の方向からミサイル!ブレイクしろ!」
パイロットが味方にそう告げ、チャフ・フレアを撒きながら操縦桿を引く。
――――――――――――――――
ミストルテ国・POCU本部
「プロジェクト・オーダーの航空部隊が極東無政府地区内部から攻撃を受けた?」
報告を聞いた司令官がベクターに確認するように問い直す。
「はい。――――プロジェクト・オーダー側に被害はありませんでした」
続いてプロジェクト・オーダーの航空隊がその攻撃を回避した後はそのまま撤退した事も告げられる。
「一体なんのために――――」
そこまで思考して気付く。プロジェクト・オーダーを攻撃したのはポーリュプス残党だと。そしてプロジェクト・オーダーは何もしなかった訳ではなかったと。
「ベクター、米軍に問い合わせてくれ。“ミサイルが発射された地点”の位置情報だ」
――――――――――――――――
某所:プロジェクト・オーダー拠点
「着陸した機のパイロットおよび基地のスタッフには退職金と新たな身分証を支給の上、最後の命令として機密書類、装備、機材の処分を命じました」
部下のひとりがテーヌに報告する。
「そうか――――ならば我らの役目も終わったな」
「閣下、共に戦えた事を光栄に思います」
フランス軍時代からの付き合いである部下が敬礼するのを見て思わず頬が緩む。
「こちらこそ。私の無茶に付き合ってくれて感謝するよ」
そして、拠点を去る最後のひとりになったテーヌは夕暮れ空を見上げ、POCU司令官の顔を思い浮かべた。
(我が理想を実現する為の試みは悉く潰された。そんなお前たちに対して思うところは多々あるが、もはや我々に力なき今は未来を託すよりほかあるまい――――)
スーツとコートに合わせた色合いの中折れハットを被った彼は解体間近の古びた家を見上げ、そして未練を断ち切るように踵を返して歩を進める。
そして家から十分に離れたところで何らかのスイッチを取り出して押す――――と同時に背後で家が爆発炎上した。
夜の闇が空を覆っていくなか、燃え盛る家を包み込む炎が作り出す自身の影を見下ろすテーヌ。彼が歩を進めるたびに影は揺れ、そして完全な闇の中に吞み込まれていった――――
――――――――――――――――
某所:ホテル内部
スーツ姿の男がスマートフォンでどこかと通話する。
「――――はい。プロジェクト・オーダーは全ての活動を停止し、機密をあらかた処分した模様です。もはや彼らにPOCUを消耗させるピエロ役は期待できないかと」
そして上役らしき相手の言葉に耳を傾ける。
「はい。既にポーリュプスへの支援は打ち切りました。――――ええ、我々メルセナリ財団およびセントラル銀行、傭兵連合の関与が100%確実とされるような決定的証拠になりうるものは処分しました」
その後も何度か言葉を交わし、恭しく頭を下げながら相手が通信を切るのを待ち、通話が切れる音と共にスマートフォンの画面に暗号通信が終了した旨の文言が表示された。
――――ホテルの窓から眼下の夜景を眺める。
「美しい光の中にこそ真の闇が隠れているものさ。POCU、君たちには我々を捕まえる事など永遠に出来はしない」
そう呟く男の表情には嘲笑が浮かんでいた――――
如何でしたか?
次回はいよいよポーリュプス残党との最終決戦が始まります。可能な限り火力を詰め込ませて頂きたいと思います!