君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#10 死柄木弔だな!しっかり覚えたぞ!

 平和の象徴──生ける伝説・オールマイト。

 

 存在そのものがヴィランへの抑止力とされており、日本における数々の事件・事故をその身で解決してきた男。

 

 圧倒的なパワーで名だたる悪たちを成敗し、脅威に晒される市民を救ってたちまち笑顔にする。そんな架空の世界に居るようなオールマイト。

 

 彼の戦う姿に、俺はただただ圧倒されるばかりだった。

 

 放つ拳で空気が裂かれ、踏み出す1歩で大地が震える。脳無も大概だが、オールマイトはそれ以上だ。その類まれなる身体に、途方もないエネルギーが秘められているのだろう。ほとばしる金色のスパークに目を細める。

 

 俺は要らなかったな。ふと、傍にいた相澤先生が呟く。それもそうだ。あんな人を超えた超人の戦いに、ついていける人なんていない。

 

 オールマイトが平和の象徴と呼ばれる所以が、そこにはあった。

 

 天高く突き上げられたオールマイトの右腕に、脳無は天井を突き破って遥か彼方へ飛ばされて行った。土星あたりまで飛んで行ったんじゃないか、アレ。

 

「ふう、300発以上打ってしまった」

 

 ひと仕事を終えたようにそう言ったNo.1の体からは、煙幕のように蒸気が吹き出していた。戦いの余波か?それとも冬に走ったら出てくるやつ?

 

「チッ、やっぱとんでもねぇな」

 

「うお爆豪、いつの間に」

 

 気付いたら横にいた爆豪にビックリする。相手してたヴィラン達を倒してきたのだろう。彼は、戦いに勝利したオールマイトを鋭く睨みつけていた。

 

「超えてやる、いつか必ず」

 

 …爆豪って、こんな顔できるんだ。いつも怒鳴ってばかりで落ち着きのない子犬みたいな奴だけど、根っこの部分はちゃんとヒーローなんだな。

 

「…の、脳無がやられた…?ウソだろ、こんなの予定にないぜ…」

 

 まるで信じられない、といったように手のヴィランは慌てた様子を見せる。その後オールマイトをキッと睨みつけ、忌々しそうに首元をボリボリと掻きむしり始めた。

 

「何が平和の象徴だ。ただの暴力の権化じゃないか」

 

「撤退します。流石に脳無ナシでは我らに勝ち目はありません」

 

「──アイツは!」

 

 突如として現れたのはあのモヤの男。黒い渦を発生させながら冷静な判断を下していた。確かに、プロヒーローやオールマイトが勢揃いしているこの状況で、なお歯向かってくるアホはいないだろう。

 

「くそぅ、まるで良いトコ無しじゃないか!何の為に服まで揃えて、お洒落して外に出たと思ってんだ!骨折り損じゃないか!ムカつくガキは居るし!」

 

「今度は違う通販サイトで購入してみましょう」

 

「そういう話じゃないだろ!」

 

 …ちょいちょい思ってたけど、緊張感のない奴らだな。やってることはちゃんとヴィランなのに、会話や雰囲気が抜けてるというか。

 

「チッ、こんな体たらくじゃ先生になんて言われるか…!お説教だけは御免だからな…!──黒霧!帰るぞ、ゲート!」

 

「はっ!」

 

 黒霧──そう呼ばれた男は、手のヴィランの指示に従い自身の体をブラックホールのように変化させた。今回侵入してきた時と同じ様相だ。ゲート、とか言ったな。場所と場所を繋ぐ個性か?

 

「やいヒーロー共、今度はこんなもんじゃ済まさないからな!次会う時は覚悟しとけ!もっと酷い目に遭わせてやるかんな!」

 

「ド、ド三流の吐くセリフじゃねーか…」

 

「あっ、てめこのクソ超能力者!今なんつった!?お前だけは許さねーからな!顔と名前は覚えたぞ!」

 

 そして俺を指さし声を張り上げる。なんだろう、この小物臭は。何があってもアイツには負ける気がしない。

 

 そうだ、ヴィランが消える前に聞かなくちゃいけない事があるんだった。痛む体に無理を言わせて立ち上がる。

 

「キテレツ野郎、オマエ名前はなんて言うんだ?」

 

「あ?誰が言うかバーカ!プライバシーの侵害だぞ!」

 

「死柄木弔、アナタいつになったらくぐるんです!?」

 

「死柄木弔だな!しっかり覚えたぞ!」

 

「ばっ!黒霧テメーなにしてんだ!」

 

 死柄木弔…ね。変な名前だな。絶対忘れないように心に刻んでおこう。

 

 そしたらSNSで検索して特定してやろう。ツッタカターとかやってないかな、やってたら色々と面白そうだ。

 

 その言葉を最後に、2人のヴィランは消えていった。死柄木弔と黒霧、しばらくは奴らの話題で持ち切りになりそうだ。あの天下の雄英に侵入してきたんだからな、警察やメディアも黙っちゃいないだろう。

 

 何はともあれ──、

 

「一件落着…てとこ…かな…?」

 

「──ッ!?愛生!」

 

 相澤先生の俺の名を呼ぶ声を最後に、視界が真っ暗になった。

 

 体、思ってたより疲れてたみたいだな。

 

 

 〇

 

 

 

 

「知ってる天井だ」

 

 次に目を覚ましたら、そこは保健室のベッドの上だった。オレンジ色に染められた室内に、そよ風が優しくカーテンを揺らす。時間的には放課後かな?随分長い間眠っていたみたいだ。

 

「千晴、起きたのか?」

 

 そこに聞こえてくる声が1つ。それは耳に入ってくるだけで幸せになれる、神が与えたエンジェルボイス。ベッドの脇に目を向けると、そこにはマイハニー拳藤一佳の姿があった。

 

「なんだ嫁か」

 

「いつも通りで安心したよ」

 

 やれやれと言わんばかりに、一佳は軽く微笑んだ。

 

 USJへのヴィラン襲撃、敵の親玉的存在である"死柄木弔"が黒霧に包まれて姿を消したところまでは覚えている。どうやらそこで意識が途絶えたようだ。

 

 俺は体を起こして、一佳と目線を合わせた。

 

「A組の皆のこと、何か聞いてる?」

 

「人の心配するよりも、自分の心配しなよ」

 

「と言うと?」

 

「アンタ以外みんな平気だってこと」

 

 一佳が俺の頭を指さす。なんだ?もしかして俺の頭が悪いってことを言いたいのか?そりゃ否定はしないけどさ。

 

 触ってみると、包帯が巻かれていることに気が付く。そういえば、頭のどっかを切って血が出てたな。にしても、大袈裟な気もするが。リカバリーガールのばあさんが処置してくれたのだろう。

 

 ビュオオと一際強い風が吹いた。室内に舞い込んだ突風は、傍に座る一佳の長髪を揺らす。ふと、髪に隠れた一佳の表情が悲しげなものに変わったことに気が付く。

 

「授業中にさ、マイク先生が飛び出して行ったんだ。A組がヤバい、それだけ私たちに言い残して。ヴィランが侵入して来て、A組の奴らが戦ってるって聞いた時から予想はしてたんだ」

 

 静かな声色で、一佳は続ける。俺はただ黙って耳を傾けていた。

 

「千晴はふざけてる時が多いけど、いざって時は誰よりも他人思いになるから。自分の事よりも皆の事を優先しちゃうんだよな。それが分かってたから、それなりに覚悟はしてたつもりだったけど…」

 

 語尾が震えている。そんな気がした。

 

「あんまり無茶しないでよ。心配してたんだよ、私」

 

 一佳の手が、俺の手に触れられる。そのままギュッと弱々しく握られた。

 

 ヒーローとは、誰かの為に自分の身を犠牲にする者のこと。それが本質なんだってずっと思っていた。

 

 前に一佳に聞いた事がある。皆を守るヒーローの事を、いったい誰が守ってくれるのか?って。

 

 皆を助ける一佳を助ける。それが俺の雄英に入った理由だ。だけど、今日のオールマイトの姿を見て思い出してしまった。幼い頃の記憶を。テレビの向こう側にいる存在に、どうしようもなく目を輝かせていた日の自分を。

 

 俺も、皆を助けるヒーローに憧れていたんだ。

 

 オールマイトがいる安心感。絶対何とかしてくれるという信頼感。そして、本当に事を成し遂げてしまえる強さ。ヒーローに必要な素質を全て持っている男の背中が、俺の目には焼き付いてしまった。

 

 一佳の為の力だった。一佳の隣にいるための強さだった。だけど、俺は今日思った。

 

 俺に宿った個性(ちから)で、沢山の人々を救いたいと。

 

「ごめんな一佳、心配ばっかかけちゃって」

 

 そう思ったなら、今日がスタートラインだ。根っこの部分はブレちゃいけない。

 

「思い出したんだ、一佳を守るためにどうしたら良いのかを。その答えはずっと近くにあった。俺さ、強くなるから!今よりもっと強くなって、皆を笑顔にできるヒーローになって──」

 

 零れ落ちかけた一佳の涙の雫を指で拭う。一佳にこんな顔させちゃいけない。涙なんて流させちゃいけないんだ。

 

 そのまま俺は、彼女の頭を自分の胸に抱き寄せた。

 

「いつかお前に相応しい男になるから」

 

 これは決意だ。自分自身にそう言い聞かせる。

 

 理想と現実に差があるのは当たり前だ。それを埋めていくのが、生きていくってことなんだ。

 

 道のりは険しいかもしれないし、苦しいかもしれない。心が折れて逃げ出したくなる日が来るかもしれない。だけど、その度に歯を食いしばって立ち上がるんだ。ヒーローを目指す者ならば。

 

「私も…私も頑張るよ。同じ夢を持ってるんだから…」

 

 腕の中で一佳がそう言った。

 

 この日からだ。俺の心に明確な目標が掲げられたのは。

 

 そして一佳との約束だ。

 

 これを俺の原点(オリジン)としよう。

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 薄暗い部屋。カーテンは閉め切られ外の光は一切遮断されたその部屋で、1人の男がパソコンの画面に向かっていた。

 

「あ〜くそ…アイツぜってー許さねえ…雄英のクソ1年坊主…」

 

 首をボリボリと掻きむしりながらマウスをカチカチするのは、ヴィラン連合所属の死柄木(しがらき) (とむら)だ。

 

 死柄木は今、自身のファッションセンスを磨くために、インターネットであらゆるサイトを物色していた。

 

「あ〜JKにモテてぇなぁ」

 

 死柄木の信念は固い。

 

「チッ、まずは今回の服装の反省からだな。何がいけなかったのか冷静に分析しねーと…ん?ツッタカターに通知が来ているな…」

 

 ツッタカターとは、SNSの1種である。自由なことを呟いたり、写真を投稿したりして世界中の人たちに情報を発信することができるのだ。彼は、死柄木弔という名前そのままで登録をしている。

 

 死柄木弔は、それを用いて自身のファッションを世間に公開しているのである。ちなみに、彼のフォロワーの数は現在4人である。

 

「なかなかフォロワー増えねえんだよな。おかしい、オシャレなやつはSNSでバズるって聞いてたのに…。バズるの意味しらねーけど…。──それは良いとして、DMが来てる…どれどれ?"ハルちー@ファッションマスター"?誰だコイツ」

 

 死柄木の元には、こんなメッセージが届いていた。

 

 

 

 初めまして、死柄木さん!

 ファッションマスターのハルちーです!

 死柄木さんの投稿された写真を拝見しました!

 正直痺れました!オシャレすぎます!

 

 

 

「くふふ、そらみたことか。分かるやつには分かるんだよ。まだ続きがあるな」

 

 

 

 それでよろしければなんですけど、死柄木さんのファッションに磨きをかけるために、メッセージのやり取りをするなんていかがでしょう?

 死柄木さん、スタイルも良いですし顔もカッコイイです!

 ファッションマスターの私に任せていただければ、国内どころか世界に注目されるようになりますよ!

 悪い話ではないと思いますが、いかがでしょう?

 

 

 

「コイツ見る目があるな。素材の良さを見抜いてきやがったか。しかもファッションマスター…めちゃめちゃオシャレに詳しそうだ」

 

 死柄木弔は、単純な言葉に弱い。

 

「乗った。『よろしく頼む』…と。──と、もう返事がきやがった。どんだけ俺に惚れ込んでるんだハルちー」

 

 

 ありがとうございます!

 それでしたら、今後流行りそうなものや、死柄木さんにピッタリなファッションの情報を共有させていただきたいと思います!

 また、何かファッションで困ったことがあればいつでもご連絡ください!

 あなたには、ファッションマスターがついてます!

 

 

 

「頼もしいサイドキックが出来た気分だ。ファッションマスターか…俺とこいつがいれば、世間でチヤホヤされるようになるかもなぁ…。そしたら夏までに彼女もできて、海や浴衣デートにも…くひひ…ひひひ…。人生バラ色、これが俺の原点(オリジン)だぁ…!」

 

 薄暗い部屋で、死柄木の笑い声が響いていた。

 

 彼の挑戦は、まだまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 

 




ハルちー@ファッションマスター①
・SNSに彗星の如く現れたオシャレ伝道師。死柄木弔に目をつけ彼のセンスの是正を行っていく。その正体は…?
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