遂に100話となってしまいました!
いつもコメントや評価をしてくださる皆様、ありがとうございます!
まだ私が5歳の時に、初めて愛生千晴という男に会った。
何の変哲もない町の中の小さな公園、夏の陽射しに嫌気が差して涼しい場所を求めた結果、行き着いたのは大きな木の下の木陰になっていた場所だった。
汗ばむ体とベタつく衣服に嫌気が差していた。夏は好きだが汗をかくのは好きではない。到底相容れない2つの現象に辟易していたのを覚えている。
違和感。誰かがこちらに視線を投げているのが感じられた。そして、それはすぐ近くから注がれているものだとわかった。
バッと自分の右側に顔を向ける。そこに居たのは、同い年くらいの男の子。私の顔をじーっと無言で見つめている。
不意にそいつが立ち上がった。何かされる…!そう思って身構えた次の瞬間、発せられた言葉に私は度肝を抜かれることになった。
「好きです!!」
それが全ての始まり。
愛生千晴と拳藤一佳の出会いだった──。
○
実は家が近所だということを知ったのは、毎日のように千晴が公園で声をかけてくるようになってからだった。
幼稚園児の遊び場なんて家か近くの公園くらいしかない。私がそこに行くと大体千晴も居た。
辛うじて幼稚園は別の所に通っていたけども、家が近いという事は小学校区も同じだという事。必然的に私達は入学式で顔を合わせることになった。
小学校の入学から義務教育の終了する15歳まで、こいつとは絡み続けるのだと理由の無い確信が私の中に芽生えた。
『個性』──、現代の殆どの人の中に刻まれる異能。人によって能力は異なり、どうしても強い弱いという残酷なランク付けはされていく。
私は私の個性が弱個性だと思っていた。手が大きくなる。それ以上でもそれ以下でも無い。正直落胆した。こんな力で夢見て憧れたヒーローになどなれるのかと。テレビの中の格好良い人達に追いつけるのかと。
私は私の個性が嫌いだった。
それでもって千晴の個性は『超能力』。どこからどう見ても当たりの強個性。空も飛べるし物も浮かせる事が出来るし炎も出せる。インチキだ。1つの個性で何種類もの力を扱えるなんて卑怯だ。何でも出来る個性に生まれたのが羨ましい。
それでもヒーローになりたいという夢は私の中で燃えていて、死に物狂いで努力を重ねた。ヒーローを目指すのであれば雄英が1番良いとされていたから、その高倍率を知ってなお研鑽を続けた。個性伸ばしだけでは無い、普段の学業やいわゆる内申点というのにもフォーカスし、優秀な生徒、ヒーローを目指すだけの器量のある人間になろうとしていた。
思春期。中学生の時が人間1番不安定だと言われていて、様々な想いが交錯する。他人との距離感や大人との別離、難しい時期と言えばそれまでだが、そう納得出来る状況に私は居た。
「なにあの子。点数稼ぎして優等生ぶってんの?」
出る杭は打たれるというか、頑張る姿が目障りだったのか。私はクラスメイトの女子の一部から良い風には思われていなかった。
まぁ…中学時代にはよくある話だ…。それに長続きはしないし…。そう思って真剣には向き合ってはいなかった。いずれ時が解決する問題だと思ったからだ。
「あ、愛生くん…私と付き合ってください…!」
ある日の放課後、教室に忘れ物をして取りに戻っていた時にその言葉が聞こえた。女の子の告白…一世一代の大決断の場に偶然居合わせてしまった。それにいま…愛生って言った…?
…千晴は結構モテる。あの気を遣わなくていい性格がウケるんだろうか。普段はめちゃくちゃ適当だけど、やる時はちゃんとやるギャップというか…。そして、教室の中には千晴と千晴に告白した女の子、その付き添いの3人が居た。あるあるっちゃあるあるだが、好きな子に告白する時に連れを引き連れてくるのは如何なものかと思うけどな…。
それでも、私の心臓はドキドキしていた。当事者でも無いのに、そういう場面を目の当たりにしているという事実が、否応なく私の胸の鼓動を高鳴らせる。
千晴は…千晴はなんて答えるんだろうか…。
「ジブン、婚約予定の人いるんで厳しいっす」
ちなみに予想は的中していた。まぁこう言うだろうとは思っていた。理由は簡単、毎日のようにそのような言葉を言われ続けていたからだ。
千晴の返答にどこかホッとする自分が居た。
「それって拳藤さんのこと?」
「よくご存知で」
「あの子のどこが良いの?」
その言葉にドキッとする。言い方的に嫌味な感じも含まれていた気はするが、自分のことを言われているとなると何故か再び胸の鼓動が早くなってきた。
「どこがって…」
「だって、あんな先生の前でいいツラしてるだけの点数稼ぎ女だよ?」
…女子からの私の評価はこんなもんだ。別に今更言われても大してショックでは無いけど…。それでも、心の奥深くに何か鉛のような物が沈んでいく気はする。
「それにヒーロー志望って周りに言いふらしてるけど、あんな個性じゃなれっこないよ。ただ手が大きくなるだけって…愛生くんみたいに凄い個性が有るならまだしも」
「……」
「それに…私の方が絶対愛生くんを想ってる…!愛生くんを楽しませることが出来ると思う!愛生くんのしたいこと何でもしてあげるし、私の方が拳藤さんより女の子らしいし!私なら、愛生くんをあんな雑には扱わないよ!」
徹底的に私を陥れる発言が続けられた。それを聞いていい気分になんて死んでもならないけど、私への感情がよりクリアになっていった。思春期の女子って想像以上に黒いんだなと、もしかしたら私にも同じような一面が有るのかもしれないと内心少し怖くなる。
「人のこと知りもしないで、あんまテキトーなこと言わない方がいいよ」
「えっ?」
「…!?」
告白してきた子に対して千晴が口を開く。
「あいつは…一佳はいっつも頑張ってんだ。立派なヒーローを目指すには皆の見本にならなきゃって、いつも先頭に立ってたまには汚れ仕事も請け負って。少しでも皆が楽しく学校生活を送れるように努力してんだ」
「そ、そんなの自己満だよ!」
「他の誰かの為に頑張れる。それがあいつなんだ」
「別に頼んでないし!勝手にやって得意げになってるだけでしょ!」
「俺は一佳のそういうところが好きなんだ」
背中を預けていた壁からずり落ち、思わず尻もちを着いてしまう。同時に今までにないくらい心臓が早く動いていた。顔に熱がこもっていくのが分かる。いま私…凄い顔をしている気がする…。
「個性がどうこうじゃない。あいつにはヒーローになる為の器が備わっている。俺なんかよりよっぽど凄いヒーローになるはずさ。夢に向かって頑張る一佳が好きだから、俺は応援してんだ」
キッパリ言い切る千晴。告白した子はもう何も言えないでいた。教室の中の様子は見れないけど、どんな顔をしているかは何となく分かる。きっと色々な感情が混ざり合ってぐちゃぐちゃになっているんだろう。ベクトルは違うけど、私もそうだ。千晴に情緒を乱されている。
「うぅ…!愛生くんのバカっ!!」
「えぇっ!?なんでそんなこというの!?」
やけに大きな声がしたと思うと次の瞬間、女の子が1人教室から飛び出して来た。その後を追いかけるようにもう1人女の子が駆けて行った。付き添いの子か。
…まだ心臓の音は鳴り止まない。むしろどんどん激しくなっていく。いま思うと、こうして千晴の感情を直に叩き込まれることってあんまり無かったなと思う。いつもはもっと軽い感じで言ってくるから、今の発言とのギャップが凄い。
チラリと気付かれないように教室の中を覗き込む。室内に居た千晴は、教室の窓から夕日を眺めていた。
「やれやれ、モテる男は辛いな」
うん通常運転だ。相変わらずの様子に苦笑。
この日のことはずっと覚えている。千晴が私をどう思っているかを知ることが出来た日。そして、そんな千晴の想いに添えるような人間になりたいと思った日。ヒーローを目指す想いが強まった日。最早忘れられない日となった
心のどこかで抱えていた他人への劣等感。口では気にしてないと言っていたけど、本当は悩んでいた女子達との距離感。そういった負の感情を千晴が全て取り払ってくれた。今のままでいいんだと、こんな私でいいんだと、そう強く思わせてくれた。
千晴は私を見てくれている。私の知らない私も見て尊重してくれる。他人に想われることがこんなに幸せなことなんだと教えてくれる。
この日からだったんだろう。千晴の事をより好きになった日は。
千晴の中の私に少しでも近付きたいと思えるようになった日は。
そして、歯止めの効かない想いがより大きく膨らむことになった日。
誰にも渡したくない…ずっと私だけを見ていてほしい…私だけの事をずっと考えていてほしい…。
千晴を独り占めしたいと、心が理解した日。
「言質は取ったから…もう離さないよ…」
夜、千晴の部屋のベッドの中。
隣ですやすやと可愛い寝息をたてる千晴の頬をぷにっとする。
何をしても起きないところは相変わらずのようだった。
「ずっと…ずっと一緒だよ…千晴…」
最愛の幼馴染の胸の中にうずくまる。
ここは私だけの場所だ。誰にも渡す気は無い。
今までも、これからも、ずっと一緒に歩んで行くんだ。
千晴がいるから、私は私でいられる。
あの日くれたあなたの想いが、私の原動力。
私の