「なんか愛生ってさー、こっち戻って来てから雰囲気変わったよねー」
そんな芦戸三奈の言葉に、学生寮の1階に集まっていたA組女子達の視線は愛生千晴に集まる。
ちょうど今、本日のパトロールとヴィラン連合捜索の業務が終わったところだった。お風呂の準備が出来るまで少しばかり時間がかかるようで、その間いつもA組の面々はその日の振り返りなどをしている。
「確かに以前より精悍な顔つきになった気がしますわ」
「パトロール中も凄い真面目だったし、ダツゴクが出てきた時の対処と皆への指示出しも早くて的確だったしね〜」
八百万と耳郎もうんうんと頷いて同意する。
「コスチュームもガラッと変わったよね!公安にオーダーメイドしてもらったらしいよ!なのてく?ってやつが内蔵されてるって言ってた」
「へぇ〜、そうなんや〜」
葉隠と麗日の2人も同様に愛生を眺める。死線をくぐり抜けてきたからか、より一層悪との戦いに身が引き締まっているのは、誰の目から見ても明らかのようだ。
「男の子の成長は早いものよ。うちも弟がいるから」
ゴーグルを外しながら言うのは蛙吹。彼女もまた、身内に男性がいるということでその経験談を皆に話していた。
「知らない間にどんどんおっきくなってくんやね〜」
麗日の視線の先には、別の男子が映り込む。緑色のくせっ毛が特徴的な彼は、いつものように今日あった事をノートにまとめていた。入学時から変わらないその姿に思わず笑みが零れる。
「大人っぽくなっちゃってからに。今日わたし愛生くんに助けてもらった時、ドキッとしちゃったも」
「頼りになる存在だよな〜」
「ええ、少し前までは年相応の方かと思っておりましたのに」
本人の知らないところで評価が上がっている状況である。愛生の変化に女子一同が注目している中、本人とその取り巻きはと言うと。
「おいおめーら、今夜も俺の部屋に集まってスマブラ大会だぞ。今日こそ俺が勝つ」
「やってみろカス。万倍にして返してやっから」
「うん、僕の研究の成果を発揮する時が来たね」
「ハメ技使ってもいいか?」
このところ毎晩行われているゲーム大会へ、その熱意が注がれていた。
○
「にしても全然見つかんねーな、ヴィラン連合」
夜、お風呂とご飯を終えたいつメンでマイルームに集合。コントローラーをポチポチしながらいつもみたいに雑談に興じる。
「仕方ないよ、前の戦いでヒーローの数がめっきり少なくなっちゃったから」
「情けねぇ奴らが消えてせいせいしたわ」
「か、かっちゃん……それオフィシャルの場では言っちゃダメだからね……」
まぁ実際問題そこなんだよな。日本の社会が崩壊したタイミングで、国のヒーロー数がかなり減ったのは事実だ。取り返しのつかない事態になったと、今から元の平和な社会を取り戻すのは不可能だと、諦めてしまったヒーローは多い。
「ちゃっちゃと死柄木とかAFO見つけて、ぶっ飛ばせばいいだけの話なんだよな〜。なぁ轟、何とかしてあなたのお兄ちゃん呼び出せない?お兄ちゃん助けて〜!とか言えば飛んで来たりしないかな?」
「お、名案だな。明日やってみるか」
轟はすぐこう言う。天然なのかアホなのかもはや分からんけど、俺達の提案をすぐ鵜呑みにするんだから。それで荼毘が1人で飛んでこられても困るけどな。確実にボコせる自信があるわ。
「デクん中の初代……だっけか?そいつとキンタマ顔は兄弟なんだろ?遺伝子的なやつで共鳴とかしねーんか?」
爆豪の言葉に出久が唸る。
「前に死柄木が復活した時は、ワンフォーオールを通して伝わってきたけど。流石に所在地までは分かんなかったな。あくまで僕の中にあるのは歴代の魂だからね」
「そんなもんか〜。てかさてかさ、歴代の人たちってどんな感じなの?やっぱ皆オールマイトみたいにマッチョなのか?」
「ああ、別に継承できる人はマッチョ限定という訳じゃ無いよ。僕の場合は培われてきた力が大きくなりすぎたから、筋トレして受け入れる体づくりをしなくちゃいけなかっただけで。女性もいるし……まぁその人はどちらかと言うと逞しい方だけどね」
それから出久によるワンフォーオール歴代継承者の紹介が始まった。それぞれの個性や人柄など、要らんことまで色々と話してくれた。正直途中から聞いてなかった。鼻ほじって爆豪の頭にハナクソ飛ばしたりしてた。
それからまた皆でゲームに勤しむ。ポチポチと飽きもせず。これは恐らくゲームの魔力のせいだ。
「次がヴィランとの最後の戦いになるんだろうな」
ボソッと呟く。
「それが終わったら平和になるのかな〜」
続けて言葉を並べる。
「俺、今度の戦いが終わったら一佳にプロポーズしようと思うんだ」
「おいそこのフラグ建築士、それ以上しゃべんな」
爆豪からティッシュ箱が投げつけられた。なんでだよ、別にいいだろこれくらい。
「もう結婚のことまで考えてんのか。進んでるな愛生は」
「おめーが遅れてんだよ轟焦凍。お前が本気出しゃおなごの1人や2人くらいイチコロだろ」
「轟くんはそういうことしない」
「……と、麗日となんかイイ感じになってる人が言っております。知ってんだよこっちは、ちょくちょく2人で外行ってることをよ。ちなみにこれが証拠写真ね。ほら、この至近距離」
「やめろぉ!!!」
フルカウルを発動させた出久にスマホを取られて、窓から投げ捨てられた!ちゃんと弁償してくれんだろうな!?
「でもね、俺はこうしてお前らと過ごす時間が好きだよ」
「は」
「な」
「急になに?」
「いや言葉の通り」
それ以上でもそれ以下でもない。こうして皆と他愛の無い話をして過ごす日々は、きっとかけがえのないもの財産に変わる。ただそれだけの事だ。
「忘れないよ、俺はお前らのこと。何があってもね」
その言葉に、3人は何も言ってくれなかった。
○
「という訳で、4日後に死柄木達が動き出します」
ぬるっと現れたオールマイトがぬるっとそう言った。また急展開をぶち込んでくるなこのアメリカのおっさんは。いや、今はもうアメリカじゃないな。ホネホネマンだ。
聞くと青山と心操が頑張ってオールフォーワンを欺くことに成功したらしい。詳しいことは俺には伝わってきてないけど、つまり俺は戦いに備えて万全の準備をしておけってことでおけ?この前ナガンに会った時に「お前は結構大事な戦力だ」って言われたのを思い出す。結構ってどういう意味だそれ?
「我々に求められるのは確実な勝利!そのために必要なプランは練ってある!それを今から共有しよう!」
元ナンバーワンが声高々に言い切った。オールマイトは前線ではもう戦えない。だけど、警察と協力していっぱい動いてくれている。オールマイトの姿を見るだけで安心する子も中にはいるだろうから。ただいるだけでそう思わせるなんて、やっぱりこの人は凄い人なんだよな。
回ってきた用紙に目を通し、やっぱりねと内心思う。要約すると、回ってきた用紙には誰と誰がマッチするかとその内容が書かれてあった。敵側の主要な戦力にピックアップして説明すると──。
死柄木VS出久、爆豪、ベストジーニスト、ミルコ諸々のヒーローたち。
荼毘VS轟、その他炎のサイドキッカーズ。
そして、オールフォーワン、ナインVSエンデヴァー、ホークス、レディナガン、そして俺。
ざっとした振り分けはこんな感じだ。トップヒーローが揃ってはいるが、敵の大ボスと個性めちゃ持ってるナインとマッチングだ。ま、ある程度の予想はついてたけど。ボスにはボスを当てる戦法ね、それが勝ち筋だな。
一応こうやって敵を分断させる前に一箇所に集めてから各方面へ分けるようだけど、その時は割と自由に動いていいっぽい。後から黒霧の個性をコピーする予定の物間が、担当の場所へ送ってくれるのだ。あいつ、ここに来て急に存在感を出し始めたな。
ちなみに一佳は市民の避難所で誘導係をするっぽい。それを確認してかなり安心した。大事な人が傷つくのは見たくない
「泥を払う暇は取れました。僕らは雄英高校を出ます」
決戦の日が近付いたという事もあり、雄英組は仮設要塞トロイアという場所へ拠点を移動。狙われている出久や俺と、守るべき人たちが一緒の場所に居るというのも危ない話だからね。急造された簡易施設にお引越しだ。
「寝床さえあれば万事OKよな」
用意されたお部屋は本当に簡素な物であり、1人用のベッドが置かれているのみ。状況も状況だから、布団さえあれば恵まれている方だ。
適当に荷物を下ろし……といっても着替えくらいしか持ってきてないが。ベッドに寝転がる。4日後……4日後か……。その時にようやくヴィラン達と激突する事になる。
『緊張してるのか?』
ふわりと現れたのはアンナチュラル。いつもながら真っ黒な服装で俺を見下ろしている。
『それとも、記憶を失う事が怖いか?』
「どっちかと言うとそっちだな」
度重なる戦闘、特に1人で戦いに赴いていた時期にも個性の副作用はあった。脳に負担をかけるという事で医者には、徐々に記憶が失われていくと言われている。
「流石に人の名前とか印象的な出来事は覚えてるけどさ、あの日こういう話したよな……とか、細かいのはもうね……」
『……』
仕方の無い事だと思う。別に俺の個性にそういう副作用があったと事前に知っていたら、ヒーローを目指していないという訳では無い。副作用あってもなくても、俺は同じ道を歩いていたと言える。
「だから後悔はしたくないんだ。いま俺が感じている事や、伝えたいと思っている事は、ちゃんと皆に話しておきたい。ただそれだけ」
『戦えるのか?全てが終わった後に、何もかもが残らなかったとしても』
覚悟を問われている。ヴィランとの最終決戦に臨む覚悟を。
そんなの答えはとうに決まっている。
「俺は戦うよ。大丈夫、全部を忘れてもまた皆が思い出させてくれるさ」
『……そうか』
そうだ……たとえ記憶が失われたとしても……皆の中には俺という存在が残り続ける。
それでいいんだ……生きてさえいれば、また皆と過ごせる。
また新しい思い出を作り出していけばいいんだから。