遂に決戦の日が来た──。
今一度装備と作戦の確認をして、準備が万端であることを再認識。抜かりや慢心は無い。いま俺達の気持ちは、打倒ヴィラン連合という1つの目標に定まっている。
「デクと金髪の野郎、ヘマしねぇといいが」
「大丈夫だろ、アイツらなら」
「轟ィ……その自信はどっから出てくんだァ……?」
「友達を信じてやれよ」
「チッ……! めでてぇ奴だな……!」
待機場所に一緒にいる轟と爆豪の会話が聞こえる。そう、今回の作戦の始動は出久と青山にかかっている。
2人だけが先行し、AFOと接敵。そこで恐らくAFOはヴィラン連合の面々をその場に呼び寄せるだろうから、それに対抗するように俺達ヒーロー軍もその場に集結。運び手は黒霧の個性をコピーした物間にやってもらう。
その後は分断作戦だ。それぞれのヴィランに対して上手い具合にワープゲートを潜らせ、日本の各地に飛ばす。既に現地にて待っているヒーロー達もいるので、その人たちと挟撃。敵が状況把握をする前に速攻で叩くって戦法さ。
俺はヒーローとヴィランが一堂に会する場に赴き、戦場のコントロールを行う。超能力の個性を使ってヴィラン達をワープゲートに押し込み、作戦通りの場所にヴィラン達を飛ばす助力をする役目だ。敵が何人くらい出てくるかは分かんないけど、やれるだけのことはやってやる。
「……緊張してんのか?」
不意に爆豪からそんな言葉が飛んでくる。その質問に笑みを浮かべながら答えた。
「それが全然なんだな。中学の体育祭で、リレーのアンカーを任された時の方が緊張してたぜ」
「テメーの力……あとどんくらい使えんだ?」
「質問の意図が読めねーんだけど?」
「脳に負担かかってんだろ。そんで使いすぎたら……俺達との記憶が失われてくってやつだよ……」
やけにしおらしく爆豪が言葉を並べる。え、なにこいつ。何の心配してんの?
「はっは〜ん。さてはお前、俺に記憶を失って欲しくないんだな〜。それで脳の負担のこと聞いてきたんだろ〜」
「うっせ」
「記憶を失くして欲しくないから、セーブして戦ってくれってか〜?」
「んなこと言っとらんわ!」
いつものような狂犬スタイルで噛み付いてくるかっちゃん。おいおい、戦いの前に余計な体力使わんでくれよ。
「愛生、俺達はこの戦いに勝つ」
「……? 急に何を言い出すんだ紅白頭くん……?」
凛々しい表情で轟が言った。何か漫画の主人公みたいだな。
「けど、戦いが終わった後に愛生から皆の記憶が失くなってたら、俺は絶対に悲しむ」
「おお、そうかい」
「だから手を抜けとか、緊急事態に陥る前に戦線から離脱してくれとか、そんなことは言わねぇ。俺はお前とずっと友達でいたい。それだけは覚えておいてくれ」
「はいはいオーケー。俺達ズッ友ね」
真面目モードに入った轟の言葉には軽いノリで返す。やめてくれよ、最終決戦前に色んな想いを抱えてますってアピールしてくるの。
……──そんなの言わなくても、同じことを思ってるっつーのに。
「そーいや、幼馴染には言えたんか?」
再びの爆豪の質問。
「ああ、言いたいこと全部伝えてきたさ」
「じゃ、やることは決まってんな」
「もっちのろーん」
目の前に物間が発動させた黒霧の個性、ワープゲートが複数展開される。これを潜れば出久と青山がいる場所に……ヴィラン達が待っている戦場へ飛び出して行くことになる。
ふぅ、と大きく息をつく。雄英に入ってから沢山の経験を積んできた。辛いことや悲しいこともあった。それらを乗り越えて、いま俺はここに立っている。
「死ぬんじゃねーぞ、2人とも」
「ああ」
「ったりめーだろ」
その言葉にうっすらと笑みを浮かべる。
さあ、これが最後の戦いだ。
俺達は黒い渦の中に吸い込まれるように突入して行った。
○
まず眼下に広がったのは、ヴィラン連合の大軍だった。元々のヴィラン連合の面々に加え、リ・デストロの配下であった異能解放軍、脳無の群れ、その他異形の個性を持つ者。こう言うのもアレだが、色とりどりの悪人共が勢揃いしていた。
こいつら全部が殲滅対象……今日決着をつけなくちゃいけない……。出し惜しみなんてしない……。してやるものか……。
ヴィラン達の中で注意しなければいけないのが、AFO、死柄木、そしてナイン。こいつらをひとかたまりにしたら、たまったもんじゃない。確実に分断をさせないと。
「ここでお前に会えるとはなぁ! 焦凍ォ!」
次点であのバカ兄貴。エンデヴァーに異常な執着を見せるダンス野郎だが、あいつは轟が何とかしてくれるそう。ボロ雑巾のような体から放たれるエンデヴァー以上の業火も、耐性のある人達にお任せだ。
まずは牽制。背後のビル群から良さそうな物を念動力で引っこ抜き、複数にバラす。ヴィラン達の足を止める為に、鉄骨の弾丸を雨のように降らす。
「こっちに当てんなよ!!」
「分かってるっちゅーの」
下の方から爆豪の声が聞こえる。騒がしい戦場でもあいつの声はよく通るな。
──その時、全身に刺すような感覚が走る。
違和感を感じた方向へ目を向けると、どこで売ってんだそんなのとツッコミたくなるようなマスクを付けたスーツの男……。
「ターゲットが揃い踏みじゃないか、いきなりボーナスステージなのかな?」
AFOがこちらに向かって飛来する。加えてその腕は、まるで映画で見るバケモノのような禍々しさを纏って。あれは……神野でオールマイトに向けていたのと同じだな……。
自分の周囲に浮かせておいた迎撃用のビルの破片を、AFOに向かって飛ばす。だが、それをどこ吹く風とばかりに接近してくる。急いで目の前に見えない空気のバリアを形成した。
「まだ君の中にアンナチュラルはいるのかな?」
「あたぼーよ。毎日一緒に寝る仲だからな」
激突する凶腕とバリア。
その余波で周囲に衝撃波が走る。
「いい加減返してもらおうか、それは僕のモノだ」
「女の人をモノ扱いか、だから
AFOの攻撃を眼前で受け止めながら、右の掌を向ける。
──奴の弱点はあの仮面。生命維持装置にでもなってるのか、どんな時でも手放さなかったらしい。
事前共有事項。タルタロスに居たステインというヴィランから得た情報だ。前に神野で戦った際も、AFOはこの黒いマスクを付けていた。どんな機能が隠されているのかは分からないけど、狙うとしたらこれだ。
掌から衝撃波を発射。
綺麗に仮面にヒットし、AFOの体が少しだけよろめく。
その隙を逃す理由は無い。
「それにいつも言ってたぜ? あんたのことは昔から嫌いだったって」
AFOの頭を掴み、地上に叩きつけるように勢いに任せて投げ飛ばす。
流石に途中で踏みとどまられるが、追加で放っておいた鉄筋コンクリート製のビルで追撃し、その背を地面に着けさせる。
『システム"
通信機からオールマイトの声が響く。
次の瞬間、ヴィラン達の足元から黒い牢屋が生え出てきた。
黒い牢──トロイアは一瞬でヴィラン達を中に閉じ込めることに成功する。
これが今回の作戦のフェーズ1、大軍で押し寄せてきたヴィラン達を日本の各地に飛ばすための機構だ。トロイアでヴィランの動きを抑制し、その間に物間のワープゲートでそれぞれの地点へ転移させる。
「こんなちゃちなモン、すぐに壊せちまうぜ!」
そんなトロイアの壁を意気揚々とぶっ壊して出てきたのは、例のお兄ちゃん。
仰る通り、トロイアの耐久性はあんまり高くない。
急造品だからね、その辺りは仕方ないのさ。
ぞろぞろと這い出てくるヴィラン達。
そいつらに対して念動力をかけてあげて、地面に無理やりへばりつかせる。
顎から地面に激突する荼毘がよく見えた。
「押せぇ!!!!!」
それに乗じてヒーロー達が、再び展開されるトロイアを物間が作り出しているワープゲートめがけて押し出していく。
誰をどこの地点に送っていくのかは既に決められている、最適なマッチングを行うことが勝利へと第1歩なんだ。
念動力でトロイア押しに加勢しつつ、視界に収めるのは対敵予定のナイン。
複数の個性を操るあいつを、俺とナガンを中心にしたチームで叩く。
今はまだ大人しくしているようだけど、いざその力を解放されたら俺達への被害はとんでもないものになる。
スピード勝負──ヴィラン達に何もさせない!
ナインがゲートを通ったことを確認。
同じ穴をめがけて俺も飛んで行く。
潜った先にはナガンや他のヒーロー達がいる、そこでナインを叩くんだ。
ワープゲートの目の前まで移動した瞬間、視界が泥で侵された。
「……なんか違和感あったな」
次の瞬間、目の前に現れたのは宙に浮いたひとつの要塞。
数本の支柱とその間に展開される黄色いバリアのようなもの。
極めつけは、白い雲が足の下にあった。
その景色を見て嫌な予感が走る。
作戦の中で俺とナインが戦う場所は、もっと開けた場所だと聞いていた。
けど俺が今いるココは、よく見たら雄英高校その場所だった。
天空の棺……対死柄木の為に用意された特設ステージ。
なんで俺がここに飛ばされた……?
「モノマネ野郎のコピーじゃねぇ……キンタマの個性にやられたかもしれねぇな……」
「あ、かっちゃん!」
気付けば隣に爆豪がいた。彼の身体の一部に黒いヘドロのようなものが付着しており、少ししたら溶けてなくなる。さっき俺に付いてたものと同じだな。つまり、爆豪も物間のワープゲートでこちらに来た訳では無いってこと?
「まァ俺は元から雄英に飛ぶ予定だったがな。けど予定外のお前が居ることとデクの野郎……それにジーパンやウサギも居ねぇ……!」
「マジかよ」
本来であればここ天空の棺では、ワン・フォー・オールを持つデクを中心に爆豪やベストジーニスト、ミルコを含めたチームで死柄木と戦う予定だった。それがどうだ、頼りになるプロ達は軒並みおらず、作戦の要であるデクすら姿が見えない。
会話をしながら地面に着地。すると、そんな俺達の元へ誰かが駆け寄って来る音がした。
「愛生、爆豪。緑谷は?」
「テメーもおるんかい」
「轟、お前にーちゃんと兄弟喧嘩してくる作戦だったろ? なんでこっち来た?」
なんと轟も雄英に召喚されていた。轟は荼毘と神野で決着をつける予定だったはず。それがこっちに飛ばされてきたということは……。
「ワープゲートを潜る前に変な泥みてぇなのに包まれたんだ。それで次の瞬間にはここにいた」
「俺も俺も。ちなみに出久はいない」
「ジーパンもいねぇ」
「えげつねぇな……」
慌てはしない我々だったが、こうなるとどうしようもない。綿密に立てられたプランが崩壊してきているのだ。多分、マンダレイのテレパスを通して状況報告や対策が発信されるとは思うけど。そんなすぐには連絡なんて来ないだろう。
「AFOの個性でしっちゃかめっちゃかにされてんな。もしかしたら戦場も大分シャッフルされてるぞこれ」
「誰がどこにいるのか分かんねぇ感じか。してやられたぜ」
「けど見ろよ、ターゲットはちゃーんと送られて来てるぜ」
爆豪が指さす方へ顔を向ける。
そこには、上裸に赤マントというおよそ変態としか思えない格好をした死柄木が辺りをキョロキョロと見渡していた。
「……ここは」
死柄木が地面に降り立つ。その後、俺達とその背後にある雄英の校舎を見て自分がどこにいるのかを把握したようだ。
「愛生千晴……またお前か……」
「どーも、いつも世話になってんな」
ハァ……と死柄木にため息をつかれる。なんだコイツ、ため息つきたいのはこっちの方だってのに。
「色々準備してきたみたいだが、俺を相手に高校生3人で立ち向かうのが計画か? 相当優秀なブレインがいるみたいだな」
「だろ? 本当ならタイマンで充分なんだけど、どうやらお前に何もさせちゃいけないらしくてね。悪いけど3人がかりでリンチさせてもらうわ。血の気の多いヤンキーと、お兄ちゃんとざるそば食う予定だった奴がいるからね」
「減らず口を……有象無象をいくら連れてきたとて結果は変わらない。壊されるのが少し早くなるだけだ」
……現状を受け止めつつ、やれることをやる。
今こっちサイドの人間は爆豪と轟の3人。作戦では相澤先生とマニュアルさんが物間に抹消の個性を与えるサポートをする為に、この電磁バリアの外側に配置されている。
個性の使えない死柄木を抑え、出久が来るまで3人で戦う。ここからナインやナガンがいる戦場はそこまで離れていない。さっさと目の前の死柄木をぶっ倒して、ナガンの加勢に行かねば。
「舐められたもんだな」
体から炎と氷を発現させながら、臨戦態勢をとる轟。
「どっちが上か教えてやろうじゃねぇか」
バチバチと掌から火花を散らし、爆豪が前に出る。
「命の無駄遣いだな……」
死柄木がほくそ笑んだ。
負けない、負ける訳にはいかない。
死柄木を止めないと世界が終わる。
そんな未来は望んじゃいない。
「テメーはこの愛生千晴が、直々にぶちのめす」
勝つのは
最後の戦いの火蓋が切られた。