君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#104 不自然な奇跡

 轟の放った大氷海嘯(だいひょうかいしょう)により、銀世界に変わる辺り一面。

 

 気温も急激に下がった為、発火能力(パイロキネシス)を発動させて暖を取る。

 

「……死んだか?」

 

 隣に居る爆豪の質問に対する答えは分からない。技を放った轟以上に死柄木にも霜は下りており、その体は完全に動きが止まっている。流石に死んでは無いと思うが……。ひとまず念動力で轟を俺達の方へ持ってくる。

 

「……わりぃな」

 

 息も絶え絶えの轟はそれだけ言うと、どさりと地面に尻もちを着いた。相当体力を消費する技だったのか、肩で息をしている。それに、今までにないくらい体に霜が降りている。

 

「体、あっためとかないと」

 

 俺はパイロキネシスを発動させて、轟の体を温める。火力は調節して、火傷しない程度のものにしておく。まぁ轟は熱耐性のある体だからそんなに心配は要らないと思うけど。

 

「死柄木……今はまだ動けねぇとは思うがそれは今の間だけだと思う。体温が下がって体が動かしにくくなってるだけだから、このうちに拘束かなんかしとかねぇと……」

 

「……だな」

 

「チッ、あっけねぇな」

 

 轟の言う通りだ。死柄木の動きはピタリと止まっているが、恐らくそれは今のうちだけ。凍って動けないうちにさっさと縄かなんかで縛っておかないと。

 

 けど、なんだこの違和感……。

 

「さっさと縛るぞ。また動かれてもだりぃからよ」

 

「分かってる」

 

 本当にこれでおしまいなのか?そんな疑問が頭の中に浮かび上がる。

 

 死柄木の体は制止している。でもなんだ……言い表しようのない違和感がイマイチ拭えない。違和感……?それもそうだが、もっと具体的な言葉があるはず……。

 

 敵拘束用のロープを爆豪が取り出し、死柄木の元へ向かおうとする。その背中に咄嗟に声を掛けた。

 

「悪意はまだ感じる……!」

 

「あぁ──?」

 

 瞬間、蠢き出したのは死柄木が作り出した連なる腕。

 

 轟によって凍らせてあったそれらが、再び胎動を始めた。

 

 そのまま狙いを定めたかのように、俺と爆豪の方へ伸びてくる。

 

「チッ!まだまだ元気いっぱいじゃねぇか!」

 

 優れた反射神経を用いて、爆豪は襲いかかってきた手の波を綺麗に回避してみせた。そのまま爆破で縦横無尽に宙を駆け回りながら牽制していく。俺も自分の体と後ろでへばってる轟を浮かせて、肉薄してくる複数の手をひとつひとつ避けていく。

 

「はぁ……さむい……。まだ春だからか、冷える日はあるよな」

 

 白い息を吐き出しながら、死柄木が動き出す。嫌な予感は的中していた。やはりこの程度で活動停止するような奴じゃない。死柄木を止めるならもっと徹底的に……。

 

「クソがァ!!さっきより手の量増えてんじゃねぇのか!?」

 

 爆豪が声を荒らげる。実際その通りだ。明らかに先程よりも顕現させられた手の量が違う。そして、それらが確実に俺達の命を奪おうと襲いかかって来る。

 

「抹消は発動しているはず……!なんで個性が使えるんだよ……!」

 

「これは個性じゃないからだよ。あくまで成長のひとつ。人が自身の置かれた環境に適応するように、野生で生まれた動物たちが家で大切にされるペットとしての生活に順応するように。俺の中に在る個性たちに適応する為の必要な過程。俺の体が導き出した答えがこれなんだよ」

 

 成長……?そんな言葉で片付けられるレベルじゃないだろ。現に死柄木の左手を起点に、その手は動きを止めない。無茶苦茶で理不尽な力を押し付けられている。

 

「ヤベぇぞ愛生ィ!このままじゃ押し潰されちまう!こんな檻ん中で圧死することになんぞ!!」

 

「良いなそれ、無様な死に様見せてくれよヒーロー」

 

「死柄木の本体を叩くしかない!!」

 

 どうやって?轟の最大火力を用いてもピンピンしている死柄木に、どうやってダメージを与える……?あの頑強な身体に有効打を与えるにはどうしたら……。

 

『何を迷っている?』

 

「……アンナチュラル」

 

 思考を巡らせていると、脳内に響くアンナチュラルの声。

 

『私は戦いが始まった時から思っていたよ、なんで今日に限って出し惜しみをしているんだと』

 

「んなことないけど」

 

『私に隠し事は出来ないぞ。前にも言ったけど』

 

「……」

 

 それはちゃんと覚えている。精神と肉体を共有しているからこそ、俺の考えはアンナチュラルに筒抜けになっているんだ。

 

 俺の心の奥底の感情も、コイツには知られている……。

 

『約束……したんだろ?』

 

 その言葉にグッと息を飲む。思い起こされたのは、戦いが始まる前に交わした一佳との会話。同時に蘇ってくる、雄英の皆と作り上げてきた思い出たち。

 

 正直、力を使って記憶を失うのは怖い。とても怖い。俺が俺じゃなくなると思うし、皆と過ごした日々が全て失われると思うと、どうしても足がすくんでしまう。

 

 個性のデメリットがあることを知っていても、同じ道を選んでいた。そこに間違いは無い。それでも……。

 

「鬱陶しぃなぁ!!」

 

 それでも……。

 

「まだやれるぞ……俺は……」

 

 それでも……。

 

 俺の中では皆と過ごした日々が、手放しくたくないと思えるほど大きなものになっている。

 

『選べ千晴。出し惜しみをして奴らに全てを奪われるか。全霊をかけて大切な人たちを守りきるのか』

 

 アンナチュラルの言葉が脳内に響く。人生は選択の連続、常に人は何かしらの選択を強いられる。答えはいつだってシンプルだけど、簡単に選ぶことが出来ないことも沢山ある。

 

 アンナチュラルの言うことは真実。全てを奪われる暗い未来か、力を尽くして明るい未来を掴み取るか。

 

 こんなの選ぶまでもない。答えはずっと前から決まっている。俺が取るべき選択は……皆が笑って過ごせる未来を手に入れるには……。

 

()()、俺に力を貸せ!!!」

 

 命の……記憶の出し惜しみなんかしてる場合じゃない。

 

 今ここで全てをかけなきゃ、全部が無駄になる。

 

 オールマイトが、プロヒーロー達が、雄英の先生たちが守り築き上げてきたものたちが。

 

 人々が歩いてきた道のりを、たった一人のヴィランに奪われ、壊される訳にはいかない。

 

「『超融合(サイコユニオン)』」

 

 俺と美然、二つが一つに混じり合い一つの人格となる。ベースはあくまで俺だが、今までの融合よりも深く、密接に混じり合う。

 

 互いが互いと精神を交配させる。魂の底から溶け合い、見た目にも変化が訪れる。漆黒の髪に血のような真っ赤な瞳。アンナチュラルと結束した証拠だ。

 

「世界を救いに行くぞ」

 

 宙を駆け抜け一瞬で死柄木の元まで飛んで行く。エネルギーのコントロールなんて最早要らなくなっていた。今まで脳で考え実行してきた事柄が、今は息をするように自然と行える。個性の核心─美然と融合することでそれを完全に知覚することが出来ていた。

 

「無駄だ!お前如きの力じゃ俺には届かない!」

 

 目の前で死柄木が吠える。人体実験で肉体強化を果たしたコイツの身に、生半可な力は通用しない。現に轟の一撃もコイツには届かなかった。少し前までの俺なら論外だっただろう。

 

 けど今は違う。俺には俺の中にはかつての大災害、美然(アンナチュラル)の全てが込められている。

 

 放つ一撃。

 全身から無限に湧いて出てくるエネルギーをフル活用し、死柄木の鳩尾に拳を叩き込む。

 人体の急所に的確に叩き込まれたそれは、死柄木の顔を苦痛に歪めさせる。

 

 さらにもう1発。

 ガラ空きの顎に下からアッパーを喰らわせ、その身を空高く打ち上げる。

 死柄木の体がやけに軽く感じたのは、美然と融合したからか。

 膂力の底上げが成されている。

 

「何だ……この力は……!」

 

 死柄木もただ黙って攻撃を受けてくれる訳じゃない。

 個性は相変わらず使えないが、奴が"成長"と言い張る手が俺に目掛けて飛んで来る。

 

 質量に物を言わせたその手は、俺を押し潰そうと波になって襲いかかって来た。

 それらを目の前にバリアを形成し、眼前で留める。

 

超破壊(サイコブレイク)

 

 バリア越しに触れている死柄木の手に、エネルギーを流し込む。

 すると、まるで分解されていくように死柄木の巨大な手がバラバラに崩れ去っていく。

 美然の"反転"の力も、今では他者へのアウトプットが可能となっている。

 

「伝播する力か……マズイ……!」

 

 死柄木は即座に自身の腕を切り落とす事を決めた。

 このままだと分解が肉体にまで及ぶと分かったのだろう。

 その選択は正解だ。

 天空の棺を覆っていた死柄木の手が一気に分解されていくが、腕を結合していたら死柄木自身もバラバラの塵となってしまっていただろう。

 

「先生がお前を欲しがった理由がようやく分かったよ」

 

「そりゃ良かった。譲る気は無いけどな」

 

 一瞬で死柄木との距離を詰め、右手にエネルギーを込める。

 溢れ出るエネルギーと触れた物を分解する力をブレンドさせたこの手で、目の前の悪を討つ。

 

「人の体に刻まれるには不自然な奇跡。そりゃあ他人から疎まれるし、先生も狙う訳だ」

 

「奇跡は誰にも渡さない。俺の全ては皆の為に」

 

 始まりは憎しみだった。

 世界の全てを恨んだが、やがてその力は人々を救ける奇跡に変わった。

 

『そんな事もあるんだな。これも1つの不自然だ。なんてな』

 

 常識外れのエネルギーが、死柄木の肉体を穿ち貫いた。

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