Side:死柄木弔
悪意が人の原動力となる時もある。
生まれた時から……いや……あの家を壊した時からずっとそうだった。
途方もない快感を味わったあの日から、俺はずっと何かを壊したいと願い生きてきた。
先生に出会い、ドクターに出会い、気付けば周りに同じ意思を持つ仲間が居た。
そして今、自分の欲望を果たす為の障壁として立ち塞がるのは。
「ヒーロー……! 何度も何度も俺達の夢を阻む……!」
「その為の力だ!!」
鬱陶しいクソガキが1人─!!
ドクターの実験によって得た力。どんな攻撃も通さない屈強な体と全盛期のオールマイト並みの膂力。極めつけには、今まで先生が集めストックしてきた数多の個性。
これらを駆使して勝てない相手などいない。そう思っていた。今はイレイザーヘッドとその横にいる変なガキのせいで個性が使えないが、それでも現代のヒーロー共を屠るには充分な力だった。現にワンフォーオールの金魚のフンである爆豪勝己と、エンデヴァーの息子は個性を使わずともかなりのダメージを与えることが出来ている。
だがコイツは……。
─ 個性は奇跡の力だって思ってんだよね。当たり前のように見えて当たり前じゃない。この力で、お前達をとっちめてやる
USJの時も……。
─歯ァ食いしばれよ!! 俺の拳には色んな想いがいっぱいに詰まってっから!! 痛ェぞ!!!
神野の時だって……。
─お前の力は! 意志は! 皆の夢を壊す! そんなの許せない!
前の戦いの時もそうだ……!
コイツは常に俺の行く道に立ちはだかり、その度に俺の邪魔をしてくる。もううんざりなんだ。年端もいかない、英雄気取りのガキにこれ以上俺の邪魔をされるのは……!
愛生千晴への怒りが脳内を侵食していく。目の前のコイツを壊さないと、この感情は消えてはくれない。やるべきことは明確になっている、それを達成するための力もある。
なのに……。
「死柄木ィ!!!」
なのにどうして……。
「愛生千晴ゥ!!!」
なんでこんなに一方的なんだ!!!
愛生の放つ攻撃は、確実に俺の命を削っていく。そう何度も喰らってはいけないと細胞が理解している。それなのに……。
「はぁッ!!!
「ぎっ……!! クソガキがぁ……!!」
なんで俺はこいつを捉えられないでいる……!!
速いなんてモンじゃない。俺の世界にいま、愛生は見つからない。俺の首の動きや目ん玉の動きを先読みしているかのように、俺が視点を動かす時にはもう別の場所に移動している。瞬間移動でもしてやがるのか……コイツの個性にそんな能力があるのか……。
ああ……イラつく。全てを思い通りにする為に費やした時間が、苦しみが、後悔が。無駄になっていくような感覚。
むしゃくしゃする。異常な程にドス黒い感情が体を支配していく。殺してやりたい……壊してやりたい……目の前のコイツを……命を崩してやりたい……。
─君の夢はなにかな? 弔。
脳内に響くひとつの声。
親の声よりも聞いた声。
俺を導いてくれた。そして超えなければならない人。
俺の夢……夢……夢……。
反芻されるその言葉と、質問への答えは。
──この手の中に在る。
「やれッ!!! 黒霧ッ!!!」
叫ぶのは同じ意思を持つ仲間の名前。
その瞬間、イレイザーヘッドと金髪のガキの頭上に黒い渦が現れた。もう何度もお世話になってきたその闇から這い出て来る者。
「嘘だろ……!?」
事態に気付いた愛生の顔が驚愕に染まる。その感情とは対照的に、俺の口角はニヤリと上がっていた。
「仲間ってのはいいものだよな……。目に物見せてやれ、
黒渦から出てきたのは、"変身"でトゥワイスの姿になったトガヒミコだった。先の戦いでホークスに殺害されたトゥワイス。奴の血を律儀に回収していた荼毘から、トガヒミコにソレは渡っていた。
傾国の一手、無限に増え続けるトゥワイスさえいれば、憎きヒーロー共を殲滅することも容易い。最早ヒーロー共に勝ち目なんて無い。
突如、俺の頭にのしかかってくる鈍痛。愛生がその拳で俺の頭蓋を叩いてきた。戸惑いのひとつも無い一撃……脳が揺れ視界がグラつく……。
確実に殺しに来たな─……。
殺意の乗った一撃、その覚悟が俺の体に深刻なダメージを与えた。おかしいな……コイツはヒーローのはずだろ……? なんでそんな奴が人を殺そうとするんだ……?
「トガが現れて余裕が無くなったか……? 子供らしく少しは抵抗があると思ったが……。人を殺すことに何も思わないのか」
「そんな思いやりは学校の寮に置いてきたさ」
「いいね、それでこそ壊しがいがあるってもんさ」
トガによる戦況の激変。トゥワイスの個性を物にしたアイツを放っておくと、物量で確実にヒーロー側は負ける。現に、既に増えたトゥワイスによって雄英高校の一角は埋め尽くされている。その中に、憎き"抹消"を持つ男の姿が見える。
その視線は俺から外されていた。ようやく……ようやくだ……。この鬱陶しいクソゲーから脱却できるのを待ち侘びていた……。
体にピクリと反応する。ああそうさ、俺の個性はこの日の為に。あの日、俺を否定したあの家からの全てを崩壊させる為の力。
いつも怒ってばかりのお父さん。そんなお父さんに頭の上がらないおじいちゃん、おばあちゃん。俺に秘密の写真を見せてくれた華ちゃん。
……─最後に俺を抱きしめようとしてくれたお母さん。全て覚えている。だからこそ、幼き日の思い出に縋ったりはしない。
そっと大地に指を触れさせる。その瞬間、俺の思い描いた世界の序曲が奏でられる。
伝播する崩壊は雄英の空飛ぶステージの床を次々に崩し、粉微塵に変えていく。この瞬間が堪らないのだ。
「俺の
俺の思い描く地平線に、コイツらは要らない。
信念が異なるからぶつかり合う。
理解など出来ない……しようとしない……。
そんな社会を作り上げたのは一体誰だ……。
この戦いが終わった時、この地に立っていた方がその答えを知ることが出来る。