肉を切らせて骨を断つ。
いや、俺の場合は肉を切らせても治すことができるからその分はノーカン。……よく考えたら死柄木も同じだな。
守りを一切無視した攻勢に出ることで、着実に死柄木へダメージを与えていく。俺の攻撃が死柄木へ入る度に、死柄木の攻撃も俺に入る。死柄木の一撃は確実に俺の命を奪いに来ており、喰らう度に俺の体は壊れていく。
「いつまで持つかな……限界があるだろ、お前の再生には」
「
そう強がってはみるものの、実際体への負担はどんどん重くなっていっていた。技を出せば出すほど脳への負荷が増していく。
アンナチュラルを完全に取り込む事で得た今の力……、そのおかげで死柄木と渡り合う事は出来ている。だけど、この均衡がいつ崩れるかは分からない。体力に限界はある……それは死柄木も同じ事だと思うけども……。
「──時間をかける必要は無ぇ!」
「激しく同意だ。まだ
OFA……出久か……。
あの力が死柄木に渡ってしまうと、取り返しのつかない事になってしまう。それだけは避けなければ。
本来なら敵の目標であるOFAを、直接死柄木にぶつけることは避けなきゃいけない筈だ。それでも今回の作戦で出久が最前線に立つことになったのは、間違いなくヒーロー側の最高戦力だし、OFAじゃないと死柄木やAFOを止められないと大人達が判断したからだ。
それは勿論、俺の目から見ても間違いは無かった。出久の力が有れば勝機を掴む事が出来る。ヴィランに勝つ事が出来れば、崩壊した社会をやり直す事も出来る。そうしたら、また明るい未来がやってくる筈だ。
撃ち出した拳が死柄木の腹に突き刺さる。前屈みになってよろめく死柄木の顎に、全力のアッパーを決めてみせた。
「俺は負けない!!例え俺の体がどうなろうと、お前達を倒してみせる!!」
そうだ、負ける選択肢なんて用意していない。
皆で勝つんだ。
勝って、また皆でご飯を食べるんだ。
例えその場に俺が居なくても……皆が笑える世界がそこに有るなら……!
〇
Side:レディ・ナガン
「戦いは数だとどこかの誰かが言っていたが、案外そうでも無いようだな」
目の前の光景に目を細めるのは、ヴィラン連合の中でも特に危険人物に指定されていた"ナイン"。
死柄木弔、AFO、ナインの3人は、ヴィラン連合でも指折りの強さを誇る。それゆえ、彼らに対しての部隊編成も用意されていたくらいだった。
ナインの討伐にあたる予定だったのは、私──レディ・ナガン率いる部隊。プラス愛生。だが当の愛生は死柄木弔の方へ飛ばされていた。
そして、今──。
「悲しいなヒーロー。あんなに数が居てこの私1人捕らえることすら出来ない」
対ナインの為に集結したプロヒーロー46名。内45名が既に戦闘不能に陥っていた。まだ戦えるのは、私だけ……。
髪の毛を媒体に弾丸を作成し、手のひらに注入。逆向きに折れた肘関節から銃口が伸び出し、狙いをナインに向ける。
「またそれか……。いい加減無駄だという事に気付いたらどうだ?」
「これが私の専売特許なんでね!」
撃ち出した弾丸は火炎を纏ってナインへと飛来する。だが、その弾丸は黄金色のバリアによって容易く防がれてしまった。もう何度も見た光景だ。
「そもそも狙撃手が最前線に出てくるのが悪い」
「誰のせいだと思ってる……!」
対ナインの為の部隊編成。奴にとって有利や得意を取れるメンバーだったが、それももう私しか残っていない。私以外みんなやられた。
「私の強さを甘く見たからだ。たった数十人でこの私を相手取れるとでも?」
事前に仕入れていた情報と、今目の前にいるナインの実力。そこには大きな乖離があった。理由は分からない……AFOの奴に何か細工でもされたか……。聞いていた個性の情報よりも、実際の出力が段違いだ。
「ヒーロー飽和社会。なまじ力を持っているばかりに自分も何者かになれるんじゃないかと妄想し、大した能力も無いくせに一丁前な顔をして個性をひけらかす。有象無象が増えた結果がこれだよ、レディ・ナガン」
ナインの背後から蒼龍が現れ、私の体締め上げる。全身を物凄い力で圧迫される感覚を味わいながら、目の前のナインを睨みつけた。
「お前達に希望は無い。これからは私たちが実権を握る時代になる。人の、社会の在り方を示すんだ」
「寝ぼけたことを……」
言い返すとナインの眉がピクついたのが分かった。こいつは言い返されると明らかに顔に現れる。分かりやすい男だ。同時に私の身体を縛り上げる力も増した。肺が圧迫されて呼吸が上手くできない。
「自分らが神にでもなったつもりか?片腹痛いよ。ニンゲン程度にそんな力ある訳ない」
「減らず口を……」
「いいか?よく聞け…… 。今はデカイ顔してっけど、お前らの理想は叶えられない。この世界には死柄木を、AFOを止める奴がいる。そしてナイン……お前を討ち倒す奴もいるんだよ」
かつてのオールマイトがそうだった。絶対的な悪が栄える時には必ず、同じように力を備えた善人が現れる。皆を救うヒーローってやつが。
私の目にはそれが誰なのか、ハッキリ写っている。
「愛生千晴が、必ずお前をぶっ飛ばす」
……私には無理だ。私じゃナインには勝てない。恥ずかしい話だ。でも愛生、お前ならやれる。類まれなる才を持って生まれ、その能力を活かす努力を重ねてきたお前なら。
「愛生千晴……」
「ああ……あいつの力はお前に届く。届いて超えていく。私はそう信じてる」
これは確信なんだ。冗談とか希望とか、そんなヤワな考えじゃない。職場体験の時からアイツを見てきた。愛生にはそれだけの力がある。
そして、思わせるだけの力もアイツには備わっているんだ。
「……残念だ、もう少し賢しい人間だと思っていたが」
眩い光が視界を覆う。
抵抗する力は残っていない。
仲間が皆やられてしまったように、私の体力ももう持たない。
そっと目を閉じる。
目の前の現実を受け入れられないからじゃない。
いま私の中にあるのはただ1つ、祈りだけ。
目の前の悪を打ち倒し、世界に平和をもたらす奴がいるのだと。
そう願って……。