悪意の感知──!!
悪人のプレッシャーを感じ取ることができ、居場所や動きを朧気にだが察知することが出来る。
が、その力は強化され、今では強大な力を持った者の探知にも使うことが出来る。
対死柄木用に作られたこの天空の棺に、迫り来る2つのプレッシャーを俺は感じ取っていた。
『来てるな……1つはアイツのプレッシャーだ』
「ああ、ナインがこっちに来てるってことは……」
間接的に知らされる事実に眉を顰める。
本当なら俺がナインの相手をしているハズだった。
それがAFOの小細工によって戦場がシャッフルされ、計画の位置から外れた場所へワープすることに。
ナインの場所へ飛ばされたヒーローが誰なのかは分からない、だけど感知の個性で否応なく認識させられていた。
──ナガンの命が消えてしまったことを。
吐きそうになる程の悲哀の想いが全身を駆け巡るが、今は戦いの最中。
そんな時に抱く感情では無いと、ナガンに叱られてしまう。
悲しみをグッと飲み込み、目の前の敵を捉える。
「そろそろへばってきたんじゃないか?しんどいだろ?不便だよなぁ、消耗するってのは」
死柄木の掌から放たれる衝撃波。
それに対してこちらも同じように衝撃波を打ち出し、相殺させる。
互いの空気砲が着弾し、突風が巻き起こった。
「このままじゃジリ貧だぜ!だんだん反応が鈍くなってきてるぞ!」
──死柄木の言う通りだ。
俺の体は使えば使うほど消耗していく。
対して死柄木は無限の再生力がある。
長引けば長引くほど不利になるのは俺達。
だけどもう……。
「ハァ……ハァ……!」
『小僧……限界か……?』
「はぁ……?全然余裕なんですけど……?」
「めちゃくちゃしんどそうな顔で言われてもな……」
バレてる……そりゃ体を共有してるんだから当たり前か……。
実際問題、体の方にはかなり負担がかかっている。
少しでも気を弛めてしまうと意識を手放してしまいそうな、それくらいの状態だ。
「ぶっ倒れてる暇なんて無いよ。みんな頑張ってるんだから。俺だけがここで倒れる訳にはいかない」
「随分ご立派だなヒーロー。でも分かるんだろ?お前には……」
「……なにが」
俺の問いに死柄木は口角を上げる。
「この戦いで消えていった命の数が……!」
「……ああ、分かるよ」
確かに感じている。
死柄木の言う通り、それぞれの戦場で失われる命がある。
ヒーローもヴィランも同じように。
「これが戦争だ。どちらかが滅びるまで終わらないぞ」
「滅びるのはお前らだよ死柄木。お前達ヴィランはこの俺が滅ぼす」
「……ッ!」
死柄木が目を丸くする。
だがそれも一瞬だけで、すぐにいつもの表情に戻った。
「なんだよ……?」
「いやなに、とてもヒーローから出てくる言葉とは思えなくてな。"滅ぼす"か……国内最高峰の学校に通ってる奴の台詞かね……」
「あ、実はおれ高校中退してんだよね。主にお前達のせいで」
そう言うと死柄木は高らかに笑った。
その調子のまま言葉を連ねる。
「USJで会った時から本質は変わってないようだな。お前とは何度かぶつかったが、その度に思っていたよ。"狂ってる"ってな」
死柄木の言葉を黙って受け止める。
「おかしいんだよお前は」
「時間稼ぎ下手かよ」
地を蹴り死柄木へ肉薄。
握った拳を打ち出すと、死柄木も呼応するように腕を伸ばす。
鈍い衝撃が右腕を走り抜けた。
「俺がおかしい!?自分のことよぉく振り返って考えてみろよ!人のこと言えんのか!?」
「何がお前をそこまでさせる?傷つき苦しみ、それでも立ち向かってくる……!何も知らないただのガキが!お前を突き動かす原動力はなんなんだ!」
立ち向かう……?
原動力……?
その質問のレベルの低さに思わず失笑しそうになる。
そして同時に理解した、俺と死柄木の決定的な違いを。
「大切な人が居るんだ……!何もしてくれなくていい、ただ傍で笑ってさえいてくれたら……!だから戦ってんだ!!だからお前を超えていくんだ!!」
「それがお前の正義か!?ペラペラだなぁ!!」
「ああそうさ!!」
死柄木の顔面を上から叩く。
「戦争なんてそんなもんだよ!!ただの押し付け合いさ、ペラッペラの正義のな!!」
「同感だな!!」
お返しとばかりに、死柄木の拳が腹部に突き刺さる。
思わず血反吐が飛び出すが、死ぬ訳じゃない。
「愛生、いいなお前は!俺を殺す気で来てくれる!」
死柄木から距離を取り空へ舞い上がる。
そこで再び俺達は激突した。
──僕はあの人を救いたいと思ってるよ。
決戦前のデクの言葉が思い起こされる。
あいつは言った、死柄木の中には救けを求める小さな子がいると。
──どんな人でも間違いを犯してしまうことはある。でも、生まれた時から悪い人なんていないと思うから。だから、やり直すことだって出来るんだと思うよ。
デクは優しい。
悪人の心すら救おうとしているのだから。
だから相手の命を尊重して、何とか踏みとどまることを祈っている。
けどそんなこと、俺からしたら綺麗事だ。
デクの言いたいことは分かる。
でも俺に同じようなことは出来ない。
悪人は悪人、行ってきた罪の責任は負わなければならない。
悪の芽は摘まなきゃ……。
そうでなきゃ──……。
雄英から遠ざかっていた時に見た、市民の顔に……。
苦しい生活を強いてしまった皆の心に……。
笑顔が戻らない……。
全部取り戻さないといけないんだ。
俺が……俺達ヒーローが取りこぼしてしまった物は多い……。
とんでもなく多い……。
今なお避難生活を送る人たち。
雄英や士傑で窮屈な暮らしを強いられている人たち。
皆の人生に安心を、希望の光を灯さなきゃ。
それが──。
「ああそうだ、死柄木弔。俺はお前を殺せる。今から泣いて悔やんでも、お前に明日は譲らない」
人より強く生まれた者の役目なのだから──。
「そうこなくちゃ……」
ペロリと舌を出し舌なめずりをする死柄木。
俺はもう、目の前にいる奴を同じ人間だとは思っていない。
ただ破壊を楽しむ人の形をしたナニカだ。
……もう死柄木に救う程の価値なんて。
『愛生くん、電磁バリアを一瞬だけ開ける!来たよ!』
突如として脳内に響く、伝令役のマンダレイの声。
死柄木を閉じ込めておく電磁バリアの開放、それが意味することは。
「ようやくお出ましか……」
死柄木も彼の到着に気付いたようで、首をその方向へ向ける。
死柄木には"サーチ"の個性がある、それでアイツの居所は察知出来ているんだ。
『オマケも付いてきてるな』
「だな……」
それと一緒に、こちらに向かってくる強大な悪意も感知している。
忘れもしない、以前の戦いで苦戦を強いられたアイツも来ている。
「いよいよクライマックスって感じだな。ヒーローとヴィラン、どっちが最後まで立っていられるか」
「仲間が加勢に来てくれて良かったな。お前一人じゃタコ殴りにされてたところだぞ」
「減らず口を……。仲良く手を取り合う気なんて無いさ」
『──今!!』
マンダレイの声掛けで、雄英を囲っていた電磁バリアが一瞬だけ開かれる。
そこから戦場へ舞い降りてくる影が2つ……上空に現れた。
「ごめん愛生くん……!遅くなった……!」
「本当だぜデク……罰金払わせるぞ……」
「死柄木……まだあんなのに手こずってたのか……」
「煩いな……てかお前どの口が言ってんだ……?」
OFA正当継承者であるデクと、複数の個性を併せ持つナインが天空の棺に降り立つ。
OFAの力を全解放させたデクは、学校内でも最強クラスの実力者となった。
いや、ヒーロー界全体で見ても今のデクに敵う者はほぼ居ない。
受け継がれてきた力の結晶が、デクの中には秘められている。
味方としてこれほど頼もしい人はいない。
「最後の戦いだヒーロー!!終止符を打とう!!この戦いに勝った方が、この世界の正義だ!!」
長く険しい戦いが少しずつ、だが確かに終わりへと向かっていくのを感じた。
この戦いはどちらかが滅びるまで終わらない。
「まだ動けるかい?」
「世界を救う力くらいは残ってるよ」
デクと拳を打ち合わせる。
正真正銘、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。