君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#110 碧き日々の面影

 俺は物語の主人公にはなれない──。

 

 たとえば漫画の世界の主人公のように、強大な力をその身に宿していたりだとか、選ばれし人間という訳では無い。

 

 極々一般的な家庭に生まれ、個性を宿し、周りの皆と同じように英雄を目指した普通の少年。

 だから、OFAとかいうとんでもない力で悪を打ち倒すとか、そういう大それた事なんて出来っこない。

 

 一般人なんだ、俺は。

 普通に生きて、普通に死ぬ。

 そんな人生を送るもんだと思っていたんだよ。

 

 それなのに……どうしてもこうも……。

 

「場違いな世界に来ちゃったんだろうね」

 

 ボヤきながら牽制の衝撃波を連射する。

 目線の先には死柄木弔とナインの二大巨頭。

 厄介なのはどちらも複数の個性を体に宿しているということ。

 

 ん……ちょっと待てよ……?

 

 不意にデクの方を見ると、何だか見たことの無い姿になっていた。

 青い光が軌跡のように彼の動きに付随している。

 歴代継承者の個性とやらか、新しい力に目覚めて早速有効活用してやがる。

 

 デクは元々無個性、そこに器としてOFAが刻まれた。

 最初はオールマイトのような超パワーだけが能力だったが、歴代との対話を経て完全覚醒。

 かつてOFAをその身に宿してきた人達の個性を顕現させた。

 

 つまり、この場にいる俺以外の奴らが皆、複数個性を操っている。

 

「置いてけぼり食らってるな、どうにも」

 

 肉薄してくる死柄木。

 目の前に空気の膜を張って飛んで来た蹴りを弾く。

 続いて周りに落ちていた瓦礫たちを浮かし、死柄木と少し離れた所に居るナインへ投げつけた。

 

「バカの一つ覚えかよ!!」

 

 飛来する見えない衝撃波とナインのビーム。

 身を翻して回避しそのまま肉薄。

 死柄木とナインは複数の個性持ち……故にやれることが多い。

 手数の多さに翻弄される前に、その強みを潰す。

 

 刹那、俺の目の前を駆け抜ける青光。

 その軌跡が真っ直ぐ死柄木へ向かっていき、爆音と衝撃を生み出した。

 

『……まるで別人だな』

 

 アンナチュラルの言葉に心の中で共感する。

 吹き飛ばされて行く死柄木と、一瞬で背後に回るデクを見て思わず体が震えた。

 

 希望の光(ワンフォーオール)の真髄を目の当たりにして。

 

 前にデクから聞いた。

 ワンフォーオールは受け継がれてきた力の結晶なんだと。

 先代のオールマイトも合わせて8人分の想いが紡がれているんだ。

 

 だからデクは負けない。

 

「余所見とは余裕だな」

 

 その時、視界の端に蒼いナニカが映りこんだ。

 俺はそれに見覚えがある、少し前に見たことがある。

 けどその時は2匹だったハズだ。

 

「おいおい嘘だろ……」

 

 ナインの個性のひとつに蒼龍を呼び出すものがある。

 前の戦いの時は2体しか出ていなかったそれが、今俺の目の前には全部で8つの頭がある。

 以前よりも力量が増している……骨が折れるなコレは……。

 

『八岐大蛇みたいだ』

 

「俺も同じこと思ったよ。神話の神様はどうやって倒したんだっけ?」

 

『そこまでは知らない』

 

 アンナチュラルと話していると、八匹の蒼龍が一気に迫って来た。

 視界を埋め尽くす蒼い光景、八方向から向かってくるそれらはご丁寧に逃げ場を与えてくれはしない。

 

「やっぱ勉強は大事だな」

 

 俺はその中の一匹に狙いを絞り、空気を押し出す。

 ぶち当ててよろめいた所に肉薄し、エネルギーを込めた拳で頭部を叩き割った。

 ……少し固くて拳も割れたが、耐えられない程じゃない。

 

「思い出した、確か立派な剣で倒したんじゃなかったっけ?」

 

 蒼龍の背後からの突撃を空中でバク転し、スレスレのところで神回避。

 そのままカカト落としの要領で首と体を泣き別れにしてやる。

 これで二匹か、不思議と心は痛まない。

 やっぱり相手が悪人だからかな?

 

『そうだな……そうかもしれんな……そういうことにしておこうか』

 

「無知って罪だよな……」

 

 残った六匹の蒼龍が撫子色に光る。

 何事かとじっと見つめると、光源が蒼龍の口内にあるのだと理解した。

 何だかナインが手から放つビームにそっくりだ。

 

『ボサっとするな、集中砲火を喰らうぞ』

 

「まだトーストにはなりたくないね」

 

 次の瞬間、六つの光線が俺の体めがけて降り注いできた。

 パッと見やばそうな攻撃に見えるけど大丈夫、俺には見えざる障壁があるからそれで防げる。

 

「お返しだ」

 

 俺の眼前まで来たがあと一歩届かなかった蒼龍の光線を念動力で操作。

 六つの光のうち四つをナインへ、残った二つをデクに当てないよう上手くコントロールして死柄木の方へ飛ばす。

 その華麗な変化球は、綺麗にヴィラン二人に突き刺さる。

 

「ありがとう!」

 

「いいってことよ。お前がいれば百人力だかんな」

 

 青光りするデクを見てそう思う。

 オールマイトから貰った個性、最初は体を壊してばかりでなんじゃこりゃと思ってたっけ。

 それがどうも、今では世界を救う力になっているらしい。

 ……本当に頑張ってきたんだなと、心の底から思う。

 真のヒーローはデクだ、間違いなく。

 これはデクが最高のヒーローになるための戦いだ。

 

 なら俺はその支えにならなきゃ。

 

「鬱陶しいハエが!!」

 

 怒鳴りながら突っ込んでくるのは死柄木。

 長引いてきている戦闘と、捉えどころのない俺にイライラは募っているところだろう。

 いいぞ、その調子で調子を狂わせろ。

 怒りの感情が湧いてくると、動作が単調になる。

 付け入る隙はそこに生まれるんだ。

 

 飛んで来た死柄木の動きに合わせてカウンター。

 大きく振るった右脚が死柄木の顎にクリーンヒットする。

 顎への一撃は重い、それこそ脳みそが揺れるほどに。

 

「違法な化学実験で肉体を無理やり強化したって?そんなら体の中はどうなんだァ!?」

 

 死柄木の動きが一瞬止まる。

 その隙に念動力を発動。

 対象は──死柄木の脳みそ!!

 

「シェイクのお時間だぜ」

 

 最大出力で個性を発動し、死柄木の脳みそをこれでもかと言うくらいにかき混ぜる。

 狙いは脳震盪だ脳震盪。

 こいつは悪い奴だからそれくらいしてやってもいいだろ。

 これで少しでも体の動きを鈍らせることが出来れば。

 

「SMASH!!!」

 

「待ってましたァ!」

 

 すかさずデクさんがグーパンを叩き込んでくれるってわけ。

 彼方へ飛んで行った死柄木を追って、デクはその場から離れる。

 

『棺の被害が甚大!愛生くん、出来たらで良いんだけど場所変えれたりする!?』

 

「ん?マンダレイか?」

 

 白熱する戦闘の最中、聞き覚えのある声がインカムから聞こえる。

 そういえば、マンダレイがテレパスで指揮系統を担当しているんだっけ?

 正直大戦前の話の内容とか、あんまり覚えてない。

 

「棺がなんだって?」

 

『避難民にも被害が及んでいるらしいな。まぁこれだけドンちゃん騒ぎしてたら、無理もない』

 

「ああ……そういう……」

 

 要するに場所変え希望ってことね。

 確かにこのまま雄英で戦うよりかは、もうちっと開けた場所の方がいいかもしれない。

 

「何をコソコソ話している」

 

「やっべ」

 

 そうこうしてる間にナインからの追撃がやってきた。

 安定の手からビームと、残った六匹の蒼龍を使ってガンガン攻め立ててくる。

 やっぱりそうだ、前の戦いの時よりも技の範囲や威力が上がっている。

 こいつも怪しい手術を受けたタチか?

 

 地面をおもっくそ蹴って宙に浮かび、そのまま棺の外へ。

 電磁バリアは開放されたままだったから、柱の隙間から飛び出していく。

 爆豪と轟は棺の中にいるだろうから、戦場の渦中でくたばってもらってたら危ないからね。

 

「どこへ行く気だ……?」

 

 俺の臀を追って、ナインも外へ飛び出す。

 こいつどんだけ俺のこと好きなんだよ……。

 内心辟易しながら、どちらにせよこいつはここで止めないといけないので注意を引けているなら万事OKだ。

 

「男のケツ追いかけるたァイイ趣味してんなぁ!!」

 

 振り返りながら衝撃波を放つ。

 動きが止まったところで素早く頭上へ移動し、脚を振るって地面に叩き付ける。

 即座に蒼龍が二匹突っ込まれてきたが、固く握った拳で二匹とも叩き割ってやった。

 これであと四匹。

 

「クソが……!」

 

 ナインの顔が憎しみで染まるのが見える。

 いい気味だ、ヒーローを敵に回した罰が来ているのさ。

 

 ああ……にしても何だかいい気分だ……。

 久しぶりに味わうこの全能感。

 何だろう……前にも同じような感覚を抱いた記憶があるぞ。

 ん〜……なんだっけ……?

 あの皆が見に来た一大イベントの名前……。

 

「ま、今はいいか!」

 

 墜落していくナインを追うように、上空から隕石のように飛来。

 地面に辿り着く途中にナインの顔を掴み、そのまま大地へ叩きつける。

 

「放せっ……!」

 

 ギラりと妖しくナインの指先が光る。

 指先からのビームが来る、そう思った時に限ってズキリとした頭痛が走った。

 反応が……遅れる……。

 

 ナインの五指から放たれた光線が俺の肩を貫く。

 熱と痛みを体が訴えてくる……そりゃそうだ、肩を貫通してるんだから。

 "反転"で肩に空いた穴を塞ぐことに集中するが、上手くいかない。

 力の使いすぎか……余力が少なくなってきてるのかも……。

 

「力こそが正義なのだ……力だけが……!」

 

 続け様に飛来してきた蒼龍が、上からのしかかってくる。

 鋼鉄の塊か何かでぶん殴られたような衝撃だ。

 思わず鼻血が吹き出す。

 

「あ……あ……」

 

 なんでだろう……。

 

 戦いの真っ最中なのに……。

 

「まだ立つか……!」

 

 命のやり取りをしている時なのに……。

 

 心がこんなに穏やかなのは。

 

 過去の記憶が蘇ってくる。

 

 A組の皆と過ごした日々。

 

 ナガンにヒーローのいろはを叩き込まれた経験。

 

 黒雪と共有した時間。

 

 デクや爆豪、轟と掲げた目標。

 

 そして……。

 

 最愛の幼馴染と歩いた帰り道──。

 

 まるでパズルのピースのように掛け合わされたそれらが。

 

 俺の歩んできた証が。

 

 背中を押してくれている。

 

「……けねぇ」

 

 再びこちらに向かって伸びてくる蒼龍の首を、手のひらから放つ空気の衝撃波で全て破壊する。

 バラバラと蒼い欠片が降り注いでいた。

 

「俺は負けねぇ……」

 

 地面を蹴り大きく跳躍。

 拳を握りしめて目の前の悪に立ち向かう。

 

 充分すぎるほど貰ってきたんだ、皆には。

 

 俺が俺である為に必要な物は全部。

 

 今日はその全てを懸ける日。

 

 俺の全部を持って悪を穿つ日。

 

「今日がヒーロー"愛生千晴"の命日だ」

 

 誰にも言ってなかったその覚悟は。

 

 ナインの顔面を捉えて打ち穿いた。

 

 

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