君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#111 魂に還る

 Side:アンナチュラル

 

 ──自分が他人に必要とされていないということは理解していた。

 

 生まれ故郷から命からがら逃げ出し、辿り着いた先でも同じような扱いを受ける。

 同じ人間から足蹴にされるあの気持ちは耐え難い。

 その日食べる物を見つけることだけで精一杯、辛うじて命を繋いでいく日々。

 

 それもこれも全て、この不自然な異能のせい。

 意志に反して他人を傷付ける力が、私を人間から遠ざける。

 

 災厄──それが私を表す記号だった。

 

 価値観を共有出来た束の間の仲間達も、私を付け狙ってきた男によって存在を抹消される。

 オールフォーワンという名前には、その音を聞くだけで虫酸が走るようになっていた。

 大敵であり仇敵、私の人生から削除しなければならない人間だったが、奴は途方もなく強かった。

 

 ──残念だよアンナチュラル、君とは分かり合える筈だったのに。

 

 私の人生最大の汚点と言えば、最後に見た顔と聞いた声が、最も憎い男のモノだったことだ。

 

 終わりを迎えたと思っていた私の人生だったが、目を覚ますと続きから始まっていた。

 だが直ぐに、自身の体に実体がない事を認識する。

 加えて、目の前に見知らぬガキが1人。

 

 ──ありがとう。厄災とか言われてたからもっと悪い人なのかと思ってたけど、案外いい人なんだな。

 

 ありがとう。

 

 生まれて初めて言われたその言葉。

 

 他人に恐れられてきた私に伝えられた、感謝の想い。

 

 私を人間扱いしてくれた、現世の小僧。

 

 人間としての喜びを教えてくれた千晴だからこそ、私はついて行こうと思ったのだ。

 

 だからいま──。

 

 私は最後の力を解き放つとしよう──。

 

 全てはそう、愛生千晴(愛すべきクソガキ)に未来を歩いてもらう為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side:愛生千晴

 

「……おいおい、冗談だろ?」

 

 俺は目の前の光景に思わず項垂れる。

 

 何故かって?

 それは目の前に超巨大な竜巻が発生したからさ。

 いや、竜巻だけじゃない。

 雷雨と突風もそれに付随して顕現されている。

 

 しかも問題なのがそのサイズ。

 よく見る外に出たら危ないとか、学校が臨時休校になるとか、そんなレベルのものじゃない。

 地に根を張った大木やらなんやらも、一緒に吹き飛んでいる。

 それだけの威力を秘めた災害が、大暴れしているのだ。

 

『ナインの個性の中でも特に危険なのが"気象操作"。奴は天候を自由自在に操ることが出来る』

 

 ヴィラン連合相手にスパイ活動をしていたホークス……彼が集めた情報は事前に共有されている。

 なかなか出してこないなと思っていたが、ここに来てとうとうお披露目って訳か。

 

「アンタももう後が無いんだな」

 

「……黙れ!」

 

 言動に余裕が無くなっている。

 表情を見たら尚明らかだった。

 ナインの顔には焦りと、俺に対する憎悪がこれでもかと言うほど表れている。

 

 風が吹き荒れている。

 とても大きな風が。

 少しでも足裏を浮かせてしまうと、途端に彼方へ飛ばされてしまいそうな程だ。

 

 最早これは災害だ。

 人が生み出せる力を超えてしまっている。

 何だっけ、あの理論の名前。

 人の個性が深まり複雑化することで到達する現象。

 

「余計な事を考えている暇は無いぞ。この竜巻、放っておくと他に甚大な被害が及ぶだろう」

 

「だよな、ったくメンドクセー事してくれやがって」

 

 ナインの言葉は嘘じゃない。

 あいつの作り出した暴風は、きっと辺りを破壊し尽くすだろう。

 守るべき人達を危険に晒す。

 

 それだけは避けなくてはいけない。

 

 念動力で自身を浮かし、目の前で徐々に大きさが増している竜巻に目を向ける。

 赤黒い如何にもな様相が、俺の手に汗を握らせた。

 

 誰か一緒に戦ってくれる人は……居ないな……。

 ここには俺とナインの2人しか居ない……。

 俺一人でやるんだ……俺一人で……。

 他の誰にも頼れない、信じていいのは自分だけ……。

 

「へっ、サイコーだな」

 

 ズキズキ痛む頭なんてどこ吹く風。

 目や鼻から血液が流れ出て来ていても、今は知らん。

 今ここでナインを止めないと他の皆が、死柄木と戦っているデクの負担が増える。

 

 ナインをここで抑えるのが俺の役目。

 例えここで力尽きても悔いは──。

 

 ──この戦いが終わったら、結婚しよう。

 

 悔いは……。

 

 ──私からの返事があるって思うと、絶対に忘れられないだろ?

 

 一瞬過ってしまった。

 記憶と一緒に失われていくもののことが。

 

「それでも……」

 

 体内の全エネルギーを手のひらに集約。

 念動力で竜巻を破壊する。

 俺がやらなきゃ誰がやる。

 俺がここでやらなきゃ、全てが失われる。

 

 そんな未来は要らないんだ。

 

「最大出力……!」

 

 残っている力でどこまで出来るか分からない。

 けどやるんだ。

 俺が皆を救うんだ。

 自分じゃない誰かの為に。

 他人の命を明日に繋ぐんだ。

 

「終わりだ、愛生千晴……!」

 

 ナインが腕を振り下ろすと、生成されていた竜巻が動き出す。

 辺りのものを巻き込みながら、確実に俺の方へ向かって来ていた。

 

 ──思い出せ。

 

 今までの戦いの軌跡を。

 

 雄英に入学してから今日までに得た経験を総動員するんだ。

 記憶の欠落……?そんなの知るか……。

 かき集めろ、自分の中の全てを。

 

 ここでやられるカッコ悪い男になんて、なってやるかよ。

 

 念動力を竜巻相手に発動。

 その威力を更に強力な力で押え付ける。

 半端ない力が必要だが、四の五の言っていられない。

 

「ぐぅ……!ううううう……!」

 

 頭痛が加速する。

 頭からの痛みが響いて思わず視界が霞む。

 鼻血が止めどなく溢れてくる。

 それでも、力を緩めたりはせず寧ろ振り絞っていく。

 

 最後の1滴になるまで。

 

「諦めろ!!たかが人間風情が!!」

 

「う……るせぇな……!!」

 

 集めた記憶の欠片が、俺に力をくれる。

 皆との思い出、歩んできた道のりが。

 俺の中で輝いて、そのまま崩れ落ちていく。

 

「お前では何も変えられない!!何の力も持たない子供では!!綺麗事を並べるだけの存在が!!」

 

「うるせぇつってんだろ!!!」

 

 もっとだ……もっと出力を上げろ……!

 

「人は弱くて不完全なんだ!!俺も!!お前も!!」

 

 限界を超えろ……!

 

「だから託すんだ……!」

 

 俺の背中を。

 

「託されて歩き続けるんだ……!」

 

 俺を見守ってくれている人が。

 

「どんな辛い道であっても!!!」

 

 沢山いるんだから──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白で何も無い無機質な空間。

 気付けばそんな所に立っていた。

 

 ふと、後ろを振り向くと見覚えしかない黒髪の女性が居た。

 

「なーにしてんの、こんな殺風景な場所で」

 

「ん、別に……。人を待っていただけだ」

 

 アンナチュラルはくるりと振り向くと、俺の顔を見て薄く笑みを浮かべる。

 

「他でも無いお前をな」

 

「あらそうなの?俺の顔でも拝みたくなったとか?」

 

「……かもな」

 

 いつもと雰囲気が違うアンナチュラル。

 その理由を何となくだが理解していた。

 

「……お別れか?」

 

「……だな」

 

「そっか……。ま、いつかは来ると思ってたけどね……。これまた唐突だけど……」

 

「くっ……あっはっはっは!」

 

「何が可笑しいのさ……」

 

 いきなり笑いだしたアンナチュラルに思わずジト目。

 たまに変なツボに入るのよな、この人。

 

「いや別に……寂しいか……?」

 

「……」

 

「Yesと捉えるぞ?」

 

「いいよ」

 

 アンナチュラルが目を丸くする。

 何だよ、自分から言ったくせに。

 

 ふぅ、と一息つく。

 もう目の前にまで迫って来ているその時の実感が湧いてくる。

 

「寂しいよ、アンタと別れること」

 

 今更虚勢張っても仕方がない。

 それなら、思ってる本当の事を言葉にして伝えた方が良いに決まってる。

 

「……そうか」

 

「そりゃ最初は戸惑ったさ。だってよ、体の中に全く知らない誰かが住み着くことになったんだぜ?そんなコミックみたいなことあるか?」

 

「ふん……それはこっちのセリフだ……。選択権があるんだったら、お前みたいな小僧……」

 

「うるせー、こっちだって願い下げだ。……けどさ、アンタに助けられたことも沢山あったし。それに、アンタと過ごした時間は……その……」

 

「なんだ?男ならハッキリとモノを言え」

 

「……た、楽しかったんだよ……!」

 

 鼻をポリポリとかく。

 チラリとアンナチュラルを見やると、ニタ〜としたような顔で俺を見ていた。

 

「ふ〜ん……私との生活がそんなに良かったか……?」

 

「か、勘違いすんな!ほんのちょっとだ!ほんのちょっとだけ……アンタと一緒に居て……わ、悪くないなって……!」

 

「素直じゃないなぁ……」

 

「こいつ……」

 

 別れの時間がすぐそこまで来ている。

 こんなじゃれ合いをすることが出来るのも、今日が最後。

 

「いつかはこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだ。それが早いか遅いかだけだったんだ。だから俺は俺なりに、アンタとの時間を大切にしてたんだよ。……伝わってたかは分かんねーけど」

 

「……」

 

「1回死んでるはずなのに、またこの世に呼び戻されて……。思うことも沢山あったんだろ?AFOが悪いと言えばそれまでだけど、それでも一緒にいる時くらいは笑ってて欲しかった」

 

「……そうか」

 

 小さく呟くアンナチュラル。

 何だろう……彼女を見ていると……感情が……。

 

「……アンナチュラル、アンタが居たから楽しかった。アンタが近くに居てくれたから、俺は強くなれた。これは疑いようのない事実さ。だから──」

 

 溢れ出る感情に身を任せて言葉を紡ぐ。

 それがいま出来る俺の精一杯。

 

「ありがとう、アンナチュラル。こんな俺と一緒に居てくれて。アンタとの思い出は、かけがえのないものになったよ」

 

 たとえ消えゆく想いだとしても。

 それを直接伝えずに終わるなんて事はしたくない。

 アンナチュラルはこれから元いた所に戻るんだ。

 そこでは俺の事なんて思い出せないのかもしれない。

 過ごした日々の記憶が消えてなくなってしまうのかもしれない。

 

 だったら尚更、俺の感情をこの人にぶつけなきゃ。

 俺が抱いてきた想いを。

 今この瞬間に、俺の気持ちを届けて。

 

「あのヘナチョコ小僧が……口だけは達者になりおって……」

 

 いま目の前にいるアンナチュラルに受け取って欲しいんだ。

 

「最後だからさ。ちゃんと伝えておこうと思った。忘れちゃうし、会えなくなるし」

 

「私という絶世の美女のことを忘れてしまうなんてな。可哀想に」

 

「うん……」

 

「最初は鬱陶しいガキだったのにな。気付けば一心同体……離れたくても離れられない存在になっていたのかもな……」

 

「だね……」

 

「ほんと……なんの見所もないガキが……」

 

「……」

 

「日に日に大きくなっていって……」

 

「……」

 

「すくすく成長していって……」

 

「……」

 

「いつからだろうな……立派になったお前を見てみたいと思い始めたのは……」

 

「そんなふうに思ってたんだ……」

 

「まぁちょびっとだけな、ちょびっとだけ」

 

 親指と人差し指でそう表現している。

 うるせーよ、とツッコミたくなったけどグッと押し殺す。

 

「けど、お前のくれた言葉は私の心を溶かしてくれたんだ。言葉には不思議な力があると信じたくなったよ。お前と言葉を交わしていると、自然と心が温まってくるんだ」

 

「そりゃどーも。それならそう態度に見せても良かったのに」

 

「ふふっ、かもな」

 

 小さく息を漏らすアンナチュラル。

 そしてその眼差しが、やけに真剣なものに変わった。

 

「私とはここでお別れだ。だけど忘れるな、小僧。お前の歩いてきた道や私の教えは一生残り続ける。たとえ記憶を失ったとしてもだ」

 

「ああ、分かってる……」

 

「ならいい……。私の……本当の最後の力を託す……。この力で決着をつけてこい……」

 

 初めて同化した時のように、アンナチュラルが俺の体に入り込んでくる。

 それは俺の中で小さな光の欠片となって、体の中心で鈍く輝き始めた。

 

 ──行ってこい、千晴。

 

 そう、心の中から聞こえた気がした。

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