君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#113 全ての人の魂の戦い

 おっす、俺はどこにでも居るしがない高校生!

 名前は忘れた。

 年齢は確か16歳、確信は無いけど多分それくらいだと思ってる。

 気付けば身体中がボロボロでダンプカーにでも轢かれたぜのかと思ったぜ。

 

「緑谷出久の元へはどれくらいで着く?」

 

「ザット3分クライデス」

 

 おっといけねぇ。

 今の状況を軽く説明するぜ。

 

 知らない女の人に拾われる。

 変な喋るロボットに乗せられる。

 どっかへ連れて行かれている。

 以上!

 

 え?

 何でそんなにテンションが高いかって?

 そりゃ人間、追い込まれたらハイになるってもんよ。

 俺の場合なんで追い込まれたかはわかんねーけど。

 

「愛生……」

 

 隣にいる女性がそう呟く。

 綺麗な人だと思うけど、一体どこの誰かは分からない。

 さっき俺はこの人のことを"ナガン"って呼んだけど、何でそう呼ぶことが出来たのかは分からない。

 体のどこかが覚えていたのだろうか……。

 

 それに愛生……多分俺の名前のことなんだろうけど、この人はさっきもそう言っていた。

 ……となると、俺には"愛生"っていう名前が付いているんだろう。

 

「あの……俺……あんま状況とか分かってなくて……」

 

「……そうか」

 

 ナガンという女性は少し悲しい目をしてから、前方を見やる。

 

「いま私たちが向かっている先に、敵の親玉がいる。お前の友達がそいつを倒すために命を懸けてるんだよ」

 

 言いながら再び俺の方へ視線を落とす。

 

「訳わかんねぇ状況で申し訳ない……。でもまだお前の力が必要なんだ……」

 

 俺の力が……?

 力……?

 力ってなんだ……?

 俺にそんな凄い力が眠ってるのか……?

 

 クエスチョンが洪水のように溢れ出てくるし、状況も何も分からない。

 それでも何故か俺の心は1つの決意をしていた。

 

 あの時……ナガンが来る前に思ったこと……。

 名前も知らない誰かが俺の助けを待っていると、心が叫んでいた。

 きっとそのことなんだろう。

 この道の先に、俺が助けないといけない人がいるんだ。

 

「OK、任せて!要するに、日本をめちゃくちゃにした悪者ぶん殴ってやりゃいいんだよね?俺のナックルパンチを喰らわせてやるぜ」

 

「……──ああ、それでいい。お前はそれでいいんだ」

 

 ナガンがコクリと頷いた。

 こうなりゃやぶれかぶれだ。

 とりあえず友達がいるとこ行って、人相が悪いやつをしこたま殴ってきたらいいんだろ?

 そういうの得意。

 

「モウ着ク、目ノ前」

 

「おっ、はえーな優秀じゃんか。確かにドンパチやってるわ」

 

 見ると眼前に広がるのは戦いの喧騒。

 突風と灰色の砂煙の中を、大勢の人達が飛び交っている。

 うわ……なんだあの黒いうにょうにょしたもの……。

 触手……?

 きもちわるぅ……。

 

「緑谷出久っていう緑色の少年を探せ。そいつがキーマンだ」

 

「ミドリヤイズクね、了解!」

 

 情報のインプットだけさせてもらい、俺はロボットから駆け出す。

 身体はしんどいけど、ミドリヤイズクってのを助ける為なら腹の底から力が湧いてくる気がした。

 それが俺の原動力になっている。

 

 ──お前の力が必要なんだ。

 

 さっきナガンに言われた言葉を思い出す。

 俺の力……何か凄い力でも持ってたのかな。

 でも目の前を見た感じ、皆それぞれ技みたいなのを出して戦ってる。

 それに地を這う黒い触手と視線の先に見える鋼鉄の塊みたいなの。

 あれは明らかにヤバい。

 恐らく、俺のその"力"ってのが無いと立ち向かうことすら出来ないんだ。

 

 その時、俺に向かって迫ってくる触手が見えた。

 このままじゃ貫かれるか遠くへ吹っ飛ばされる……。

 そう思った時、体がグイッと引き上げられるような感覚を味わう。

 

「愛生ちゃん、無事だったのね……!」

 

「え……?あ、ああ……おかげさまで……」

 

 どことなく蛙のような雰囲気を纏った黒髪の女子が、口から伸ばした舌を用いて俺を持ち上げてくれている。

 人のベロってあんなに伸びるものなの……?

 

「緑谷ちゃんの元へ行くのよね?」

 

「ミドリヤ……?そうそいつ!ミドリヤイズクってのを探してんの!」

 

「……?緑谷ちゃんなら先へ進んで行ったわ」

 

「先って?」

 

「あそこ」

 

 言いながら蛙ちゃんは、ずっと先の方に見える鋼鉄の塊を指さす。

 あの明らかにヤバそうな場所に向かって行ったのか、ミドリヤイズクは。

 

「おっけー、サンキュー!ひとっ走りしてやんよ!」

 

「気を付けて……AFOはまだ多くの個性を繰り出して道を阻もうとしてくるわ」

 

 AFO……?

 個性……?

 なんか知らない単語が出てきたな……。

 とりあえず蛙ちゃんにはそのまま投げ飛ばしてもらい、ミドリヤイズクが向かっていると思われる場所への距離を一気に縮める。

 

 地面に華麗に着地し、再び駆け出す。

 にしても、ここにいる人たちは一体何者なんだろう?

 動物を操ってる人とか、肘からテープみたいなの出してる人もいるけど。

 もしかして能力者の集まりかなにかか?

 

「ってちょっと待て!また来たァ!」

 

 再び伸びてきた触手。

 さっきは蛙ちゃんが上手い具合に救ってくれたけど、今度も同じようになるとは限らない。

 腕で防ぐか?

 いや見た感じ触手に付いてるあのトゲトゲは、肌にぶっ刺さる。

 これは避けるしか無さそうだ。

 

「せーの……!」

 

 タイミングを合わせて跳躍。

 俺の股下を通っていった触手は、別の人の方へ伸びていく。

 ふぅ……ひとまずの危機は去ったか……?

 

「愛生ッ!!前ッ!!」

 

「え?」

 

 突如として叫ばれた俺の名前……らしき単語。

 言われた通り前を見ると2本の触手が肉薄してきていた。

 

 いま俺がいるのは空中、ここじゃ回避行動は取れない。

 今度こそ万事休すか……?

 空にいる状態じゃ身動きなんて……。

 

 思わず目をつぶってしまったその時、背後から何かが空を切り裂く音がした。

 後方からの飛来物が触手に突き刺さり、その機能を停止させる。

 なんだ……なにが飛んできた……。

 

「青と紫の……弾丸……?」

 

 目に入ったのは銃の弾丸、それも珍しい色だった。

 けどなんでだ、この色には見覚えがあるぞ。

 直ぐに俺はピンと来た。

 

「これはナガンの……!」

 

 そうだよナガンだよ。

 この弾と同じ髪色をしていたじゃないか。

 ナガンが後ろからスナイパーライフルか何かで守ってくれたのか。

 こりゃ命の恩人だな。

 

「危なかったな、愛生」

 

 再び走り出すと、横に赤いツンツン頭の男が並走してきた。

 誰だコイツ。

 

「えっと……どちら様……?」

 

「はぁ!?なにつまらねぇ冗談かましてんだよ、こんな時に!」

 

「あー思い出した。中学時代は冴えないキャラだったけど、高校入ってから周りに知り合いがいないのをいいことにイメチェン果たしてイケイケキャラ演じてる痛いやつだろ」

 

「なんで……それを……」

 

「切島ぁ!!敵の攻撃を受けたのか!?」

 

 切島とかいう赤い奴が膝から崩れ落ちた。

 どうやら適当に思い付きで言った変な過去がドンピシャだったっぽい。

 

「なぁなぁ、ちなみにミドリヤって奴はどいつ?」

 

 転んだ切島の介抱に来た耳たぶの長い女子にそう聞く。

 よく見ると左の耳が切れている、一体何があったんだ。

 

「緑谷ならアレだよ。あの緑に光ってるやつ」

 

 耳たぶ女子の示す方向へ首を向ける。

 おお、確かに緑色の光が見えるぞ。

 あれが例のミドリヤイズクか。

 

「おーし、ならもうひとっ走りだな。ありがとよ耳たぶ女子!」

 

「誰が耳たぶ女子だ!」

 

 そんな声を背中に受けながらひた走る。

 迫ってくる触手を避け、割れた地面を飛び越え、曇天の下を突き進む。

 

 道が作られていた。

 ナガンはミドリヤイズクをキーマンだと言っていたけど、皆がミドリヤイズクの為に道を切り開いているのだろうか。

 ミドリヤイズク……どこか引っかかるな……。

 他人だけど他人に思えないような感覚。

 

「おい!愛生!」

 

 そんなことを考えながら走っていると、またもや俺の名前を呼ぶ声。

 なに?俺ってそんなに人気者なの?

 首を向けると頭が紅白色のイケメソが、地面から氷を出しながら俺の元へ近付いて来た。

 

「お前がここにいるってことは、ナインを倒してきたのか?」

 

 また知らない名前が出てきた……。

 でもここで記憶を失くしてることが知られたら、ちょっと面倒くさそうなことになるよな。

 ここは敢えて知ったかしよう。

 

「まぁね、朝飯前だったよ」

 

「マジか。やっぱお前やべぇな」

 

 氷を打ち出すのを辞めて、紅白頭は俺の隣について一緒にランニング。

 ズキリと頭痛がする。

 

「記憶は大丈夫なのか?俺のこと分かるのか?」

 

「え……?」

 

 思わずそんな声が出るが、直ぐに状況を理解。

 そうか、こいつは事情を知っている奴だ。

 なら隠す必要も無いか。

 

「ごめん、全部忘れてる」

 

「──ッ!……そうか……そうだよな……」

 

 紅白頭は悲しそうな瞳をしていた。

 もしかして俺と仲が良かったとか?

 だったら悪いことしたな……。

 

「こまけぇ話は後だ。今はまずAFOを何とかしねぇと」

 

「AFO?」

 

 さっき蛙の子も同じこと言ってたな。

 ナガンも言ってた敵の親玉のことか?

 

「要するに悪ぃ奴だ。今はそいつを倒す力を持ってる緑谷ってやつの為に、皆頑張ってる」

 

「みんな……」

 

「ああ、敵はたった1人。それ以外漏れなくみんな仲間なんだよ」

 

「敵……AFOってやつのことか……」

 

 紅白頭の男がこくりと頷く。

 

「みんなお前のことを待ってた。お前なら緑谷と一緒にAFOを何とかしてくれるんじゃないかって」

 

 え……?俺ってそんなに期待されてたの?

 期待の星ってこと……?

 

「けど、お前らにだけ任せるつもりはないよ。皆で戦って、皆で勝つんだ」

 

 トン……と優しく背中を押される。

 何故だろう……ほんの些細なことのはずなのに……。

 胸が暖かくなって力が湧いてくる。

 

「お前を信じてる。だから俺たちのことも信じろ」

 

 嘘偽りのない、腹の底からの言葉。

 それを受けると何故か安心する自分がいる。

 

「行け、愛生」

 

 名前も知らない人達の支えが、こんなにも力強いなんて。

 

「おう!!」

 

 体が軽い、まるで空を駆けているかのような。

 鳥になったような気持ちで宙を進む。

 比喩じゃない、実際に空を飛ぶことができている。

 俺にこんな力が……。

 

 頭の中にイメージが湧いてくる。

 どうしたら空を飛べるのか、どうしたらこの黒い鞭のような触手たちを捌けるのか。

 戦闘の経験なんて全く無いはずなのに、体が勝手に動いていく。

 

「近くなってきた……ミドリヤイズクの光……!」

 

 支えてくれたのは俺に声をかけてくれた人たちだけじゃない。

 俺の顔を見て何も言わずに道を切り開いてくれた人たちがいる。

 そんな人たちのする顔は全部同じだった。

 絶望でも不安でもない、安心しきったような顔で俺を見ていた。

 

 自分がどんな人間かなんて知らない。

 でも、皆の俺を見る顔。

 皆に向けられる想いが、それを教えてくれる。

 

 俺がどんな人生を歩んで来たのかを。

 

 触手を身を翻すことで躱したが、力の調整がブレて地面に転がる。

 それでも速度を緩めることなく、手のひらを削りながら地を蹴る。

 みんながいる。

 俺の今までを知っているみんなが見てくれている。

 それだけで力がどんどん湧いてくる。

 俺はひとりじゃない。

 その事実がこんなにも喜ばしいことだなんて。

 

「行け!!」

 

「頑張れ!!」

 

「勝つぞ!!!」

 

 追い抜いていく人達の希望の言葉が紡がれる。

 気持ちが通じあっていればそれだけで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前方に見えたのは夕焼け色の髪をした1人の女の子。

 AFOとやらの触手を巨大化させた腕でなぎ倒している。

 あの子も味方だ、俺と一緒に戦ってくれている。

 あの子の分も戦うんだ、あの子の想いも背負うんだ、今ここにいる俺が。

 

 その子がこちらを振り返る。

 その子と俺の瞳が交差する。

 初めて見る子、初めて見る顔。

 

 世界が一瞬、鼓動を止めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すれ違いざまに交わす言葉。

 ドクンと心臓が跳ねる。

 

 振り返りはしない、背中は皆が、あの子が守ってくれる。

 俺の役目は単純明快。

 

 死んでも生きて帰ること──。

 生きて帰って、今すれ違ったあの子にただいまを言うこと──。

 

 その為なら……。

 

「──愛生くん!!!」

 

 緑色の光を帯びた男子が叫ぶ。

 こいつが皆の言うミドリヤイズクか。

 

「遅かったじゃないか、愛生千晴。アンナチュラルは……」

 

「いい加減覚えたぜ!!俺が誰なのかってことはな!!」

 

 視界を埋め尽くす黒く夥しい量の触手。

 それら全ての動きを止め、勢いよく引きちぎる。

 何でこんなことが出来るのかは分からない。

 だけどやれると思った。

 俺にそんな力があるんだったら、使わなきゃいけないと思った。

 

 俺は世界を救う救世主じゃない。

 救世主を勝たせる為のピース。

 そして救世主は目の前にいるあのミドリヤイズク。

 あいつの為に血反吐吐きながら身体を張るんだ。

 

「だよなァ!?バクゴウ!!」

 

「わーっとるわァ!!!!」

 

 何でそんな言葉が出てきたかは知らない。

 けどそこにいると思った。

 いてくれると思った。

 だから呼んだ。

 命ギリギリの状態でも駆けつけてくれる奴がいるんだ。

 

 爆発が俺を追い越し、ミドリヤイズクの元へ向かっていく。

 2人は手を取り合い、爆発が再度起こると緑色の光が敵の真っ暗闇の中へ飛び込んでいく。

 

 希望の光が、流星のように煌めいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝て!!!」

 

「勝てや!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「デク!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紡いだ力と繋がれた希望が。

 

 いま、目の前の巨悪を穿いた。

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