君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

114 / 115
#114 残されたもの

 巨悪は打ち砕かれた──。

 

 ヒーローとヴィランの全面戦争。

 互いが互いの正義の為に激突したヒーロー史に残る大戦は、緑谷出久がAFOを倒したことによって幕を下ろした。

 

 ヒーローの勝利を願っていた人々はその事実に歓喜し、かつての平和な日常が戻ってくることに安堵する。

 

 多くの犠牲の上に打ち立てられた勝利という名の栄光。

 英雄として祭り上げられる者。

 生配信されていた戦いの様子は、今でも世間を賑わせている。

 

 戦いで傷付いた国全体の復旧作業は、海外からの支援者の協力もあり順調に進んでいる。

 時には私達のような雄英生を始めとした学生ヒーローが作業に駆り出されることもあったが、それも随分と落ち着いてきた。

 

 戦いで失った物は多い。

 家族や友人を亡くした人も大勢いる。

 それでも時は前へと進んでいく。

 それに引っ張られるように、私達も進んで行かなければならない。

 

 勝ち取った平和を噛み締め、未来へと歩み出す。

 残った命も散っていった命も、同じように望んでいた明日を生きていかなければ。

 それが生き残った私達の責務なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕の中のワン・フォー・オールは消えて無くなった──。

 

 AFOを倒す為に投げ打った僕の宝物は、沢山の人の想いを背負って悪を穿ってくれた。

 かつての継承者達の意思はもう感じ取れない。

 悪を倒す為に力を貸してくれたあの人達も、還るべき場所がある。

 何も無かった僕に夢のような時間を与えてくれたことに感謝を忘れずに、僅かに残された火で明日を照らす。

 

 ワン・フォー・オール9代目継承者である僕のやるべきことはそれだ。

 

 忘れちゃいけないのが、僕らはまだ学生だということ。

 最前線で敵と戦いはしたが、僕らにも戻るべき場所がある。

 

 僕のヒーローアカデミアは、まだまだこれからが本番なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうにもならないのか?」

 

 私──筒美火伊那の質問にドクターは難しい顔をしてみせた。

 

「正直不可能に近いかと。以前より指摘はしていたのですが……。しかし、彼もまた大戦の英雄……。愛生くんの頑張りがあったからこそ、今の私達が在る。それがこの結果になっているのは、私達も歯痒い想いです」

 

 沈痛な面持ちで医者は言葉を並べた。

 

 ヴィランとの決戦から暫く時が経ったが、愛生の意識は戻らない。

 聞くと、脳への過負荷が影響で機能を停止しているとのこと。

 

 医者の検査によると、愛生の脳には破壊と再生の跡が残っていたらしい。

 愛生には身体の機能を再生させる力があった。

 使えば使うほどダメになる脳の部位を破壊し、すぐに新品に作り変える。

 そういう戦い方をしていたようだ。

 

 無論、愛生に医学や脳への知識なんてものは無い。

 素人の感覚だけで執り行われていたその行程が適切であるハズも無く。

 

「取り返しのつかないことになっています……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の屋上へ上がった私は、思わず近くの壁を殴りつける。

 何も出来なかった、何もしてやれなかった無力さに打ちひしがれる。

 これは私の責任だ、私が最後に戦場へ愛生を送り届けたから。

 

 ──お前の力が必要なんだ。

 

「……クソ、大馬鹿野郎が」

 

 あの時、愛生には既に記憶が消え失せていた。

 もうあの時には手遅れだったのかもしれない。

 それでも、私の言葉であいつが走り出したのは間違い無いんだ。

 全部私のせいだ、私が弱いから。

 私の弱さが、愛生のこの結果を招いてしまった。

 

「責任を取らなきゃ……私が……治さなきゃ……」

 

 原因は私だ。

 どんな手を使っても、愛生を元の元気な姿に戻さなきゃ。

 

 ──目指してるプロヒーロー?ナガンだよ。俺にとっちゃアンタがいっちゃん身近で凄い人だから。

 

 こんな私にそう言ってくれた子の笑顔を取り戻してあげなきゃ。

 そうでなきゃ、私はヒーロー失格だ。

 人を救えずに何がヒーローだ。

 

 使える物全てを使って、愛生……お前を助けてみせる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから月日が経ち、通形先輩達3年生の先輩方が卒業した。

 当初の予定より少しだけ延期された卒業式だったが、問題なくそれも行われ、大きな背中の頼れる人達が巣立って行く。

 悲しいけれど仕方ない、こういうのは順番なのだから。

 

「まぁお前らの事は俺が一番よくわかってる……ってことでまた担任になりました」

 

「「「あいざわせんせえええええ!!!!!」」」

 

 僕達A組も進級し2年生に。

 なんとびっくり、クラスはそのまま持ち上がり。

 担任の先生も相澤先生のままとのこと。

 

「罪を償ってから、君たちと並んで歩いていけるよう精進するよ」

 

 そして、青山くんと暫しの別れ。

 代わりにA組の仲間になったのは──。

 

「色々勝手は分からんけど、よろしくな」

 

「「「心操キタアアアアアア!!!!!」」」

 

 普通科からの編入、心操くん──!

 立派なヒーロー目指してこれから一緒に頑張っていこう!

 

 出会いと別れ。

 新しい季節がやってきて、本当なら喜ばしい事なんだろうけど。

 

「──でもまぁ、物足りねぇっていうか……」

 

「ああ……」

 

「やっぱ全員揃って2年になりたかったよ」

 

 僕らの心にはポッカリと穴が空いていた。

 言うまでもなく理由は愛生くんだ。

 彼の席には誰も座っておらず、空席となっている。

 本当なら今頃、大はしゃぎする愛生くんがそこには居たはずなのに。

 聞こえてくるはずだった声が、もうしばらく耳には入ってきていない。

 

「えぇ!?愛生先輩はぁ!?」

 

 僕らが2年になったこともあり、後輩が入ってくることになった。

 彼らは僕らを英雄扱いし、まるでファンのように押し寄せてくる。

 特に巻き戻しの力で若返ったAFOを倒したかっちゃん、荼毘から人々を救った轟くんのフォロワーは格別だった。

 まるでアイドルにでもなったような感覚だ。

 

 そして、それは愛生くんも例外じゃなかった。

 

「愛生先輩がたった一人でヴィランに立ち向かうところを中継?配信?で見てたんです。とんでもない台風みたいなのを出してくる敵に突っ込んでって、皆の命の恩人なんですよ」

 

 ナインと愛生くんの戦いは避難所に居た人達にも送り届けられていた。

 彼の勇姿を目の当たりにし憧れた子は少なくない。

 愛生くんに会いに雄英を目指した子もいるだろう。

 だけど、今ここに彼の姿は影も形もない。

 

「巻き戻しじゃ何ともなんねぇのか?」

 

「うん。前の戦いで僕の傷を治してくれた時にだいぶ無理してくれたみたいで。エリちゃんの角の再生にはかなりの時間がかかるかもしれないって」

 

「親父にもツテが無いか聞いてみたが、正直良い回答は貰えそうにねぇ」

 

 かっちゃん、轟くんにも協力してもらって色々な方法を探した。

 だけど所詮は学生。

 彼の重篤な状態を治すことの出来る方法を見つけだすことは、まだ出来ていない。

 

「俺はよ……正直死ぬ気でAFOと戦った。ああ、こいつを倒して皆が勝てるなら俺は死んでもいいってな。けどよ、体ボロボロなのに誰よりも前向いてみっともなく走り続けるあのバカの姿が目に浮かんできたんだ。そしたら体が勝手に動いてた。俺だってまだ何か出来ることがあんだろって。だから出久んとこにも飛んでこれたんだ」

 

「戦いに勝ったのに心の底から喜べちゃいない」

 

「うん、やっぱり愛生くんがいないと」

 

 大切な友達だから。

 彼は僕らにとっても大きな存在になっている。

 そんな彼の声が聞けない生活が、後どれくらい続くのだろうか。

 

「まだ死んだ訳じゃねぇ」

 

 かっちゃんの言葉に僕と轟くんは顔を上げる。

 

「何かしら方法はあるはずだろ。あの無個性になっちまったオールマイトが、AFOと少しだけだが渡り合えたんだ。あんだけの技術力を持った奴がこの世界のどっかにいるんなら、愛生の野郎を何とか出来る力持ってるかもしれねぇ」

 

 武装したオールマイトの姿を思い起こされる。

 確かにこの世のハイレベルな技術を統合させたあのアーマーを作った人なら、愛生くんのことも何とかしてくれるかもしれない。

 

「……僕、オールマイトに話聞いてみるよ!」

 

「俺も親父に確認してみる」

 

 このままハッピーエンドには出来ない。

 僕らには愛生くんが必要だ。

 それは彼の個性の力の話じゃない。

 僕らの人生に愛生千晴という存在は必要不可欠なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も好きだな、病院のベッド」

 

 目の前ですやすやと安らかな顔で眠っている幼馴染に声をかける。

 当たり前だけど返答は無い、でも私には充分だった。

 そこに千晴が居てくれるだけで。

 

「脳死と植物状態の間にいるんだって……傍から見たらただ幸せそうに眠ってる奴にしか見えないけど……」

 

 言いながら千晴の頬をツンツンする。

 柔らかなほっぺが愛おしい。

 

「いま学校凄いんだよ?大戦で活躍した奴らに新入生がわらわら寄ってきて。爆豪とか轟とか、お昼休みはいつも逃げ回ってる」

 

 情景を思い出して笑えてくる。

 エネルギッシュな後輩ができて、流石のあいつらもてんてこ舞いのようだ。

 

「千晴のファンもいるんだよ?中には女の子もいてさ、ファンレター?ラブレター書いてきたって子もいるんだってさ。モテモテだな、良かったじゃんか」

 

 それには少しだけジェラシーを感じている。

 千晴がモテるのは変な感じだ。

 けど昔ほど心はザワザワしない。

 

「勉強も少しずつ難しくなってきてるぞ。多分お前もう着いてこれないんじゃないか?……覚えてる?昔私の家で勉強会したの?懐かしいよなぁ」

 

 千晴との思い出は心の中で溢れ返っている。

 幼馴染なんだ、昔からの付き合いなんだから当たり前といえば当たり前だ。

 私の記憶の景色にはいつも千晴がいて、それが私の支えになっていて。

 

 静かに寝息を立てる千晴の髪にそっと触れる。

 本当にただ寝ているだけなんじゃないかって、ここに来る度に思う。

 これは千晴が仕掛けたドッキリで、一向に目を覚まさない自分を演じた後にネタバラシで意気揚々と飛び起きる。

 千晴が考えそうなことだけど、そんな虫のいい話はなかった。

 

 もうずっと、千晴はこの部屋から外に出ていない。

 

「頑張りすぎちゃったな……柄にもないことするから……」

 

 千晴はいつも私の為に動いてくれていた。

 雄英に入ったのも私を守る為だと入学前に言っていた。

 雄英に入って、色んな経験をして、自分か守るべき対象が増えたんだろう。

 ヒーローは守るものが多い、それは千晴にも通ずるものだった。

 

 守るべき人たちの為に、千晴は戦ったんだ。

 それは誇らしいことなんだ。

 人として、ヒーローとして素晴らしいことをしたんだ。

 でもなんで……。

 なんで私は……。

 

「全然嬉しくないよ……千晴……」

 

 気持ちは切り替えたと思っているのに。

 いつまでもメソメソしてちゃいけないと分かっているのに。

 今日こそは、明るい顔で千晴に声をかけようと思ってここに来ているのに。

 

 返事をしない、動かない千晴を見ると、どうしても感情が溢れ出てきてしまう。

 

「私……こんなにも泣き虫になっちゃったよ……」

 

 千晴を見ていると涙が止まらない。

 不安で不安で仕方ない。

 もしずっと一生このままだったら?

 このまま永遠に目を覚まさないままだったら?

 

 ──この戦いが終わったら、結婚しよう。

 

 あの言葉への返事が出来ないままだったら……?

 

 決戦前に千晴が残してくれた言葉に返事はまだしていない。

 戦いから無事に戻ってきてくれるようにする為に、生き残る意志を与える為に敢えてそうした。

 結果として生きて帰ってきてはくれたが、会話なんて出来る状態じゃない。

 それじゃ意味は無いじゃないか……。

 

「立派なことをしたよ、したはずなんだよ……。人に褒められることをしたのに……。それでも最後は、笑って私の元に帰ってきて欲しかった……」

 

 ヒーローはいつだって命懸け。

 自分じゃない誰かの為に身を削る。

 それが私達の憧れた仕事だから。

 

 それでも……。

 

「まだ"ただいま"も言ってもらってないし、"おかえり"も言えてないんだよ……」

 

 最後に会話した時、あの時既に千晴に記憶は残っていなかったらしい。

 私のことも覚えていなかっただろう。

 なのに千晴は私に、"行ってきます"をくれた。

 

 あそこで引き止めるべきだった?

 そうしたら、また結果は変わっていた?

 千晴も今ごろ元気に隣で笑っていてくれていた……?

 考えても仕方の無いことが、永遠に頭の中を回り続けている。

 

「起きて……起きてよ……千晴……」

 

 体を揺すっても反応は無い。

 まるで人形のようだった。

 

「私にこんな想いさせないでよ……私を1人にしないでよ……」

 

 無機質な病室に自分の声だけが響いている。

 

「記憶なんてなくてもいいから……思い出も消えてていいから……だからせめて……笑った顔を見せてよ……」

 

 千晴がいないと生きていけない……。

 それ程までに、私の中で千晴は大きなものになっている。

 

 現実は非情で、ただ目の前の事実を突き付けてくるだけ。

 私がここで泣き喚いても何も変わらない。

 わかってはいるけど納得が出来ない。

 

 私はこれから……どう生きていけばいいんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶が光る。

 それは中学時代に抱いた想い。

 立派なヒーローになるという意志と、その目標が達成出来た時のこと。

 

 千晴は私の憧れ。

 私にとってとても大きな存在。

 私の道標にもなってくれている人に、今のままでは想いを伝えることなんて出来ない。

 

 そうだ、思い出した。

 何で自分が千晴の想いにずっと応えてこなかったのかを。

 立派なヒーローになるまで、憧れた君に追い付ける日が来るまでこの気持ちはしまっておくことにしたんだ。

 

 そうだ、私にはまだ千晴に想いを届ける権利が無い。

 何を勘違いしていたんだろう。

 自分が決めたことなんだから、ちゃんとやり通さないと。

 

 立派なヒーローにならなきゃ。

 千晴に守ってもらう女じゃなく、隣に立って歩いて行ける強い人間にならなきゃ。

 千晴に想いを伝えるのはそれからだ。

 

 涙を拭き、ゆっくり立ち上がる。

 いつまでも悲しい顔を千晴に向ける訳にはいかない。

 少しでも理想に近付けるよう研鑽するのが、今やるべきことなのだ。

 

「待ってて千晴。絶対立派なヒーローになるから。私からの告白はそれから……」

 

 忘れちゃいけない想い。

 彼が起きるまでに叶えなきゃ。

 いざ目が覚めた時に、恥ずかしくない私である為に。

 私も千晴のような、誰かの為に動ける人になるんだ。

 

 リスタート、今日は私にとってそんな日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室での決意の日から、気付けば10年の時が経っていた──。







次回最終回(たぶん)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。