君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#13 ほな、俺は先に行かせてもらうでな!

 あれからずっと見ていた。

 

 あの日、千晴の傍に別の女が居ると知った瞬間から。

 

 休み時間、お昼休憩、放課後。いついかなる時も、千晴に近づく女がいないかどうか。

 

 クラスメイトだからって関係ない。千晴に近づき、話しかけ、一緒に笑い合う。その事実が許せないし耐えられない。

 

 かと言って、それを指摘することは出来ない。そんなことをしたら、千晴に嫌われてしまうかもしれないと思ったから。自覚している私自身の黒い感情は、絶対に千晴に見せてはいけない。私の元から千晴がいなくなる、それが私の中の最悪。だから、波風立てぬように見ていることしか出来ない。

 

 だけど、ずっと我慢をしていられるほど、私は大人じゃない。

 

 

 

 

 眼下には、千晴をその胸に抱き寄せる八百万百の姿があった。

 

 八百万が《創造》で創り出した大砲の砲撃で、こんなことになってしまっている。八百万は、傷ついた千晴をこうして介抱している。はたから見たら、クラスメイトを心配する子という捉え方をされるだろう。

 

 でも違う。私には分かる。これは八百万の自作自演だ。全部自分が千晴に接近するために、千晴の気を引くために練った陳腐な策略。その涙も、どうせ目薬でもさしたんだろ事前に。

 

「見てたかもしれませんが、愛生さんが私の砲撃に巻き込まれてしまったのです。どうやら気を失ってしまったらしく…医務室へ運ぼうと思っていたところです」

 

「八百万さん、いまどんな時か分かってる?」

 

「えっ…?どんな時…?」

 

 目に溜めた涙を拭いながら八百万は言う。依然、千晴は抱えたままだ。

 

「いまは日本中が私たちを見てくれてる。自分の力を証明する絶好のチャンスなんだよ。そんな大事な時に、他人の心配なんてしてる余裕ある?」

 

「余裕だなんて…そんな…私はただ…」

 

「ただ、なに?」

 

 八百万がビクッと肩を跳ねさせた。

 

「…私はただ、クラスの男子を心配しているだけですわ!委員長として、友人として当然のことをしているまでですの!」

 

 大きな声を出す。甲高いその声が耳に障る。

 

 一体なんなの?アンタにとって千晴はどんな存在なの?千晴の気持ちは完全に私に向いているのに、なぜ横槍を入れようとしてくるの?

 

 私と千晴の仲を、何にも知らないくせに。

 

「それはいけないことなのですか?」

 

「別にそこまでは言ってない。そいつの幼馴染だから、少し気になっただけ。それと、そいつ多分目を覚ましてる」

 

「え?」

 

 瞬間、千晴の体がビクついた。冷や汗が流れ出ているのが、目に見えてわかる。八百万は目を丸くしていた。

 

「アンタが私に隠し事できるワケ無いでしょ?」

 

「なははははは!いやー、なんか目を開けるタイミングを逃しちゃってね!」

 

 千晴は八百万の胸からガバッと飛び起きると、いかにもな焦りを見せてくれた。相変わらず分かりやすい奴だ。

 

「ほな、俺は先に行かせてもらうでな!お二人もどうぞお気をつけて!じゃっ!」

 

「あっ…愛生さん…」

 

 そのまま千晴は、一目散にその場から駆け出し一瞬で見えなくなった。呆気に取られた八百万は、口を開けてポカーンとしている。

 

「こういうことだから。あいつバカだから簡単に見抜けちゃうんだよ」

 

「…流石ですね、拳藤さんは。幼馴染だから、愛生さんのこと何でも分かってしまうのですね」

 

 そう言いながら、八百万はどこか羨ましそうな目を、もういなくなった千晴の背に向けていた。その視線に、私の胸がヒリつく。

 

「何でもは分からない。だから私はアイツの傍に居続ける」

 

 私たちは幼馴染。昔からの腐れ縁。切っても切れないモノがある。

 

 他人が入り込む隙なんて、そこにはない。

 

「ただそれだけなんだよ」

 

 ──今は体育祭の真っ最中だ。おしゃべりしてる場合じゃない。

 

 私はその場から駆け出した。遥か先へ行ってしまったあの背中を追うようにして。

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

『さぁさぁ第1種目障害物競走!それもいよいよクライマックスかァ!?先頭を突っ走るのは依然、轟焦凍ォ!…の後に続くは爆豪勝己ィ!このデッドレースを制するのは、一体誰だァ!?』

 

 プレゼント・マイクのやっかましい実況を受けながら、俺はコースをひた走る。巨大ロボゾーンを超えたら、お次は切り立った崖の上をピョンピョン飛び跳ねながら着実に先へと進む。途中追い越した峰田に「ずるいぞチクショウ!」って言われたが仕方ない。社会は残酷なのだ。

 

 前の方では何故か爆発音が響きまくっている。ゴールは近い、最後の関門に爆弾でも仕掛けてあるのか。さっきからドンドコドンドコしている。恐らくそこに轟や爆豪はいるのだろう。さっさと追いつかなければ。

 

「追い上げすごいね」

 

 ふと、横に並走してきた男が一人。ねっとりした逆撫でボイスの正体は、B組の物間寧人だった。相変わらず腹の立つ顔してやがる。

 

「なんかさっきキミ、クラスメイトの大砲かなんかで瀕死になってなかったっけぇ?ぎゃあああ!とか叫んでたよねぇ、あんな声どっから出してんのさ?傑作だったよ、本当に。この体育祭録画してあるから、後で何回も繰り返し見ることにするよ。その度に腹抱えて笑い転げるんだろうな、きっと。あはは!」

 

「よーし分かった物間くん。歯ァ食いしばれ、修正してやるから。一方的に殴られる、痛さと怖さを教えてやる!」

 

 ヒュっ!と拳を物間に突き出すと、生意気にも物間はそれをパシッと受け止めて見せた。そしてニヤリとほくそ笑む。

 

「おっかないなぁ。先を急いでるはずなのに、わざわざ足を止めてまで殴りかかってくるとは」

 

「先に進むよりも大事なことができたんだよ」

 

「なにそれ気になる」

 

「テメーには教えてやんねー!!!」

 

 そしてもう一発、俺は物間めがけて拳を打ち込んだ。しかし、突き出した腕は硬い何かに遮られ、物間自身に届くことはなかった。この感じ、まさかこれって。

 

「俺のバリア…?」

 

「ご名答。便利なもん持ってるね」

 

 …こいつの個性の仕業か。考えられる線としては、単純に物間の個性がバリアを張る個性だということ。

 

 けど違う。物間の発言的にその線は薄い。だとすれば──。

 

「使わせてもらうよ!キミの個性(ちから)!!」

 

 個性のコピーか──!!

 

 パイロキネシスが顔の右側を走る。皮膚がうっすら焦げ付く匂いを感じながら、俺は距離を詰める。

 

 自分で言うのもなんだが、俺の個性はコントロールが難しい。発現した時にはすごく苦労した覚えがある。そもそもの出力コントロールに加え、対象に念を込めて思い通りに動かすことは、そう簡単にできるもんじゃない。ただ炎を出すだけのパイロキネシスならまだしも、自身や他者のエネルギー操作なんて芸当はコピーしただけの物間にできるハズが──。

 

「はっ!」

 

「うぎっ!う、動かねえ…!」

 

 だが、物間は俺の考えていた通りにはいかなかったようだ。その証拠に、俺の体の動きを止めて宙に浮かせ始めた。物間コイツめ、なかなかどうして侮りがたし。

 

「ははははは!なにこれ楽しい!人の体を自由に動かすのっていい気分だね」

 

「器用なヤツめ。簡単に使いこなしてやがる」

 

「まあね、容量を掴むのは得意なのさ。手先ももちろん器用だよ?中学時代、家庭科の成績はなんと5!」

 

「俺はたまむすびが分かんねえ!」

 

 かと言って、してやられるつもりは全くない。こちとらずっと超能力を磨いてきたんだ。今日初めてその力に触れるやつなんかに、遅れをとるつもりはない。

 

「んにゃろ」

 

 物間に対して力を集中。こんなやつ、適当に浮かして高いとこに持ってって降りられなくしてやればいいだろ。そこで一人助けを待ってればいいさ、半べそかきながらな。

 

「おっと、させないよ」

 

 念力で物間を動かそうとした矢先、奴は俺の体を自由自在にグルグルと動かしてきた。まるでオーケストラの指揮者のように、右に左と腕を振っている。それに合わせて俺の体も空中で踊ることに。

 

「くっはは!この状況じゃ上手く力も使えないだろ!このまま学校の外まで放り投げてやろっかな!」

 

 なんつー悪い顔で笑いやがるんだ、物間のやつ。これテレビで中継されてるんだよね?いいの?お茶の間でその顔が流れてるんだよ?ヒーロー科に性悪がいるって、世間に噂されちゃうよ?

 

「されるがままかい?いいね、楽しくなってきた。お次はどんなことして遊ぼうかな」

 

「やかましいっ」

 

 振り回されながら、俺は手のひらから衝撃波を発射。体が360°回転しながらだったから狙いは上手く定められなかったけど、物間の動きを一瞬だけ止めることができた。

 

「ふん!」

 

 力が弱まったその瞬間に拘束を解く。着地したと同時に地面を蹴り、一気に物間の懐へ。その腹部に拳を打ち込む。

 

「ぐふっ…!」

 

「お前だけに構ってる暇はねぇーんだ。そこで寝てろ」

 

「くっくく…案外必死な顔してるね…。もしかしてまだトップを狙ってる気?」

 

 地面に膝をつきながら、物間は問いかけてきた。

 

「もう無理なんじゃない?先頭集団はゴール直前、今から急いでも到底間に合わないでしょ。別に一位になったからって何かある訳でもない。合格ラインに滑り込めればそれで良くない?」

 

 …確かに、物間の言う通りかもしれない。序盤から足は凍らされるわ、爆撃されるわでロクに進めなかったし。ここでは物間を成敗するのに少し時間がかかった。

 

 それに、このレースで一位を取ったからって何かがある訳でもない。体力の温存という面では、ここで力を出しすぎる必要も無い。なんなら、他の参加者にどんな個性か知られてしまうこともある。

 

 物間の考え方は否定できない。けど、そのやり方は俺にとっては間違いなんだ。

 

「物間、誰がなんと言おうと俺はこっから一位を取りに行く。確かに轟とか爆豪はもうゴール目前かもしれない。だけど俺は、まだ諦めたくない。やれるだけのことはやりたいんだ」

 

「なんで、そんなに必死になるんだよ」

 

 俯きながら、物間は小さく聞いてきた。

 

 理由、か。俺がいま頑張る理由。今までとこれからも頑張る理由。それはもう、一つしかない。

 

好きな女(いつか)の為さ。危なっかしいアイツが悲しい目に遭わない為にも、俺はヒーローにならなきゃならない。この体育祭も、その為の道のりなんだわ」

 

「…ふぅん。めんどくさい奴だな、つくづく」

 

 その声を背中で受け、俺は宙に飛び出す。

 

 俺が必死になる理由は、いつも一佳だから。

 

 一佳の傍にいて恥じない男にならなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 最後の関門は地雷原。地面に埋められている地雷を避けながら進んでいかなくてはならない。少しでも衝撃が加われば、簡単に爆発が起きる仕組み。慎重に、かつ速度は落としすぎないように。他者の妨害を捌きつつ、少しづつだが確実にゴールを目指す。

 

「半分野郎ォ!!」

 

「チッ!鬱陶しい!」

 

 オレが一番対処に時間がかかっているのは、圧倒的にこの男(爆豪勝己)。さっきからいちいち突っかかってきやがる。そして俺に対してボンボン爆発を浴びせてくる。とても鬱陶しい。暑い夏の日に絡んでくる親父並に鬱陶しい。

 

「一位になんのはオレだァ!」

 

 そしてやかましい。とてつもなくやかましい。声に合わせて派手な妨害をしてくるのはやめて欲しい。地雷とかお構い無しにやってくるかと思いきや、ちゃんと踏まないようにルートは考えてる、意外と冷静なところにギャップを感じる。言動と内面が釣り合ってない。

 

 ゴールは目の前、だが地雷と爆豪で上手く前進できてない。いや、どっちも爆発してくるからほぼ同じようなもんか。どっちにまとめる?正直爆豪も地雷みたいなもんだな。ああ、地雷が喋ってる。

 

「超能力バカが全然来ねぇからな!なら後はテメーだけ見ときゃいいってことだッ!!」

 

「男に見られて喜ぶ趣味はねえぞ」

 

「おちょくってんのか!?」

 

 また地雷が爆発した。

 

 にしても、愛生の姿を全く見ていない。最初に足を凍らせておいたが、あいつならすぐに追い上げてくるもんだと思っていた。割と苦戦してんのか?

 

 オレの中では、マークしていた奴だったんだけどな。

 

「死ぃねぇ!!」

 

 物騒な言葉を吐きながら爆撃してくる爆豪。それに対して氷柱を飛ばして距離を取らせる。真横で爆発させられると、走りづらくてしょうがない。それに耳が痛くなる。

 

「家族が見に来てるんだってな!」

 

「!?」

 

 まさかコイツ、愛生との会話を聞いてやがったのか。盗み聞きするなんて。

 

「そいつらの前で、無様に散らしてやるよッ!!!」

 

 ──そうだ、今日は皆が見に来てくれてるんだ。

 

 この広いスタジアムの中で、家族がオレの勇姿を見届けてくれる。

 

 夏兄が、姉さんが、お母さんが。そして──。

 

 エンデヴァー(親父)が背中を押してくれる。

 

 カッコわりーとこは、見せられない。

 

 飛んでくる爆豪を迎え撃とうとした時、突如として後方から巨大な爆発が起きた。

 

『は!?おいおいこりゃどーゆーことだ!?』

 

『誰かがしでかしたな』

 

 その巨大な爆発に連鎖するように、地雷原の地雷が次々に爆発していく。

 

 先に駆けてきた選手たちが必死に避けてきたそれらが、いま一気に解き放たれようとしているのか。当然、オレたちより後ろにいたヤツらはもれなく巻き込まれている。無茶苦茶な絵面だ。

 

「なんっだこりゃ」

 

「爆発の波が…押し寄せてくる」

 

 その波はすぐにオレたちの元へ押し寄せ、爆風が全身を包む。音が凄まじいだけで痛みはないが、それでも多少なりとも衝撃はある。防御体制をとって爆発が止むのを待つしかない。

 

『なんと!!地雷原の地雷が全て起動ッ!?とてつもねぇ爆発が選手を襲うッ!!みんな、マジごめん!』

 

「くそがァ!一体どこのどいつの仕業だ!?」

 

 徐々に砂煙が晴れてくる。流石にこの爆風の嵐の中を駆けてくるやつはいないか。他のみんなは今の衝撃に呆気に取られているようだ。

 

 にしても、設置されてある地雷の完全爆破。こんな芸当が出来るやつは…いや、今は考えてもしょうがない。せっかく地雷が全て消え去ったんだ。この隙にゴールに。

 

 その時、オレの頭上に影が落とされた。

 

 一つのシルエットが地面に写り、だんだんと近づいてくる。

 

 地雷原の地雷を全て爆破させたのは、恐らくそいつだ。そしてそれが誰なのか、今ここで確信した。

 

 その影の人物が、オレと爆豪の前にふわりと降り立つ。そいつの姿を見て、爆豪はギリッと奥歯を鳴らした。

 

「テメェのせいか、クソ野郎」

 

「はっはっは。お口が悪いのは誰かな?」

 

「…遅かったじゃねぇか」

 

「あー、そうだなー。どっかの誰かが俺の足を凍らせちゃったからなー」

 

 最後の最後で、こいつは立ちはだかる。

 

「じゃ、ラストスパートといこうか」

 

 愛生千晴という男は。

 

 

 

 

 

 

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