君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#15 カモがぶどうをつけてやって来た!

 大地を照らす灼熱の太陽。

 

 その光を一身に浴びながら、我々雄英高校生徒一同は汗を垂らしてフィールドを駆け回る。

 

「愛生、右から来てる!」

 

「おうよっ!」

 

「うっそ、後ろからも!?」

 

「かかってこんかい!」

 

「氷氷!地面凍ってる!」

 

「足滑らすなよ!!」

 

 忙しなく変化する戦況に、俺たちはひたすら食らいついていた。

 

 制限時間15分のうち、既に5分が経過している。まだ俺たちのポイントに変動はない。追って追われてを繰り返し、先の読めない状況に対応していた。

 

 この騎馬戦で勝ち残るには、上位4チームまでに入らなければならない。チームの総得点が多い順になるのだが、俺たちの今の順位は6位。このままでは次の種目に進むことは出来ない。どうにかしてハチマキを手に入れたいところだ。

 

「くっそー、こんだけ入り乱れてると誰を狙ったらいいのかも分かんねーな。みんな、なんか作戦とかない?」

 

「転ばす」

 

「ぶっ叩く」

 

「背後からうらめしや」

 

 ろくな奴がいねぇ!侮りがたしB組女子!想像以上にぶっ飛んでやがる!

 

 とは言うものの、先へ進むにはどうしてもポイントは必要だ。

 

 こうなったら、近くにいる奴らから手当り次第にかっさらってくのが一番か?

 

「あははははッ!!愛生ィ、キミ女子達に担がれて恥ずかしくないのォ!?男なら1人で3人くらい持ち上げてみせたらァ!?ご自慢の超能力とやらでさァ!!」

 

 よし、カモがネギを背負ってやって来たな。記念すべき初得点は物間にしよう。

 

「突撃ッ!!!」

 

 俺が声を上げると、3人は一気に物間チームの方へと距離を詰めてくれる。迎え撃つように、物間チームも肉薄してきた。

 

「見てたよ開始前のキミの痴態。誰にも相手されずに地面に這いつくばるその姿。あーあ、そのまま辞退でもしてくれりゃ良かったのにゲベフっ!!」

 

「はいよー、いただきー」

 

 空気を押し出す形で発射した衝撃波を物間の顔面に直撃させ、外れたハチマキをキャッチしてその場を後にする。さてさてポイントは…105ポイント、悪くない。

 

「やったじゃん!初得点!」

 

「物間、凄い顔してた」

 

「アイツにはいい薬だよ」

 

 良かった。同じクラスの男子が可哀想な目にあっても、この子らは特に思うところは無さそうだ。仕返しされる可能性もあるけど、そん時はもう騎馬から引きずり落としてやる。

 

 いただいたハチマキを首にかけ、次のターゲットを狙いに行く。お次は誰にしようか。出来るなら高得点持ってる奴がいいな。

 

 周りを見渡していると、聞き覚えのある甲高い声が耳に入ってきた。

 

「愛生ィ〜!!テメェなに女子とチーム組んでんだよォ〜!!万死に値する…万死に値するゥ!!!」

 

「カモがぶどうをつけてやって来た!」

 

「カモかどうか確かめてみろやーッ!!!」

 

 怒り狂う峰田が、頭のもぎもぎを乱射してきた。てかあの騎馬なに?障子?機動力高すぎて、あっという間にこっちまで距離詰められそうなんだけど。

 

 そして、峰田のもぎもぎと同時に飛んでくるものは他にもあった。細長いピンク色の…これはまさか…?

 

「ケロ、羨ましい状況ね愛生ちゃん」

 

 やっぱり梅雨ちゃんか。ムチのように伸びてくる舌と、引っ付いたら離れないもぎもぎの嵐。これ結構厄介だぞ。

 

「アヒャヒャヒャ!オイラのもぎもぎで動けなくしてやるよ!お楽しみはそれからだァ!!」

 

「目…目が血走っとる…!よし3人とも、一旦引くぞ!」

 

 このまま峰田チームとやり合うのは厳しいと判断した。峰田と梅雨ちゃんの妨害はもちろんのこと、障子の安定感と機動力は馬鹿に出来ない。1人で2人を背負ってるのがむしろメリットになっている。悔しいが、逃げの一手だ。

 

緊急脱出(ベイルアウト)!!」

 

 俺は自信を含めた計4人を念力で浮かせ、峰田から距離をとる。逃げんなー、と峰田の声が響き渡ったが無視。あいつら何気に良いチームな気がする。

 

「わー、空飛んでるー」

 

「着地すっぞ」

 

 充分な距離が稼げたところで、一度地面に降り立つ。流石に4人も一気に浮かすのは、脳に負担がかかる。自分1人とは訳が違うからな、あまりやり過ぎないようにしとかねーと。

 

 峰田チームを退け、改めて周りの様子を伺おうとした時、俺の体に何かが貼り付いた。

 

「うわっ!なんだこれ!テープ!?」

 

「千晴、瀬呂の仕業だ!あそこ!」

 

「大正解ッ!それだけじゃないけど…な!」

 

「うおおおおお!!!」

 

 そのまま引っ張られ、体が強引に騎馬から離れさせられる。宙に浮きながら眼下に視線を注ぐ。瀬呂と芦戸と切島の組み合わせか…いや、あと1人いるだろ!クソ厄介なやつが!

 

「ぶち殺すッ!!!」

 

「ここで来るかよ、爆豪!!」

 

 待ち構えていた爆豪が、爆破を付与した腕を振りかざしてきた。間一髪のところでそれをバリアで防ぎ、体に付けられたテープを強引に剥がす。てかこれ騎馬から離れてるけどいいの?騎馬戦だよね?

 

「落ちろやッ!!!」

 

 両の手のひらから火花が散り始めた。爆破を起こす為の準備。バチバチとした音が次第にデカくなる。

 

「させるかよ!」

 

 それを右足で蹴りあげ弾き飛ばす。狙いの外れた爆破が、明後日の方向へ向けて放出された。そのタイミングで、爆豪に白いテープが巻かれる。

 

「テープ!まだやれたわ!」

 

「無茶言うな。空中戦じゃ愛生に軍配が上がるだろに」

 

「あぁん!?オレが負けるかッ!!!」

 

 吠えとる吠えとる。爆豪に言うこと聞かせんのは骨が折れるだろうな。と言う俺も絶賛自由落下の途中なのだが。

 

「キャッチ!って危な、重力!」

 

 そんな俺の腕を掴んだのは取蔭だった。上半身だけを体から切り離して、俺の体を掴んでくれた。これは助かる、個性を使いすぎるとすぐにバテるからな。

 

「オーライオーライ」

 

 そこに手をデカくさせた一佳が待っていた。安全に降り立ち、再度騎馬を作り直して前方を見据える。爆豪チームも体勢を建て直し、こちらを睨みつけていていた。

 

「避けては通れないってやつだね。どーする?大将」

 

 取蔭の問いに、俺は一言で答えた。

 

「正面突破」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 俺は超能力で地面を軽く砕く。

 

「柳」

 

「分かってる」

 

 砕けて散らばった地面の破片を柳が浮かせて、そのまま爆豪チームへと弾丸のように撃ち放つ。

 

「小賢しい手ェ使いやがって」

 

 それらを爆破で吹っ飛ばす爆豪。仲間殺しな対策だが、そうか切島か。前騎馬が奴ならある程度の衝撃に耐えられる。

 

「酸!滑ってけ!」

 

「あ、し、ど、み、な!ちゃんと名前で呼んで!」

 

 芦戸が酸を足から放出し、まるでスケート選手のように滑走してくる。ああいう使い方もあるのか。

 

 そして迫り来る爆破の弾丸とセロハンテープ。爆豪の奴、しっかり考えたチーム組んできてるな。

 

「くそ、攻撃が止まない!」

 

 一佳がそう嘆く。繰り出される波状攻撃に、俺たちは徐々に追いつめられていく。

 

「死ィねぇッ!!」

 

 接近してきた爆豪の右の大振り。それを左腕で防ぐも、後からやってきた爆破をモロに喰らう。熱と衝撃で肌がヒリヒリする。こんなの何度も受けてられないぞ。

 

「カスがっ!!考え無しで組んだチームで、オレに勝てるかよッ!!!」

 

 爆豪の闘志をこれでもかと言うくらいに詰め込まれた爆破が、俺たち4人を包み込む。その威力に、体が騎馬から吹っ飛びそうになる。

 

 何て容赦のない一撃だ。こっちは女子が3人もいるというのに。けど、そんなことを理由に手加減する男じゃないのは知ってたハズだ。選手宣誓でも言ってただろ、"1位"になるって。自分でかけたプレッシャーに、コイツは負けじと抗っているんだ。

 

「奪った!!!」

 

「千晴ッ!!」

 

 しゅるりと頭からハチマキが離れる感覚がした。この競技の命とも言えるそれが、爆豪の手の中にあるのが見える。勝ち誇ったような顔で、こちらを満足気に見る爆豪も。

 

「残り5分──!!!」

 

 ミッドナイトの声が轟いた。

 もう時間も少ない。

 俺たちの持ち点は0。

 どうする?どうしたらいい?

 思考だけが頭の中でグルグルと回り続けるも、ロクな答えなんて出てこない。

 

「立ち止まってる余裕なんて無いだろ!!」

 

 カクンと上体が傾く。一佳の声が、俺の頭に亀裂を入れるように響いてきた。それと同時に、騎馬が爆豪チームへ向けて接近を始める。

 

「一佳…」

 

「やられっぱなしで終われるのか!?私は嫌だぞ!このまま何もしないでトンズラこくなんて、私にはできない!!」

 

 一佳の感情が、ビリビリと肌に伝わってくる。そうだ、昔からこいつはそうなんだ。誰よりも負けん気が強くて、常に先にあるものを捉えていて、自分というものを決して曲げたりはしない。

 

「まだ私たちは、負けてないんだから!!!」

 

 いつだって全力。ただ前だけを見て進み続けるのが、拳藤一佳という女だ。他者を引っ張るその気迫が、一佳の最大の武器だ。

 

「取蔭!柳!ビビらず行け!俺が絶対に点を取り返す!!」

 

「うん!」

 

「りょーかい!」

 

 今はただ、目の前のポイントにだけ集中する。

 

「返り討ちにしてやるよォ!!」

 

 悪役のような台詞を吐く爆豪に向かって、俺は衝撃波を発射。

 

 腕をクロスしてガードされるが、それは想定内。爆豪なら対応してくることも織り込み済みだ。

 

「しょうもねぇなぁ!!そんなんでオレから、点を取り返せると思ってんじゃねぇぞぉ!!」

 

 衝撃波の牽制を対処すると、爆豪は両の手のひらを突き出し、爆破の準備行動に移る。

 

 さっき空中で見せたアレだ。

 

 あの時は脚で弾いて事なきを得たが、今回は俺が対策する前に爆発が展開された。

 

「チッ…バカスカ撃ちまくりやがって…!3人とも平気か!?」

 

 黒煙の中、3人はコクリと頷く。それが確認できると、すぐさま爆豪チームの捕捉に思考を変える。

 

 現状、俺たちのポイントは0。ということは、爆豪たちがわざわざ俺たちの相手をするメリットは全くない訳だ。爆破で巻き上げられた煙で、姿をくらまされる可能性は充分にある。

 

「ハッ!!」

 

 一佳が、巨大化させた拳で地面を叩く。それにより巻き起こった突風で、砂煙が一気に晴れた。クリアになった視界の中から、爆豪チームを探す。

 

「いた!けどあんな遠くに!」

 

「芦戸の酸かよ!」

 

 見つけた時には既に、爆豪たちは離れた所に場所へ移動していた。芦戸の個性で地面を滑りやすくし、そこに爆豪の爆破で加速している。あっという間に豆粒サイズだ。

 

「クソッタレ!!」

 

 意を決して、俺は騎馬から飛び出した。そのまま空中を飛行して爆豪チームを追う。体力の消耗とか、そんなのはもう気にしていられない。

 

「爆豪っ!愛生のヤツが来てるぞっ!」

 

 切島の声に爆豪が視線をこちらに向ける。すると、爆豪は更に距離を取るのではなく、何故か俺の方へ飛んで向かってきた。

 

「は!?何やってんだオイ爆豪!!」

 

「っせえ!!コイツはここでぶちのめすっ!」

 

「なんの意味があんだよ!!」

 

 俺でさえそう思う。この爆豪の動きにメリットなんて無い。けど、俺は選手宣誓後の爆豪の言葉を思い出していた。

 

 ──テメーには死んでも負けねぇ。

 

「こいつに背中向けるなんて、死んでも御免なんだよ!!!」

 

 爆破の勢いで回転をしながら、爆豪は突撃してくる。まるで小さな核弾頭のようになって、視線は逸らさず、ただ真っ直ぐに俺へと。

 

「あああああっ!!!」

 

 俺は右腕を前に突き出し、その攻撃を正面から受け止める。手のひらが焼け焦げる匂いがしてきた。ヒリヒリなんてレベルじゃない、熱による痛みの最上級が全身に伝わる。いくら手のひらにバリアを展開しているからと言って、ずっと耐え続けられるものじゃない。

 

 気持ちで負けちゃダメだ。いくら痛くても、どれだけ熱くても吹っ飛ばされそうになるのを堪えなきゃ。今ここで爆豪からハチマキを奪わなきゃ、俺たちは先へ進むことができない。

 

 ただ競技を通過することだけが目的じゃないんだ。自分たちの夢のために、立派なヒーローになるために。ここで妥協なんてしてられない。

 

「うおりゃぁぁぁあああ!!!」

 

「──ッ!?弾かれただと!?」

 

 回転の威力を殺し、収まってきたところに衝撃波で弾き返す。プスプスと焦げ付く音と痛みがあるが、まだ動ける。

 

「チッ!まだだッ!!!」

 

 再び肉薄してくる爆豪。

 頭痛もし始めてきた。

 震える手を固く握って、迎え撃つ体勢を作り、俺は空中を駆ける。

 

「クソがァァァ!!!」

 

「うぁぁあああ!!!」

 

 突き出した拳が、爆豪の顔面に刺さる。

 そのまま力いっぱい振り抜く。

 

「爆豪ッ!!」

 

「千晴ッ!!」

 

「「ハチマキを!!!」」

 

 宙に舞う爆豪のハチマキは5本。

 俺と爆豪は同時に手を伸ばし、その白い布を手中に収める。

 

「はい撤退!!!」

 

 またまた駆けつけてきた取蔭に引っ張られ、俺は騎馬に着地する。

 

「ハァハァ…なんとか…3つ取って…きた…!」

 

「ちょっと、手ぇ大丈夫!?火傷なんてレベルじゃないでしょそれ!」

 

「へへへ、めっちゃいてーよ。爆豪め、絶対に許さん」

 

 柳が心配する気持ちも分かる。自分でも思っていた以上に酷い傷だった。あんなのを手で受け止めようなんて、どうかしてた。けど、そのおかげでハチマキも手に入ったんだ。万事OKってやつさ。

 

「見て、3位だって!このまま逃げ切れるよ!」

 

 巨大電光掲示板には、選手たちの順位とポイントが映し出されている。そこに俺たちのチームは2位、960ポイントで載っていた。

 

「千晴の体も心配だ、後は逃げに徹しよう。爆豪も絶対に追いかけてくるから、今のうちに──つ!?」

 

 一佳の言葉が途中で途切れる。

 

 その理由はすぐに分かった。

 

 形成される氷山、視界の端に映る黒い影、どこかで聞いたことのあるエンジン音。

 

 そして、緑色の光を放つクラスメイト。

 

「残り30秒──!!!」

 

 最後の最後に入り乱れてきやがった。轟とデクか。1000万は…轟が持ってるみたいだ。こいつらも、俺と爆豪のように取り合いをしていたんだろう。

 

「デクくん、チャンスだよ。敵は増えたけどハチマキも増えた」

 

「うん、ここで一気に巻き返す!」

 

 デクたちがスピードを上げて猛進してきた。見たところアイツらの順位は6位。残り少ない時間で、特攻を仕掛けてきた。

 

 頭がズキズキする。まるで脳内で誰かが暴れているようだ。正直しんどいけど、踏ん張りところだ。せっかく取り返したポイントを、みすみす奪われる訳などない。

 

「クソデクぅ!!」

 

 爆豪チームも混じってきた。あいつらは…4位か。

 四つ巴の戦いが始まろうとしている。

 残り20秒。

 誰が、どう動く…?

 

「上鳴!」

 

「うぇいっひ!!」

 

 轟の声が響いた直後、黄色い閃光が地面を駆け巡る。

 爆豪は射程外。

 轟はシートのようなもので防御。絶縁か?

 デクは常闇のダークシャドウに電撃を受けてもらっている。

 

「あばばばばばば」

 

「デクくん!あそこから取れる!」

 

 まともに喰らったのは俺たちだけだった。

 

 シビレて動けないでいる俺たちを見て、デクチームがすぐさま詰め寄ってくる。まずい、このままじゃ。

 

「行け、ダークシャドウ!」

 

「アイヨ!悪イナ!」

 

 常闇の腹部から生えてきたダークシャドウが、俺の首にかけられたハチマキをかっぱらっていった。しかも全部。ここにきてまさかの、0ポイントに逆戻りになってしまった。

 

 まずいなんて状況じゃない。

 

「んなことある!?」

 

 取蔭の悲痛な叫び声が鳴り渡る。

 

 時間は残り20秒。

 

 こうなったら狙いは1つしかない。

 

「一佳!!!」

 

 叫ぶと幼馴染は、すぐに行動を開始する。

 

 手を巨大化させ、俺を乗せて勢いよくぶん投げた。

 

 行先は勿論、1000万。

 

 見たところ上鳴はアホ面をかましている。

 

 なら電撃は来ない。

 

「八百万!」

 

「はい!」

 

 轟が名前を呼んただけで、八百万は鋼鉄の盾を創造した。

 

 もう何度も、この競技中に創っているんだろう。

 

 慣れた手つきで轟へとパスをし、轟はそれを構える。

 

 あの盾をぶち破って轟への道を切り開き、首に巻かれた数個のハチマキの中から1000万を掴みとる。

 

 それが唯一、俺たちに残された勝利への道しるべだ。

 

 頭の内側からノックされているような感覚を味わいながら、俺は再び力を集中する。

 

 もう個性を使う力なんて残ってないかもしれない。

 

 だけど、余力がなくても絞り出さなきゃ。

 

 ここまで戦ってきた全てが無駄になる。

 

 ──ドクン。

 

 そう、心臓が跳ねる音が聞こえた。

 

 身体を流れるほんの僅かなエネルギーが増幅し、加速する。

 

 疲弊した身体に、エネルギーが満ち溢れてくる。

 

 一体どこからこんな力が湧き上がってきているのか。

 

 その理由は、今知らなくてもいい。

 

 ただ俺は、新しい扉を開いたような気がしていた。

 

 伸ばした両腕から衝撃波を放つ。

 今までにない威力だった。

 その空気の波はいとも容易く轟の持つ盾を吹き飛ばし、飯田のメガネのレンズを割った。

 

「ま、前が見えない…だと…!?」

 

 そんな飯田をよそに、俺は念力のターゲットを轟のハチマキに絞る。

 

 今なら繊細なコントロールも、簡単に出来る気がしていた。

 

 イメージ、イメージをするんだ。

 

 轟のハチマキを浮かして手繰り寄せるイメージ。

 

 箸で大豆をすくうような感覚、今ならそれも簡単に。

 

 正確に…素早く…1000万を…。

 

「ぐっ…!」

 

 その時、ズキンとひときわ強い痛みが脳内を駆け巡った。

 

 それにより集中が途切れ、ハチマキのコントロールが乱れる。

 

 すぐさま力を整えたが、さっきまでとは感触が違う。

 

 いつもと同じ状態だ、けど今はもうそれでいい。

 

 再び頭痛に苛まれ、ターゲットと出力が乱れる。

 

 轟のハチマキを捉えていたハズが、力の矛先は少し下へ。

 

 そのままずり下げるような形で、俺の力が轟に作用された。

 

『タイムアーップ!!!』

 

 プレゼント・マイクの終了の合図が、会場中に響き渡った。

 

「第2種目騎馬戦、その栄えある1位を手に入れたのは…愛生チーム!!!得点は1000万!!!」

 

 気づけば取蔭に浮かせてもらっていた俺は、彼女から1つのハチマキを受け取る。そこには1000万の文字があった。

 

「…一応、バレないように後ろから取ってたんだ。テキトーに取ったのが1000万のハチマキで運が良かった…ね」

 

「お、おお…」

 

 1000万ポイント、1位で通過。確かにそれは嬉しい。けど、それ以上に衝撃的な状況が目の前にはあった。

 

 勿論これは俺のせいだ。俺が個性のコントロールを誤ったから。けどまさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。

 

「なぁ…愛生…」

 

 轟が俺の名前を口にした。

 

「俺がいったい…何をしたって言うんだ…」

 

 そこには、下着を全国に晒された轟焦凍が天を仰いでいた。

 

 

 

 

 

 




轟焦凍④
・ボクサーブリーフの男。
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