アクシデントも挟んだけど、無事に第2種目の騎馬戦も終了した。
一旦お昼休憩と言ったところで、学生一同は食堂へと集まっていた。俺は持ち前の一佳センサーを駆使し、人混みの中から一佳の居場所をキャッチ。そのまま華麗に2人きりのランチに誘ったところ、
「クラスの子と食べるから」
と、呆気なく玉砕。まぁいいさ、まだディナーがある。もう高級レストランを予約してあるんだよな、親の名前で。支払いもクレカで済ませてあるから、後は現地に行って一佳にフルコースを楽しんでもらうだけ。我ながら完璧なスケジュールだ。これで一佳も落ちるだろう、ククク。
陽気に鼻歌を歌いながらメニューを選んでいると、チョンチョンと肩をつつかれる。一体どこのどいつだと首を回すと、そこには全国にボクサーブリーフを見せびらかした少年、轟焦凍くんがいた。
「あんだよ。詫びならもうしただろ」
「別にその件で来た訳じゃねぇ。他に用事があるんだ」
なんだ、安心した。てっきり騎馬戦の事で話をしに来たのかと思ってた。密かに安堵しながら、轟の言葉を待つ。
「今日はオレの家族が観に来てるんだが、友達に挨拶をしておきたいみたいでな。愛生さえ良ければ、一緒に昼どうだ?」
思いもよらなかった発言に、目をパチクリさせる。
「オレの家族と一緒に、お昼を食べてくれないか?」
「それじゃ全員、手を合わせて」
「「「「「いただきます」」」」」
俺の目の前には、奇妙な光景が広がっていた。
雄英の敷地内のとある一角、そこにファミリーサイズのレジャーシートを広げ、その上によりどりみどりのお弁当箱を並べる。
「ほう、美味そうだな」
「今日は焦凍の晴れ舞台だからね。お母さん、張り切っちゃった」
「夏と私も手伝ったんだよ!焦凍の好きな物たくさん入れてあるから!」
「しっかり食って、昼に備えるんだぞ」
体育祭のお昼休憩、仲睦まじい一家の団欒タイムに混じる
「どうした?食わねえのか?」
横にいる轟が、たまご焼きを頬張りながらキョトンとした顔で聞いてくる。
どうした?じゃねーよ。いきなりNo.2の家族の皆様と食事をするって、難易度高すぎるだろ。おかずとか種類ありすぎてどれから食べれば良いのか分かんねーよ。その辺のスーパーの惣菜売り場より数あるぞこれ。お母さん張り切りすぎちゃってるよ。
「愛生…だったな。この唐揚げが絶品だぞ。食ってみろ」
「あ…うす…」
なんで食事中も燃えてんのこのお父さん。食べる時くらい炎消してくれよ。レジャーシート燃えちゃうんじゃないの?
「ん?なんか焦げ臭くない?」
ホントに燃えてるぅ!
「──オホン、気を取り直して」
エンデヴァーがひとつ、大きな咳払いをしてこちらを見た。
「知ってるかもしれないが、焦凍の父のエンデヴァーだ。今日はいきなり呼びつけてしまって悪かったな」
「どうも…いつもテレビとかで見てます」
No.2ヒーロー、エンデヴァー。オールマイトに並ぶ日本のトップヒーローの1人だ。事件解決数最多という輝かしい実績を持ち、数多のヴィラン達を退治してきた男。画面の中のエンデヴァーには、とてつもない威厳を感じていた。それは、今この場においても変わらない。
「かしこまらなくていい、せっかくの機会なんだ。正座なんてしてないで、足を崩してリラックスしてくれ」
「は、はあ…」
俺は言われた通りに足を崩した。なんだろう、思っていたよりも優しいというか…雰囲気が意外にも柔らかいというか。ヴィランには容赦ないが、家族の前でしか見せない一面もあるということか。
エンデヴァーは俺のぎこちない動きにフッと笑うと、湯気がたちのぼるお茶をズズと啜る。
「いい濃さだ。さすが冷、今日も加減が完璧だ」
「あらあらうふふ。当たり前じゃない、何年あなたの妻をやってると思ってるのよ」
「ははは。うん、このタコさんウインナーも素晴らしい出来だな。食べるのが勿体ない」
「焼いただけよ」
なんだこれ。
俺は何を見せられてるの?
ここにいるおっさんは本当にあのエンデヴァーなのか?なんと言うかその…奥さんにデレデレだな!
「オレは冷の夫になれて幸せだ」
顔とかフニャフニャになってっけど!
「仲良いだろ、うちの両親」
轟夫婦の仲睦まじい様子を見せられ困惑していると、轟が声をかけてきた。すっごいモグモグしながら。
「ああ。まさかあのエンデヴァーが愛妻家だったとはな」
「だろ。家ではもっと凄いぞ」
知りたくなかったよそんな情報。これからエンデヴァーを見る目が変わるわ。
「ごめんね〜変なところ見せちゃって。お父さんとお母さん、外でもあんな感じなの」
そう言いながら轟のお姉さん、冬美さんは俺のお皿にひょいひょいと食べ物を乗っけてきた。
メガネをかけた知的な印象なお姉さんは、どうやら小学校の先生をしているらしい。美人だから人気がありそうだ、生徒のパパさん達に。
「焦凍がお友達をお昼に誘うなんて…!姉さん感動して泣いちゃいそうだわ…!こんな姉を許して!」
ねーちゃんもクセのある人だな!
「まぁこんな家族だけどさ、気兼ねなく食べてってよ」
両親や長女とは打って変わって、お兄さんの夏雄さんは常識のありそうな雰囲気の人だ。ろくな会話が出来るのがこの人しかいなさそうだけど。
「愛生くんは、いつも焦凍と一緒にいるの?どんなお話とかしてるのかしら。この子、そういう事あんまり喋らないからお母さん気になっちゃう」
轟のお母さんからそんな質問が飛んでくる。思春期の子を持つ母親ならではの質問だな。
「そっすね。やっぱクールな奴なんであんま喋んないですけど、口開いたと思ったら"ねみぃ"とか"腹減った"しか言わないっすね」
「あらあらうふふ。焦凍ったら」
「オレそんなこと言ってるのか」
そうだよ。轟おまえそういう奴だよ。
「そーいやこの前、普通科の女子に告られてたよな」
「なんかそういうのもあったな」
いや反応薄っ!こいつ僧か何かか?"そういうの"で済ませるレベルじゃねーだろ。
「焦凍彼女いるのッ!?!?姉さん聞いてないんだけどッ!!!そういうのは逐一報告しなさいって、いつも口を酸っぱくして言ってるわよね!?」
ねーちゃんも大概だな!
「いや、別に付き合ってる訳じゃ──」
「焦凍ォォォォォ!!!!!一体どんな子とお付き合いをしているんだッ!!今度パパにも会わせなさいッ!!!」
「あらあらうふふ。焦凍、昔はお母さんと結婚するって言ってたのにね」
…どうやら俺は、とんでもない爆弾を放り投げてしまったようだ。
「むぅ…見苦しいところを見せてしまったようだな…」
顎をさすりながら、エンデヴァーは申し訳なさそうな声で言った。
まあ…なんというか…No.2ヒーローもちゃんと人間なんだなって思った。テレビの中の存在で、一般人とは違う世界にいる人なのかと思いがちだったが、どこにでもいるような家族愛に溢れたおっさんなのがエンデヴァーだった。
「さ、もうすぐお昼の部が始まっちゃうわ。焦凍、それに愛生くんもしっかりね。上で応援してるから」
グッと両手を力強く握る轟母。元気に手を振ってくれた轟姉に見送られながら、俺と轟は午後の部の集合場所へと向かう。
「わりぃな愛生、変なのに付き合わせちまって」
隣を歩く轟が、申し訳なさそうな顔でそう言う。
「んにゃ、なかなか楽しかったぜ。ご飯は美味いし、エンデヴァーの面白い一面も見ることができたし」
「そうか…。だったら良かった」
「おう、またいつでも誘ってくれよ」
「ああ、家族のみんなにそう伝えておくよ」
個性豊かな轟家の皆さんの顔を思い浮かべながら、屋台が並ぶスタジアムまでの道をひた歩く。途中、たこ焼きを口いっぱいに頬張るマウントレディを発見。何となしに一緒に写真を撮ってもらった。そしてたこ焼きを1つ貰った。
「あ、あの2人A組の子じゃない!?」
「ホントだ!お〜い、応援してるからなぁ〜」
有難いことに、道行く人たちの中には俺たちのことを認識してエールを送ってくれる人たちもいた。言うに、障害物競走と騎馬戦の活躍が目に焼き付いているとのこと。ヒーロー科であるが故の注目度もプラスされて、ちょっとした有名人になったような気分だ。
「ねえねえサイン!サインちょーだい!」
「しょ〜がねぇなぁ〜。ちゃんと額縁に入れて大事にしとくんだぞ?将来プレミアがつくかもしんねぇからな!」
「あー!ズボン下げられてた奴だ!パンツ丸出し男だ!次は気をつけろよ!」
「おお、ありがとな…」
轟の方はあまり見ないようにしつつ、気づけば集合場所付近まで辿り着いていた。午後の部も気合い入れて頑張りますか。そんなことを思いながら歩を進めようとした時、
「愛生、ちょっといいか」
轟から声をかけられた。急になんだと俺は轟の方を向くと、やけにシリアスな顔をしてこちらを見ていた。
「男に見られて喜ぶ趣味はないんだけど」
そう言っても、轟は視線を外す素振りを見せない。え、どうしちゃったのコイツ。
轟の謎ムーブにクエスチョンマークを踊らせていると、轟はゆっくりとその口を開き始めた。
「オレは親父のようなヒーローになりてえ」
「…うん?」
親父…エンデヴァーのことか。そりゃそうだよな。身近に、しかも父親があんな立派なヒーローだったら憧れるのも無理は無い。そのうえ家族愛にも溢れていると来たもんだ。
俺の反応をよそに、轟は続けた。
「雄英ならその目標が達成できると思っている。けど、何もしなかったらその目標は遠ざかるだけだ。そういうのは自分で掴みにいくものだろ?」
「シリアスな奴がシリアスなこと言ってる…」
「愛生…お前は強い。ずっと親父に鍛えられてきたオレでも、勝てるか分からないくらいに。だからこの体育祭で──」
そこで言葉を止めて、轟は俺に向けていた視線に更に力を込めた。
「オレはお前に挑戦する。お前と戦って勝つことで、オレは親父に一歩近づけるんだ。今日はそういう日なんだ」
俺に向かって轟は、右手を差し出してきた。
なんだコイツ…今日は体育祭だろ?日本最大のお祭りじゃなかったっけ?なのに何で一人だけシリアスモードに入ってんの?
「野郎に握らせる手はない」
「…」
ったく、轟は恥ずかしげもなくこーゆーことしてくるよな。天然…?だがなんだか知らんが、やっぱりコイツも癖のあるやつだな例にも漏れず。
「ほら、いつまでも突っ立ってないでさっさと行くぞ。みんな待ってるかもしんねーから」
「…」
「…?」
…なんでこの子さっきから動かないの?右手を前に出した姿のまま、微動だにしないんだけど。どっかで痺れ薬でも盛られたか?
「と、とどろきくぅん?気でも触れちゃったのかなぁ?」
「オレはお前に挑戦する。お前と戦って勝つことで、オレは親父に一歩近づけるんだ。今日はそういう日なんだ」
「!?」
なんで全く同じこともっかい言ったんだ…?そして、なんでそんな悲しそうな目で俺をじっと見てくるんだ…。これあれか?対応してやらないと先に進めないやつか?
「オレはお前に挑せ──」
「だーっ!!わかったわかった!!受けて立てばいんだろ!メンドクセー奴だなRPGのNPCかオメーは」
「…ありがとう」
「どういう感情で言ってるの…」
「決勝で会おう」
「さむっ!氷使いだからって許されるレベルじゃねーぞ!」
差し出された手を握る。なんで道の往来で握手しなきゃいけないのかよく分からなかったが、こうしないと轟がずっとその場で硬直してしまいかねん。俺が応じずにさっさと先に行ってたらどうするつもりだったんだよ。
ランチタイムと轟の奇行を経て、俺は午後の部の会場へと再び向かう。
俺は轟や他の皆みたいに立派な目標があるって訳じゃないけど、真剣な思いを前にして手を抜くつもりは一切ない。
午後の部の種目は…確かガチンコバトルトーナメントだったな。選手の実力が嫌でも試される競技。
「俺と当たる前に負けんじゃねーぞ」
「ああ、お前こそな」
勝ち抜く理由ができた。これで一回戦負けとかだったら会わす顔ないな、こりゃ。
○
『待たせたな全国のパンピー共ッ!!雄英高校体育祭、一年の部!最終種目一回戦の対戦は、コイツらだァァァ!!!』
俺は心の中でひたすら謝っていた。主に轟に対して。さっき交わした約束を果たせそうになかったからだ。
『何でもアリの超能力者!今度はどんな技を見せてくれるんだ!?ヒーロー科、愛生千晴!!バーサス!!!』
セメントス先生が作った特設フィールド。俺の視線の先にいるのは。
『B組の姉御とはこの御方!!凛々しい姿にファン急増中!?ヒーロー科、拳藤一佳!!!』
…どうしよう。まさかいきなりこんな組み合わせになっちまうとは。クジ引きだ、あのクジ引きのせいだ。
軽い準備運動をして備える一佳は、気合い十分といったようだ。
さっきはあんなこと言ったし決意も固めたけど、俺…一佳とは戦えねえや。
「手加減なんかしたらぶっ飛ばすからな」
「よ…よろんくしゅおねあんしゃーす…」
やべぇ轟!俺の一回戦敗退が決まったようだぜ!