「ええ…このとち狂ってるのが俺ぇ…?」
場所は医務室。
俺はベッドの上で、渡されたタブレットに流れるデクとの試合の録画を見ていた。そこには、恥ずかしすぎて目を瞑りたくなってしまいそうな程荒ぶった自分の姿が映し出されていた。
やけにハイテンションになっている…。俺ってもしかしていつもこんな風になってるの?正直デクとの試合の記憶がほとんど無いんだけどなんか嫌だな。自分の知らない自分がいることってちょっと怖いんだな。
結局俺は、2回戦敗退という結果に終わってしまった。デクとの激突で気を失い、そのまま気づけばベッドの上。俺が寝ている間に轟の優勝が決まったらしい。
「ほらほら、いつまでも見てないでしっかり休む。全く最近の若い子は…。血が足りてないんだから、横になって安静にしときなさいよ」
「はーい」
リカバリーガールにお叱りを受け、俺はタブレットをベッドの横に備え付けてある棚に置いてベッドに横たわった。頭上には輸血用のパックがきぃきぃと小さく音を立てて揺れている。リカバリーガールによると、デクとの試合でありえない量の出血をしていたらしい。それもすぐに血を取り戻さないと危ないレベルに。正直気絶していたから全く分からなかった。目の前が真っ暗になって、気がついたらこの状況だったからね。
さらに、なんと時刻は既に夕方の5時を回っていた。体育祭なんてとっくのとうに終わっている時間。今頃会場の片付けが行われているのだろう。俺は医務室の大きな窓から、夕日に照らされ空を飛ぶカラスをボーッと眺めていた。同時に、守れなかったとある約束のことを思い浮かべていた。
お昼ご飯を轟一家と済ませ、会場に戻る道の途中のことだった。どうやら俺と戦いたかったらしい轟から、俺は熱い言葉を受け取った。「決勝で会おう」とかそんな感じのニュアンスだった気がする。それに対し俺は、「俺と当たる前に負けんじゃねーぞ」とかなんかカッコつけた言葉を返したような記憶がある。
「あーっ!!!恥ずかしーっ!!!試合といいお昼の時といい、俺は一体何なの!?アホなの?バカなの?死ぬの?恥ずか死するわーっ!!!」
頭をばふばふと枕に打ちつけ、このどうしようも無い感情を発散しようとする。しかし、そんなことをしても過去は消えるものではなく、ただただ虚しさが残るだけだった。
○
教室へと向かう通路を、俺は1人でとぼとぼ歩いていた。
「アンタ元気そうだから出ていきな」とリカバリーガールに医務室を追い出され、仕方なく教室へ戻っているのだ。
「はぁ…なんか疲れたな…」
教室へ向かう足取りがやけに重い。単純に疲労のせいなのか、はたまた違うことが理由なのか。今の疲れ切った頭ではロクに考えることすらできなかった。
ようやく辿り着いた教室の、バカでかい扉を横に引く。今日はもう荷物をまとめてサッサと帰ろう。明日は振替休日だからゆっくり眠れる。今日の疲れを癒すんだ。
「あ、おい!戻って来たぞ!」
扉を開くや否や耳に飛び込んできたのはクラス1熱い漢、切島の声だった。その声を皮切りに、クラスの皆の顔が一斉に俺へと向けられた。
「愛生ぃ〜!心配したんだぞ〜!」
「ケロケロ、血が足りないから輸血してるって聞いた時は青ざめたわ」
「思ったより元気そーだな」
──と、一気に囲まれ四方八方から様々な言葉を浴びせられる。
「み、みんなぁ…そんなに俺のことを心配してくれてたんだな…!」
「まぁそりゃな!なーに、クラスメイトの頭のネジが外れてるのだって気になんねーよ!」
いや俺が気にするわ。何をガハガハ笑っとんだ切島コノヤロウ。
「愛生、本当にもう大丈夫なのか?」
そんな中、心配の気持ちが前面に押し出ている轟が近寄ってきた。轟の顔を見ると、お昼の約束の件を思い出して申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。それと同時に羞恥心も一緒に溢れてくる。
「ああ、まだ少ししんどいけどな…。それより轟すまん。決勝まで上がってくことができなくて」
「…」
…あれ?どうして何も言わないのこの子?もしかして怒ってる。顔に出さないだけで、俺が負けたことに対してご立腹だったりする?だとしたらマズイぞ。普段おとなしいやつほど怒らせた時は怖いんだ。
轟の反応に内心あたふたしていた次の瞬間、何故か轟の頬から1粒の涙がホロリと流れ落ちた。
「とっ、とどろき!?なんで!?なんの涙それ!?」
「ああ…なんて良い奴なんだと思って…。試合でボロボロの筈なのに、オレなんかのことを思ってくれてたんだな…」
「ええ〜…」
なんだこいつ、こんな奴だったっけ?特に表情を変えることなく、ただぽろぽろと雫を落とし続けているんだが。
「今度また、家族のみんなとメシでも食ってくれ。いつでも大歓迎だから。愛生が来たいなら別に今日でも」
「おおサンキューな。でも今日は流石にやめとくわ…」
轟の気配りに苦笑しつつ、今日という日を振り返る。
朝からハードな1日だったし色々あったけど、なんだかんだで思い出に残るイベントだったんじゃないだろうか。
「今度の休み、皆で体育祭の打ち上げやろ〜ぜ〜!」
「さんせーい!」
誰かが大きな声でそう言った。それを拒否する理由もなく、皆でワイワイと打ち上げの話を進める。
普通の高校じゃ味わえないような体育祭だったと思うけど、こういうところはありふれた高校生みたいだ。
話に混ざるため、俺はクラスの輪の中に入っていった。