君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

2 / 115
*キャラ崩壊注意かもです。少しやり過ぎたかもしれません。
コメント、評価してくださった方々、ありがとうございます!


#2 E判定なんだぜ

「俺も雄英いくぜ」

 

「ん、そっか」

 

 俺の発した言葉に、幼馴染の拳藤一佳は参考書のページをめくりながら淡白に答えた。

 

「俺も雄英いくぜ」

 

 はい、大事なことなので2回言いました。でも拳藤さんは無反応。俺のことより、やはり勉強の方が大事な模様です。うん、普段かけていないメガネをつけてるからか、知的に見えるね。そんな一佳も可愛いですありがとうございます。

 

「全部ダダ漏れなんすけど」

 

「え? マジ? そいつは参ったな、俺ちゃん恥ずかしい」

 

「何を今更……。それで? 雄英狙ってるのは知ってたけど、なんで急にヒーロー目指すようになったんだ?」

 

 いや知ってたんかい。割とサプライズ的なノリで発表したんだけど。

 

「おいおい一佳ちゃん。まだ誰もヒーロー科志望とは言っとらんぜ」

 

「じゃあ普通科? それとも経営科?」

 

「ヒーロー科」

 

「一体なんなんだよお前は」

 

 一佳が明らかにウザそうな顔をしていた。そんな表情すら可愛いのだから、もう俺はお手上げだぜ。

 

「千晴もヒーローになりたかったのか。うん、いいと思う。けど、なんでそうなった? 別に昔からヒーローに憧れてるわけじゃなかっただろ?」

 

「お前を守るためだ」

 

「……」

 

 静寂。放課後に勉強したい生徒のために開放されている空き教室が、無音に包まれた。

 

「お前を守るためだ」

 

「いやそれは分かったわ。それが何で雄英に入ることに繋がるのか知りたいワケ」

 

 なるほど、確かにそれはごもっともな意見だ。今までヒーローになりたいなんて一言も口に出していなかった俺が、なぜそのような考えに至ったのか。一佳の疑問を解決すべく、俺は言葉を並べた。

 

「ヒーローってのは、いつだって人々を守る凄い奴らのことだろ? 時には危険な場所にだって、自分の体を犠牲にしてでも飛び込まなきゃいけないこともある」

 

「まぁ、それがヒーローの役割だしな。皆を守ってやんなきゃ」

 

「じゃあここで問題。人々を守るのがヒーローだけど、ヒーローのことはいったい誰が守ってくれるのでしょーか?」

 

 俺の質問に、一佳は難しい顔をした。頭を悩ませているようだ。やっぱり、こいつはそこまで考えてなかったな。

 

「ヒーローは皆を守る存在だろ? 力を持つ者なら、自分のことくらい自分で──」

 

「──守れません。人は自分のことを完璧に守ることなど出来ません。1人で生きていけないのと同じさ。力を持ってる奴なら、なおさら危ない」

 

「確かにそうかもだけどさ……弱音吐くわけにはいかないじゃん……」

 

「ヒーローが弱音を吐いちゃいけない理由なんて無いよ」

 

 少し真剣な声色で言う。一佳もそれを感じ取ったのか、ピリッとした面構えになった。

 

 拳藤一佳は、自分のことよりも他人を優先する人間だ。誰かが困っていると、自分のことを放ったらかしにして助けに行く。先日の火災現場の出来事がそうだ。他人のために、平気で自分の身を危険に晒す。

 

 自己犠牲の精神ってやつか……ヒーローには不可欠な要素かもしれないが、それで本当に犠牲になってしまったら元も子もない。俺は一佳に、自分の命をもっと重く見てほしいのだ。自分の痛みに鈍感なこの幼馴染に。

 

「ヒーローだって人間だ。そこに強いも弱いもない。辛い時や苦しい時は、他の誰かに守られる必要がある」

 

 椅子から立ち上がって、俺は続けた。

 

「だから俺は雄英に入って、ヒーローになれたらお前を守るよ。危なっかしい一佳を、傍で支え続ける」

 

 一佳が、そのくりくりとした瞳を大きく見開かせた。エメラルドの瞳がより一層美しく輝く。

 

 俺はゆっくりと地面に膝を着け、一佳の白くて綺麗な手に触れる。

 

「さしずめ、騎士(ナイト)様ってとこかな? 一佳の綺麗な体に、傷一つ付けさせやしないぜ。ふっ」

 

 決まった……。過去最強にカッコつけることが出来た気がするぜ。これで一佳も、俺にハートを奪われたことだろう。さて、最後に軽く手の甲に口づけでもしておくか。そう、童話に出てくる王子様のようにな! これで一佳も完落ちだぜ! 

 

「むちゅ〜」

 

「何しようとしてんだッ!!」

 

「あべしっ!!!」

 

 瞬間、一佳の膝が俺の下顎にクリーンヒットした。突き上げられた俺は、そのまま教室の天井に深く突き刺さる。

 

「この変態野郎が! なんか良いこと言ったと思ったらすぐそれか!」

 

「ご……ごめんなひゃい……」

 

 うん、どうやら俺が悪かったようだ。ちょっとばかし急ぎすぎたか。にしても凄い力だったな。顎の骨にヒビが入ったぜ。

 

 天井から墜落し、床に横たわる。こりゃしばらくは動けそうにない。なんてたって、脳みそが揺れちまったからな。これが俺の未来の嫁さんなんだぜ。ブルっちまうだろ? 

 

「……でも、千晴の言いたいことは理解できたよ。自分のことも大切にしろって言いたいんだろ?」

 

「しょう! しょれが言いたかったんだゃ!」

 

「うそ……顎が割れて滑舌が凄いことに……」

 

 ──気を取り直して、俺は再び椅子に座り直した。

 

「まぁ、俺が雄英を志望する理由はそんな感じだ」

 

「うん、よく分かったよ。それに何だか安心した」

 

「安心? なにゆえ?」

 

 俺が首を傾げると、はにかんだ笑顔で一佳は答えた。

 

「1人じゃないって知ることが出来たから。それに……千晴が一緒なら心強いよ」

 

 ……天使か? いま俺の目の前には天使がいるのか? なんだその可愛すぎる笑顔、反則レッドカードで一発退場だよ? 俺が。

 

「一佳……」

 

「なに?」

 

「式場予約してもいいか?」

 

「お前の頭ん中どーなってんの!?」

 

 いかん。一佳の可愛さにやられて、危うく結婚式の準備に取り掛かるところだった。もう俺の脳内では、誓いのキスまで済ませてたんだけど。脳内時間と現実時間の差にクラクラするぜ。

 

「そんでさ千晴、いま判定はどんなもんなの?」

 

「判定? あー、あの模試の結果でだいたいの合格率が分かるやつか?」

 

「そうそう。今どの辺りにいるんだ?」

 

 カバンの中をゴソゴソして、この前の模試の結果用紙を探す。確か奥の方にあるはずだが……。あった、これだ。うわ、くっしゃくしゃになってら。

 

「えーと……なになに……雄英高校の判定は……」

 

「うんうん」

 

「E判定!」

 

 瞬間、一佳の体が凍りついた。瞬きひとつすらせず、完全に固まっている。誰かが時間停止の個性でも使ったのか? 

 

「E判定なんだぜ」

 

 念の為もう一度言うと、一佳はひときわ大きなため息を吐いた。その後、絶望しきった目で俺を見てきた。

 

 もしかして自分、崖っぷちにいる感じっすか──? 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

「勉強合宿だ」

 

 そう息巻いて、一佳はテーブルの上に参考書を積み重ねた。国語、数学、理科、社会、英語。各教科の分厚い参考書が、俺の視界を遮る。

 

「入試当日までもう時間が無い! それなのにアンタの判定はまさかのE! この絶望的な状況を乗り越えるには、死ぬ気で勉強するしかない!」

 

 おお、何だか一佳が燃えている。メラメラと燃え上がる炎のようなものまで見えてきた。凄い……こんな一佳を見るのは体育祭で応援団長をやっていた時ぶりだ……。

 

 ──と、茶番はここまでさ。俺が今どこに居るか分かるか? あれから学校を出て、俺が一佳に引っ張られて連れてこられた場所、それがどこなのか。

 

 そう! それは一佳ハウス! 一佳が生まれ育ってきたその場所! そしてなんと一佳のマイルームで! 俺はいま座している! 

 

 これがどういうことか分かるか? 最高ってことだよ。ああ神様仏様、僕はあなた達を一生敬い続けます。このようなご褒美を与えてくださって、本当にありがとうございます。もう毎日お供え物とかします。いやマジで。

 

 小さい頃は、何度か一佳の部屋にお邪魔させてもらったことがある。でも小学校の高学年になった時くらいから、なかなか部屋に入れてもらえなくなった。俺は何がなんでも入りたくて、色々理由をつけて侵入しようとしていたが、いつもグーパンで殴り倒されていた。

 

 そんな一佳が、今日は自ら招き入れてくれたのだ。これはもう……アレってことだよな……? 俺の妻として一生を添いとげる覚悟を決めたってことだよな? 

 

 数少ない貴重な機会かもしれん。今のうちに堪能しておこう。息を吸って……吐いて……ゆっくり……そのまま……。わぁスゴい、天にも昇る気分だァ。

 

「──とにかくやれることはやって……っておい、私の話聞いてる?」

 

「ああ。久しぶりに入ったけど、一佳の部屋は最高だな。それにいい匂いもする」

 

「全然聞いてないじゃん! 雄英入れなくても知らねえぞ!」

 

「おう、いざとなったらお金積んで裏口入学してやんよ。俺やってやんよ」

 

「……冗談でしょ?」

 

「はい、冗談です。すみませんでした」

 

 一佳の引いたような目が、俺に突き刺さる。少し冗談が過ぎたか。一佳は真面目だから、冗談でもこういう悪どい考えをめっぽう嫌う。

 

 目の前に積み重なった参考書の山に目を移す。正直、これらをやりきるのはとてもしんどい。でも仕方ない。一佳と雄英に入るためだ。そのためなら、どんな努力も惜しまないさ。

 

 さ、いっちょ本気出してやりますか。来年から本気出すとか毎年のように言ってたけど、今回のはガチだ。本気モードになった俺は、もう誰にも止められんぞ。

 

「それじゃあ、私はお風呂入ってくるから。私がいなくてもちゃんとやるんだぞ」

 

「あいあいさー」

 

 そう言い残して、一佳は部屋を出て行った。階段を降りる足音が徐々に小さくなり、そのうち聞こえなくなった。

 

「……」

 

 部屋には俺1人、訪れる静寂。加えてここは女子の……一佳の部屋……。

 

 ──となれば、やることは1つしかないよなぁ……? 

 

 と、思春期真っ盛りの中学生なら思うだろう。

 

 しかし俺は違う。その辺のアホで異性のことしか考えていない猿どもと一緒にしないでもらいたい。

 

 一佳に魅力が無いという訳じゃない。むしろその逆。魅力がありすぎるが故に、下手なことをしたら嫌われる。最悪、死ぬまで口を聞いてくれなくなる恐れがあるのだ。

 

 一佳と関係が絶たれたら、俺はもう生きていけない。悲しみのあまり何をしでかすか分からない。もしかしたら、地球を破壊してしまうかもしれない。そんな最悪な結末を避けるために、俺はここで何もしない。これは男の鉄の意志だ。

 

 なぁに近い将来結婚したら、何でも好きなこと出来るんだ。その時のために取っておくんだよ、お楽しみってやつはな。けけけ。

 

 そのために、まずは目の前の壁を乗り越えなくっちゃなぁ! 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

「ま、真面目に勉強してる……だと?」

 

 お風呂から戻ってきた私は、部屋で黙々と勉強に励む千晴を見て驚いた。

 

 あの千晴が、授業さえまともに受けていない千晴が、必死にペンを動かし問題と向き合っている。私の勝手な予想では、寝っ転がってどこからか見つけた漫画でも読んでいたが、まさかこうも真面目に取り組んでいるとは。

 

 ……それにしても、何かに熱中している千晴の顔は久しぶりに見た気がする。普段はもっとヘラヘラしているのに、真剣な表情でいる千晴を見ていたら、つい本音が漏れてしまった。

 

「かっこいい……」

 

「それだっ!!!」

 

「うえぇっ!? 私なに言って……じゃなくて! 急になんなんだよ!」

 

 自分が発してしまった言葉に焦りながら、突如として首をこちらに向けてきた千晴に声を荒らげる。もしかして、今の聞かれてた……? 

 

「coolの日本語訳さ。喉元まで出かかってたんだけどな。教えてくれてサンキュー」

 

 あ、良かった。どうやら違う捉え方をしたようだ。ホッとして座布団の上に座る。

 

「千晴も、キリのいいとこまでいったらお風呂入ってきなよ」

 

「そうだな。じゃあお借りしますわ」

 

 シャーペンを置いて、千晴は立ち上がる。リュックの中から着替えを取り出し、風呂の場所を教えたらススーッと向かっていった。私の家に来る前に千晴の家に寄ったから、お泊まり用の持ち物は持って来ている。

 

「行ったか」

 

 千晴の姿と足音が消えたのを確認し、部屋の扉をそっと閉じる。私は座布団に戻り、勉強道具やらが置いてある小さなテーブルに勢いよく突っ伏した。

 

 千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり千晴とお泊まり。

 

 あれ? 何でこんなことになったんだっけ? 確か千晴が雄英に行きたいって言ってて、それは私を守るためだって……。判定を聞いたらE判定だって恥ずかしげもなく言ったから、これじゃいけないと思ったんだっけ……。

 

 とは言っても、流石に即断即決すぎた! 受験がヤバいからうちで勉強会しよう、っていきなりなる? しかも泊まりで!? 幼馴染だからといっても、15歳の男女よ。なんか……なんか変な気持ちになってくるじゃん! 

 

「はぁ……だめだ……。ずっとドキドキしてる、私……」

 

 今夜は千晴と一緒に過ごす。いくら勉強という理由があっても、こんな大イベントに私は耐えることができるだろうか。いやほんと、過呼吸とかになったらどうしよう。その時は千晴が助けてくれるはず。どうやって? 過呼吸の対処法って、ビニール袋を使うとか……あとは……なんか前にテレビで見たような……。

 

 ──キス。脳裏に浮かんだのはそのワード。その瞬間、私の頭からプシューっと蒸気が吹き出した。

 

「な、なななななに考えてんだ! そそそそんな状況になる訳ないし!! 私も勉強しなきゃだし!! さーてと、そろそろやりますか!!!」

 

「よう一佳、風呂上がったぜ」

 

「うひゃあ!! お、お疲れぃ!?」

 

 急に現れた千晴に飛び上がる。てゆーか、やけに早いな!? 

 

 よっこらせ、と座布団に腰を下ろした千晴は、早速ペンを握って再び勉強を開始しようとしていた。千晴はアレだ、1度火が点いたらガンガン突き進んでいくタイプだ。そうだよな、目標はかなり高いんだ。ゆっくりしてる時間なんて無いよな。うんうん、なら服を着る時間も勿体ないよな……って。

 

「なんで上裸なんだよーっ!! 服くらいちゃんと着てこいよ!!」

 

「いっけね! つい油断した!」

 

「ゆ、油断だって……?」

 

 コイツ、仮にもここが女子の部屋だってこと分かってるのか? いくら小さい頃からの付き合いだからって、その辺の分別くらいつけるだろうに。……でもアレだな。千晴って結構良い身体してるな……。筋肉もしっかりついてるし、服の上からじゃ分からなかったけど、細マッチョってやつ? なんというか、男だということを実感させられる肉体というか……。この身体で抱きしめられでもしたら……。

 

「……あの、一佳さん? さっきからやらしい視線が突き刺さってるんすけど……」

 

「……ハッ!? いや! これは、その、誤解だって! 別に何とも思ってないんだからな! いいからお前は勉強しろォ!!」

 

「へぶしっ!! なんで叩かれた……!?」

 

 あ、思わず手が出てしまった。駄目だ……色んな気持ちが入り混じってて訳わかんない……。私、こんなんで今夜を乗り切れるのか……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあ〜あ、もうこんな時間か……」

 

 それから時間は流れ、時刻は深夜の2時。良い子は眠っている時間だ。

 

 私はその場で立ち上がり、大きく伸びをする。あれからずっと勉強し続けてたから、腕やら肩が痛いのなんの。明日は学校が休みの日だからいいものの、毎日こんなことは出来そうもない。

 

 私もそうだが、千晴も物凄く頑張っていた。苦手な教科に嫌な顔ひとつせず取り組み、着実に問題を解いていった。そんな彼が寝落ちしたのが20分ほど前のこと。シャーペンを持ちながらテーブルの上に頭を乗せ、寝息をたてている。

 

 おそらく起きることは無いだろうから、朝まで寝かせておこう。今日はよく頑張った。私もそろそろ寝ようかな。そう思いベッドに横たわろうとした時、1つの疑問が頭をよぎった。

 

「千晴の寝る場所どーする……?」

 

 肝心なことを忘れていた。そうだよ、千晴をどこに寝かせればいいんだ。予備の布団なんて持ってないし、このままの状態で寝かせておくなんてことは出来ない。……と、なればもう選択肢は1つしかない……。

 

 私は目の前の自分のベッドを見やる。中学に上がった時に買ってもらった、1人では少し大きめのソレ。このベッドなら、私と千晴が並んでも寝られるかもしれない。少し狭くなるかもだけど、それは仕方ない……のか? 

 

「いやいやいやいや! 男女が同じベッドで寝るなんて! そんなの怒られちまうよ! 不純だ不純!」

 

 とは言ったものの、私だけ暖かいベッドで寝て、千晴は今の場所で放置で良いのか? もう季節は冬に入る。風邪でも引いたらそれこそ問題だ。

 

「──おし!」

 

 私は決意した。もう考え直したりはしない。私は今日、千晴と同じベッドで眠ることにする。そう決めたのだ。

 

 個性を発動させ、千晴を起こさないようゆっくり持ち上げる。私の両手は大きくさせたらその分だけ力も増すため、特別重いとかは感じない。千晴の眠りを妨げぬよう、ただ慎重にベッドに運んだ。

 

 千晴をベッドに降ろして一息つく。よし、後は私もベッドに入るだけ。大丈夫、これは私のベッドなんだ。そして千晴はただの幼馴染だ、変な気は起こさない。

 

「し、失礼しま〜す」

 

 自分のベッドに入るのに、なに言ってるんだ私は。

 

 スヤスヤ眠る千晴の隣に、私は横たわる。スペース的には大丈夫だったな。ならば、もう後は目を閉じて羊の数を数えるだけだ。

 

(って、無理無理無理無理無理なにこの状況!? 隣で! 私のすぐ隣で千晴が寝てるんですけどッ!!!)

 

 ちょっとこの破壊力は想像以上だった。想い人がすぐ真横で寝ている、なんて状況。心臓の鼓動が早い。今までの人生で1番ってくらいに。

 

 千晴の体温を微かに感じる。言葉では言い表せないほどの感情が溢れてくる。こんなの、変な気を起こすなって方が無理だ。

 

「ん……う〜ん……」

 

 千晴が寝返りを打った。それにより、頭が私の方を向く形になってしまう。千晴の顔が……至近距離に……! 私はいま天井を向いているけど、私も横に顔を向けたらもうそれはヤバいことになる。当たっちゃう! 何とは言わないけど、何かと何かが触れちゃう! 結婚式でするやつ! 

 

 もう今の状態ですら、私の頭は吹き飛びそうだった。しかし、千晴はそれだけには留まらなかった。

 

 そっと、優しく何かが私の体を包み込む。これは腕だ。誰の? 千晴しかいねぇ! 千晴の腕が、まるで抱き枕を抱くように私の体を包み込んでいる! 

 

「〜〜〜ッ!?」

 

 声にならない叫び声が上がる。なにこれ? え? なにこの夢みたいなシチュエーション。良かったわ。私今まで生きてきて良かったわ。私の心臓いま凄いよ? 1秒間に1000回鳴ってる。ビート刻みまくってる。

 

 千晴の寝息が首筋にかかる。それだけでもう昇天しそうなくらいだった。少しだけ、ほんの少しだけ顔を千晴の方へ向ける。すると、視界いっぱいに好きな人の寝顔が……。

 

「う〜ん……一佳ァ……」

 

 なに!? 寝言で私の名前を呼んでる!? 何その嬉しい寝言。録音しようかな。

 

「一佳ぁ、愛してる……」

 

 この夜、私は天に召された。魂が肉体から抜け出て、夜の空の中を駆け巡った。寒すぎる気温が、火照った私の体にはちょうど良かった。

 

 肉体に戻る時には、すっかり朝日が昇っていた。

 

 

 

 

 

 




拳藤一佳①
・愛生千晴の幼馴染であり、想い人。
・いつも千晴の熱い想いを適当に流しているが、密かに大喜びしている。
部屋には千晴から貰った物やラブレターなどが、大切に保管されている。

愛生千晴②
・授業中に1人消しピンをして楽しんでいる。
・雄英高校E判定。
・個性の力に甘えず、自らの肉体も鍛えている。
・coolの意味を知らない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。