君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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職場体験の巻
#20 とくになし。100点満点の動きでした


 拝啓、おふくろさん。

 

「チッ、しつこい!まだ追ってきてるぜ!」

 

 俺はいま。

 

「おいおいおい!あいつトラックぶん投げてきやがったぞ!」

 

「成敗!」

 

 凶悪ヴィラン達と戦っています。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 遡ること3日前──。

 

 体育祭を終えた俺たちヒーロー科に課された次の試練、それは職場体験だった。

 

 雄英高校における職場体験とは、実際のプロヒーロー達の事務所にお邪魔し、その活動を体験させてもらい実務の経験を積むことである。この行事は体育祭と半ばセットのようなものになっていて、体育祭でプロ達の目についたら指名を貰える…。要するに職場体験のお誘いが来るという訳だ。

 

「轟ハンパねーな。さっすが優勝した奴はちげーぞ」

 

 放課後、俺たちは教室内に残って職場体験の話でワイワイしていた。

 

「おお、有難いことにな」

 

 相変わらずスカした態度の轟だが、彼の指名件数は驚異の4123件。なにこの数、全国のヒーロー事務所から目付けられてんじゃないの?指名貰ってる事務所全部チェックするだけで、職場体験期間終わっちゃうだろ。

 

「マジで悩む」

 

 でしょうね!

 

「そう言う愛生、お前はどれだけの指名を貰ったんだ?クラスでも屈指の実力者のお前なら、轟に勝るとも劣らない数をいただいてそうだが」

 

 ヌッと常闇クンが背後に迫ってきた。そんな彼に俺は、指名を貰った事務所のリストを見せた。俺の指名件数は全部で333件。それを見て常闇クンが「ほぅ」と唸る。

 

「もっと目に止まっていても良さそうだがな」

 

「しょーみあんま良い結果残せたとは言えねーからな。ま、この中から気になるとこ見つけて行くわ。常闇クンはどこのヒーローのとこ行くの?」

 

 そう聞くと常闇は既に決めていたのか、相澤先生に提出する用紙を俺に見せてくれた。

 

「ホークスに会いに行く」

 

「ホークス!?No.3ヒーローじゃんか!指名貰えたのか!?」

 

「なんかもらえた」

 

「軽っ!!もっと喜んどけ!!」

 

 口ではそう言うが、少し誇らしげな常闇クン。ホークスと言えば、18歳でデビューしてその年の下半期にはビルボードチャートトップ10入りを果たしている通称"速すぎる男"。そんな人に呼ばれるなんて、やっぱり自分の実力が認められたみたいなものだから誇らしくもなるよな。

 

「オレもそこにしようかな」

 

「いやもっとちゃんと考えた方がいいと思うけど…」

 

 轟に苦言しつつ、俺も自分の職場体験先についてじっくり考える。もちろん安易に選ぶことは避けたいし、指名を貰っている中で自分のプラスになるようなヒーローの所に行きたい。そうなってくると俺の行くべき所は…。

 

 その時、校内放送のアナウンスが鳴り響いた。

 

『1年A組、愛生千晴くん。至急生徒指導室まで来てください。繰り返します。愛生千晴くん、至急生徒指導室まで来てください』

 

 え、なにこの怖すぎるアナウンス。嫌な予感しかしないんだけど。

 

「ご愁傷さま、愛生」

 

「今のうちに言いたいことあったら聞いとくぜ」

 

「安心しろ、骨は拾ってやる」

 

「俺死ぬの!?なんなんだよコイツらはホント!」

 

 皆の反応に声を荒らげながら、俺は教室のドアを勢いよく閉めた。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 よくある長いソファとテーブルが用意されている生徒指導室、そこに相澤先生は腰をかけて待っていた。こころなしか、空気がピリついているような気がする。俺、またなんかやっちゃいました?

 

「悪かったな、急に呼び出したりなんかして」

 

 そう言って先生は、湯気が立ちのぼる湯呑みを差し出してくれた。それを受け取りとりあえずズズっと1杯。うん、相澤先生の入れるお茶はやはり美味い。というのも、実のことを言うと生徒指導室にはよく出入りをしていた。その度に、相澤先生にはこのようにお茶を出してもらっているのだ。え?なんで生徒指導室に頻繁に用があるのかって?字を見たら分かるでしょ。

 

「別に大丈夫ですけど。まだ何もやってないですよ」

 

「まだってなんだ。余計な仕事増やすな」

 

 はぁとため息をつく先生。この人、俺と話す度にため息をついてるな。そんなに呆れられてるのかな?どうする?急に最初の頃みたいに除籍宣告とかされたら。

 

「本題に入ろう。今朝、職場体験の話をしただろ?もうどこに行くか決めたか?」

 

 その類の話か。とりあえず怒られそうな話題ではないので内心ほっと胸を撫で下ろす。

 

「まだです」

 

「そうか、だったらちょうどいい」

 

 言いつつ先生は、1枚の用紙を俺の前に提示した。

 

 なんだこれ、難しい漢字がいっぱいでなんて書いてあるのか読めない。

 

「これは…?」

 

「単刀直入に言う。ヒーロー公安委員会から直々に指名が入った」

 

「コウ…アン…!」

 

 あー、はいはいコウアンねコウアン。聞いたことあるよTVでよく観るアレでしょ?ちょっと気になってたんだよねコウアン。そっかー、俺もついにコウアンデビューかぁ。

 

「分かってないだろお前」

 

「ギクッ」

 

 またもや深いため息が生徒指導室に響く。だって仕方ないじゃん、そんなの教えてもらってないもん。

 

「仕方ない…。じゃあまず公安の説明からだな」

 

 それから相澤先生による、公安の解説が始まった。

 

 ──と言ってもよく分からなかった。どうやら国が主体となって、ヒーローや警察と密な関係を築いているらしい。国が管理しているから、その分相手にしているヴィランにはヤバいやつがいるとかいないとか。なんかそんな感じの内容だった。とりあえず理解したフリだけしておいた。

 

「…まぁ、基本的にやることは他の皆と一緒だ。特別変わったことをやるという訳でもない。お前は公安から指名を受けて、現場では言われたことだけやる。これだけ理解しておけばいい」

 

「うす!雄英代表として、恥ずかしくない振る舞いをしてくるっす!」

 

「頼むぞ」

 

 そう言う相澤先生にサムズアップ。俺は職場体験への意気込みを顕にした。

 

 にしても公安か…。一体どんな人たちがいるんだろう?怖い人とか居なかったらいいな!

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 時は戻って職場体験初日。俺は、先程とっ捕まえたヴィラン達が警察に連行される様を見届けていた。

 

 白昼堂々宝石店に強盗に入り、ヴィラン達は店内の宝石やら何やらを奪って車で逃走。通報を受けた俺はヴィランを追っかけて、市内の高速道路にて交戦。投げつけた大型トラックをヴィランの目の前で寸止めさせると、ヤツらは泡を吹いて気絶していた。

 

「お手柄だったよヒーロー。トラックを浮かせた時は、ここの高速道路を破壊するのかと肝を冷やしたけどね」

 

「いやいやなんのなんの。また何かあったら呼んでくだせえ」

 

 職場体験が開始して変わったことが1つある。それは人々の視線だ。街ゆく人々や今の警察のように、職場体験中とはいえ傍から見たら俺はヒーローなんだ。周囲の人たちもそういう目で俺のことを見ている。

 

「コスチューム着て外出りゃヒーローってか。名前が売れるのもそう遠くないかもな。はっはっは!」

 

 1人で高らかに笑っていると、遮るようにインカムから通信が入る。これ通信が入るとビビッて嫌な音が最初に来るんだよな。何とかならんもんかね。

 

「こちら"サイコ"。状況に問題は無し。少しお腹が空きました。どうぞぉ」

 

『戦闘後だってのにお気楽だな。とりあえず指定したポイントに戻ってきな』

 

「了解しました。その後お昼にしましょう。どうぞぉ」

 

『もう少し緊張感を持て』

 

 告げられるとそのまま通信が切られる。やれやれ、お堅い人だな。そう思いながら通信端末に指示された場所まで飛んで行くことにする。

 

 ちなみに、"サイコ"というのは俺のヒーロー名だ。正式名称は"ザ・サイコ"なんだけど、現場でいちいち"ザ"も呼ぶのが面倒くさいから"サイコ"って呼ばれるようになった。由来はそのまま超能力から取った。こういうのは無駄に凝ったりせず、シンプルなのが良いんだよ。覚えてもらいやすくなるしね。

 

 そうこうする間に指定されたポイントに到着。そこには1人の女性が、端末を弄りながら待っていた。俺の到着に気づくと、こちらを振り返る。

 

「お疲れ。何とも無かったか?」

 

「余裕のよっちゃんですよ。てかここから見てたんじゃないんですか」

 

「ああ、見てた。ヴィラン共が奪っていった宝石を」

 

「どこ見てんだアンタ!」

 

 ──目の前にいる女性、"レディ・ナガン"は凛とした表情でそう言い切った。

 

 公安直属のプロヒーロー、レディ・ナガン。腕をライフルの銃身に変形させ、髪の毛を素材に弾やスコープを生成して敵を穿つTHE・スナイパーライフル人間。ピンクとダークブルーのバイカラーの髪が特徴的なキリッとしたこの人が、今回の職場体験のお世話役となった。

 

 小さい頃にテレビで何度か見たことがある。数キロ離れた場所からでも正確に敵を撃ち抜くその技量から、ヒーロー界でもトップクラスの実力を誇る人物とされている。そんな人の指示を受けつつ、俺はヴィラン退治に勤しんでいた。

 

「すまん。キレイなものには目がないんだ」

 

 その雰囲気から厳しい人なのかと思ったりもしたが、意外とこういう一面もある。まあそうだよね。宝石とかキラキラしててキレイだもんね。女性ならそういうのに目線がいっちゃうのも仕方ないよね。

 

冗談はさておき、レディ・ナガンは俺の方を見て口を開いた。

 

「よし。じゃあ今の戦闘の反省点を言ってみろ」

 

「とくになし。100点満点の動きでした」

 

「撃ち抜くぞテメェ」

 

 こわっ!この人銃身に変えた腕をソッコー俺に向けてきたよ!

 

「いいか?1つ何かを成し遂げる度に、その時の自分を振り返れ。あの時こうしていれば、もっと上手くできていた。あのタイミングでこう動いたら、また違う結果になっていた…。可能性の話でもいい、1歩進む度に立ち止まれ」

 

 腕を元に戻してナガンは続ける。

 

「お前はこの世界においてヒヨっ子同然。そんなお前がこの職場体験の期間中に1ミリでも強くなりたいなら、とにかく自分を客観視しろ。その地道な積み重ねが、未来のお前の歩幅をデカくするんだよ」

 

「ナガンはそうやって強くなったの?」

 

「そーゆーこった」

 

 …反省、か。確かに今までは、感覚的なところでしか行動を振り返っていなかったかもしれない。ここはプロの現場。得られる経験値は学校での学びとはダンチ。ただ言われたことをやるだけではもったいない。

 

「私が見てやるんだ。この絶好の機会を無下にするほど、バカじゃないだろ?」

 

「うす!学ばせてもらうよレディ・ナガン!」

 

 ただ前だけを見て進むだけじゃ、自分の改善点に気づけないって訳だ。悪いところを潰していくことが、成長への近道。クラスの皆もプロの下で多くを吸収しているはずだ。

 

「その意気だ。んじゃ、昼メシ行くか!」

 

「ラーメンにしようラーメン!」

 

「お、いいな。行きつけのトコあっからそこ行くか!」

 

 この1週間で、俺は強くなってみせるぞ。

 

 その決意を胸に、職場体験はスタートした。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 夜。ビルの屋上に、1人の男がいた。スーツを身にまとったサラリーマン。虚ろな瞳でフラフラと揺れ動くように、その男はビルの柵に手をかける。眼下に広がる煌びやかな夜の街の明かりに目を細め、ゆっくりと柵を跨ぎ、その身を宙へと投げ出した。

 

「キャアアアアアアアア!!!」

 

「きゅ、救急車!早く救急車を呼べ!」

 

「いや…さすがにもう…!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。華やかな街並みが、一瞬で悲鳴と恐怖で埋め尽くされた。そのビルの物陰から1人の人物がぬっと現れ、赤く染まった地面を上から覗き込む。ボサボサに伸びた長髪が、夜風に吹かれて揺れていた。

 

「ふ…ふふふ。いい音色だあ…」

 

 人々の叫び声が耳に届くと、その男は満たされたように表情をとろけさせた。まるで1種の快楽を感じているように。身を震わせながら、ビルの上から耳をすませていた。

 

「やはり貴方の仕業でしたか、"ウィンザー・ハム"」

 

 男──ウィンザー・ハムの耳に、柔らかな雪のような声が届いた。ウィンザー・ハムが振り返ると、上空からふわふわと1人の女性が舞い降りてくる。黒を基調としたゴシックロリィタの格好をしたその女性は、まるで粉雪のようにビルの屋上に着地した。

 

「誰だ…ボクの演奏会の邪魔をするヤツは…」

 

「演奏会?ああ、下の…。ご立派なお耳をお持ちなのですね」

 

 女性はクスっと小さな笑みを漏らした。開けたままの傘をクルクルと回しながら、面白可笑しそうにウィンザー・ハムを見る。

 

「質問に答えろ…お前は…」

 

「申し遅れました、私は"メモリー・スノウ"。失われた記憶を求める、しがないレディですわ」

 

 メモリー・スノウはスカートの裾を持って、令嬢のように丁寧なお辞儀をする。所作の1つ1つが育ちの良さを伺わせる。ウィンザー・ハムは彼女の方へ体を向けた。

 

「ボクに何の用だ。端的に話せ。3文以内でな」

 

「せっかちな方ですわ。私と手を組みませんこと?お互いのメリットの為に」

 

「手を組む…だと?」

 

 ウィンザー・ハムの疑問に、メモリー・スノウはコクリと頷く。

 

「貴方の力を借りたいのです。多少ながら人をコントロールできる貴方の個性を、私の目的の為に使わせていただきたいです」

 

 その言葉に、ウィンザー・ハムは眉を顰めた。そして同時に思った。この女は何を言っているのだろうと。

 

「おかしいのは服装だけにしてくれ。お前のような意味のわからない女と手を組んで、ボクに何のメリットがある」

 

「あら、傷つきますわね。レディの精一杯のおめかしにそんなことを言われてしまうと」

 

 瞬間、メモリー・スノウの視界からウィンザー・ハムが消えた。そして、気づいた時には彼の息遣いが彼女の耳元で響いていた。

 

「おちょくってるのか?このままお前を死に追いやることもできるんだぞ」

 

 真横にまで迫ってきた男の顔面に対し、若干の不愉快を滲ませながらも、メモリー・スノウは口を開き続けた。

 

「貴方の夢を叶えて差し上げる。それならどうです?」

 

「ボクの夢を知っているのか」

 

「勿論ですわ」

 

 言いつつ、メモリー・スノウは1枚の写真を取り出した。そこには、ヴァイオリンを持って花のように笑う女性が写っていた。

 

 それを見るや否や、ウィンザー・ハムは驚いたように目を見開いた。

 

「なんで…一体どういうことだ…?」

 

「この写真の女性の記憶は私が持っています。色濃く残っていましたわよ、ウィンザー・ハム。夢に向かって進み続ける貴方のひたむきな姿が」

 

 薄く笑みを浮かべるメモリー・スノウに畏怖感を覚え、ウィンザー・ハムは彼女から距離を取った。目の前の女の得体の知れなさと状況に、彼の頭は少しばかり混乱していた。

 

「なにが望みなんだ…」

 

「簡単な話ですわ。貴方は人々の記憶を求める私のお手伝いをする。私の目的が達成された暁には、私が貴方の夢を叶えてさしあげる。それだけですわ」

 

 ゆっくりと、静かにメモリー・スノウは手を差し伸べる。全てを見透かされている。ウィンザー・ハムはそんな雰囲気をメモリー・スノウから感じていた。

 

 この手を取れば、いつか見た夢を実現できる。

 

 答えはもう決まっていた。

 

「ふふ、よろしくお願いしますわ」

 

 救急車とパトカーのサイレンが、2人の序曲となった。

 

 

 

 

 

 




愛生千晴⑦
・公安から直々に指名がかかる。その理由を、本人はまだ知らない。
・ラーメンは塩派。

筒美火伊那①
・ヒーロー名:レディ・ナガン、スナイパーライフル人間。
・公安直属のプロヒーローとして、日本中のヴィランを相手にするベテランウーマン。
・キレイな物、可愛い物が好き。
・生意気な男子高校生(上記)にすぐ銃口を向ける。
・ラーメンは味噌派。

ウィンザー・ハム①
・本名:???
・巷で噂の連続自殺事件に関与している…?
・整えられていない長髪と目の下のクマが凄い。
・足が速い。
・ラーメンは醤油派。

メモリー・スノウ①
・本名:???
・黒いゴスロリ。
・記憶を求めて三千里。
・真っ白な肌に真っ赤な瞳をしている。
・ラーメンは豚骨派。
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