職場体験最終日──大一番の戦いが始まった。
目の前に捉えるのは、巷で噂のヴィラン2人組。
「いたぶってから─」
瞬間、ウィンザーハムの姿が消える。
これが聞いてた超スピードか。
確かに早い、まるでゴキブリだ。
だけど、全く見えないって訳じゃ─、
「─ねぇっ!!」
「ッ!?」
接近してきたウィンザーハムに叩き込むカウンター。
固く握った拳が頬を捉え、そのまま勢いに任せて腕を振り切る。
「オレの動きについてこれるとは…!」
「罪もない人たちを勝手に操って、その命を奪う!」
そのまま左の手のひらを突き出し、空気砲の構えを取る。
「許せないんだよ!!」
空気を押し出し、その衝撃波でウィンザーハムの体を宙へと吹き飛ばす。
空なら身動きは取れないはず、そこをナガンが…。
『いい動きだ』
貫く─!!
待っていたかのように打ち出されたナガン製の弾丸が、ウィンザーハムに突き刺さった。
吐血しながら、ウィンザーハムはそのまま地面へと落下していく。
「ナガン!落ちる!」
『分かってら』
遥か遠くから火薬の爆ぜる音がした。
俺たちの方へ飛んできた鉄砲玉は、墜落するウィンザーハムの衣服を貫き、ビルの外壁に画鋲のように刺さる。既に動かなくなったウィンザーハムは、そのままぷらーんとぶら下がるようにその場に静止した。
「あら、情けないこと」
「次にああなるのはアンタだぞ」
間髪入れずに壊れたお茶会セットの破片を、メモリースノウめがけて放つ。
「そう簡単にはいきませんわ」
「なっ、なにィ〜!!」
メモリースノウの行動に、俺は目を丸くした。
彼女は自身の周りに球状のバリアを構築し、俺の攻撃を防いでみせたのだ。
「さらに─」
反撃と言わんばかりに、メモリースノウは両の手のひらで印を作る。
そうするや否や、作られた手印から豪水が飛んできた。
勢いよく放たれた水に流され、俺は背中を壁に強く打ちつけられる。
「まだ終わりじゃありませんわ」
瞬間、頭上に影が落ちる。
嫌な予感がした俺は、確認するより先にとりあえず身体を横に転がせた。
俺がさっきまでいた場所に、巨大な岩石が墜落してきたのだ。
「お返し…」
地面にあたって砕けた岩の破片が、俺めがけて飛来する。
なんて猛攻…メモリースノウ!
思っていた以上に戦い慣れしている。
岩片をくるくると避けながら、メモリースノウの技能に危機感を覚える。
「なかなかやるじゃないですの。これをしのぎ切るとは」
「鬱陶しい奴め!」
「乱暴な言葉遣いはおやめなさい」
地面を踏み締め、メモリースノウに肉薄する。
さっきから遠距離系の個性ばかりの使用、あまり近寄られたくないのか。
肉弾戦に強そうなタイプにも見えない…だから近距離で叩く!
「─と、思っているのでしょう?」
メモリースノウがニヤリと笑った。
渾身の回し蹴りを受け止められ、そのまま脚をがっしりと掴まれる。
「痛いから我慢しなさい!」
「うぉぉぉマジかコイツ!!」
メモリースノウは俺の右脚を掴んだまま、それをまるでロープのように容易く振り回す。
なんつー馬鹿力だコノヤロウ、およそ女の人のパワーじゃないぞ。
想像以上に厄介だ、こいつの個性…!
「そぉれッ!!!」
高らかな声とともに、俺はコンクリートの地面に叩きつけられた。
その影響で地面にヒビが入り─、
「─あ」
砕かれた屋上部分から、俺とメモリースノウは階下に落ちていった。
「おどふっ!」
割と高い所から落ちてきた俺は、またもや背中を打ってしまう。
そしてその次の瞬間に。
「きゃん!」
「もがっ!」
俺の顔面にメモリースノウが降ってきた。
それと同時に視界が真っ暗になる。
ん…?なんか柔らかい感触が…?
なにこれどういう状況?
「むぐ…!もがが…!」
上手く声が出せない!これも奴のストックしてある個性の仕業か!
相変わらず頭には何かがのしかかっている!
「ちょ…!あんまり顔を動かさないでください!…あん…!」
「もがーッ!!!」
やっとの思いで頭に乗っていた物をどかすことに成功する。
ふぅと一息つき、今の状況を整理することにする。
場所は建物の中、屋上を突き破って落ちてきたようだ。
ちょうど落ちてきた部屋は多目的ルームっぽく、周囲にデスクや仕事に使うような機械類はない。隅っこにパイプ椅子が重ねられているくらいか。
そして、視線の先には標的のヴィラン。
奪ってきた記憶に眠る他者の個性を使用することができる。
かなりの強個性、そしてそれを使いこなすメモリースノウには驚愕するばかりだ。
そんな彼女だが…どうやらへたりこんでしまってなかなか立とうとしない。なんだ?落ちた時に変な所でも打ったのか?いやいやそんな訳あるか。受け止めたの俺の顔面だぞ。こっちの首の方が心配だ。
「ふ…ふふふ…」
「ん?急にどうした?」
メモリースノウがわなわなと肩を震わせ、奇妙な声を出し始めた。
その行為に首を傾げる。
「不埒者ッ!!!」
「あべしっ!!何故にビンタ!?」
次の瞬間、俺の頬に熱い衝撃が伝わった。
なんかこの感覚味わったことある…そうだ一佳にもいつもビンタされてるからそれだ。
女性のビンタって、似通ってくるものなんだなあ…。
「ハァ…ハァ…!ぜったいに…ぜったいにィ…!」
次にメモリースノウはうめき始めた。
なんだろう、背後にドス黒いオーラみたいなのが見えるのは気のせいか?
「清らかな乙女に…あんな…あんな破廉恥な行為を…!」
「え、なになに?声が小さくてなに言ってるか聞こえないんだけど」
「おだまりなさいッ!!この私にこんな思いをさせるなんて…!絶対に許しませんわ!!」
ええ…なんか急にキレ始めたんだけど…。
また俺、なんかやっちゃいました?
拳を握りしめながら、メモリースノウはキッと俺を鋭く睨みつける。
「なんたる屈辱…!この恨み、はらさでおくべきか!!」
「ちょちょちょ!1回落ち着けよ、な?ほら深呼吸だ!吸ってー吐いてー」
「舐めてんのかこのガキがぁ!!!」
やべえ!逆効果だった!
口調が荒ぶってキャラ変してやがる!
シャー!と吠えるように飛びかかってくるメモリースノウ。
これあれだ。俺がたまにしょうもないちょっかいをかけると、変な琴線に触れてブチ切れてくる一佳と同じだ。
「責任取れや!!!アンポンタンがぁ!!!」
何度も繰り返した経験から1つ断言できることがある。
こうなってしまった女性を止める術は、ない!!!