君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#24 確保☆

 side:レディ・ナガン

 

 

 

「ったく、めんどくせぇことになったな…!」

 

 ポリへの恨み言を口にしながら、私は街の中を駆け回っていた。

 

 理由はただ1つ、ウィンザー・ハムがあの場から消えたからだ。

 

 聞くと、ウィンザーハムの身柄を拘束しようと警察が彼を地面に下ろした時、意識を取り戻したウィンザーハムは警察を1人殺害し逃走。混乱させている間にすっかり行方をくらませたとのことだ。

 

 警察もただの人、次の動きが読めない犯罪者に対応が遅れてしまうのも仕方の無いことだ。もっと深いダメージを与えることが出来なかった自分が悪い。私はそう考えることにした。

 

 街中を奔走する途中、道に赤い斑点が付着しているのを見つけた。それは地面にこびり付いているようなものではなく、まだ出来て新しそうな、液体としての機能を損なっていない血だった。

 

 そしてそれは、まるで私に行き先を教えてくれるように先へと続いていた。

 

「この辺りか…」

 

 私は右腕をショットガンに変形させ、臨戦態勢をとる。いつ、どのタイミングでも奴が出てきた時に確実に動きを封じる為だ。次こそは確実に息の根を─。

 

「─ダメだ。今回は人を殺す仕事じゃあない」

 

 周囲に気を張り巡らせつつ、血の跡を追っていく。

 

 この赤い導の先にウィンザー・ハムはいるのだ。ヒーローとして、力なき人たちの平和と安全を脅かす存在は排除しなければならない。

 

「レディ・ナガン」

 

「─!?」

 

 突如として私の名前を呼ぶ低い声がこだまする。

 

「麗しきレディ・ナガンよ。お前はその銃弾で、一体何人の悪党を屠ってきた?」

 

「あ?」

 

 薄気味悪い笑い声が耳に障る。私はショットガンを構え、四方八方を警戒する。どこから、いつ飛び出してくるのか。神経を張り巡らせて待つ。

 

「悪党に向けるその腕の凶器。簡単に人の命をも奪ってしまえる力を振りかざして、お前はどんな音を奏でてきた?」

 

 あー…コイツ私のいちばん嫌いなタイプの人間だ。

 さっさと倒してサイコの援護に向かわなければ。

 

「おかしいと思わないか?ヒーローとヴィラン。人と人。同じ人間なのに、やってる事も同じなのに何故ヒーローは賞賛される」

 

「がっちゃがっちゃうるせえよ。ジメジメした陰気臭いヤローめ。来るならさっさと来い」

 

「その傲慢さのどこに─」

 

 一瞬、ほんの僅かな瞬間にだけ、視界に映りこんだ敵の姿。

 私の真正面に現れたウィンザー・ハムに銃口を向ける。

 

 ─が、そこにはもう奴の影も形も残っていなかった。

 

「─大義がある」

 

 その声が聞こえたのは背中の方からだった。

 振り向きつつ、私の腕をめがけて振り下ろされた白刃をギリのところで避ける。

 すぐさまショットガンを向け、火花を散らそうとするも、その時にはもう視界の外にウィンザー・ハムはいた。

 

「臭うんだよ、レディ・ナガン」

 

 ひんやりとした空気が頬をなぞった。

 私の顔のすぐ真横に人の気配を感じる。

 目玉だけを動かしてそいつを捉える。

 

「ご自慢のライフルから、その手のひらから、ベッタリと染み付いた他人の血の香りが」

 

 耳元で囁かれるその言葉に鳥肌が立つ。

 ただただ不愉快な感覚が駆け巡り、絶対的な拒絶反応が身体中を支配した。

 

「─ッ!気色悪ぃ!!」

 

 なぎ払うように振るったショットガンは空を切り、視界の先でウィンザー・ハムは華麗に地面に降り立つ。

 

 ニタリとした笑みを浮かべながら、ウィンザー・ハムは私を指さす。

 

「お前はオレと同じだ。人を殺す時の音色なら、嫌というほど聞いてきたんだろう?」

 

「一緒にするな」

 

 …なんだこの、全身を内側から舐められしゃぶられているような体感したことのない気味の悪さは。

 

 キッと睨みつけるも、ウィンザー・ハムの顔から笑みは消えない。

 

「一緒にするさ、同類なんだよオレたちは。今日こうして出会ったのも運命…オレがお前の音になるのか、お前がオレの音になるのか。そのどちらかなんだよ!」

 

 景色から一瞬にして消える超スピードで、ウィンザー・ハムは再度私の視界から逃げる。

 建物と建物に挟まれたこの場所で、奴はまるで飛び跳ねるように撹乱させる。

 まるでピンボールだ。

 

「前に出てきたのが失敗だったな!多少は対策してあるようだが、所詮お前は遠距離型の個性!オレを侮るからこうなる!」

 

 声だけが四面八面から聞こえてくる。

 ここまで速いと、逆に本人の目でも私を捉えられてないんじゃないかと思える程だ。

 

 ふぅ、と小さく息をつき、私は今あるショットガン形態からまた別の形態へと腕を変形させる。

 ずっしりとしたガトリングガンへと変化を遂げた右腕を構える。

 

「見誤んじゃねーよ」

 

 髪の毛を捻り取り、それを左手の指先で転がす。そうして生成した3粒のバイカラーの弾丸を、右の手のひらに取り込ませる。これで連射の準備は整った。

 

 ふと、これから自分の行う行為に思いとどまる。おそらく…いや絶対会長には叱られることになるだろう。容易く想像できる未来図にため息をつきつつ、仕方の無いことだと割り切って私は私を点火させた。

 

「よぉく見て避けなよ?当たったらタダじゃ済まねーかんな」

 

 腕中で細かく刻ませた弾丸を一斉に発射させる。

 360°体を回転させながら、私は東西南北全ての方向に弾をばら撒くように撃ち続けた。

 それはまるで地上からの流星群のように、周囲の建物やら標識やらを見境なく貫き続ける。

 

 こんなことを言うのもアレだが、なかなかに爽快だ。

 

「正気かこのババア!?」

 

 私のちょうど斜め45°、そこにウィンザー・ハムは姿を現した。

 驚きの色で表情を染めている。

 そうさ、この弾幕はこいつの動きを止めるためのモノ。

 めちゃくちゃに動き回って流れ弾に当たるくらいなら、多少速度を落としても正確に弾を避けるよな。

 だから、スピードが緩まる瞬間を作り出したんだ。

 

 すぐさま右腕をライフルに変造。

 地面を蹴ると同時に弾丸を発射させ、得た推進力でウィンザー・ハムの懐に飛び込む。

 割れた建物のガラスの雨の中を突き進む。

 

「あ─」

 

「私とお前が同じだァ?舐めた口きいてくれるじゃねぇか!」

 

 まずは1発、ライフルの銃身でウィンザー・ハムの体を更に上空へと打ち上げる。

 私は地面に背中を向け、墜落するような体勢になりながらも、銃口をガラ空きのウィンザー・ハムの腹部へロックオン。

 もはや外す理由なんてない。

 

「お前の薄っぺらい価値観と、私が歩んできた道が同じな訳ねぇだろうが!!!」

 

 火を吹いた銃口から放たれた弾丸は、しっかりとウィンザー・ハムを捉えて撃ち抜いた。もちろん、死んでしまわないように威力は加減してある。それでも、痛みと衝撃で意識は飛ぶだろう。

 

「刑務所で1人さみしく反省会でもしてるんだな」

 

 地面に着地し、続いて落ちてきたウィンザー・ハムは白目を向いてピクピクしていた。その間に身動きが取れないよう縄で縛っておこう。

 

「んー、にしてもちょっちやり過ぎたか。これ直すのにいくらかかんだろ…。やめよ、考えたくないわ…」

 

 ガトリングで撃ち抜きボロボロになった建物群を見て、私はその先のことを考えないようにした。

 

 ひとまず、巷で噂のヴィランコンビの片方は制圧。警察にコイツを引き渡してから、すぐに愛生千晴の援護に向かわなければ。

 

「変に無茶してなきゃいいが」

 

 聞こえてきたパトカーのサイレンを耳に入れつつ、私は職場体験に来たガキンチョの身を案じていた。

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 女の子は怒らせちゃいけない。

 

 何故なら爆発力が凄いから。

 

 普段はおしとやかで、清楚で可憐で、道に咲く花をさりげなく笑いかけている女の子でも。

 

 いや、そんな女の子だからこそ余計に、怒らせた時に恐ろしいことになるんだ。

 

「ぜったいに…!ぜったいに…!」

 

 だから今、俺はとてつもない窮地に立たされている。

 

「絶対に許しませんわァーーッッ!!!!」

 

「ちょまーーーっ!!!柱を振り回すんじゃないよっ!!!」

 

 ヴィラン名、メモリー・スノウ。人の記憶を奪って歩く彼女はいま、個性で強化した肉体で折れた柱を軽々持ち上げ、それを俺に向けて振るってきていた。

 

「このケダモノがッ!!汚れを知らないこの私めにあんな…あんなことを!!!」

 

「さっきから何言ってんのか分かんねぇんだよ!!俺がお前に何したって言うんだ!?」

 

「誤魔化さないでくださいまし!!口に出すことすらおぞましい!この不埒者ッ!!」

 

 この始末。

 

 さっきから会話が成り立っていないのである。

 

 激昂したメモリー・スノウは、メラメラと炎を燃え上がらせて怒りのままに力を奮う。俺はそれに辛うじて対応している状況だ。

 

「焼け焦げなさい!!」

 

 メモリー・スノウが指を振り下ろすと、上空に黒いゴロゴロした雲が発生する。これなんだ?黒い綿菓子みたいで美味そうだな。

 

 次の瞬間、その黒雲がビカッと光り、俺の脳天に雷撃が直撃した。

 

「ギエピー!!!」

 

「アハハハハハッ!!ざまぁみやがれですわ!!」

 

「くそ〜、なかなかえげつない事してくれるじゃねえか」

 

「当たり前ですわ。私にとってアナタは敵。敵は排除しなきゃいけませんもの」

 

 クスリと口元に手を添え微笑する。

 

 しかし困ったもんだ。複数個性の使用がなかなかに手強い。次にどんな手で攻めてくるのか予測が出来ないから対策も立てづらい。常に二択を迫られているんだ。

 

「やいメモリー・スノウ!お前一体いくつの個性を使えるんだ」

 

 俺の質問に「あら?」と首を傾げてくる。

 

「そんなこと知りませんわ。奪ってきた記憶を辿って、使えそうなものを使っているだけですもの。なんですの?私の弱点とかでもお探しで?」

 

 ふふふ、と今度は小さく笑みを浮かべる。

 

「そんな事しても無駄ですわ!私の個性は無敵!たとえ相手がどんな人でも、私が今まで奪ってきた記憶と個性があれば負けるハズはありませんもの!」

 

 そうだ、と言わんばかりにメモリー・スノウは手をポンと叩く。何かを思いついたのだろうか。

 

「先程あなたの身体に触れた時、一緒に記憶もとっておきましたの。どうせならあなたの…これはお友達でしょうか?その力で跪かせてあげますわ」

 

「俺の記憶をだと…?いつの間にとったんだ!」

 

「だから触れた時だと言ったでしょう。タイミングなんていくらでもありましたわ。もっと慎重に戦うべきでしたわね」

 

 相手に触れることが個性の発動条件だったのか。確かにそれなら、簡単に沢山の人から記憶を奪うことができる。

 

 …強すぎないか、この個性。アイツが今までどれだけの人の記憶を奪ってきたのか知らないし、中には強個性のものも沢山あるだろう。どうする?どう戦う?

 

 いや、どれだけ強い力にもデメリットはあるはずだ。そいつを暴いて叩く。とりあえず今はその方法しか無いか。

 

「んーと…これはいかがでしょうか?わっ!手のひらから爆発が起こりましたわ」

 

「…ッ!?あれは爆豪の…?」

 

「えーと使い方は…こうですか!」

 

 メモリー・スノウは両の手のひらを背後に伸ばすと、そこから爆発を繰り出し猛スピードで肉薄してきた。

 俺の記憶の中の爆豪の動きを見たのか、動きがそっくりだ。

 

「派手な個性で良いですわ!クセになりそう!」

 

「くっそやりづらいな!」

 

 爆ぜる手のひら。俺の目の前で繰り出された爆発は、視界をさえぎりメモリー・スノウの姿を見えなくさせる。

 直後、背中から焼けるような痛みと熱を感じた。

 

「遅いですわよ」

 

 背後をなぎ払ったがそこには既に誰もいない。

 すると、また背後に爆破の衝撃が走った。

 

「ちょっと!背中ばっか狙うなよ!服が破けてスースーしてきただろうが!」

 

「そんなこと知りませんわ。素材にこだわらないからそうなるんですの」

 

 何だこのお嬢様!

 さっきからニタニタこっちを見て笑いやがって!

 

「くっそー、もう怒ったぞ!こんな中途半端なモンも捨ててやらぁ!」

 

 背中側が破けてしまったヒーローコスチュームを、強引に引きちぎって捨てる。インナーもダメになってるな、こいつも捨てよう。上裸になったけどまあいいか。火傷して跡が残らないようにしなきゃな。

 

「…ちょ…!」

 

「…ん?」

 

 ここから反撃開始してやろうかと思った矢先、眼前のメモリー・スノウを見ると、顔を手で覆い隠して恥ずかしそうにしていた。なにやらモジモジしているようにも見えるが。

 

「な、なんで急に服を脱ぎましたの…!?び、びっくりするじゃありませんか…!」

 

「なんでって…お前が俺のコスチュームの背中んとこ燃やすからだろ?中途半端に着てるのも邪魔くさいし」

 

「だからって…上半身裸になるのは違うのではなくって…!?」

 

 顔を手で覆いながらも、指の隙間からこっちを見てるな。

 いや、正確には俺の身体を…か。

 

 …はっはーん、分かったぞ。

 

「さてと、ボチボチ反撃させてもらおーかな」

 

 俺は首を鳴らしながら、メモリー・スノウへ歩み寄る。

 

「ひっ!ち、近づかないで!このケダモノ!変態!」

 

「いいや行くね俄然。お前には色々とやられっぱなしだからなぁ。受けた分はちゃんと返さねーと」

 

「な…なななななんですのそれはッ!ナニを返すと言うんですのッ!?ナニで返せと言うんですのッ!?」

 

 こいつ意外と頭ピンクだよな。

 

 そんなことを思いつつ、俺はゆっくり徐々にメモリー・スノウとの距離を縮めていく。

 お互いの距離が短くなるほど、彼女の体の震えは大きくなり、頬もより赤くなっていく。

 

「そ、それ以上近づくなら!けっ、警察を呼びますわよ!?本気ですわよ!?」

 

「願ったり叶ったりじゃねーか。まあもう割と近くにいると思うけど」

 

「駄目えええええ!!!!!」

 

 甲高い叫び声が聞こえると同時に、メモリー・スノウの足元から氷結が繰り出される。それは一直線に俺の方へと向かっていき、すぐに俺の全身を氷漬けにした。

 

「きょ、きょれはとどりょきの…」

 

「はぁ…はぁ…。ふふふ…これでもう身動きは…」

 

「ぷゃいろきねししゅ!!」

 

 俺は発火能力(パイロキネシス)で炎を発生させ、全身を覆っていた氷を一瞬で水に変える。それを見てメモリー・スノウは愕然としていた。

 

「俺に氷は効かねーんだわ」

 

「あわわわわ…!どうすれば…!」

 

 遂に俺はメモリー・スノウの目の前までやってきた。

 壁際まで追い詰められ、逃げ場を失った彼女はただただ俺を見て震えるばかりだった。

 

「アンタさ、男に免疫ないんだろ?」

 

「はっ!?そんなことありませんわ!この私が男性ごときにそんな!」

 

「ほれ、鏡みてみ」

 

「こんなの嘘っぱちですわ!」

 

 鏡で自分の顔を確認させると、勢いよくバリン!と割られた。

 破片が手に刺さって痛い。

 

「嘘っぱちなのはアンタの方だよ。顔とか凄い真っ赤だし、明らかに動揺してる。心臓の音とかバクバクいってるよ?」

 

 ぐいと顔と顔を近づける。

 互いの瞳と瞳が反射し合っていた。

 

「そ、そんなこと…!」

 

「意地はんなくていいのに。俺がアンタに教えてやるよ。男をその気にさせたらどうなるのかってことをさ」

 

「あ、あばばばばばばばは」

 

 メモリー・スノウの顎に手を添え、より一層顔と顔の距離を縮める。

 あと数センチ、あと数ミリで粘膜と粘膜が触れ合いそうになる…その直前に。

 

「きゅう…」

 

 メモリー・スノウが膝から崩れ落ちた。

 頭から湯気を出し、目をグルグルさせてその場に仰向けになる。

 

 身動きの取れなくなった彼女を拘束用ロープでぐるぐる巻きにして…と。

 

「確保☆」

 

 メモリー・スノウの確保に成功した俺は、ナガンに連絡を入れた。

 

 こうして、職場体験最終日の任務は終了となった。

 

 

 

 

 

 

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