君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#25 轟お前ウィーガシャンウィーガシャン知らねぇの!?

 ひとまず対象ヴィランを確保したことをナガンに報告。近くまで警察が来ているとのことだったので、メモリー・スノウを抱えて合流地点まで向かうことにした。

 

 歩きながら腕の中のメモリー・スノウに目をやる。こうして見ると、俺とあんまり年齢も変わらなさそうな少女だ。途中のキャラの豹変っぷりには度肝を抜かれたうえ、なかなかの強敵だった。最後は男に免疫が無いという弱点をついての決着だったが…ま、任務を遂行出来たので結果オーライってやつだ。

 

「…ん、ここは…?」

 

 腕の中のメモリー・スノウがモゾモゾと動き始め、その赤くて大きな瞳をパチクリさせた。首をキョロキョロと左右に振り、その後俺と目を合わせる。

 

「よう!目が覚めたみたいだな!」

 

 明るく言うと、メモリー・スノウは数秒ボケーッとした顔をする。その後、今の自分の状況に気づいたのか次第に顔を紅潮させていった。ぷしゅーと湯気のたつ音もした。

 

「な…ななななな…!なんですのこの状況は!?こ、これってまさかお姫様だっこ!?」

 

「悪いけど、気絶してる間にロープで縛らせてもらった。そのまま大人しくしててくれよ」

 

 ハッとなって、メモリー・スノウは身体に巻かれたロープを見る。

 

「気絶って…。アナタ!私が意識を失っている間にへ…変な事とかしてないですわよね!?え…えっちな漫画みたいな事とか!」

 

「してねーよ」

 

「ほ…本当ですの?少し怪しいですが…」

 

 俺に疑いの眼差しを向けながら、メモリー・スノウは言った。本当のことなんだけどな、と思いながら歩みを進める。

 

「……」

 

「……」

 

 しばしの静寂。そりゃ俺たちはヒーローとヴィラン。さっきまでやり合ってた敵同士な訳だ。それでも、このお互いが黙りこくってしまう何とも言えない関係性と空気はどうしても苦手だ。

 

「…アナタ、名前はなんていいますの?」

 

 それを打ち破るようにメモリー・スノウが口を開いた。

 

「え?名前?」

 

「そうですわ」

 

 なんでそんなことを…?という考えを乗せてメモリー・スノウへ顔を向けたが、目が会った瞬間にプイとそっぽを向かれてしまう。

 

「サイコだけど」

 

「そっちじゃありません!本名を教えなさい!」

 

「きゅ…急にデカい声出すなよ…」

 

 突然大声を出したメモリー・スノウにビックリしてしまう。

 

 本名…本名か…。あれ、こーゆー時って教えてもいいんだっけ?

 

 一応ヒーロー名の方で名前は通すように言われてたけど、本名を聞かれるケースは…。やべえ…相澤先生の話もっとちゃんと聞いとけば良かった…。

 

(ま、名前くらい別にいっか!)

 

 考えることがめんどくさくなったので、俺は本名を伝えることにする。

 

「愛生千晴だよ」

 

「あいおい…ちはる…千晴…千晴さんかぁ…。良い名前ですわね」

 

「そりゃどーも。ついでにアンタの名前も聞いておこうかな。毎回メモリー・スノウじゃ呼びづらくてしょうがない」

 

 俺のその質問に、彼女は一呼吸置いて答えてくれた。

 

姫乃 黒雪(ヒメノ クロユキ)…それが私の名前ですわ。その…出来れば下の名前で呼んでいただけると─」

 

「─へぇ〜可愛い名前じゃん。こっちのが断然呼びやすいし」

 

「かっ、可愛い…?」

 

「ん?なんか身体熱くない?熱でもあんのか?」

 

 手にもつ姫乃黒雪の身体からやけに熱を感じる。戦った後だからかもしれないが、念の為前髪をかき分けてやっておでこに手のひらを置く。

 

「は…はわわわ…殿方にこんな…!」

 

「ん、特に熱があるとかじゃ無さそうだけどな。まあ寒かったら言ってくれよ、炎であっためてやるから。いくらヴィランだからって雑に扱う訳にはいかないんだ」

 

「は…はひ…」

 

 それから、姫乃黒雪はずっと手で顔を覆っていた。

 

 そうこうしてる間に警察と合流。すぐ後にウィンザー・ハムを引きずってやって来た。すごくワイルドな女性だなって思った。

 

「おうサイコ、怪我とかは無さそうだな。なんで上裸なんだ?そーゆー趣味でもあるのか?」

 

「激しい戦いだったんすよ〜」

 

 そんなこんなでヴィラン2人組の身柄の引渡しが完了。巷で噂の連続自殺事件の首謀者を捕らえた俺たちは、公安本部へ戻ることになった。

 

 長いようで短かった職場体験は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 side:レディ・ナガン

 

 

「じゃあなー!ナガーン!また美味いご飯連れてってよー!」

 

「はいはい、気をつけて帰るんだよ」

 

 元気に笑顔で私の方に手を振りながら、この1週間を共にしたガキンチョが新幹線へと乗り込んで行った。それがホームから見えなくなるまで見送ったのを確認し、私もその場から立ち去る。

 

 雄英高校1年A組、愛生千晴。彼の存在を知ったのは体育祭の生中継でだ。

 

 物を浮かし、炎を発生させ、空を舞う。所狭しと暴れ回るその姿を見た時は、時代の進化を感じた。

 

 個性というものは年代を経る度に徐々に複雑に、より曖昧に、さらに強力なモノへと変化していくといわれている。『個性特異点』という理論が提唱されてから、皆がその変化に敏感になり始めた。

 

 個性『超能力』。超能力者っぽいことなら何でも出来る。一言で言ってしまえばそれだけだが、実態はそう単純なものではない。彼の用いる個性の使用方法や手段は、もはや個性の複数持ちだと言っても過言では無い。

 

 約10年前、私のヒーロー業が軌道に乗り始めた頃。1人のヴィランの台頭により、世間は恐怖のどん底に落とされた時期があった。

 

 ヴィラン名『アンナチュラル』。天変地異を操り、その気になれば世界すら転覆できる程の力を持つスーパーヴィラン。およそ人間とは思えない程の力をその身に宿していた女は、ある時を境にバッタリと行方をくらました。

 

 そんな彼女は愛生千晴と同じ『超能力』の個性を有していた。

 

 公安(私たち)はすぐに、愛生千晴に目をつけた。

 

 巨悪の象徴と呼ばれた『アンナチュラル』と同じ個性を持つ少年。1つ道を間違えたら誰しもが悪人になれてしまうこの時代において、愛生千晴の管理は公安にとって大きな義務となった。

 

 今回の職場体験はジャブにすぎない。1度接点を持つことで秘密裏に監視下に置き、個性の暴走及び当人の些細な心変わりにへの事前の防止策。間違った使い方をすれば簡単に社会を崩壊させられるだけの奇跡が、愛生千晴には授けられている。

 

 逆に言えば、上手くコントロールすることが出来ればヒーロー側の大きな戦力にもなるのだ。これらに関しては、雄英高校にも既に話は通してある。誰よりも真っ直ぐな人物になれるような教育が施されることを期待している。

 

 しかし、正直なところ私はそこまで大きな心配はしていない。

 

 会って話して分かったが、愛生千晴は良い奴だ。それも人間的に。

 

 物事はシンプルに捉える派の私は、そう彼を評価した。

 

 もちろん、いつどこで道を踏み外すかは誰にも分からない。間違った道へ行かないよう、進むべき道を指し示すことが私に課せられた任務だ。

 

 正しい道を歩んでいける力が、あの子にはある。

 

 だからきっと大丈夫。

 

 近くに信頼できる友達や、頼れる大人がいるんだ。

 

 あとは私が導いてやるだけさ。

 

 ─俺には命より大事な人がいるんだよね。そいつを守りたいからヒーローをやるんだ。

 

 いつかそう言っていたのを思い出す。確固たる意思がそこには見えた。

 

「さ、今日は久々のオフだ。ショッピングにでも行こうかな」

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 side:姫乃黒雪(メモリー・スノウ)

 

 

 私には幼い頃の記憶がありません。

 

 だから、神様から授かったこの個性で人の記憶を頂戴します。

 

 他人の記憶を繋ぎ合わせて、心に空いた隙間を埋め尽くす。

 

 つぎはぎだらけの私の記憶ですが、それでも何も無いよりはマシだと思っていました。

 

 私が一体何者なのか。どこで生まれてどんな生活を送ってきたのか。それを私自身が知らないことがいちばん怖い。

 

 他人の記憶で満たされることはない。そう理解しても縋らずにはいられない。

 

 それが私の動機。この道を進もうと思ったきっかけですの。

 

 悪いことをしたら刑務所に入れられる。それも他人の記憶から知ったこと。覚悟はしていました。

 

 だから、いま目の前にいる女性から告げられた言葉に、私は目を丸くしています。

 

「いまなんと…?」

 

「より良い社会の形成のために、公安の下で働きなさい」

 

 私は再度告げられたその指令に、目をパチクリさせました。

 

 この人は何を言っているのだろうか?私はれっきとした犯罪者。普通ならお縄に繋がれて薄暗い独房に閉じ込められるハズ。なのに、この公安の女性はそんな私に働き口を紹介…指示しているのです。

 

「悪い話じゃないと思うわ。本来なら問答無用で監獄行きのところを、私たち公安の監視下の中だけど自由でいられる」

 

「…えーと、そんな美味しい話がありまして?」

 

「あなたの個性はとても強力です。他人の記憶に刻まれた個性を使うことができる。唯一無二の力よ」

 

 その瞳は私を捉えて離さなかった。それにより、この人が言っていることは本当なのだと理解することができました。

 

 そんなの、答えは初めから1つしかありませんわ。

 

 

 

 

 自由に使って良いと言われた、公安施設内にある1つのお部屋。そこに置かれている簡素なベッドに腰をかける。

 

「まさかこんな展開になるとは。思ってもいませんでしたわ」

 

 悪人だったハズの私には然るべき処罰が下される。その覚悟はしていたのに…人生は意外とどうなるのか分からない。そんなことを考えながら、枕にバフっと頭を預ける。

 

 その時、私の鼻腔に伝わってきたのはとある匂い。それが誰のものなのか、私の脳はすぐに理解した。

 

「千晴さんの匂い…?」

 

 その名を口にすると同時に、あの日の出来事が一気に呼び起こされた。初めて男の人の身体を目の当たりにしたこと、眼前にまで迫られたこと、おでこに手を置かれたこと。記憶がフラッシュバックしてきて、気づけば顔から湯気がたちのぼっていた。

 

「ううう…!この私をこんな感情にさせるなんて…!」

 

 それは初めての感情。

 

 私自身味わったことのない、未知の味。

 

 高鳴る胸の鼓動を感じながら、シーツを頭から被る。

 

「─ッ!?なんですのこの感覚…!」

 

 瞬間、私の体に電撃が走る─!

 

 全身をシーツで覆うことで、愛生千晴の香りに包まれるような感覚─!

 

 それはまるで、本人に抱きしめられているような錯覚を私にさせた─!

 

 …心のどこかでは気づいていましたの。

 

 私が彼に抱いているこの感情の名前を。

 

 つぎはぎだらけで隙間の目立つ私の心を満たしてくれる。

 

 考えるだけで胸をドキドキさせるモノの正体は。

 

「恋…してしまいましたわ…」

 

 それと同時に、自分が取った行動が正解だったと思い知りました。

 

 私の個性は他人の記憶を自分のモノにする。奪うと言ってもそれによって相手の中からその記憶が失くなるということはありません。

 

 しかし、個性とは使い手の解釈次第で如何様にも変化します。

 

 私は相手に刻まれた記憶…その時の感情をも手に入れることができます。

 

 そして…その感情を完全にその人の中から奪い去ってしまうことも。

 

 私は見ました。千晴さんの記憶の大半を占める1人の女性を。そして、その人に対して千晴さんが尋常じゃないほどの恋愛感情を憶えていることを。

 

「拳藤一佳…千晴さんの最愛の幼馴染…私にとって最大のライバル…だった女…」

 

 想い人を他の女にとられたくない…深層心理に眠る女の本能が働いたのです。

 

「ふふ…うふふふふ…これで千晴さんは私のモノ…」

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 職場体験が終わって普段の学校生活が再スタート。その日の放課後に、俺たちは相も変わらずアホ男子集団でわちゃわちゃしていた。

 

「ええ!?轟お前ウィーガシャンウィーガシャン知らねぇの!?そんなんでホントに男の子かよ!?」

 

「わりぃ」

 

「ったくしょうがねぇヤツだな。デク、お手本を見せてあげなさい」

 

「僕っ!?いや…実は僕もそれ知らなくて…。えーっとウィーガチャン…?」

 

 横にいたデクに指示するも、どうやら彼もウィーガシャンウィーガシャンを知らない模様。なんなんだコイツらは、小さい頃なにして遊んでたんだっていうんだ。ウィーガシャンウィーガシャンなんて、全国の男の子なら履修済みの遊びだろうに。

 

「おいかっちゃん!オメーは知らないとか言わないだろうな!皆の前でやってみなさい!」

 

「誰がやるか殺すぞアホ面!!」

 

 いや口悪っ。でも知ってはいるんだな。いつかやらせてやろう。

 

「仕方ない。今日は俺がウィーガシャンになろう…。ウィーガシャンウィーガシャン」

 

「ロボットダンスみてーだな」

 

「また男子がバカなことしてる〜。轟に変なこと吹き込むのやめてよね〜」

 

 そんな何気ない放課後の時間が流れる。

 

 ふと、上鳴が口を開いた。

 

「そーいや愛生、このまえ同中の奴に聞いたんだけどよ。何やら駅前に洒落たカフェができるらしいぞ」

 

「ふーん、そうなんだ。で?」

 

「冷たっ!!こっちは善意で教えてやってんのに!!ほら、愛しの拳藤とか連れてってやればいんじゃねーの?」

 

 上鳴がニヤニヤしながらそう言った。俺はその言葉に首を傾げる。

 

「拳藤?拳藤ってB組の奴か?なんで俺がアイツとカフェに行く流れに…?」

 

 その発言に、周囲にいたクラスメイトがギョッとしたような反応を示した。一体なんなんだコイツらは…?そんな目ん玉まんまるにしなくても…。

 

「な、なに冗談こいてんだよ〜。なんだ?倦怠期か?それとも押してダメなら引いてみるってやつか?」

 

「なにを言っとるのかサッパリ分からん。倦怠期?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 …なにこの空気?俺なんか変なこと言ったかな。

 

「そうだ!今日は拳藤と一緒に帰んなくていいのか?いっつも家まで送ってってやってんだろ?」

 

「いや送ってないが。訳分かんねーこと言うなぁ」

 

「急にどーしたお前。いつもあんなに拳藤のこと好き好き言ってたじゃねーか!まさか諦めたのか?」

 

 …なんだ、この微妙に噛み合ってない感じ。みんなの認識と俺の認識がズレているような…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めるも何も、俺は別に拳藤のこと好きじゃないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 踊るクエスチョンマーク。

 

 皆の驚愕したような表情。

 

 その意味を、俺は理解することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

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