そして迎えた期末テスト当日。
あれから1週間、俺はもうとにかく勉強しまくった。それはもう、脳ミソが焼き切れるんじゃないかってくらいに。ノートを擦るペンの摩擦で、轟家に小規模の火事が起こってしまう程に。それでも轟家の皆様は笑って許してくれた。何なら冬美さんと夏雄にーさんは一緒にテスト対策もしてくれたし、轟ママはお夜食とか作ってくれた。エンデヴァーはブチ切れてた。あのオッサンだけしっかり厳しかった。
テスト開始直前、俺は自分の席から轟の方を見てサムズアップしていた。準備万端だぜ、ということをアピールする為にだ。でも轟はスルーをかましてきやがった。呑気にボケーッと黒板を見ていた。耳郎には「何やってんだアイツ?」的な顔で見られていた。許すまじ。
「んじゃ、テスト開始」
相変わらずだるそうな声を出す相澤Tとは裏腹に、俺の心は燃え上がっていた。開始の宣言を聞くや否や、速攻でペンを走らせた。俺には確かな自信があったんだ。そして問題を解きながら何度も思った。この問題…ゼミでやったやつだ…!と。
テストの時間はあっという間に過ぎていく。1時限目…2時限目…気づけば最後の科目が終了していた。期末テスト終了のゴングが鳴り響いたと同時に、俺は燃え尽きてしまった。
(もう…思い残すことはない…。俺は灰になっちまったのさ…)
その5分後には復活して、皆で夏休みの計画を立てた。それはもう綿密に立てた。1日でも無駄にすることのないよう、全力の夏休みのプランを。
「皆で最高の夏休みにしようぜーッ!!!」
「「「おう!!!」」」
俺たちの青春ライフは、始まったばかりだ!!!
○
「はいじゃあこれから演習試験やりま〜す」
筆記テスト終了後、俺たちはグラウンドに集められていた。訳も分からずヒーローコスチュームに着替え、訳も分からず整列させられる。そんでもって、目の前にはオールマイトを始めとした雄英に務めているプロヒーロー達が勢揃い。なにこれ?演習試験?なにやんの?
「愛生くん、話聞いてなかったの?期末テストは筆記と実技の2本立てだよ」
「に…2本立てだって…?」
今日も解説のデクがそう教えてくれた。どうやら期末テストは、俺たちが死に物狂いで取り組んだ筆記試験と、これから行われるであろう演習試験で構成されているようだ。
「そういうことさ」
聞き覚えのある声がする。見ると、相澤先生の肩に根津校長が乗っかっていた。ピ○チュウか己は。
「入学から今日まで、実に様々な試練が君たちに降り掛かってきただろう。時には辛く苦しい経験をした者もいるかもしれないね。ヒーローの道を進み始めた今の自分たちが、一体どれだけ成長したのか。私たち教師陣に示すと同時に、自身の今のレベルというものを再確認して欲しいのさ」
うん、今日も良いこと言っとるな。
そんなこんなで内容説明。
クラスメイトで2人1組になり、生徒2人VS教師1人で試験は行われる。
用意された舞台でのフィールドマッチを行い、俺たち生徒側の勝利条件は指定された出口の通過。もしくは先生に手錠(カフス)を付けて捕らえること。
ちなみに、教師側には体重の半分の重さの重りがハンデとして付けられるらしい。
そして、最も重要なチームの組み合わせは既に教師側で決められているそうな。
「愛生、一緒に頑張ろうな」
「筆記では助けてもらったかんな。今度は俺の番だ」
俺の組む相手は轟。クラスでも屈指の実力者だし、普段からよく絡むから連携も取りやすそうでいいね。
となると、気になるのはお相手の先生だ。正直誰が相手でも強敵である。いくら2人がかりだと言っても、知識や経験の差は簡単には埋められない。てかこれオールマイトとか来たら詰みじゃない?あの超パワーで殴られたら、前歯全部砕ける気しかしない。とゆーか、誰が来てもハードモードな気がするんですけど。
「愛生、轟、お前らの相手はこの人がする」
相澤先生が指で指し示した方向。そこから、1つの影が俺たちの方へ歩み寄ってきた。その予想外な人物の登場に、思わず俺と轟はギョッとなる。
「お前らの演習試験の対戦相手は、こちらのエンデヴァーにやっていただくことになった」
「親父が…?」
「もはや教師ですらねーじゃん」
「…文句でもあるのか?」
ギリッとした瞳でエンデヴァーに睨まれる。やっぱり前に家で火を起こしちゃったこと、まだ根に持ってんのかな。
それよか相変わらず顔面から炎噴射させてるけど、火傷とかしないのかしら。
「親父…なんでアンタが…?」
「うむ。まあなんだ、学校でのお前の姿を見ておこうと思ってな。頼んでみたらちょうど良い演習があったから参加することにしたんだ」
「授業参観みたいだね」
「そうだな。いつもは冷…嫁に行かせてるからな」
「そういうもんか…」
どうやら轟は納得したみたいだ。エンデヴァーもNo.2ヒーロー、子どもがこの雄英でどんな成長をしているのか見てみたかったんだろう。いい親父さんじゃないか。
「だがしかしッ!!!」
急にエンデヴァーが声を張り上げた。それに呼応するように、全身の炎も昂り始める。
「試験だと思って甘く見るんじゃないぞ。実戦のつもりでかかってこい。俺も2人の実力を知りたいからな、全力でいかせてもらう」
父親の目から、No.2の目に変わった気がした。思わず息を飲む。
「お前たちの今までの歩みを、俺に見せてみろ!」
「言われなくてもやってやるよ」
「腰抜かすんじゃねーぞエンデヴァー」
こうして、演習試験は始まった。
〇
放り込まれた演習場は、入試の時のような市街地を模したステージ。
背の高い建物に囲まれたその場所で、俺と轟は迫る試験開始に向けて準備体操をしていた。
「─試験内容の確認、クリアの条件も大丈夫だな?」
「あいよっと。お前の親父さんが相手だからな、気も引き締まるってもんよ」
轟の言葉に返しながら、俺たちに用意された試練について考える。
相手はあのエンデヴァー。現在のNo.2ヒーロー。その超強力な炎であらゆる事件を解決してきた。相手にとって不足なし…と言いたいところだが。
「…なあ?エンデヴァーに弱点とか無いの?」
正直、不安の気持ちの方が強い。
「親父に弱点か…そうだな…」
うーむ、と考え始める轟。頼むよ息子、いつも一緒に特訓とかしてんだろ?弱点の1つや2つくらい知っててくれよ。
「…わからん」
「水とかかけたらどーなる?」
「一瞬で蒸発するな」
「石とか投げたら?」
「当たると痛いから避けるだろうな」
ダメだこりゃ。
相手は明確な格上。真っ向から挑むよりかは相手の嫌な所を突く方法で攻めたいところだが、難しそうだな。
『愛生・轟組。演習試験スタート!!!』
そうこうしてる間に試験がスタート。結局良い手は見つからないままだ。となれば、エンデヴァーを相手にせずただゴールを目指すやり方でいくか?
「よーし轟くんよ。俺は上からエンデヴァーの位置とゴールの場所を探す。作戦名は"いのちだいじに"だ」
「あんま離れすぎんなよ」
「合点承知之助」
体を浮かして空に舞う。体力は消耗するが、上から敵の位置を探す方が手っ取り早い。さてさて、エンデヴァーのおっさんはどの辺にいるのかな…っと。
その瞬間、前方から巨大な火柱が顕現された。距離は俺たちのいる場所からかなりある。けど、そこから放たれる熱気で顔が熱い。なんて火力と迫力。そこにいるんだな…。
「真っ向からかかって来い、って言ってるぞ」
「ははは、だよね。ご丁寧に自分の位置まで教えてくれちゃって」
俺は轟の横に降り立ち、火柱が立ち上がっている方向を見据える。
「親父は強えぞ」
「知っとるわ。当たって砕けろのメンタルよ」
「砕けたら駄目じゃないか?」
「おー、砕けないよう助け合おうぜ。お互いにな」
…逃げ腰になってる場合じゃない。逆にこれはチャンスだ。あのエンデヴァーとやり合える機会なんて、そうそうない。
俺と轟は同時にその場から駆け出す。目指すは…視線の先の
「──あ。」
その時、横で一緒に走っていた轟から、そんな声が聞こえた。
次の瞬間、俺たちに迫ってきたのは。
「赫灼熱拳」
予想を遥かに超える。
「プロミネンスバーン!!!」
特大の灼熱だった。
「─ッ!愛生ッ!!」
轟が声を張り上げたと同時に、俺の左腕がそのまま彼に掴まれる。
そのまま轟は氷結を足元から発生させ、エンデヴァーの炎から避難するように上空へと舞い上がる。危なかった。あと少しで丸焦げになるところだった。冷や汗が首筋を伝う。
「すまん轟、助かった!」
「礼なんて後でいい!来てるぞ!」
その声が示すように、前方には炎を噴出させながら肉薄してくるエンデヴァーの姿が見えた。
「迎撃する」
俺は両の手のひらを合わせて、衝撃波をエンデヴァーめがけて放った。しかしそれを、くるりと身を翻して躱すエンデヴァー。そのままこちらに向かって来る。
「まっず…!」
「バニシングフィストッ!!!」
瞬間、俺はバリアを展開─。するも、それだけでは殺しきれないエンデヴァーの熱拳。景色が反転する。
「愛生ッ!」
なんつー威力だ!これがNo.2の実力!
いや、まだまだ全力なんて出してないハズ。テレビとかで見てきたエンデヴァーの炎は、熱量は、こんなものじゃなかった!
おもっくそ顔面に衝撃が加えられた俺は、そのまま地面へと急降下。墜落する途中で体勢を立て直し、空中飛行でエンデヴァーへと突撃する。
「右ストレートでぶっ飛ばす!」
「正面から来るか!」
打ち出した右腕はいとも容易く受け止められ、そのまま後方に投げ飛ばされる。けど、まだ終わりじゃない。
周辺には轟の繰り出した氷がまだ残っている。エンデヴァーの熱で溶かされているのもあるが、"武器"として使うには充分だ。
「小賢しい!」
が、それもエンデヴァーが全身から放出した炎熱によってかき消される。一瞬で氷たちが水に、そして水蒸気へと変換されてしまう。
近くにいるだけで熱中症になりそうだ。これほどの熱量は体内に留めておくなんて、本当に人間かこのオッサン。
「今までお前たちが戦ってきた全ての者を思い出せ!オレはそいつらのさらに先にいるぞ!」
「知ってるよ」
吠えるエンデヴァーが、再び俺を標的に捉える。その上で轟が氷の太刀を顕現させているのが見えた。
「落ちろッ!」
加えて足から炎の放出による
「やったか!?」
「やられとらん!」
しかし、その一撃を喰らってもなお、エンデヴァーはピンピンしていた。
「オレに氷で攻め立てるとはな。その選択は間違いだぞ焦凍。オレに勝ちたいなら──」
周囲の気温が急激に高まるのを感じる。全身の細胞が叫んでいる、"ヤバい"と。
「オレ以上の火力でかかってこい!!!」
視界が炎で包まれる。バリアなんてもはや意味を為さない。それを通して伝わってくる熱と衝撃が全身を焦がす。熱いなんてもんじゃない、エンデヴァーは本気だ。
このままじゃ…
地面に叩きつけられた衝撃で、一瞬息が止まる。が、墜落してきている轟が見えると、彼に念動力を作用させ地面に激突しないように動かす。そのまま俺の方へ持ってきて、様子を伺う。
「よう…生きてる?焦凍くん」
「ゴホッ!あぁ…辛うじて…」
2人とも声がガスガスだ。若干喉が焼けたか。大きな声が出せそうにない。
「とりあえずこのままじゃ勝てそうにない…。1回引くぞ…」
「わかった…」
背中が痛いので無理して立ち上がらず、念動力で俺の体も一緒に浮かして路地裏へと退避。ひんやりしたコンクリートの建物を背に、俺たちは一息つく。
「はぁ〜…。分かってはいたけど、やっぱエンデヴァーってとんでもねえな…。家でもあんなスパルタなの?」
横で体を氷で冷やしている轟に問いかける。
「いや、流石にあそこまでは。今日は周りのことを気にせず暴れられるからな。あんな火力を突きつけられたのは初めてだ。ほら氷」
轟がくれた氷で俺も体を冷やす。冷やしながらエンデヴァーへの対抗策を考える。
エンデヴァー、オールマイトに次ぐNo.2ヒーロー。圧倒的な火力を体感した俺たちは、その名が伊達では無いことを改めて認識する。
攻撃力、スピード、技の豊富さ。どれをとっても超一流。今の俺たちがエンデヴァーに勝っている部分などない。どーしたものか。
ふと、俺はエンデヴァーが言っていた言葉を思い出す。
「なあ、今のお前にエンデヴァー以上の火力を出すことって出来るのか?」
オレ以上の火力でかかってこい。エンデヴァーは全身から炎を放出する際に、そう叫んでいた。
確かに、あのエンデヴァーを超える火力を出すことが出来るのなら、打開策は見つかるのかもしれない。あの力を受け継いでいる奴がここに居るんだ。俺は期待を込めて轟を見る。
「…そうだな。今の俺には無理だ」
「おお…そうなのか」
あっさりと返ってきた答えに少し気が抜ける。まあ無理なもんは無理だよな。
「んー、そうだな。エンデヴァーって体内に熱が溜まりすぎると、動きに支障が出るんだよな?その弱点を突くとかは?俺が超能力で遠距離から物なげつけまくるとか」
「それで倒せるとは思えねえな」
「…マジでどーする?」
打つ手なし…か。こうなったら、どうにかしてゴールを見つけて通過するしか勝つ方法は無いか…。けど、それをエンデヴァーが許してくれるか?情けなくゴールを探す俺たちを、エンデヴァーが何もせず見ているとは思えない。むしろブチ切れて丸焦げにされそうだな。
「俺に1つ策がある」
あーでもないこーでもないと考えていると、轟が不意にそう言った。俺は静かに轟を見る。
「今の俺の火力じゃ親父には勝てねえ。だから、もう1つの力で親父に挑戦する」
「もう1つの?」
ああ、と轟は頷いた。
「
右側…氷結の方か。確かに炎じゃ相手にならない以上、氷の力を使うっていうのは分かる話だが、そもそも氷が炎に勝てるのかってところだ。
「溶かされて終わりじゃねーの?あ、溶けて水になったのをエンデヴァーにかけまくるとか?」
「1つ…試してみたい技があるんだ…」
やけに真剣な表情じゃないか。俺もおふざけなしで轟の言葉に耳を貸す。
「けど、その技を出すには時間がかかっちまう。だから、その間愛生には時間を稼いでもらわなきゃならねえ」
「おー、いいぜ。やってるよ。お前が技を繰り出すまでエンデヴァーとタイマン張っとけばいいんだろ?」
「…いいのか?それにその技はまだ未完成で、100%成功するとは限らねぇ」
「それしか方法が無いなら、そいつに賭けてみるべきだ。なにを心配してんだ?轟の準備が整うまで、俺がエンデヴァーの相手しててやるよ」
轟の目が大きく見開かれる。やっぱりまだどこか俺のことを心配しているようだ。野郎にそんな気持ちをかけられても何とも思わないけど、その思いが分からない訳ではない。やるしかないんだ。
「やるぞ轟。俺たちの力をエンデヴァーに見せてやろうぜ」
やることは決まった。後は全力を持って実行するだけ。いつだって物事はシンプルだ。
「そうだな」
フッと轟が笑みを浮かべる。
ゆっくりその場から立ち上がる。不安がることは無い。これから先、俺たちがでっかくなるには避けて通れない道だ。
「さーて行くか。轟、その技とやらに期待してるぜ」
「ああ。お母さんと2人で作った力を見せてやる」