「私の個性について知りたい?」
洗濯物を畳んでいるお母さんの言葉に、オレはコクコクと頷いた。
オレの身体には2つの力が宿っている。親父の炎とお母さんの氷。正反対の性質を持つ力が、オレの個性だ。
「う〜ん。お母さんは別にヒーローを目指してた訳じゃないから、焦凍の力になれるか分からないよ?」
「それでもいい。オレよりずっと長く、その個性と生きてきたお母さんにしか分からないことがあるはずなんだ」
そう言うと、お母さんはオレを見て柔らかく微笑んだ。そして優しく、オレの頭を撫でる。
「そっか、そうだよね。焦凍はもう、立派なヒーローなんだよね」
少し照れくさかったが、オレはその手を払い除けるようなことはしなかった。
親父を超える最高のヒーローになるには、オレはオレの力を使いこなさなければならない。
そのために、今のオレに出来ることは──。
〇
「もう休憩はいいのか?」
正面に見据えるはエンデヴァー。依然燃え立つ炎を身に纏い、俺と轟の前に立ちはだかる。
「あたぼうよ。こっちはアンタをぶっ倒すとっておきの秘策を用意してきたんだぜ」
「秘策…?ほう、それは楽しみだな」
ニタリとエンデヴァーは笑う。それは俺たちがどうやってこの試練を乗り越えるか、試しているようにも見えた。
俺たちの実力を──。
「よーし、いっちょやってみっか!頼むぜ轟!」
「ああ!悪いが頼んだぞ!」
轟が力を溜め始める。氷の力で勝つって言ってたな。若干だが、周りの気温が下がった気がする。
俺は、俺のやるべきことをやるだけだ。
「はっ!」
「むぅん!?」
俺は両手を前方に突き出し、衝撃波を発生させる。今度は喰らってくれたエンデヴァーをそのまま遠くへ吹き飛ばし、俺も後を飛んで追う。とにかく時間稼ぎだ。轟のその技はえらく時間がかかると言う。その間、1人でエンデヴァーと戦わなければならない。
衝撃波に押され吹っ飛んだエンデヴァーは、炎を噴出させて体勢を立て直しながら地面に着地する。俺もある程度の距離を保った場所に降り立った。
「オレも舐められたものだな。学生1人で相手が出来ると思われているらしい」
「まさか。俺もエンデヴァーと互角にやり合えるなんて思ってないさ。ただ、どれだけやられても倒れてやらない自信があるだけ」
「その心意気や良し!どこまで持つか見どころだな!」
来る──!炎を纏ったエンデヴァーが──!
まるでそれは灼熱の弾丸。間違っても素手で迎え撃つなんてことは出来ない。かと言って、バリアで凌ごうにもさっきの戦いの二の舞になるだけだ。だったら、まだ見せていない方法で立ち向かうしかない。
俺は右手をエンデヴァーに向かって突き出し、その動きを止めるイメージを思い描く。想像は力だ。頭に描いたイメージを、そのまま現実に持ってくる。
突進してきていたエンデヴァーの勢いが、若干弱まる。完全に止めることは出来ていない。なら、出力を上げるまで。
「ぬおっ!?」
エンデヴァーのビックリしたような声がした。出力を上昇させたことにより、エンデヴァーの身体は後方に仰け反り、地面が抉れ波打ち始める。周囲のものに影響を与えながら、俺はひたすらに力を注いだ。地面に刺さっている標識を数本引っこ抜き、それらをエンデヴァーめがけて撃ち放つ。反撃の暇は与えない。手を緩めたりなんかした時には、敗北が待っているだろう。
抉れた地面の塊を、続けざまに放っていく。
とにかく手数で圧倒しろ。
この年中燃えてるおっさんに何もさせるな。
動かそうとした部位にほど力を込めろ。
クソ、頭痛くなってきた!
「ぐぬぬ…動けん…!」
もがくエンデヴァーに負けじと抵抗する。
ここを耐え抜け、集中の糸を切らすな!
俺が今ここで頑張れば、轟が勝負を決めてくれる!
「鼻血が出ているじゃないか!相当体に負荷がかかっているな!」
「後で息子さんに冷やしてもらうさ!アンタに勝ってからな!」
ポタポタと、鼻から流れ出てきた血液が顎を伝って地面に垂れる。
頭痛も酷くなってきた。
人間1人を抑え込むのに、こんなに負担がかかったことは今までにないぞ。
エンデヴァーめ、さすがはトップヒーロー。
「ぬおお…!──はっ!?」
その時、エンデヴァーが俺の頭の少し上あたりに視線を動かした。
と同時に、周囲の気温が急激に下降したのが分かった。
気づけば地面にも霜がおりていた。
俺は理解する、奴の準備が整ったということを。
「待たせて悪かったな、愛生」
「ぶちかませ、冷蔵庫野郎」
白く、季節外れの雪の結晶をその身に纏わせた轟焦凍が、俺とエンデヴァーとの間に飛び込んできた。
○
戦闘の為に個性を使ったことはなくても、お母さんは真摯に向き合ってくれた。
小さな子に箸の持ち方を教えるように、洗濯物の畳み方を教えるように、ひとつひとつ丁寧に。
真逆の性質を持つ2つの個性を扱うのは簡単じゃない。それでも、オレがヒーローになるには避けては通れない道。
両親から授かったこの力で、オレは親父を超えていく──!
「この冷たさ…冷の力をいつの間に…!」
驚く親父を眼下に捉えて拳を握る。
アイツの熱を超える冷気をこの手に宿らせ、全力を込める。
『コツ?そうねぇ、月並みかもしれないけど』
お母さん。お母さんが教えてくれたこの技で、オレは親父に自分を証明するよ。
教えは身体に刻まれている。
『力を点で──』
──放出する!!
「ッ!?」
驚愕の色を浮かべるエンデヴァーに、ありったけを込めた右手を打ち出す。
心は熱いまま、握る拳は冷たく。
エンデヴァーの猛る炎を止めるには、並の氷じゃ役に立たない。
世界の全てを凍らせる。
絶対零度の真髄を──!!
「うぉあああああああ!!!!!」
「しょっ、焦凍ーーーッ!!」
…体が痛いくらいに冷たい。
…吐く息は白く、今が夏前だということを忘れさせる。
…辺り一面真っ白で、本当に同じ場所に居るのかと疑いたくなるくらい異なるフィールドが広がっている。
「ハァ…上手くいったみたいだな…」
視界の先には氷漬けになっている
そしてその近くに、同じく凍ってしまっている
どうやら巻きこんでしまったらしく、すぐさま炎で溶かす。
「ぶへぇ〜…死ぬかと思った…」
「わりぃ…巻き添えになっちまったな」
寒さで体をブルブル震わせている愛生に、炎を当てて温める。氷の中に閉じ込められてたんだ、無理もない。
「にしても、とんでもねぇ威力だな。轟の新技」
そう言って愛生は、銀世界になった辺りをキョロキョロと見渡す。地面やら建物やら、周囲のものはほとんど氷漬けになってしまっている。エンデヴァーを止めるにはこれくらいの威力が必要かもしれなかったが、実戦で使うにはまだ改善が必要そうだ。大切な仲間を巻き込んでしまうかもしれない。
「まだお粗末な点もある。
「練習あるのみだな。ま、そん時はいつでも言ってくれや。俺でよけりゃ相手になるぜ」
「マジか。助かる」
──ともかく、今は試験に合格することが優先だ。
エンデヴァーが凍ってる間にゴールゲートをくぐらねぇと。
「行くぞ愛生。ゲートは多分あっちだ」
「多分て。つーかエンデヴァーそのままでいいの?あのまま凍死とかしたら洒落になんないよ」
「親父ならほかっといても平気だ」
「扱い雑すぎん?まあ家庭内における父親のヒエラルキーなんてそんなもんか」
親父が動き出す前にとっとこ走り始める。しかし、そんなオレ達をみすみすゴールへ向かわせるほど、エンデヴァーは甘くはなかった。
「焦凍ーーーーッ!!!!!」
背後から湧き上がる爆炎。オレたちはその勢いに軽く前方に飛ばされる。
「お前ッ…いつの間に冷の…おま…!しょっ、しょうと!」
「親父さんの舌が回ってなさそうだぞ」
親父…明らかに動揺しているな…。それに反してオレの内心は冷静そのものだった。
「普段から少しずつ、お母さんに力の使い方を教わってたんだ」
「むぅ…オレに内緒でそんなことをな…」
「別に内緒にしてた訳じゃねえよ。ただ、強くなる為に必要な事だっただけだ」
「そうか。オレの知らないところで、ちゃんと大きくなってたんだな」
フッ、と親父が小さく笑みを零した。そのままオレたち2人を見据える。
「焦凍!そして愛生!お前たちは合格だ!このエンデヴァーが認めたのだ、自信を持っていいぞ!」
「いよーし!やったな轟!」
親父の宣言を受け、愛生と拳をぶつけ合う。良かった、何とか2人で合格することができて。もし不合格を食らってて林間合宿に行けないってなると、愛生がショックのあまり死んじまうから。
「そうだ焦凍。これから折角の夏休みに入るんだ。皆で川でバーベキューでもしないか?勿論、友人たちも呼んでいいぞ」
唐突な親父の提案に、オレたちは肩をピクつかせる。
「バーベキューか。友達を誘ってみるよ」
「いい肉揃えといてくれよな〜」
「ふん、贅沢な奴め。最高級の肉と野菜を仕入れておこう」
こうして、オレと愛生の期末試験は幕を閉じた。
愛生千晴
・エンデヴァーと一緒に凍った男
轟焦凍
・新技初披露
・今話の技は、原作の荼毘戦で見せた大氷海嘯のプロトタイプみたいなイメージ
轟炎司
・炎のおっさん
・やられる時に「ぬわーっ!!」とか言いそう
轟冷
・もし戦い方を覚えたら多分結構強い