君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#31 今朝メキシコから飛んできたんだ

「かーつーきくーん、あーそーぼー」

 

 クラスメイトの家の前で、俺はそう声を張り上げた。とある夏の日の午前、俺はデクと轟を引き連れ、爆豪家へ赴いていた。

 

 住宅街の一角にある立派な戸建て。デクに教えてもらって訪れたその家は、立派な庭までついていた。

 

「出てこないね、かっちゃん」

 

 うーん、と唸りながらデクは呟く。

 

「まだ寝てんじゃねーのか?」

 

 自分の爪を弄りながら轟は言った。

 

「かーつーきくん!むーしとーりしーましょ、そーしましょ!」

 

 再度呼びかけても返事がない。轟の言う通り、本当にまだ寝ているのだろうか?おかしいな、もう朝の4時だと言うのに。虫取り少年の朝にしては遅い方なのに。

 

「どうやったら爆豪を起こせると思う?」

 

 その議題についてデクと轟とわちゃわちゃしていると、爆豪家の玄関ドアがゆっくりと開かれる音がした。

 

「殺すぞ」

 

「朝から猛毒吐いてきた」

 

 爆豪の顔は、それはもう凄いことになっていた。この世のありとあらゆる負の感情を混ぜ合わせたような、地獄のような顔だった。

 

「じゃ、虫採り行くか」

 

「行かんわ今何時だと思ってんだ」

 

「もう朝の4時だよ、かっちゃん」

 

「やかましいわ、横のバカに感化されてんじゃねーよ」

 

「早く行かねえと他の奴には先越されちまうぞ」

 

「お前もそっち側か轟」

 

 デクと轟も調教済みだ。せっかくだから4人で行こうと爆豪家にやって来たのだが、爆豪からは行きたくないオーラがプンプンしている。

 

 そこで俺はピンときた。

 

「山の中の木に砂糖水塗っておいたから、登山も楽しめるんだぞ」

 

「待ってろ、準備してくっから」

 

 そそくさと爆豪は家の中に入っていき、40秒後には準備万端で出てきた。

 

 こいつ、もしかしてチョロい?

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 爆豪家から電車とバスで約1時間程の場所。そこの山の木々に昨晩、俺は砂糖水をこれでもかと塗りたくっておいた。それはもう昆虫だけじゃなくて、下手したら喉が渇いた人間すらペロペロしに来るんじゃないかと思うほどに。ついでに発酵させたバナナもぶら下げておいた。作るのめんどくさいし腐らせるのも嫌だったけど、今日の為に頑張った。

 

 え?虫取りは夜中にやるもんじゃないのかって?バカヤロウ、俺たちは高校生だぞ。夜10時以降の外出は禁止されてるのさ。

 

「んだよ〜、結局爆豪がいちばん張り切ってんじゃねえかよ〜」

 

 先陣を切って登山道をガンガン進んでいるのは爆豪だった。登山もできると聞いた瞬間これだ。登山道具もしっかり持ってきてるし、服装もいかにも登山家って感じの物を身につけている。フルアーマー・爆豪勝己だこりゃ。

 

「いいかテメーら、登山を甘く見んじゃねえ!下手したら命に関わるんだからな!気ぃ引き締めてけ!」

 

 あれ?なんか目的変わってない?俺たち虫取りに来たんじゃなかったっけ?このタンクトップに短パン、麦わら帽子という俺たちの格好は何なんだろう。

 

「爆豪すげーな。登山が好きだったのか」

 

 爆豪のすぐ後ろを歩く轟が、そう呟いた。

 

「そうなんだよ、かっちゃんはこう見えて登山オタクなんだよ。小学校で登山する時があったんだけど、1人だけガチ装備で来てドン引きされてたよ」

 

「てめデクぅ!余計なこと言うんじゃねえ!」

 

「てか爆豪、そんな装備で大丈夫か?主に熱中症とか」

 

 俺の疑問に爆豪が「あん?」と漏らす。まだ朝の早い時間帯で比較的涼しいっちゃ涼しいが、季節的には夏真っ只中だ。日が昇ればかなりの猛暑になるだろう。それなのに、爆豪は雪山を登るような格好で来ている。

 

「大丈夫だ、問題ねえ。暑くなったらここに氷があるからな。おい轟、冷やせ」

 

「わかった」

 

 召使いおるやん。お前はそれでいいのか轟。エンデヴァーが見たら泣くぞ。

 

 そんなこんなで、俺が砂糖水やらバナナトラップやらを仕掛けたエリアに到着する。途中、崖から落ちかけたりもしたが何とか辿り着くことが出来た。さてさて、丹精込めて用意した罠に虫さんたちは集まってくれているかな──と、俺は周囲を見渡す。

 

「おいお前ら見ろ!虫さんたちがうようよしてやがるぜ!」

 

 その周辺でも特に太く立派な大木、俺はそれを指さし皆に呼びかけた。そこにはカブトムシやらクワガタやらカナブンといったありとあらゆる昆虫たちが勢揃いしている。

 

「いや集まりすぎだろ」

 

「なんかちょっとグロい」

 

「砂糖水と腐ったバナナって美味いのか?」

 

 なんかみんな少し引いてるっぽいけど、俺はそんなの気にならない。目の前には煌びやかな昆虫が採りきれないほどいるのだ。こんなに嬉しいことはない。

 

「つーか何で愛生は虫なんか採りたいんだ?」

 

「捕まえて戦わせて最強の虫を作りたいらしいよ」

 

「そういうことっ!お前らも好きなの持ってけ、そんで4人の中でチャンピオンを決めるぞ!」

 

「そういうことか。ならオレはそこのクワガタにする」

 

 乗り気になったのか、轟も木に近付いてそこからひょいと1匹のクワガタを手に取った。そしてそれを、百均で買ってきたとかいう緑の虫かごに入れる。

 

「こういうことすんの初めてだから、なんか新鮮だな」

 

「確かに、虫採りなんて小学生ぶりだよ。ねぇかっちゃん、昔はよく一緒に採りに行ったよねぇ」

 

「んな昔のこと覚えてねぇわ」

 

 なんだかんだでみんな、それぞれ自分の虫たちを捕まえてきた。やっぱり男の子だから、こういうのには心惹かれるものなんだ。

 

 

 

 

「──じゃあ、これから昆虫対決を始める。なお、今大会は参加者が少ないためバトルロワイヤル形式とする。では、順番に自分の相棒を解き放ってくれ」

 

 遂に最強の昆虫を決める時がやってきた。この日のために、それぞれが入念な準備を行ってきたことだろう。いや実際には、ほんの数分前に見つけた虫たちを集めただけだけど。こういうのは雰囲気が大事なんだ。

 

「じゃあまずは僕からだね」

 

 1番手はデク。彼は虫かごに手を入れ、ご自慢の虫を特設した丸太フィールドに乗せた。

 

「僕が選んだのはこの子さ。緑に光るその背は、まるで森林のエメラルド!その輝きは頂点に立つ者の証!森の青信号こと、カナブンのかねぶうぶうだ!」

 

「うおおおおお!!!!!」

 

 デクが繰り出したのはカナブンだ。小型の昆虫にはなるが、恐らくその俊敏な動作にデクは目を付けたのだろう。名前もユニークで素晴らしい。

 

「次はオレだな。オレはクワガタで行く」

 

 そう言って轟は、最初に捕まえたクワガタをポトンと出した。淡白な出場だったが、出てきたこのクワガタさんには確かな闘志を感じる。ボサっとしている飼い主とは違い、こいつの瞳には炎が宿っている。

 

「オレはこいつと、なりたい自分になるんだ」

 

 なんかよく分かんないこと言ってるけどヨシ。さぁ次は爆豪の番だ。

 

「ふん、オレとこの爆殺丸のコンビネーションに震えやがれ!」

 

 そう言って出てきたのはTHE・日本の昆虫カブトムシ。その逞しい1本角は、高層ビルすら持ち上げることもあるという。パワーファイターな爆豪にはお似合いの虫さんだ。

 

「さらにコイツには飛行を覚えさせた。空からの猛攻に注意するんだな。ま、言ったところで対策なんて出来ねーと思うけどよ」

 

 爆豪がパチンと指を鳴らすと、爆殺丸がブーンと羽音を立てて飛び上がる。そのまま俺たちの周囲を飛び回り、再び元いた位置に戻ってきた。

 

「なるほど、両者には既に信頼が生まれているということだな」

 

「面白くなってきた」

 

 そうして3人は、残った俺の方を見る。待ってましたと言わんばかりに、俺は口角を吊り上げ最強の昆虫を見せつけた。

 

「来い!!ヘラクレス!!!」

 

「ちょっと待てやゴラァァァァァ!!!」

 

 カブト界の王者、ヘラクレスオオカブトを召喚した瞬間、爆豪から怒声が放たれた。

 

「なにか?」

 

「なにか?じゃねーだろ!!お前それここで捕まえたヤツじゃねーだろ!!」

 

「今朝メキシコから飛んできたんだ」

 

「下手なウソこいてんじゃねぇぞ!!」

 

 失礼な!ヘラクレスの頑張りをウソ呼ばわりするなんて!爆豪には人の心ってものが無いのか!ならいいさ、俺とこのヘラクレスの絆を見せてやる!

 

「ヘラクレス!その場で宙返りだ!」

 

「………」

 

 反応は無かった。

 

「そら見ろ!言わんこっちゃねぇ!」

 

「外国から来たんなら、日本語分かんねぇんじゃねぇのか?」

 

「そういう問題!?」

 

 何とかその場は収め、いよいよ対決の時が来た。カナブンVSクワガタVSカブトムシVSヘラクレス。最強の王者を決める時が来たのだ。

 

「いけ、ヘラクレス!海外の力を見せてやれ!」

 

 戦いが始まればまた話は別だ。俺のヘラクレスは、目に映った標的を叩きのめすまで止まらない。まず狙いを定めたのは──。

 

「かねぶうぶう!」

 

「ガハハ!そんな矮小な虫けら、吹き飛ばしてしまえ!」

 

 デクのかねぶうぶうだ!

 

 その巨体でかねぶうぶうに肉薄し、鋭く伸びた2本ツノで串刺しにしようとする。

 

「まずは…1匹ィ!」

 

「甘いよ、愛生くん」

 

 その時、かねぶうぶうの姿が消えた。

 

 と、思った次の瞬間、かねぶうぶうはヘラクレスの背後に回っていた。

 

「後ろだヘラクレス!」

 

「遅い──!」

 

 ヘラクレスが振り返る時には既に時遅し。かねぶうぶうは遥か上空へ飛び上がっており、そのままヘラクレスにダイブしてきた。モロに直撃を喰らったヘラクレスは、ダメージを負っているようだ。

 

「だにぃ!」

 

「この流水の動きは捉えられまい」

 

 目の錯覚か、かねぶうぶうの姿がまるで水面のように揺らめいて見える。まるで本当にそこにいるかのようで実はいない。1種の幻術にかかっているように感じられる。これがかねぶうぶうの性能とやらか。

 

「くそ、なんでそんな動きが出来るんだ…!」

 

「カナブンだからさ。図体のデカい虫には分からないのさ。──それじゃあ!」

 

 再度かねぶうぶうの姿が消えた。ヘラクレスの動きはまだ鈍いまま、さっきのダメージが残っているんだ。

 

 このままじゃ、負ける──!

 

「あめーぞ緑谷」

 

 敗北が脳裏にチラついた時、黒い何かがヘラクレスとかねぶうぶうの間に現れた。そしてその何かは、その強靭な武器でかねぶうぶうの体をガッチリと挟み込むことに成功する。

 

「なんだッ!?」

 

「かねぶうぶう!」

 

「とばせ、クワガタくん」

 

 そこにいたのは轟のクワガタだった。クワガタは自慢の顎でかねぶうぶうを羽交い締めにし、そのまま宙返りをしつつ矮小なカナブンを山頂まで吹き飛ばした。

 

「ぼ、僕のかねぶうぶうが!!」

 

 悲痛な叫びを上げる緑谷。彼は膝から崩れ落ち、意気消沈してしまった。魂が体からまろび出ている。あれはもう長くは無いな。

 

「わりぃ、隙だらけだったもんだからつい」

 

 颯爽と現れた轟のクワガタくん。そいつはハサミをギチギチと鳴らして、ヘラクレスと対峙する。その迫力はまさにギロチン。

 

「へ〜、お前と違ってクワガタくんは戦闘時でも左は使うんだな」

 

「当たり前だ、虫バトルに手は抜けねえ。甘く見てると火傷しちまうぞ」

 

 世界最大のカブトムシと日本の黒いダイヤ。

 

 両者が土俵に上がり、火花を散らしていた──!!

 

 

 

 

 




【かねぶうぶう】
・デクの相棒
・矮小な昆虫
・すばしっこい動きで敵を翻弄する
・必殺技の"マッハアタック"は、音速を超えるたいあたりを繰り出すのだ

【クワガタくん】
・轟の相棒
・黒いダイヤなので一応オオクワガタ
・戦闘において左は絶対使う
・必殺技の"黒白虫拳"は、後の先を取り確実に相手をハサミギロチンする凶悪な技だ

【爆殺丸】
・爆豪の相棒
・古来より受け継がれし日本のカブトムシ
・山にいる虫たちのボス的存在
・必殺技の"スーパー・キング・エクスプロージョンスロー"は、回転の勢いと摩擦熱で炎を起こし森林火災を巻き起こすぞ

【ヘラクレス】
・愛生の相棒
・今朝取り寄せていたものがポストに届いた
・飼い主のレベルが足りなくて言うことを聞かない
・必殺技の"真・一文字"は、敵を地中へとぶん投げブラジルまで飛ばす威力があるのだ
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